うちの地域担当のヒーローがやられまくりな件

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落

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第2部 犯罪者競技の祭典・東京五輪2XXX

第24話

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 獣型の獣機二体にハヤテの両腕を押さえつけさせたまま、Tシャツにハーフパンツの子供は、近くに刺しておいた日本刀を両手に持った。

「さて、では次に行きましょうか」

 ハヤテの横に立つと、淡々と続けた。

「下は地面。力の逃がし場所はありません。この状態で全力で刺されたらどうでしょうか? スーツは耐えられますか? 中のあなたも耐えられますか?」

 そう言って、日本刀を逆手持ちした。上からまっすぐに突き刺せる握りだ。

「……!」
「ボクが人間かもしれないから、思いっきり戦えなかったんですよね? バカだなと思います。まあ、でも、組織にそう作られてるんですよね? ヒーローは」

 子供が満足そうに笑い、日本刀をやや上方へ持ち上げる。

「だいたい、こういう事態くらいは想定すべきですよね」

 切っ先が不気味に光ると、ハヤテは目をギュッとつぶった。

「まあ、末端戦闘員のあなたに言っても仕方ないですかね。恨むならそちらの組織の無能な職員でも恨んでください」

 子供はそう締めくくって、ハヤテにとどめを刺そうとした。
 が、
 職員――。
 その言葉は、視界を放棄して観念しかけていたハヤテの耳にしっかりと入った。

 ヘルメットのシールドの奥で、再度しっかりと目が開かれる。

「……ま……まだだ……」
「ん?」

 足越しにハヤテの腹筋に力が入ったことを感じ、子供は様子がおかしいことに気づく。

「まだ……これからだ!」

 ハヤテが両腕に力を入れる。
 もちろん、大型犬のような形状の獣機に噛みつかれたまま。
 相当な重さがあるはずだが、わずかにその四肢が浮いた。

「――!?」

 ただならぬ雰囲気に気圧されたように、子供がサッと後方に退いた。

「うおおおおおっ――!」

 一気に力を込め、空中で勢いよく二体の獣型獣機を衝突させた。
 高い金属音。
 獣機には痛覚が存在するという説を裏付けるように、二体の口はハヤテの腕から簡単に離れ、反作用で左右に飛んでいった。きちんと着地もできず、その勢いでゴロゴロと転がる。

 ハヤテは素早く横に転がると、落ちていた電子警棒を拾いあげながら立ち上がった。

「いや、これはビックリしました。まだそんな力が」

 しかし、素直に驚きを口にしながらも、子供は余裕の表情だった。
 それはハヤテの電子警棒の銃機能ボタンに手がかけられ、先端を向けられても変わらなかった。

「それに銃の機能があるというのは知っています。でも、撃てますか?」
「お前は獣機だろ。撃てる」
「ボクは人間ですって」
「認めろ! 絶対人間じゃないだろ!」
「そう思うなら、撃ってみますか?」

 撃てば確実に人間か獣機かの判別はつく。
 しかしハヤテは発射ボタンを押せなかった。

 前に生身の人間に扮していた山中博士のときは、彼が百パーセント確実に人間でないとわかったから撃てた。
 目の前の子供だって、九十九パーセント人間ではないだろう。それでも残り一パーセントがある。ハヤテの射撃の腕をもってすれば足を狙うこともできるが、それでも撃てない。

「やっぱり撃てませんよね」

 子供がパチンと指を鳴らした。
 その意味をハヤテが理解したときには、もう遅かった。
 いつのまにか立ち直っていた二体の獣型獣機の口から、大きな火球が発射されていた。

「うあ゛ぁあ゛あ゛ッ――!」

 ただの弾丸ではなかった。
 着弾したそれは激しく爆発し、スーツとハヤテに大きなダメージを与えた。

「……ぁぁッ……ぅぁッ……」

 吹き飛ばされたハヤテ。
 白煙をのぼらせながら起き上がるも、うめきながらフラフラとするしかなかった。せっかく拾った電子警棒も爆発の衝撃で手から離れ、どこかに行ってしまっていた。

「形勢逆転、とはならなくて残念でしたね」
「く、くそっ……」
「さて。今度こそとどめを刺……そうと思ったんですが、今また新しい遊び方を思いついてしまいました。やっぱりもう少し遊びましょうか――」

 丸腰のハヤテに子供がゆっくりと近づこうとした、そのときだった。

「ハヤテ!!」

 ヒーローの名を呼ぶ、若い声。

「その声は――!」

 ハヤテが向けた視線の先は、観客席の一番手前。
 そこにいたのは、肩を激しく上下させ、白色の化学防護服に身を包み、背中に巨大なリュックのような金属の箱を背負った人間だった。
 今はヒーロー支部の臨時職員であり、ハヤテの担当者でもある三条ワタルであった。

「受け取って!!」

 そう言って、彼は思いっきり棒状のものを投げてきた。
 それが電子警棒であることをハヤテはすぐに理解した。そして、その輝きから新品であるということも。

 地面を蹴り、その軌道をめがけて飛ぶ。
 子供もパチンと指を鳴らして対抗した。二体の小型獣機がハヤテに武器を渡すまいと、やはりその軌道をめがけて飛ぶ。

 ハヤテのほうがわずかに速かった。
 右手を伸ばして空中の電子警棒をつかむ。そして素早くスタンガン機能のスイッチを入れ――。
 矢継ぎ早に、二体の小型獣機の関節部に先端を差し込む。

「グガガガガッ――――!」
「グガガガガッ――――!」

 ハヤテが着地した。
 二体は墜落し、バウンド後に動かなくなった。

「ハヤテ! ナイス!」
「おうよ! サンキュー!」

 左手の親指を立てるハヤテ。

「……誰ですか? 彼は」
「有能な職員だ!」

 ハヤテはそう答えると、新しい電子警棒を構えた。



(続く)
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『勇者の股間触ったらエライことになった』
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