14 / 60
第1部 終わるかもしれない新生代
第14話
しおりを挟む
「いくぜ!」
床を蹴る。
相手は生身の人間ではない。ならば首の関節にスタンガンを当てることができれば、機能停止に追い込めるはず。
ハヤテはそう考えた。
山中博士がすぐに反応し、拳銃を発射する。
「ぐっ」
銃弾はハヤテの心臓の位置を正確に捉えた。スーツの左胸から火花があがる。
しかしのけぞったのは一瞬だけ。足は止まらない。
山中博士が持っていた銃は、連射できるタイプではない。
ハヤテは被弾覚悟で電子警棒を差し込みにかかったのである。
二発目の引き金が引かれるよりも、ハヤテの踏み込む速度のほうが速かった。
電子警棒の先がバチバチっと音を立て、首にめり込んだ。
突きには体重が乗っており、山中博士の体が、後ろにあったテーブルや椅子を巻き込みながら吹き飛んだ。
拳銃が手から離れて飛び、部屋の隅につながれているワタルの足元に転がる。
「やったか?」
手ごたえを感じたハヤテだったが――。
倒れた山中博士の左腕が、光った。
轟音。
「う゛あ゛ああぁッ!」
今度はハヤテが、山中博士とは比べものにならないくらい勢いよく、後ろに吹き飛んだ。
胸から激しい火花を散らし、声をあげながら、ダイレクトにコンクリート打ちっぱなしの壁に叩きつけられた。
「ハヤテ!」
ワタルの叫び声が響く。
床へとずり落ちたハヤテに対し、易々と起き上がった山中博士がニヤリと笑う。
その左手首はパカリと開いていた。大口径銃での攻撃だったようだ。
「この人工皮膚のクオリティを舐めてもらったら困るなぁ。高い電気絶縁性を誇るんでね。その程度ではびくともしないよ」
「ぅ……ぐ……」
うめきながら起き上がったハヤテは、次の手を打った。
電子警棒の先を向け、変身やスタンガンとはまた違うボタンを押す。
銃声。
電子警棒の銃機能である。
しかしそれも、高い金属音がむなしくするだけだった。
「……銃はダメか」
「いや、ハヤテ。たぶん意味はある!」
拘束されたままのワタルから、声が飛ぶ。
「胸元を見て! 倒れたときにチラッと光ってた。たぶん皮膚がえぐれて金属部分が出てきたんだ」
「……! 本当だ……」
ハヤテが電子警棒を構え直し、今度は何度も撃ち込んだ。
山中博士も動くが、ハヤテの射撃技術が優った。
すべて命中を示す金属音がして、そのうち一撃は首のやや左側方を捉えた。
だが着弾箇所がわずかにキラリと照明を反射して輝いただけだ。大きく金属部分を露出させるには至らない。
「ふーん。でもそれで何とかしようというのは――」
山中博士が笑って言いながら、右手のひらをハヤテに向ける。
「――ちょっと考えがね、おめでたすぎるかなぁ」
そこから出たメタルのムチが、ハヤテを襲う。
速すぎてハヤテは避けられなかった。
「うぁっ!?」
「その電子警棒、ボクが本部の開発員にすり替わっていた時代に開発したやつだよ。だから知ってるんだよなあ。銃弾が六発しか込められないってこともね。いまのでもう全部撃っちゃったでしょ?」
全身を腕ごとぐるぐる巻きにされたハヤテが、必死に体に力を入れ、ほどこうとする。
だがメタルのムチは無慈悲にギュッと締まった。
「ぐああああっ!」
全身を締めあげられたハヤテの苦悶の声が、部屋に響く。
「もちろん、ボクはそのスーツが万能でないことも知ってるよ」
今度はムチ全体が白く光った。
「うあ゛ぁぁぁぁぁあっあ゛あ゛ッ――!」
到るところから、ショートしたとおぼしき火花が散った。
スーツで緩和しきれない電流がハヤテの体を襲う。首を反らしながら大きなあえぎ声を出した。
「ダメージを受ければ、それが蓄積されて傷んでいくよね」
ムチがしなる。
ハヤテは後ろの壁へ、放り投げられた。
「あ゛はぁッ」
大の字で壁に打ち付けられた。
その強い衝撃に、打ちっぱなしコンクリートにヒビが走る。
と、同時に。
