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第2部 犯罪者競技の祭典・東京五輪2XXX

第34話

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 ハヤテがバネのある体を生かし、跳躍。
 目指すは黒いメタルの体を持つ巨人の、首。

 これで決まる。
 そう思ったハヤテだったが――。

 パンパンパンという花火のような乾いた銃声が響く。

「あ゛ああッ」

 スーツから散る火花。
 なんと、黒色巨人BF-1の顔の口の部分から、銃弾が発せられた。

「ここまでで手の内を全部見せているとは限らないですよね。勝手な決めつけお疲れ様です」
「く、くそっ……油断した」

 撃墜されテニスコートの上でもがくハヤテに対し、KCCは煽りこそすれ、笑うことはしなかった。

「ボクもちょっとみくびっていたかもしれません。あなたは並の人間より回復速度が速いんじゃないですか? なら――」

 ハヤテが立ち上がると同時に、KCCが指を鳴らした。また銃声。

「ぅあっ! あっあぁっ!」
「さっさと戦いたくても戦えないようにしますよ」
「あ゛あっ! ああっ! あ゛ぁっ――!」

 スーツに次々とあがる白煙。都度ビクンビクンとハヤテの体が痙攣した。
 そしてふらつくハヤテに対し、またKCCが指を鳴らす。
 今度は、黒色巨人が両目から雷のような電光を発射した。

「うあ゛ああああッ――」

 双眼鏡のようにやや飛び出ており、不気味に赤く光っていたその両目。実は電気攻撃が可能だったようだ。
 昼間でもはっきり見える電光。
 スーツで吸収しきれない電流がハヤテを襲い、体が反って硬直する。

「BF-1、もっと電圧かけて」
「う゛うがああああ゛あ゛あああッ――」

 ハヤテの声と、スーツがところどころでショートする音が、コロシアムに響く。
 そして――。

「あ゛っ、ああッ! あッあ゛ッあ゛アァッ――!!」

 ひときわ大きくなるハヤテの声。ついにスーツのダメージが限界に達し、あちこちで小爆発を起こした。

 そして――。
 ハヤテの体を直撃していた電光が、やむ。

「ぁ…………ぁ……」

 ゆっくりとハヤテの体が後方に自由落下する途中で、スーツは全体が強く光って消滅した。

「どうです。変身が解ければさすがにもう戦えないでしょう?」

 ハヤテは答えられない。素の姿をさらけ出したまま、大の字となっている。
 眉間にはシワが寄り、目はギュッとつぶられ、口は開いたまま痙攣していた。
 インナーシャツとスパッツからも煙があがっている。十代のまだきめ細かな肌の手足も、やはり痙攣していた。

「もう安心ですね。BF-1、とどめを」

 ひときわ不吉な音で、KCCの指が鳴った。
「承知いたしました」の声と同時に、黒色巨人は前に……ではなく、後ろに距離を取っていく。

 そして左腕を動かした。小型爆弾を使うつもりのようだ。
 KCCも巻き込まれないようにするためか、いつのまにかコートの外側に移動していった。

(……や、やべえ……)

 倒れていたハヤテにも、彼らの声や、黒色巨人の駆動音は聞こえていた。
 だが。

(か、体が……言う事を聞かない)

 手や足を必死に動かそうとするが、だめだった。
 すぐに立ち上がらないといけないのに、電撃によるダメージで手足がまだ痺れており、力が入らない。
 そこで気づいたが、電気攻撃で指を動かす筋肉が収縮したままになっていたのか、まだ右手には電子警棒が握られていた。

「そ、装……着…………だ、だめか……」

 変身ボタンを押すも、やはり無反応。再変身はできない。
 なんとか上半身だけ、やっと起こす。
 そこには、すでに離れたところからハヤテの体をロックオンした黒色巨人BF-1の姿。

「じゃあ、さよなら。ヒーローさん」

 殺られる――。
 ハヤテは目をつぶった。

 大きな発射音に、爆音。
 いや、それだけではない音もした。

(……!?)

 ハヤテの体は、四散していなかった。
 目の前には、警察の一部の部隊が持っているような大きな盾がそびえ立っていた。
 それを、袖をまくったワイシャツ姿の人間が支えている。

 そしてすぐ横では、一回り小さいが、十分に全身を覆える盾が……こちらのほうは倒れており、テニスウェアの人間が下敷きになっていた。

「ワタル! と……エーイチか!?」

 また邪魔が入ったか――舌打ちとともに、そんなKCCの言葉が聞こえた。
 前者はワタル、後者がエーイチだった。

「大丈夫か!?」

 ハヤテが慌てて、倒れていた盾を起こした。
 まだ痺れは残っているのに、体はなぜかもう動いていた。

「イテテテ……。あ、間に合ってよかった。大丈夫? ヒーロー君」
「いや、あんたこそ大丈夫かよ……この盾は?」
「守衛室から借りてきた!」

 エーイチに代わりワタルが答えた。
 大きな盾の陰で、親指を立てながら。

「そ、そうか。俺は助けられたんだな。二人ともサンキュ……って、ワタルはともかく、エーイチはなんでまた戻ってきてるんだよ!」

 まだ痛そうにしながらも、エーイチは短髪を掻きながら笑う。

「ごめんね。でも今度は変な目的じゃないから。勘弁して」
「変な……目的……?」
「うん。僕さ――」

 不思議そうに聞くハヤテに、エーイチは言った。

「自殺しようと思ってたんだ。国立競技場のときも、死ぬために来てたのさ」

 妙に爽やかなその声が、まだ周囲に立ちのぼっている爆煙とともにテニスコートの上を流れていった。



(続く)
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