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第2部 犯罪者競技の祭典・東京五輪2XXX
第22話
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子供が、倒れてあえぐハヤテにゆっくりと近づいてくる。
「っ!」
起き上がろうと力を入れた瞬間、体に激痛が走った。どこが痛んでいるのか不明なほど、同時にたくさんの箇所が痛んだ。
長時間の仕事でも動きの質が落ちないよう、特殊ボディスーツには冷却機能も備わっている。だがヘルメットの中の顔には、体温調節のためのものとは違う汗が流れていた。
ハヤテはなんとか立ち上がった。
そしてそのときに気づいた。
競技フィールドの端、出入り口の近くに、選手たちが残っていたのである。
「おい! 早く外に避難を……って、なんであんたもいるんだよ!」
「ごめんごめん。いやあ、まあ、何となく?」
なぜかその集団の先頭の一人がエーイチであり、ハヤテは怒鳴った。
「あ、でもちょうどいいな。選手たちを誘導してくれ」
「え? んー、それはちょっと、どうしようか」
「流れ弾が危ないんだ! 頼む!」
のほほんとしたエーイチの声に対し、ハヤテは大きな声で頼んだ。
「ギャラリーを気にしてる場合ですか?」
子供が笑いを浮かべながら、ハヤテに対しふたたび踏み込んでくる。
まだダメージが抜けきっていないハヤテは、なんとか一振りは電子警棒で受けたが、続く攻撃がことごとく受からない。
「あぁっ!」「くっ!」「ぁあっ!」
腹部や腕をめった斬りにされ、スーツから火花を散らし続ける。
それでもハヤテは必死に、ヘルメットのシールド越しに目線でアピールを続けた。
すると、その思いは通じたようである。
「わかった。この場は言うとおりにするよ」
「サンキュー! 頼んだぞ!」
「また気を散らしてますね」
「うああっ!!」
不意に足を使われ、前蹴りを胸に食らったハヤテは、ふたたび仰向けに倒れた。
そして。
地面と背中の間に、子供の右足のつま先が差し込まれる。
「っ!?」
密着型の薄いボディスーツに包まれた体が、足の力だけでいとも簡単に持ち上げられた。
鍛えられているとはいえまだ十代の柔らかなラインの体が、回転しながら空高く舞った。
「ぐふぁっ」
受け身も取れず、体を人工芝に打ち付けたハヤテ。
バウンドしながら転がった。
――この子供は人間ではないのではないか。
ハヤテは四つん這いになって起き上がりながら、その疑惑を持った。
明らかに常人離れしたパワーがある。片足で人間の体を放り投げるなど、普通の人間の子供にできるとは到底思えない。
相手が人間ではないとの確証が得られれば、戦い方の幅が広がる。
「お前は……人間じゃないだろ?」
「人間ですよ?」
ふらつきながら聞くハヤテに対し、子供が答える。
その面白そうな表情を見て一段と疑惑を深めるハヤテであったが、百パーセントの確信が持てない。
この子供が人間臭いしゃべり方をしていたりするのも、ハヤテの迷いに拍車をかけていた。個体差はあるが、獣機は人型であってもかなり機械的な口調でしゃべることが多い。
もちろん銃機能で撃ってしまえば人間か獣機かの判別はつくのだが、ほんのわずかでも人間である可能性がある以上、生身の人間が死んでしまったり、重傷を負ってしまうような手段は使えない。
「ふふふ、どちらかわからない、といったところですか?」
心の中を見透かすような言葉とともに、子供は踏み込んできた。
またも日本刀が躍動する。警棒術を上回る剣さばきがハヤテを襲う。
子供は息も上がっていない。
対するハヤテはダメージの蓄積で動きが悪くなっていき、ますます新たなダメージを負っていく。
「ぐぁっ!」「ああっ!」「ぁあっ!」
腹部や腕をめった斬りにされ、スーツから火花を散らし続ける。
子供は仕上げとばかりに、ふらつくハヤテに対し、大きな振りかぶりから思いきり斬り降ろした。
「あ゛ぁあああああっ!」
派手な火花とともに上半身が反り、ひときわ大きなあえぎ声が競技フィールドに響いた。
直後に一転、時間がとまったかのような静寂が訪れる。
「……ぁ……」
うめきとともに、ついにハヤテの右手から電子警棒が落ちた。
そしてスローモーションのようにゆっくりと後ろに倒れた。
子供は追い討ちするように右足で、鍛えられたハヤテの腹部を踏みつけてきた。
足を離さず、そのまま踏圧を加える。
「ふぐぁっ」
必死に両手で子供の足首を掴み、逃れようとした。しかし腹にめり込む足は外れない。
