24 / 60
第2部 犯罪者競技の祭典・東京五輪2XXX
第24話
しおりを挟む
獣型の獣機二体にハヤテの両腕を押さえつけさせたまま、Tシャツにハーフパンツの子供は、近くに刺しておいた日本刀を両手に持った。
「さて、では次に行きましょうか」
ハヤテの横に立つと、淡々と続けた。
「下は地面。力の逃がし場所はありません。この状態で全力で刺されたらどうでしょうか? スーツは耐えられますか? 中のあなたも耐えられますか?」
そう言って、日本刀を逆手持ちした。上からまっすぐに突き刺せる握りだ。
「……!」
「ボクが人間かもしれないから、思いっきり戦えなかったんですよね? バカだなと思います。まあ、でも、組織にそう作られてるんですよね? ヒーローは」
子供が満足そうに笑い、日本刀をやや上方へ持ち上げる。
「だいたい、こういう事態くらいは想定すべきですよね」
切っ先が不気味に光ると、ハヤテは目をギュッとつぶった。
「まあ、末端戦闘員のあなたに言っても仕方ないですかね。恨むならそちらの組織の無能な職員でも恨んでください」
子供はそう締めくくって、ハヤテにとどめを刺そうとした。
が、
職員――。
その言葉は、視界を放棄して観念しかけていたハヤテの耳にしっかりと入った。
ヘルメットのシールドの奥で、再度しっかりと目が開かれる。
「……ま……まだだ……」
「ん?」
足越しにハヤテの腹筋に力が入ったことを感じ、子供は様子がおかしいことに気づく。
「まだ……これからだ!」
ハヤテが両腕に力を入れる。
もちろん、大型犬のような形状の獣機に噛みつかれたまま。
相当な重さがあるはずだが、わずかにその四肢が浮いた。
「――!?」
ただならぬ雰囲気に気圧されたように、子供がサッと後方に退いた。
「うおおおおおっ――!」
一気に力を込め、空中で勢いよく二体の獣型獣機を衝突させた。
高い金属音。
獣機には痛覚が存在するという説を裏付けるように、二体の口はハヤテの腕から簡単に離れ、反作用で左右に飛んでいった。きちんと着地もできず、その勢いでゴロゴロと転がる。
ハヤテは素早く横に転がると、落ちていた電子警棒を拾いあげながら立ち上がった。
「いや、これはビックリしました。まだそんな力が」
しかし、素直に驚きを口にしながらも、子供は余裕の表情だった。
それはハヤテの電子警棒の銃機能ボタンに手がかけられ、先端を向けられても変わらなかった。
「それに銃の機能があるというのは知っています。でも、撃てますか?」
「お前は獣機だろ。撃てる」
「ボクは人間ですって」
「認めろ! 絶対人間じゃないだろ!」
「そう思うなら、撃ってみますか?」
撃てば確実に人間か獣機かの判別はつく。
しかしハヤテは発射ボタンを押せなかった。
前に生身の人間に扮していた山中博士のときは、彼が百パーセント確実に人間でないとわかったから撃てた。
目の前の子供だって、九十九パーセント人間ではないだろう。それでも残り一パーセントがある。ハヤテの射撃の腕をもってすれば足を狙うこともできるが、それでも撃てない。
「やっぱり撃てませんよね」
子供がパチンと指を鳴らした。
その意味をハヤテが理解したときには、もう遅かった。
いつのまにか立ち直っていた二体の獣型獣機の口から、大きな火球が発射されていた。
「うあ゛ぁあ゛あ゛ッ――!」
ただの弾丸ではなかった。
着弾したそれは激しく爆発し、スーツとハヤテに大きなダメージを与えた。
「……ぁぁッ……ぅぁッ……」
吹き飛ばされたハヤテ。
白煙をのぼらせながら起き上がるも、うめきながらフラフラとするしかなかった。せっかく拾った電子警棒も爆発の衝撃で手から離れ、どこかに行ってしまっていた。
「形勢逆転、とはならなくて残念でしたね」
「く、くそっ……」
「さて。今度こそとどめを刺……そうと思ったんですが、今また新しい遊び方を思いついてしまいました。やっぱりもう少し遊びましょうか――」
丸腰のハヤテに子供がゆっくりと近づこうとした、そのときだった。
「ハヤテ!!」
ヒーローの名を呼ぶ、若い声。
「その声は――!」
ハヤテが向けた視線の先は、観客席の一番手前。
そこにいたのは、肩を激しく上下させ、白色の化学防護服に身を包み、背中に巨大なリュックのような金属の箱を背負った人間だった。
今はヒーロー支部の臨時職員であり、ハヤテの担当者でもある三条ワタルであった。
「受け取って!!」
そう言って、彼は思いっきり棒状のものを投げてきた。
それが電子警棒であることをハヤテはすぐに理解した。そして、その輝きから新品であるということも。
地面を蹴り、その軌道をめがけて飛ぶ。
子供もパチンと指を鳴らして対抗した。二体の小型獣機がハヤテに武器を渡すまいと、やはりその軌道をめがけて飛ぶ。
ハヤテのほうがわずかに速かった。
右手を伸ばして空中の電子警棒をつかむ。そして素早くスタンガン機能のスイッチを入れ――。
矢継ぎ早に、二体の小型獣機の関節部に先端を差し込む。
「グガガガガッ――――!」
「グガガガガッ――――!」
ハヤテが着地した。
二体は墜落し、バウンド後に動かなくなった。
「ハヤテ! ナイス!」
「おうよ! サンキュー!」
左手の親指を立てるハヤテ。
「……誰ですか? 彼は」
「有能な職員だ!」
ハヤテはそう答えると、新しい電子警棒を構えた。
(続く)
「さて、では次に行きましょうか」
ハヤテの横に立つと、淡々と続けた。