山中博士の左右の前腕部から、発射装置のようなものが白衣の袖を突き破って現れ、メタルの半円リングが発射されていた。
計四発。
それは正確に、ハヤテの両腕と両脚を押さえるように、コンクリートの壁に刺さった。
「はい。磔の完成。きれいな形だね」
「ぅ……ぐ……く、くそっ……」
「は、ハヤテっ!」
ワタルの悲痛な叫び。
ハヤテは体をよじり、腕と脚に力を入れるが、もちろん深く打ち付けられた半円リングは外れない。
コンパクトに縮めたムチを照明で不気味に光らせながら、ゆっくりと山中博士が近づいてきた。
「君、けっこう獣機を倒してたみたいだから強いのかと思ってたけど。なんか拍子抜けだね」
ムチがしなり、無防備な姿のハヤテのスーツを強く叩く。
「ぐはッ」
派手に火花を散らした。
「力なき正義は無能って、昔そんな言葉があったかなあ」
「がはッ」
また一振りで、火花。
今度はムチを格納すると、山中博士は右手でVサインを作る。
「ボクの右手、いろいろな機能があってさ。君らヒーローの大好きなスタンガンにもなるんだよ?」
高圧電流でバチバチと音を立てるそのVサインを、ハヤテの鍛えられた腹部に押し付けた。
「うあ゛ぁぁあっ!」
「気持ちよさそうだね。もっと強くしてあげるよ」
「あ゛あ゛ぁぁぁぁぁあっあ゛あ゛ッ――――!!」
激しいショート音と、ハヤテの大きな声が響き渡る。
「ぁ…………ぐ……ぁ……」
指が離れると、反っていた首が前に垂れ、口から苦痛のうめきが漏れた。
山中博士の指が触れていた部分は薄い回路がむき出しになり、そこから煙がのぼっていた。
「うん。まあまあ楽しいかなあ……こうやってヒーローで遊ぶのはさ。これから一人ずつ捕まえて、獣機が地球を侵略しているあいだの暇つぶしゲームにするのも悪くないかもね」
(続く)
床を蹴る。
相手は生身の人間ではない。ならば首の関節にスタンガンを当てることができれば、機能停止に追い込めるはず。
ハヤテはそう考えた。
山中博士がすぐに反応し、拳銃を発射する。
「ぐっ」
銃弾はハヤテの心臓の位置を正確に捉えた。スーツの左胸から火花があがる。
しかしのけぞったのは一瞬だけ。足は止まらない。
山中博士が持っていた銃は、連射できるタイプではない。
ハヤテは被弾覚悟で電子警棒を差し込みにかかったのである。
二発目の引き金が引かれるよりも、ハヤテの踏み込む速度のほうが速かった。
電子警棒の先がバチバチっと音を立て、首にめり込んだ。
突きには体重が乗っており、山中博士の体が、後ろにあったテーブルや椅子を巻き込みながら吹き飛んだ。
拳銃が手から離れて飛び、部屋の隅につながれているワタルの足元に転がる。
「やったか?」
手ごたえを感じたハヤテだったが――。
倒れた山中博士の左腕が、光った。
轟音。
「う゛あ゛ああぁッ!」
今度はハヤテが、山中博士とは比べものにならないくらい勢いよく、後ろに吹き飛んだ。
胸から激しい火花を散らし、声をあげながら、ダイレクトにコンクリート打ちっぱなしの壁に叩きつけられた。
「ハヤテ!」
ワタルの叫び声が響く。
床へとずり落ちたハヤテに対し、易々と起き上がった山中博士がニヤリと笑う。
その左手首はパカリと開いていた。大口径銃での攻撃だったようだ。
「この人工皮膚のクオリティを舐めてもらったら困るなぁ。高い電気絶縁性を誇るんでね。その程度ではびくともしないよ」
「ぅ……ぐ……」
うめきながら起き上がったハヤテは、次の手を打った。
電子警棒の先を向け、変身やスタンガンとはまた違うボタンを押す。
銃声。
電子警棒の銃機能である。
しかしそれも、高い金属音がむなしくするだけだった。
「……銃はダメか」
「いや、ハヤテ。たぶん意味はある!」
拘束されたままのワタルから、声が飛ぶ。
「胸元を見て! 倒れたときにチラッと光ってた。たぶん皮膚がえぐれて金属部分が出てきたんだ」
「……! 本当だ……」
ハヤテが電子警棒を構え直し、今度は何度も撃ち込んだ。
山中博士も動くが、ハヤテの射撃技術が優った。
