うちの地域担当のヒーローがやられまくりな件

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落

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第1部 終わるかもしれない新生代

第16話

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「派手にイっちゃったねー。ハハハ」

 満足そうに笑うと、山中博士は指をバイブレーションモードから元の状態に戻した。
 その右手で、ハヤテのヘルメットの顎の部分をつかむ。

「……く、くそ……っ」
「あれぇ、まだ心が折れてない感じ?」

 また山中博士が腕を組む。

「あ、そうだ。今のでスーツの中がぐっちゃぐちゃでしょ? 乾きやすいようにスーツ吹き飛ばしてあげるね」

 少し下がり、また右手の甲の三連装銃を向ける。

「これ、いちおう連射モードにすることもできるんだよ」
「う゛あ゛ッ! う゛ああ゛ああッ――――!」

 マシンガンの乱射のような音がした。
 スーツから散る火花の動きが、銃弾が連射のまま、足から胸まで全身をなぞるように撃ち込まれたことをよく示していた。

 体を一巡し、また下に下がろうかという動きを見せたところで、それは急に止まった。

「あちゃー、弾切れか。じゃあこっちだね」

 右手が下がり、左手が向けられる。手首がパカッと開いた。
 大口径銃だ。

 発射音と同時に、爆発音が轟く。

「あ゛ああああッ!!」

 それに交じる、ハヤテの声。
 至近距離でぶっ放されたそれは、ハヤテの胸に正確に命中し、爆発した。

 握力を失ったハヤテの右手から電子警棒が落ち、乾いた金属音を立てた。
 そして、ついに――。

 スーツのいたる箇所から爆発が起きた。

「あっ、ああっ! あっ、あ゛あっッ! あッあッあアァアアッ!!」
「は、ハヤテっ!!」

 ハヤテの断末魔のような声と、ワタルの悲痛な叫びが部屋に響く。
 爆発がおさまると、スーツ全体が一瞬発光し、そのまま消滅した。

「うん。無事に脱げた」

 黒のインナーシャツとスパッツという姿に戻り、ぐったりとしたハヤテ。
 山中博士は前に立つと、満足そうにニヤリと笑いながら片膝をついた。
 足元に落ちていた電子警棒を拾う。

「ダメージの限界で変身が解けると、しばらくはボタン押しても変身し直せないでしょ? スーツは電子警棒のバッテリーと変身者の肉体エネルギーで自己修復するから、すぐには無理なんだ。……まあ自己修復機能自体は画期的だけどね。毎回工場に修理に出してたら大変だし」

 そう説明すると電子警棒を横に放り、ハヤテの股間を見た。

「あーあ、やっぱりぐちゃぐちゃだ。もう一枚脱ごうか? そのほうが乾きがよさそうだもんね」

 スパッツのウエスト部分を握り、一気に破く。
 残りを一回、二回と引きちぎり、生地を完全に取り除いた。
 射精させられて萎えた陰茎と、ぶら下がる睾丸が、丸見えとなった。

「上も要らないね」

 インナーシャツも同様に引きちぎられる。

「はーい、これで完成。お友達にスッポンポンをしっかり見てもらって」

 視線を向けられたワタルが、山中博士を睨んだ。

「こ、この野郎……!」
「ハイ。三条君、ヒーロー見学タイムはもういいかな? じゃあ、そろそろ上杉君には死んでもらうね」

 四肢を拘束されたあげく生まれたままの姿になってしまったハヤテに、左腕の大口径銃が向けられた。
 ……が、すぐに腕は下ろされた。

「あ、左も弾切れしちゃってたか。うーん……どうしようかな。最初に使ってた拳銃はあそこに落ちてるけど……。こっちのほうがいいかな?」

 山中博士の右前腕から、刃が前方に伸びる。

「これで、切り裂かれて死んでね」

 すべてを封じられたヒーロー・ハヤテ。
 口を少し開け、冷たく光る切っ先を見るしかない。

「アハハハ。観念したかな? いやぁ、楽しかったよ。ありがとう。ハハハ……ん?」

 狂気に満ちた笑い声は、金属の音で上書きされた。
 鎖と鉄柱がぶつかる音だった。

 手錠で両手を縛られているワタルが、必死に鎖を外そうとしていたのだ。






 呆れた、というように山中博士が肩をすくめた。

「あのさぁ、三条君。それ、どう見ても外れないでしょ。けっこう太い鎖だよ」
「ハヤテが殺されるのを黙って見てられるか!」

「やめときなって。手錠したままでそんなことしたら手首ちぎれるよ」
「……それでもかまわない!」
「うわぁ。君はまあまあ頭よさそうだと思ったけどなあ。非合理なことしちゃだめだよ」
「うるさい!」

