上 下
17 / 60
第1部 終わるかもしれない新生代

第17話

しおりを挟む
 あぐら座りしているハヤテが、大きな目を輝かせながら、フォークを口に運んだ。

「これがケーキか! すげえうまいな!」

 俺が切ってもいいか? と挑戦してボロボロなカットになったホールケーキ。
 一口食べるなり、味が気に入ったようだ。

「ケーキを食べるのが生まれて初めてって、それもすごいけどね」

 喜ぶ彼を見て、ワタルも満足だった。
 ヒーローの普段の食事は専用の栄養食。今までスイーツの類はご縁がなかったようだ。

 ところが、なかなか二口目に行かない。

「ん、ハヤテってゆっくり食べる派なのかな? 意外だね」
「こんなにうまいもんを早く食べたらすぐなくなるだろ。もったいねー」
「……」
「あ、笑ったな?」
「あはは。ごめん。まあ、ペースはご自由に、かな」

 ワタルは我慢したつもりだったが、バレたようだ。
 ハヤテがムスッとした顔をして二口目に取りかかる。
 しかし口に入れた瞬間にまたパーっと輝いた顔に戻るので、ワタルも笑いをこらえるのが大変である。

 今日はハヤテの誕生日だった。
 もちろん、彼の体が生を受けた日ではない。上杉ハヤテという人格が誕生した日だ。
 ワタルは新たに着任した支部長に許可をもらい、自室に彼を呼び、二人で小さなローテーブルを挟んでミニ誕生会を開いていたのである。

 ヒーローに完全なオフの日というものはない。そのため、彼の格好はインナーシャツにスパッツ。もちろん電子警棒も携帯して、いつでも変身して現場に直行できるようにしている。

 山中博士による前支部長へのすり替わり発覚事件から、もう一ヶ月以上が経つ。

 獣機の生みの親は、消滅した。
 だが、太陽系が獣機のコロニーだらけという状況は同じだ。地球での獣機の出現も相変わらず続いている。

 いつか人類が『死の鍵』を解明する日。
 その日がいつになるのか? そもそもそんな日は来るのか? それはわからない。
 確かなことは、ヒーローは獣機が現れ続ける限り、みんなを守るために戦い続けなければならないということである。

 ハヤテは新しい支部長の下で、相変わらず頑張っている。
 ヒーローがどう作られるのか――その秘密を知ってしまった今でも、彼は変わらない。
 天職。
 その言葉がぴったりなのだろう、とワタルは思っている。

「いやー、まさかワタルが支部の職員になるとはな」
「まだ大学生だから臨時職員だけどね。フルタイムじゃないし」

 ワタルのほうはというと、事件後すぐ、対獣機保安庁の幹部を名乗る人間から挨拶をされた。
「君は秘密を知りすぎている。今回事件が起きた支部に臨時職員として入ってほしい」
 とのことだった。

 ワタルとしては「まあそうですよね」ということで、承諾していた。
 大量の機密保持誓約書にサインをしていく羽目になったのだが、そのあたりも「まあそうですよね」である。

 その後は現場検証や事件の報告書作成、人員不足となってしまった支部の事務作業の手伝い、そして『死の鍵』の研究のための協力など、意外とバタバタしている。

 大学四年生になったら、対獣機保安官採用試験を受け、無事受かれば卒業後に支部の正規職員となる予定……というよりも、ならないと怒られるだろう。

「ワタルが落ち着いたら、俺の担当になるって聞いたぞ」
「うん。その予定だって僕も言われてるよ」
「楽しみだな」

 ハヤテがうれしそうにニンマリとした顔を作る。

「あ、でもよ。お前は何か他にやりたいこととかあったんじゃないのか?」
「今はもう、君のサポートが一番したいことだよ」
「うおー。そう言ってもらえるとうれしいぜ」

 ヒーローはみんなを守ってくれるけれども、ヒーローを守ってくれる人はいない。
 自分も組織の一員となって、少しでも支援ができれば――ワタルは心底そう思っていた。

「それに、君と一緒にいると面白いしね。なんかイっちゃったりとか、ハダカ見せつけてきたりとか」
「……前にここに泊めてもらったときにも思ったんだけどよ。お前けっこう意地悪だったりする?」
「ごめんごめん。僕の中にはヤバい博士の血が入ってるからさ」
「それ自分で言うのかよ!」

 二人で、笑い合う。

「長い付き合いになりそうだけど、よろしく頼むよ。ハヤテ」
「こちらこそ、な。ワタル」

 そして食べ始めたばかりのケーキの上で、グータッチを交わした。



(第一部 終わり)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。 ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。 だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

友達が僕の股間を枕にしてくるので困る

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
僕の股間枕、キンタマクラ。なんか人をダメにする枕で気持ちいいらしい。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

小さい頃、近所のお兄さんに赤ちゃんみたいに甘えた事がきっかけで性癖が歪んでしまって困ってる

海野
BL
小さい頃、妹の誕生で赤ちゃん返りをした事のある雄介少年。少年も大人になり青年になった。しかし一般男性の性の興味とは外れ、幼児プレイにしかときめかなくなってしまった。あの時お世話になった「近所のお兄さん」は結婚してしまったし、彼ももう赤ちゃんになれる程可愛い背格好では無い。そんなある日、職場で「お兄さん」に似た雰囲気の人を見つける。いつしか目で追う様になった彼は次第にその人を妄想の材料に使うようになる。ある日の残業中、眠ってしまった雄介は、起こしに来た人物に寝ぼけてママと言って抱きついてしまい…?

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

処理中です...