すべて命中を示す金属音がして、そのうち一撃は首のやや左側方を捉えた。
だが着弾箇所がわずかにキラリと照明を反射して輝いただけだ。大きく金属部分を露出させるには至らない。
「ふーん。でもそれで何とかしようというのは――」
山中博士が笑って言いながら、右手のひらをハヤテに向ける。
「――ちょっと考えがね、おめでたすぎるかなぁ」
そこから出たメタルのムチが、ハヤテを襲う。
速すぎてハヤテは避けられなかった。
「うぁっ!?」
「その電子警棒、ボクが本部の開発員にすり替わっていた時代に開発したやつだよ。だから知ってるんだよなあ。銃弾が六発しか込められないってこともね。いまのでもう全部撃っちゃったでしょ?」
全身を腕ごとぐるぐる巻きにされたハヤテが、必死に体に力を入れ、ほどこうとする。
だがメタルのムチは無慈悲にギュッと締まった。
「ぐああああっ!」
全身を締めあげられたハヤテの苦悶の声が、部屋に響く。
「もちろん、ボクはそのスーツが万能でないことも知ってるよ」
今度はムチ全体が白く光った。
「うあ゛ぁぁぁぁぁあっあ゛あ゛ッ――!」
到るところから、ショートしたとおぼしき火花が散った。
スーツで緩和しきれない電流がハヤテの体を襲う。首を反らしながら大きなあえぎ声を出した。
「ダメージを受ければ、それが蓄積されて傷んでいくよね」
ムチがしなる。
ハヤテは後ろの壁へ、放り投げられた。
「あ゛はぁッ」
大の字で壁に打ち付けられた。
その強い衝撃に、打ちっぱなしコンクリートにヒビが走る。
と、同時に。
山中博士の左右の前腕部から、発射装置のようなものが白衣の袖を突き破って現れ、メタルの半円リングが発射されていた。
計四発。
それは正確に、ハヤテの両腕と両脚を押さえるように、コンクリートの壁に刺さった。
「はい。磔の完成。きれいな形だね」
「ぅ……ぐ……く、くそっ……」
「は、ハヤテっ!」
ワタルの悲痛な叫び。
ハヤテは体をよじり、腕と脚に力を入れるが、もちろん深く打ち付けられた半円リングは外れない。
コンパクトに縮めたムチを照明で不気味に光らせながら、ゆっくりと山中博士が近づいてきた。
「君、けっこう獣機を倒してたみたいだから強いのかと思ってたけど。なんか拍子抜けだね」
ムチがしなり、無防備な姿のハヤテのスーツを強く叩く。
「ぐはッ」
派手に火花を散らした。
「力なき正義は無能って、昔そんな言葉があったかなあ」
「がはッ」
また一振りで、火花。
今度はムチを格納すると、山中博士は右手でVサインを作る。
「ボクの右手、いろいろな機能があってさ。君らヒーローの大好きなスタンガンにもなるんだよ?」
高圧電流でバチバチと音を立てるそのVサインを、ハヤテの鍛えられた腹部に押し付けた。
「うあ゛ぁぁあっ!」
「気持ちよさそうだね。もっと強くしてあげるよ」
「あ゛あ゛ぁぁぁぁぁあっあ゛あ゛ッ――――!!」
激しいショート音と、ハヤテの大きな声が響き渡る。
「ぁ…………ぐ……ぁ……」
指が離れると、反っていた首が前に垂れ、口から苦痛のうめきが漏れた。
山中博士の指が触れていた部分は薄い回路がむき出しになり、そこから煙がのぼっていた。
「うん。まあまあ楽しいかなあ……こうやってヒーローで遊ぶのはさ。これから一人ずつ捕まえて、獣機が地球を侵略しているあいだの暇つぶしゲームにするのも悪くないかもね」
(続く)
10
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説


塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。



身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。


ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる