うちの地域担当のヒーローがやられまくりな件

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落

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第1部 終わるかもしれない新生代

第17話

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 あぐら座りしているハヤテが、大きな目を輝かせながら、フォークを口に運んだ。

「これがケーキか! すげえうまいな!」

 俺が切ってもいいか? と挑戦してボロボロなカットになったホールケーキ。
 一口食べるなり、味が気に入ったようだ。

「ケーキを食べるのが生まれて初めてって、それもすごいけどね」

 喜ぶ彼を見て、ワタルも満足だった。
 ヒーローの普段の食事は専用の栄養食。今までスイーツの類はご縁がなかったようだ。

 ところが、なかなか二口目に行かない。

「ん、ハヤテってゆっくり食べる派なのかな? 意外だね」
「こんなにうまいもんを早く食べたらすぐなくなるだろ。もったいねー」
「……」
「あ、笑ったな?」
「あはは。ごめん。まあ、ペースはご自由に、かな」

 ワタルは我慢したつもりだったが、バレたようだ。
 ハヤテがムスッとした顔をして二口目に取りかかる。
 しかし口に入れた瞬間にまたパーっと輝いた顔に戻るので、ワタルも笑いをこらえるのが大変である。

 今日はハヤテの誕生日だった。
 もちろん、彼の体が生を受けた日ではない。上杉ハヤテという人格が誕生した日だ。
 ワタルは新たに着任した支部長に許可をもらい、自室に彼を呼び、二人で小さなローテーブルを挟んでミニ誕生会を開いていたのである。

 ヒーローに完全なオフの日というものはない。そのため、彼の格好はインナーシャツにスパッツ。もちろん電子警棒も携帯して、いつでも変身して現場に直行できるようにしている。

 山中博士による前支部長へのすり替わり発覚事件から、もう一ヶ月以上が経つ。

 獣機の生みの親は、消滅した。
 だが、太陽系が獣機のコロニーだらけという状況は同じだ。地球での獣機の出現も相変わらず続いている。

 いつか人類が『死の鍵』を解明する日。
 その日がいつになるのか? そもそもそんな日は来るのか? それはわからない。
 確かなことは、ヒーローは獣機が現れ続ける限り、みんなを守るために戦い続けなければならないということである。

 ハヤテは新しい支部長の下で、相変わらず頑張っている。
 ヒーローがどう作られるのか――その秘密を知ってしまった今でも、彼は変わらない。
 天職。
 その言葉がぴったりなのだろう、とワタルは思っている。

「いやー、まさかワタルが支部の職員になるとはな」
「まだ大学生だから臨時職員だけどね。フルタイムじゃないし」

 ワタルのほうはというと、事件後すぐ、対獣機保安庁の幹部を名乗る人間から挨拶をされた。
「君は秘密を知りすぎている。今回事件が起きた支部に臨時職員として入ってほしい」
 とのことだった。

 ワタルとしては「まあそうですよね」ということで、承諾していた。
 大量の機密保持誓約書にサインをしていく羽目になったのだが、そのあたりも「まあそうですよね」である。

 その後は現場検証や事件の報告書作成、人員不足となってしまった支部の事務作業の手伝い、そして『死の鍵』の研究のための協力など、意外とバタバタしている。

 大学四年生になったら、対獣機保安官採用試験を受け、無事受かれば卒業後に支部の正規職員となる予定……というよりも、ならないと怒られるだろう。

「ワタルが落ち着いたら、俺の担当になるって聞いたぞ」
「うん。その予定だって僕も言われてるよ」
「楽しみだな」

 ハヤテがうれしそうにニンマリとした顔を作る。

「あ、でもよ。お前は何か他にやりたいこととかあったんじゃないのか?」
「今はもう、君のサポートが一番したいことだよ」
「うおー。そう言ってもらえるとうれしいぜ」

 ヒーローはみんなを守ってくれるけれども、ヒーローを守ってくれる人はいない。
 自分も組織の一員となって、少しでも支援ができれば――ワタルは心底そう思っていた。

「それに、君と一緒にいると面白いしね。なんかイっちゃったりとか、ハダカ見せつけてきたりとか」
「……前にここに泊めてもらったときにも思ったんだけどよ。お前けっこう意地悪だったりする?」
「ごめんごめん。僕の中にはヤバい博士の血が入ってるからさ」
「それ自分で言うのかよ!」

 二人で、笑い合う。

「長い付き合いになりそうだけど、よろしく頼むよ。ハヤテ」
「こちらこそ、な。ワタル」

 そして食べ始めたばかりのケーキの上で、グータッチを交わした。



(第一部 終わり)
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『勇者の股間触ったらエライことになった』
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