 なおも手錠から伸びた鎖を引きちぎろうと、力を入れるワタル。

「わ、ワタル……やめろ……」

 ハヤテも、声で止めにかかる。
 だがワタルは、首を縦には振らなかった。

「この人は僕を殺せない。なら、この場ではハヤテの力になれる。これさえ外れれば!」

 ワタルの手首の皮膚は切れ、すぐに血まみれになっていった。

「や、やめろっ……本当に手首ちぎれるぞ!」
「ヒーロー君の言うとおりだよ? 世の中あきらめも肝心なの」

 しかしそれでも、ワタルはやめなかった。
 手錠をはめられたまま鎖を引っ張り、激しい金属音を立て続ける。

 ガキッ、という音がした。

「……!」

 山中博士が初めて、その人工皮膚で覆われた顔に、動揺の色を出した。
 鎖はちぎれていないが、鉄柱の下の部分が外れたのである。
 ワタルがすぐにそこから鎖を抜く。

「鉄が腐ってたのか!?」

 声にも、動揺があらわとなる。

「うおおおおっ!」

 声をあげながらワタルが突進し、手錠を斜め上から振り下ろした。

「――!」

 山中博士が慌てて刃でそれを受ける。

「ぐああっ――!」

 その悲鳴はワタルだった。蹴り飛ばされたのである。
 本棚まで飛ばされ、その衝撃で本が大量に落下した。

「……その勇気は褒めてあげるけど、少し大人しくしてもらう必要があるね」

 山中博士はそう言って刃を光らせる。

 一方ワタルは、落ちてきた本が当たった頭を押さえながら立ち上がろうとした。
 が、叩きつけられたダメージで激しくせき込み、ふたたびしゃがみこんでしまった。

「殺すのはまずいけど、腕一本くらいは切り落としてもいいからね」

 ワタルに刃が向かう。
 そのとき――。

「おい! 相手は俺だ!」

 ハヤテの声だった。その声には生気が戻っていた。






「うおおおおおおおっ――!」

 ハヤテは叫びながら、半円リングに拘束されていた両腕に力を入れた。
 右腕のリングが最初に外れる。
 続いて左腕、右足、左足とリングが外れて、瞬く間に拘束が解けた。

「――!?」

 驚愕に目が見開かれた山中博士。
 慌てて、床に落ちていた拳銃を拾いに行く。

 ハヤテのほうは、放り投げられた電子警棒を俊敏な動きで拾う。
 そしてスイッチを押した。

「装着!」
「無駄だよ。まだ変身できな……!?」

 山中博士の言葉の途中で、ハヤテの全身が光る。

「ば、バカな。なぜ再変身が……そんなはずはない。理屈に……合わない」
「理屈を超えるのがヒーローだ! 俺はそう教わった! ヒーローになったときにこの施設で一度教わって! そしていまワタルにもう一度教わった!」

 ふたたび、赤色と黒色の密着型特殊戦闘ボディスーツに身が包まれたハヤテ。

「いくぞ!」

 床を力強く蹴った。

 山中博士が慌てて拳銃を発射する。
 一発、二発。
 命中するが、ハヤテはとまらない。

 鍛えられた全身の筋肉が、躍動する。
 距離を詰め、電子警棒を突き出す。

 目指すは、首。
 先ほど電子警棒の銃弾でえぐり、金属があらわになっている部分。
 狭い。ほんのわずかな点でしかない。
 それでもハヤテの突きには迷いがなかった。鋭く、真っすぐ、伸びる――。

 激しくショートする音がした。
 それは正確に、むき出しになった金属部分を捉えていた。

「ガ……ア……」

 山中博士の口から、機械音のような声が漏れた。
 そしてふらふらと後ろに数歩後退すると、後ろにバタリと倒れ、停止した。



(続く)
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