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第2部 犯罪者競技の祭典・東京五輪2XXX
第32話
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事務室と放送室を回り、無事に競技と放送を停止させた、ヒーロー支部臨時職員・ワタル。
残っていた職員の避難を誘導していたところ、遠く――エントランス付近で、ラケットバッグを持った二人の選手を見かけた。
その片方に、見覚えがあった。エーイチと名乗った短髪の青年だった。
見ていると、もう片方の選手がエントランスから外に出た。それをエーイチが見送り、内側から大きく手を振っている。
そして。
奥の方向に戻ろうとしていた。
ワタルはそれを見てすぐに走り出していた。
「ちょっと待って!」
その叫びで、エーイチは気づいたようだ。
ワタルの顔を見るや否や、慌てて逃げるように加速した……が、足を滑らせて転倒した。
そこにワタルが飛びかかる。
彼の背中のラケットバッグに乗り、手際よく腕も押さえつけた。支部でトレーニングを継続しておこなっている成果が出ているようだ。
「君、また現場に戻ろうとしてるんだね?」
「あちゃー、バレたか」
エーイチは背中の圧に若干苦しそうにしながら、苦笑いをしている。
「この前もそうだったね。どうして危険なところに行こうとするの」
「いやー、ちょっとコートに忘れ物をしちゃってさ」
「コートは今ハヤテ……って言ってもわからないか。ヒーローが獣機と戦ってるだろうからダメだよ。流れ弾に当たったりしたら死んじゃうから」
あまりの彼の軽いノリに、ついついワタルは押さえこんでいる力が強くなってしまう。
「イテテ……ちょっと、痛いって」
「わかってなさそうだからね。僕らヒーロー支部は、一人の犠牲者も出したくないんだ」
「わ、わかった。わかったって。ちゃんと外に出て行くから」
「ホントかな? じゃあ、僕はこれから守衛室に寄りたいんで、さっさと避難してもらうよ」
ワタルは押さえつける圧が少しゆるめた。
「隙ありっ」
「あっ」
スルっとエーイチがワタルの下から抜ける。
今度はワタルが組み敷かれてしまった。
そしてあらかじめラケットバッグの中に用意されていたのか、紐を出され、足をきつく縛られてしまった。
「ってことで! じゃあね!」
「あっ、ちょっと……ちょっと待て!!」
「……」
エーイチが走り出したところで思わずワタルが怒鳴ると、彼の足は一度止まった。
ただ、振り向くことはなかった。
首がわずかに下がったように見えただけだ。
ワタルはその背中に、一転、静かに話しかけた。
「君さ、もしかして――」
「行ってくるね!!」
「あっ」
ワタルは慌てて紐をほどこうとしたが、エーイチはあっという間に行ってしまった。
転ばなければ足は速いようだった。
◇
「はあ゛ぁッ! ああ゛あッ――――!」
ハヤテはついに二回目の射精を迎えた。
「おーし。まだまだいきますよ」
KCCは右手でなおもハヤテの股間をスーツ越しに包み、揉んでいく。
「あれ、さすがに二回出しちゃうと勃たないですか」
「ぅ……く……」
柔らかいままのモノをさらに揉む。
が、やはり少し大きくなるだけで、そこから先の変化はなかった。
一度手を離すと、腕を組んだ。
「うーん、ダメですか。じゃあそろそろ殺そうかな……あ、そうだ」
何かを思いついたように、手を叩いた。
「BF-1、いったんヒーローさんを放していいですよ。どうせもう逃げる体力はないでしょうから」
『かしこまりました』
四肢を拘束していた四本のワイヤーがほどけ、それぞれ肘や膝に格納されていく。
自由となったハヤテは、一度そのままコート上に崩れ落ちた。
そしてなんとか膝を立てた彼に対し、KCCは少し距離を取ってから言った。
「そこで、土下座して『お願いします助けてください』って言ってください」
「……は?」
「一度ヒーローの命乞いが聞きたいと思ってたんです。やってくれたら命は助けてあげます。もちろんその後はそちらの組織には帰しませんが……。でも悪いようにはしませんよ。あなたが持ってる内部情報を提供してくれれば、こちらの組織で良い待遇で迎えます」
「だ、誰が……お前らになんか――」
「約束は守りますよ。そもそも、中継もされてない中でヒーローを一人殺したところで大勢に影響はありませんし、特にボクにもメリットはありませんからね。だから見たいなあ。命乞い」
「俺は、そんなことはしない……っ!」
膝立ちの姿勢から立ち上がるハヤテに対し、KCCは少し首を上げ宙を見た。
「なぜそんなに真面目にヒーロー稼業をするのでしょう。命かけてなんかいいことあります? モチベーションがさっぱりわかりませんね」
「そうしたいと思うからだっ」
「だから、それは、あなたの脳がそう思うように、機械か何かを使って吹きこまれていんでしょう? さっさと堕ちて降参しましょうって」
「死んでもお断りだ!」
「あ、そうですか。末端戦闘員Aは自分の頭で考えることもしないんですね。といいますか、余計なこと考えないように作られてる感じですか? ボクらでいう犬型の雑魚のやつと一緒で」
KCCが肩をすくめる動作をした。
「じゃあ、望みどおり死んでもらいましょうか。BF-1、ヒーローさんにとどめを――」
そこまで言いかけたとき。
スコーンという音とともに、KCCの頭がわずかに横にブレた。
「ぁ?」
KCCが横を向く。
