うちの地域担当のヒーローがやられまくりな件

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落

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第1部 終わるかもしれない新生代

第14話

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「いくぜ!」

 床を蹴る。
 相手は生身の人間ではない。ならば首の関節にスタンガンを当てることができれば、機能停止に追い込めるはず。
 ハヤテはそう考えた。

 山中博士がすぐに反応し、拳銃を発射する。

「ぐっ」

 銃弾はハヤテの心臓の位置を正確に捉えた。スーツの左胸から火花があがる。

 しかしのけぞったのは一瞬だけ。足は止まらない。
 山中博士が持っていた銃は、連射できるタイプではない。
 ハヤテは被弾覚悟で電子警棒を差し込みにかかったのである。

 二発目の引き金が引かれるよりも、ハヤテの踏み込む速度のほうが速かった。
 電子警棒の先がバチバチっと音を立て、首にめり込んだ。

 突きには体重が乗っており、山中博士の体が、後ろにあったテーブルや椅子を巻き込みながら吹き飛んだ。
 拳銃が手から離れて飛び、部屋の隅につながれているワタルの足元に転がる。

「やったか?」

 手ごたえを感じたハヤテだったが――。
 倒れた山中博士の左腕が、光った。

 轟音。

「う゛あ゛ああぁッ!」

 今度はハヤテが、山中博士とは比べものにならないくらい勢いよく、後ろに吹き飛んだ。
 胸から激しい火花を散らし、声をあげながら、ダイレクトにコンクリート打ちっぱなしの壁に叩きつけられた。

「ハヤテ!」

 ワタルの叫び声が響く。
 床へとずり落ちたハヤテに対し、易々と起き上がった山中博士がニヤリと笑う。
 その左手首はパカリと開いていた。大口径銃での攻撃だったようだ。

「この人工皮膚のクオリティを舐めてもらったら困るなぁ。高い電気絶縁性を誇るんでね。その程度ではびくともしないよ」
「ぅ……ぐ……」

 うめきながら起き上がったハヤテは、次の手を打った。
 電子警棒の先を向け、変身やスタンガンとはまた違うボタンを押す。

 銃声。

 電子警棒の銃機能である。
 しかしそれも、高い金属音がむなしくするだけだった。

「……銃はダメか」
「いや、ハヤテ。たぶん意味はある!」

 拘束されたままのワタルから、声が飛ぶ。

「胸元を見て! 倒れたときにチラッと光ってた。たぶん皮膚がえぐれて金属部分が出てきたんだ」
「……! 本当だ……」

 ハヤテが電子警棒を構え直し、今度は何度も撃ち込んだ。
 山中博士も動くが、ハヤテの射撃技術が優った。
 すべて命中を示す金属音がして、そのうち一撃は首のやや左側方を捉えた。
 だが着弾箇所がわずかにキラリと照明を反射して輝いただけだ。大きく金属部分を露出させるには至らない。

「ふーん。でもそれで何とかしようというのは――」

 山中博士が笑って言いながら、右手のひらをハヤテに向ける。

「――ちょっと考えがね、おめでたすぎるかなぁ」

 そこから出たメタルのムチが、ハヤテを襲う。
 速すぎてハヤテは避けられなかった。

「うぁっ!?」
「その電子警棒、ボクが本部の開発員にすり替わっていた時代に開発したやつだよ。だから知ってるんだよなあ。銃弾が六発しか込められないってこともね。いまのでもう全部撃っちゃったでしょ?」

 全身を腕ごとぐるぐる巻きにされたハヤテが、必死に体に力を入れ、ほどこうとする。
 だがメタルのムチは無慈悲にギュッと締まった。

「ぐああああっ!」

 全身を締めあげられたハヤテの苦悶の声が、部屋に響く。

「もちろん、ボクはそのスーツが万能でないことも知ってるよ」

 今度はムチ全体が白く光った。

「うあ゛ぁぁぁぁぁあっあ゛あ゛ッ――!」

 到るところから、ショートしたとおぼしき火花が散った。
 スーツで緩和しきれない電流がハヤテの体を襲う。首を反らしながら大きなあえぎ声を出した。

「ダメージを受ければ、それが蓄積されて傷んでいくよね」

 ムチがしなる。
 ハヤテは後ろの壁へ、放り投げられた。

「あ゛はぁッ」

 大の字で壁に打ち付けられた。
 その強い衝撃に、打ちっぱなしコンクリートにヒビが走る。

 と、同時に。
 山中博士の左右の前腕部から、発射装置のようなものが白衣の袖を突き破って現れ、メタルの半円リングが発射されていた。
 計四発。
 それは正確に、ハヤテの両腕と両脚を押さえるように、コンクリートの壁に刺さった。

「はい。はりつけの完成。きれいな形だね」
「ぅ……ぐ……く、くそっ……」
「は、ハヤテっ!」

 ワタルの悲痛な叫び。
 ハヤテは体をよじり、腕と脚に力を入れるが、もちろん深く打ち付けられた半円リングは外れない。
 
 コンパクトに縮めたムチを照明で不気味に光らせながら、ゆっくりと山中博士が近づいてきた。

「君、けっこう獣機を倒してたみたいだから強いのかと思ってたけど。なんか拍子抜けだね」

 ムチがしなり、無防備な姿のハヤテのスーツを強く叩く。

「ぐはッ」

 派手に火花を散らした。

「力なき正義は無能って、昔そんな言葉があったかなあ」
「がはッ」

 また一振りで、火花。
 今度はムチを格納すると、山中博士は右手でVサインを作る。

「ボクの右手、いろいろな機能があってさ。君らヒーローの大好きなスタンガンにもなるんだよ?」

 高圧電流でバチバチと音を立てるそのVサインを、ハヤテの鍛えられた腹部に押し付けた。

「うあ゛ぁぁあっ!」

「気持ちよさそうだね。もっと強くしてあげるよ」
「あ゛あ゛ぁぁぁぁぁあっあ゛あ゛ッ――――!!」

 激しいショート音と、ハヤテの大きな声が響き渡る。

「ぁ…………ぐ……ぁ……」

 指が離れると、反っていた首が前に垂れ、口から苦痛のうめきが漏れた。
 山中博士の指が触れていた部分は薄い回路がむき出しになり、そこから煙がのぼっていた。

「うん。まあまあ楽しいかなあ……こうやってヒーローで遊ぶのはさ。これから一人ずつ捕まえて、獣機が地球を侵略しているあいだの暇つぶしゲームにするのも悪くないかもね」



(続く)
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