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第2部 犯罪者競技の祭典・東京五輪2XXX
第19話
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ヒーローが着用する特殊戦闘ボディスーツ。その生地は薄く伸縮性に富んでいるが、肩や膝の関節部分については耐用性が考慮され、薄いプロテクターがついている。さらに、足部はガラスを割ることも想定して開発がなされており、高い硬度で仕上げられていた。
南エントランスが施錠されていた場合、ハヤテはその足部で入り口のガラスを蹴破って中に入るつもりだった。
が、二重ドアの外側のガラスドアはハヤテが前に立つと左右に開いてしまった。施錠はおろか自動開閉の設定すらも切られていなかったようだ。
そして一歩足を踏み入れた……途端、ハヤテの体を雷のような強い電光が襲った。
「うああっ――!」
完全な不意打ち。そして電流はやまない。持続性だ。
スーツはある程度の電流には耐えうる設計になっている。ハヤテはなんとか体を動かし逃れようとした。
しかしそこでさらに電圧が強まる。
「あ゛ああああっ――!!」
たまらずハヤテの体が反る。スーツが電流に耐え切れず、一部回路がショートして小爆発を起こした。
発動時間を過ぎたのか、それともエネルギー切れか。電流がやんだ。
ハヤテは小さくうめくと、膝が折れ、床に崩れ落ちた。
「……ぅ……」
スーツからは小さく煙があがっている。
ハヤテは飛びそうになった意識をすぐ引き戻すと、雷撃を受けた地点から這って離れ、上を見た。
「しまった……防犯システムか」
視線の先には、埋め込まれたカメラと発射装置のようなものがある。
スーツ非着用ならどうなっていたかと思うくらいの強い電流。普通の防犯システムでは絶対にありえない。
「ハヤテ、何かあった? 雑音が聞こえたけど」
ヘッドギア内蔵のスピーカーからワタルの声。通信は特殊戦闘ボディスーツの中で比較的脆弱な機能ではあるが、まだ生きていた。マイクはオフになっていたはずだが、過電流でノイズが届いてしまったか。
ハヤテは起き上がりながら、左腕部分にある内臓マイクを口元に運んだ。
「悪い。油断した。入り口で天井からビリビリ電気食らっちまった」
「えっ。だいじょうぶ!?」
「だいじょうぶだ。電子警棒かヒーロースーツのどっちかが引っかかったんだと思う」
たぶんシステムがいじられている――そうワタルに伝え、通信を終了した。
エントランスの二重ドアの内側のガラスドアも、施錠はされていなかった。
今度は慎重に確認をし、天井の発射装置の配線を電子警棒の銃機能で切ってから進んだ。
「――!?」
外観同様、初めて生で見る、国立競技場内部の景色。
ハヤテの表情が驚愕のものへと変わった。
入り口の中は、大きなホールになっていた。競技フィールドは直接見えないような造りになっている。
それは事前に知っていた。
しかし、開会式の日にワタルと一緒にアバター越しに見たような柱や壁の装飾はなく、絵画やポスターもない。
外観同様、なんの色彩もない灰色の景色。
人間は……誰もいないように見えた。
いるのは、高さ1メートルの円柱型をした黒い清掃用ロボットが数台だけ。アームを伸ばし、柱や天井を掃除していたり、足部につけられたブラシで床を掃除している。
もちろん、大きな大会では映像技術で生の景色を補うことは当たり前ではある。むかし感染症の流行が立て続けに起きて以来、スポーツ大会やライブはアバターでの観戦が主流となっていたためだ。
ハヤテの中にもその知識はあったが、景色のどこからどこまでが加工によるものかまでは把握していなかった。
「お。ヒーローだ」
すぐ近くの灰色の円柱から、不意にそんな声がした。
目の前の不気味な景色に呑まれかけていて、その声がかかるまで気配にまったく気づいていなかった。
ハヤテは慌てて電子警棒を構えつつ、スタンガン機能をオンにした。
(続く)
南エントランスが施錠されていた場合、ハヤテはその足部で入り口のガラスを蹴破って中に入るつもりだった。
が、二重ドアの外側のガラスドアはハヤテが前に立つと左右に開いてしまった。施錠はおろか自動開閉の設定すらも切られていなかったようだ。
そして一歩足を踏み入れた……途端、ハヤテの体を雷のような強い電光が襲った。
「うああっ――!」
完全な不意打ち。そして電流はやまない。持続性だ。
スーツはある程度の電流には耐えうる設計になっている。ハヤテはなんとか体を動かし逃れようとした。
しかしそこでさらに電圧が強まる。
「あ゛ああああっ――!!」
たまらずハヤテの体が反る。スーツが電流に耐え切れず、一部回路がショートして小爆発を起こした。
発動時間を過ぎたのか、それともエネルギー切れか。電流がやんだ。
ハヤテは小さくうめくと、膝が折れ、床に崩れ落ちた。
「……ぅ……」
スーツからは小さく煙があがっている。
ハヤテは飛びそうになった意識をすぐ引き戻すと、雷撃を受けた地点から這って離れ、上を見た。
「しまった……防犯システムか」
視線の先には、埋め込まれたカメラと発射装置のようなものがある。
スーツ非着用ならどうなっていたかと思うくらいの強い電流。普通の防犯システムでは絶対にありえない。
「ハヤテ、何かあった? 雑音が聞こえたけど」
ヘッドギア内蔵のスピーカーからワタルの声。通信は特殊戦闘ボディスーツの中で比較的脆弱な機能ではあるが、まだ生きていた。マイクはオフになっていたはずだが、過電流でノイズが届いてしまったか。
ハヤテは起き上がりながら、左腕部分にある内臓マイクを口元に運んだ。
「悪い。油断した。入り口で天井からビリビリ電気食らっちまった」
「えっ。だいじょうぶ!?」
「だいじょうぶだ。電子警棒かヒーロースーツのどっちかが引っかかったんだと思う」
たぶんシステムがいじられている――そうワタルに伝え、通信を終了した。
エントランスの二重ドアの内側のガラスドアも、施錠はされていなかった。
今度は慎重に確認をし、天井の発射装置の配線を電子警棒の銃機能で切ってから進んだ。
「――!?」
外観同様、初めて生で見る、国立競技場内部の景色。
ハヤテの表情が驚愕のものへと変わった。
入り口の中は、大きなホールになっていた。競技フィールドは直接見えないような造りになっている。
それは事前に知っていた。
しかし、開会式の日にワタルと一緒にアバター越しに見たような柱や壁の装飾はなく、絵画やポスターもない。
外観同様、なんの色彩もない灰色の景色。
人間は……誰もいないように見えた。
いるのは、高さ1メートルの円柱型をした黒い清掃用ロボットが数台だけ。アームを伸ばし、柱や天井を掃除していたり、足部につけられたブラシで床を掃除している。
もちろん、大きな大会では映像技術で生の景色を補うことは当たり前ではある。むかし感染症の流行が立て続けに起きて以来、スポーツ大会やライブはアバターでの観戦が主流となっていたためだ。
ハヤテの中にもその知識はあったが、景色のどこからどこまでが加工によるものかまでは把握していなかった。
「お。ヒーローだ」
すぐ近くの灰色の円柱から、不意にそんな声がした。
目の前の不気味な景色に呑まれかけていて、その声がかかるまで気配にまったく気づいていなかった。
ハヤテは慌てて電子警棒を構えつつ、スタンガン機能をオンにした。
(続く)
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