その視線の先、コートの出入り口から中に少し入ったところに、ラケットを持っている短髪の青年が立っていた。
(続く)
残っていた職員の避難を誘導していたところ、遠く――エントランス付近で、ラケットバッグを持った二人の選手を見かけた。
その片方に、見覚えがあった。エーイチと名乗った短髪の青年だった。
見ていると、もう片方の選手がエントランスから外に出た。それをエーイチが見送り、内側から大きく手を振っている。
そして。
奥の方向に戻ろうとしていた。
ワタルはそれを見てすぐに走り出していた。
「ちょっと待って!」
その叫びで、エーイチは気づいたようだ。
ワタルの顔を見るや否や、慌てて逃げるように加速した……が、足を滑らせて転倒した。
そこにワタルが飛びかかる。
彼の背中のラケットバッグに乗り、手際よく腕も押さえつけた。支部でトレーニングを継続しておこなっている成果が出ているようだ。
「君、また現場に戻ろうとしてるんだね?」
「あちゃー、バレたか」
エーイチは背中の圧に若干苦しそうにしながら、苦笑いをしている。
「この前もそうだったね。どうして危険なところに行こうとするの」
「いやー、ちょっとコートに忘れ物をしちゃってさ」
「コートは今ハヤテ……って言ってもわからないか。ヒーローが獣機と戦ってるだろうからダメだよ。流れ弾に当たったりしたら死んじゃうから」
あまりの彼の軽いノリに、ついついワタルは押さえこんでいる力が強くなってしまう。
「イテテ……ちょっと、痛いって」
「わかってなさそうだからね。僕らヒーロー支部は、一人の犠牲者も出したくないんだ」
「わ、わかった。わかったって。ちゃんと外に出て行くから」
「ホントかな? じゃあ、僕はこれから守衛室に寄りたいんで、さっさと避難してもらうよ」
ワタルは押さえつける圧が少しゆるめた。
「隙ありっ」
「あっ」
スルっとエーイチがワタルの下から抜ける。
今度はワタルが組み敷かれてしまった。
そしてあらかじめラケットバッグの中に用意されていたのか、紐を出され、足をきつく縛られてしまった。
「ってことで! じゃあね!」
「あっ、ちょっと……ちょっと待て!!」
「……」
エーイチが走り出したところで思わずワタルが怒鳴ると、彼の足は一度止まった。
ただ、振り向くことはなかった。
首がわずかに下がったように見えただけだ。
ワタルはその背中に、一転、静かに話しかけた。
「君さ、もしかして――」
「行ってくるね!!」
「あっ」
ワタルは慌てて紐をほどこうとしたが、エーイチはあっという間に行ってしまった。
転ばなければ足は速いようだった。
◇
「はあ゛ぁッ! ああ゛あッ――――!」
ハヤテはついに二回目の射精を迎えた。
「おーし。まだまだいきますよ」
KCCは右手でなおもハヤテの股間をスーツ越しに包み、揉んでいく。
「あれ、さすがに二回出しちゃうと勃たないですか」
「ぅ……く……」
柔らかいままのモノをさらに揉む。
が、やはり少し大きくなるだけで、そこから先の変化はなかった。
一度手を離すと、腕を組んだ。
「うーん、ダメですか。じゃあそろそろ殺そうかな……あ、そうだ」
何かを思いついたように、手を叩いた。
「BF-1、いったんヒーローさんを放していいですよ。どうせもう逃げる体力はないでしょうから」
『かしこまりました』
四肢を拘束していた四本のワイヤーがほどけ、それぞれ肘や膝に格納されていく。
自由となったハヤテは、一度そのままコート上に崩れ落ちた。
そしてなんとか膝を立てた彼に対し、KCCは少し距離を取ってから言った。
「そこで、土下座して『お願いします助けてください』って言ってください」
「……は?」
「一度ヒーローの命乞いが聞きたいと思ってたんです。やってくれたら命は助けてあげます。もちろんその後はそちらの組織には帰しませんが……。でも悪いようにはしませんよ。あなたが持ってる内部情報を提供してくれれば、こちらの組織で良い待遇で迎えます」
「だ、誰が……お前らになんか――」
「約束は守りますよ。そもそも、中継もされてない中でヒーローを一人殺したところで大勢に影響はありませんし、特にボクにもメリットはありませんからね。だから見たいなあ。命乞い」
「俺は、そんなことはしない……っ!」
膝立ちの姿勢から立ち上がるハヤテに対し、KCCは少し首を上げ宙を見た。
「なぜそんなに真面目にヒーロー稼業をするのでしょう。命かけてなんかいいことあります? モチベーションがさっぱりわかりませんね」
「そうしたいと思うからだっ」
「だから、それは、あなたの脳がそう思うように、機械か何かを使って吹きこまれていんでしょう? さっさと堕ちて降参しましょうって」
「死んでもお断りだ!」
「あ、そうですか。末端戦闘員Aは自分の頭で考えることもしないんですね。といいますか、余計なこと考えないように作られてる感じですか? ボクらでいう犬型の雑魚のやつと一緒で」
KCCが肩をすくめる動作をした。
「じゃあ、望みどおり死んでもらいましょうか。BF-1、ヒーローさんにとどめを――」
そこまで言いかけたとき。
スコーンという音とともに、KCCの頭がわずかに横にブレた。
「ぁ?」
KCCが横を向く。
その視線の先、コートの出入り口から中に少し入ったところに、ラケットを持っている短髪の青年が立っていた。
(続く)
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