子供はハヤテを見下ろし、日焼けした肌と対照的な白い歯をこぼし、笑った。
「こんなに楽しいんですね。ヒーローをいたぶるのって」
(続く)
「っ!」
起き上がろうと力を入れた瞬間、体に激痛が走った。どこが痛んでいるのか不明なほど、同時にたくさんの箇所が痛んだ。
長時間の仕事でも動きの質が落ちないよう、特殊ボディスーツには冷却機能も備わっている。だがヘルメットの中の顔には、体温調節のためのものとは違う汗が流れていた。
ハヤテはなんとか立ち上がった。
そしてそのときに気づいた。
競技フィールドの端、出入り口の近くに、選手たちが残っていたのである。
「おい! 早く外に避難を……って、なんであんたもいるんだよ!」
「ごめんごめん。いやあ、まあ、何となく?」
なぜかその集団の先頭の一人がエーイチであり、ハヤテは怒鳴った。
「あ、でもちょうどいいな。選手たちを誘導してくれ」
「え? んー、それはちょっと、どうしようか」
「流れ弾が危ないんだ! 頼む!」
のほほんとしたエーイチの声に対し、ハヤテは大きな声で頼んだ。
「ギャラリーを気にしてる場合ですか?」
子供が笑いを浮かべながら、ハヤテに対しふたたび踏み込んでくる。
まだダメージが抜けきっていないハヤテは、なんとか一振りは電子警棒で受けたが、続く攻撃がことごとく受からない。
「あぁっ!」「くっ!」「ぁあっ!」
腹部や腕をめった斬りにされ、スーツから火花を散らし続ける。
それでもハヤテは必死に、ヘルメットのシールド越しに目線でアピールを続けた。
すると、その思いは通じたようである。
「わかった。この場は言うとおりにするよ」
「サンキュー! 頼んだぞ!」
「また気を散らしてますね」
「うああっ!!」
不意に足を使われ、前蹴りを胸に食らったハヤテは、ふたたび仰向けに倒れた。
そして。
地面と背中の間に、子供の右足のつま先が差し込まれる。
「っ!?」
密着型の薄いボディスーツに包まれた体が、足の力だけでいとも簡単に持ち上げられた。
鍛えられているとはいえまだ十代の柔らかなラインの体が、回転しながら空高く舞った。
「ぐふぁっ」
受け身も取れず、体を人工芝に打ち付けたハヤテ。
バウンドしながら転がった。
――この子供は人間ではないのではないか。
ハヤテは四つん這いになって起き上がりながら、その疑惑を持った。
明らかに常人離れしたパワーがある。片足で人間の体を放り投げるなど、普通の人間の子供にできるとは到底思えない。
相手が人間ではないとの確証が得られれば、戦い方の幅が広がる。
「お前は……人間じゃないだろ?」
「人間ですよ?」
ふらつきながら聞くハヤテに対し、子供が答える。
その面白そうな表情を見て一段と疑惑を深めるハヤテであったが、百パーセントの確信が持てない。
この子供が人間臭いしゃべり方をしていたりするのも、ハヤテの迷いに拍車をかけていた。個体差はあるが、獣機は人型であってもかなり機械的な口調でしゃべることが多い。
もちろん銃機能で撃ってしまえば人間か獣機かの判別はつくのだが、ほんのわずかでも人間である可能性がある以上、生身の人間が死んでしまったり、重傷を負ってしまうような手段は使えない。
「ふふふ、どちらかわからない、といったところですか?」
心の中を見透かすような言葉とともに、子供は踏み込んできた。
またも日本刀が躍動する。警棒術を上回る剣さばきがハヤテを襲う。
子供は息も上がっていない。
対するハヤテはダメージの蓄積で動きが悪くなっていき、ますます新たなダメージを負っていく。
「ぐぁっ!」「ああっ!」「ぁあっ!」
腹部や腕をめった斬りにされ、スーツから火花を散らし続ける。
子供は仕上げとばかりに、ふらつくハヤテに対し、大きな振りかぶりから思いきり斬り降ろした。
「あ゛ぁあああああっ!」
派手な火花とともに上半身が反り、ひときわ大きなあえぎ声が競技フィールドに響いた。
直後に一転、時間がとまったかのような静寂が訪れる。
「……ぁ……」
うめきとともに、ついにハヤテの右手から電子警棒が落ちた。
そしてスローモーションのようにゆっくりと後ろに倒れた。
子供は追い討ちするように右足で、鍛えられたハヤテの腹部を踏みつけてきた。
足を離さず、そのまま踏圧を加える。
「ふぐぁっ」
必死に両手で子供の足首を掴み、逃れようとした。しかし腹にめり込む足は外れない。
子供はハヤテを見下ろし、日焼けした肌と対照的な白い歯をこぼし、笑った。
「こんなに楽しいんですね。ヒーローをいたぶるのって」
(続く)
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