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第2部 犯罪者競技の祭典・東京五輪2XXX

第30話

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「いい調子ですね、BF-1」

 楽しそうなKCCの声。
 黒色巨人BF-1の太い大腿部、左足のその一部がパカリと開いた。そこから素早い動作で何かを取り出す。

 銃。
 人間が使っているような、ごくありふれた形の銃だ。ただしサイズは大きい。
 それが構えられると、ハヤテは慌てたように横に飛んだ。

 銃声がコートに響いた。コートサーフェスを覆うゴムが飛び散る。
 さらに銃声は続くが、ハヤテはコートの上を転がるようにかわし続け、距離を詰めていく。

 ハヤテは俊敏な動きでロボットの懐に入り、電子警戒棒を突き入れた。目指すは首の関節部分。
 黒色巨人も反応はするだろうが、図体が大きいため、懐に入り込めさえすれば完全にかわすことは難しいだろうとハヤテは読んでいた。

 その読みは当たったように思われた。
 黒色巨人は間合いを外すこともせず、スウェーバックもしない。
 ただ、銃を持っている左手が動き、首の前をガードするかのような動きを見せた。

 首には命中しないかもしれないが、これはいける――
 ハヤテはそう考えた。電子警棒は手でガードしても意味がない。関節ならどこに当たろうが大ダメージを与えることが可能だ、と。

 回路がショートした音。

 電子警棒の電極は、左手首の関節へ命中した。
 その瞬間、黒色巨人の左手が痙攣したかのように開いた。握っていた銃はその勢いでハヤテの頭上を越え、どこかに飛んで行った。

「どうだ!」

 完全に入った――。
 そう思って電極を当て続けたハヤテだったが。

「――!?」

 黒色巨人の反対側の手――右手が動いた。

「がはっ」

 ハヤテの声。腹部に拳がめり込んだのだ。スーツから火花が散る。
 そのまま後方に大きく飛ばされ、コートの上を転がる。

「ぐっ……な、なんで……だ?」

 腹部を押さえながら立ち上がるハヤテを、高見の見物になっているKCCが笑う。

「引っかかると思いました。BF-1は過電流で全身が動かなくなることはありません。関節ごとにブレーカーがありますからね」

 まだ無傷のままの黒色巨人の右手が、右大腿部へと行く。
 いつのまにか開かれていた収納から取り出されたものは、やはり銃。人間が昔使っていたような、回転式の銃だ。KCCがハヤテに撃った蜂の巣状のものよりも口径が大きい。
 まだダメージの残るハヤテには、その射撃を避けることはできなかった。

「ぐあッ! あッ! あアッ! あ゛あっ!!」

 次々とあがる銃声に、火花と白煙。そしてあえぎ声。
 命中するたびに、ハヤテの体が痙攣する。

「BF-1、ドカーンといきましょう」
「承知いたしました」

 機能を失ったであろう黒色巨人の左手が、ボトリと落ちた。いや、落としたのだ。
 その断面は不気味な穴。
 ハヤテに向けられたそれから、円形の黒い塊が発射される。

「うあ゛ああッ――――!!」

 大きな爆発。
 爆音と大きなあえぎ声が混ざり、コロシアムに響いた。

 スーツから火花を散らしながら宙に放り投げられるハヤテの体。コートにあいた大穴から少し離れたところに落ち、一度バウンドして停止した。

「小型爆弾も積んできたんです。施設の重要な部屋を一部破壊するつもりで連れてきましたから。まともに食らった感想はどうですか?」
「……う……ぐあっ……」

 ハヤテはスーツから白煙をあげながら、もがくように手足を動かすだけで、起き上がれない。
 その横には、手から離れた電子警棒が転がっていた。

「どうやら、これまでのようですね」

 KCCは満足そうに言うと、立ちあがった。

「BF-1。ヒーローさんの首をつかんでください。締め殺さない程度に」
「捕獲ですね?」
「そうです。あ、彼の顔がボクに向くような向きでお願いします」
「承知いたしました」

 黒色巨人BF-1は、あっという間に倒れたハヤテのそばに走り寄った。
 銃を格納すると、黒基調の密着型スーツに覆われたハヤテの首をその右手で捕まえ、持ち上げる。

「ぐ……うっ」

 ハヤテは苦悶の表情でロボットの手首をつかむ。
 そこにKCCがゆっくり近づき、目の前に立った。

「さて、と。帰る前に軽く遊びましょうか」

 KCCは拳を握り、テイクバックすると、まだうっすらと白煙を上げるハヤテの腹部に――。

「がはっ」
「うん。おなかのめり込み具合は人間特有といいますか、ボクらでは絶対にありませんからね」

 そして腹部へのパンチは続く。

「ぐはっ!」
「内臓飛び出そうですか? 変身しててもきついですよね」 
「がはっ!」

 そしてさらにKCCが拳を出そうとした瞬間。
 ガキーンという高い金属音が鳴った。

「……ん」

 KCCが自らの人間態の左わき腹部分を見た。
 ちょうど緑色のTシャツがめくれたところ。
 日焼けした人間の子供に模した皮膚が、細く、鋭く削り取られ、メタルの体が露出していた。

 首を絞められ吊るされた状態で、ハヤテがキックを放ったのである。

「まだ力が残ってましたか。ああ、せっかくの人間の姿が……。少しでも地肌が覗いてしまうと台無しです」

 一瞬不機嫌な顔になったKCCだが、すぐにニコっと笑い直した。

「ヒーローさん。あなたには責任取ってもらわないと」

 そう言うと、黒色巨人の顔を見る。

「BF-1、やっぱり首はつかまなくていいです。手足を拘束してください。高さは高くなりすぎないように」
「承知いたしました」

 黒色巨人の左右の肘から、黒光りしたワイヤーが伸びる。
 それはハヤテの腕を広げさせ、黒色巨人の太い腕へと固定した。
 足も、いつのまにか黒色巨人の膝から出てきたワイヤーが巻き付く。

 まるで、巨人の体に磔にされたかのような状態になった。



(続く)
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