「下は地面。力の逃がし場所はありません。この状態で全力で刺されたらどうでしょうか? スーツは耐えられますか? 中のあなたも耐えられますか?」
そう言って、日本刀を逆手持ちした。上からまっすぐに突き刺せる握りだ。
「……!」
「ボクが人間かもしれないから、思いっきり戦えなかったんですよね? バカだなと思います。まあ、でも、組織にそう作られてるんですよね? ヒーローは」
子供が満足そうに笑い、日本刀をやや上方へ持ち上げる。
「だいたい、こういう事態くらいは想定すべきですよね」
切っ先が不気味に光ると、ハヤテは目をギュッとつぶった。
「まあ、末端戦闘員のあなたに言っても仕方ないですかね。恨むならそちらの組織の無能な職員でも恨んでください」
子供はそう締めくくって、ハヤテにとどめを刺そうとした。
が、
職員――。
その言葉は、視界を放棄して観念しかけていたハヤテの耳にしっかりと入った。
ヘルメットのシールドの奥で、再度しっかりと目が開かれる。
「……ま……まだだ……」
「ん?」
足越しにハヤテの腹筋に力が入ったことを感じ、子供は様子がおかしいことに気づく。
「まだ……これからだ!」
ハヤテが両腕に力を入れる。
もちろん、大型犬のような形状の獣機に噛みつかれたまま。
相当な重さがあるはずだが、わずかにその四肢が浮いた。
「――!?」
ただならぬ雰囲気に気圧されたように、子供がサッと後方に退いた。
「うおおおおおっ――!」
一気に力を込め、空中で勢いよく二体の獣型獣機を衝突させた。
高い金属音。
獣機には痛覚が存在するという説を裏付けるように、二体の口はハヤテの腕から簡単に離れ、反作用で左右に飛んでいった。きちんと着地もできず、その勢いでゴロゴロと転がる。
ハヤテは素早く横に転がると、落ちていた電子警棒を拾いあげながら立ち上がった。
「いや、これはビックリしました。まだそんな力が」
しかし、素直に驚きを口にしながらも、子供は余裕の表情だった。
それはハヤテの電子警棒の銃機能ボタンに手がかけられ、先端を向けられても変わらなかった。
「それに銃の機能があるというのは知っています。でも、撃てますか?」
「お前は獣機だろ。撃てる」
「ボクは人間ですって」
「認めろ! 絶対人間じゃないだろ!」
「そう思うなら、撃ってみますか?」
撃てば確実に人間か獣機かの判別はつく。
しかしハヤテは発射ボタンを押せなかった。
前に生身の人間に扮していた山中博士のときは、彼が百パーセント確実に人間でないとわかったから撃てた。
目の前の子供だって、九十九パーセント人間ではないだろう。それでも残り一パーセントがある。ハヤテの射撃の腕をもってすれば足を狙うこともできるが、それでも撃てない。
「やっぱり撃てませんよね」
子供がパチンと指を鳴らした。
その意味をハヤテが理解したときには、もう遅かった。
いつのまにか立ち直っていた二体の獣型獣機の口から、大きな火球が発射されていた。
「うあ゛ぁあ゛あ゛ッ――!」
ただの弾丸ではなかった。
着弾したそれは激しく爆発し、スーツとハヤテに大きなダメージを与えた。
「……ぁぁッ……ぅぁッ……」
吹き飛ばされたハヤテ。
白煙をのぼらせながら起き上がるも、うめきながらフラフラとするしかなかった。せっかく拾った電子警棒も爆発の衝撃で手から離れ、どこかに行ってしまっていた。
「形勢逆転、とはならなくて残念でしたね」
「く、くそっ……」
「さて。今度こそとどめを刺……そうと思ったんですが、今また新しい遊び方を思いついてしまいました。やっぱりもう少し遊びましょうか――」
丸腰のハヤテに子供がゆっくりと近づこうとした、そのときだった。
「ハヤテ!!」
ヒーローの名を呼ぶ、若い声。
「その声は――!」
ハヤテが向けた視線の先は、観客席の一番手前。
そこにいたのは、肩を激しく上下させ、白色の化学防護服に身を包み、背中に巨大なリュックのような金属の箱を背負った人間だった。
今はヒーロー支部の臨時職員であり、ハヤテの担当者でもある三条ワタルであった。
「受け取って!!」
そう言って、彼は思いっきり棒状のものを投げてきた。
それが電子警棒であることをハヤテはすぐに理解した。そして、その輝きから新品であるということも。
地面を蹴り、その軌道をめがけて飛ぶ。
子供もパチンと指を鳴らして対抗した。二体の小型獣機がハヤテに武器を渡すまいと、やはりその軌道をめがけて飛ぶ。
ハヤテのほうがわずかに速かった。
右手を伸ばして空中の電子警棒をつかむ。そして素早くスタンガン機能のスイッチを入れ――。
矢継ぎ早に、二体の小型獣機の関節部に先端を差し込む。
「グガガガガッ――――!」
「グガガガガッ――――!」
ハヤテが着地した。
二体は墜落し、バウンド後に動かなくなった。
「ハヤテ! ナイス!」
「おうよ! サンキュー!」
左手の親指を立てるハヤテ。
「……誰ですか? 彼は」
「有能な職員だ!」
ハヤテはそう答えると、新しい電子警棒を構えた。
(続く)
0
『勇者の股間触ったらエライことになった』
――――――――――――――――――――――
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。



目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。

身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる