うちの地域担当のヒーローがやられまくりな件

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落

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第1部 終わるかもしれない新生代

第10話

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 翌朝。
 ワタルが起きてベッドを見たら、ハヤテが消えていた。
 テーブルの上に、あまり上手でない字で「支部に報告に行く。ありがとな!」と書かれた紙が置いてあった。

 公務員試験予備校の一件のときも、彼は体の回復が異様に早かった。
 昨日ワタルが見た限りでは、彼の体は鍛えてはあったものの、普通の人間としか思えなかった。
 外見ではわからないようなヒーロー特有の秘密が体にあるのか。それとも、通常の人間の範囲内で回復が早いのか。どちらかはわからない。
 ただ、いなくなったということは体はもう大丈夫なのだろう。

 それよりも、である。
 ワタルは『報告』という文字を見て、大切なことを彼に伝えそびれてしまったことに気付いた。

 すなわち、獣機の、
「お前は『死の鍵』を持つ可能性がある」
 というセリフである。

 意味はもちろん不明であるが、自分だけにとどめておいてよい情報でないことは明らか。
 それどころか、至急ヒーロー側に提供しなければならない情報である気がする。

 ハヤテがあのセリフを聞いていた可能性は低い。
 昨日彼が目を覚ましたとき、彼に迷惑をかけてしまったことを謝罪したあと、伝えるべきだった。

 すっかり、忘れていた。
 忘れたままだった原因は……途中から、ヒーローが自宅にいるという事実に舞い上がっていたためか。
 ワタルは自分の頭を一発、思いっきり叩いた。 



 ◇



 焦ったワタルは、初めて大学の講義をサボった。

 ハヤテに会える日がまたあるのかもしれない。しかしそれはいつになるかわからない。
 獣機の謎のセリフについて緊急で伝えるには、自分が行くしかない。

 ――ヒーロー支部に。

 行ってもハヤテには会える可能性は低そうだが、上司にあたる人や職員は誰かいるかもしれない。
 立入禁止の扉を叩いていれば出てくるかもしれない。
 あちら側の誰かに伝えられればいい。



 地下に入るところまでは、記憶が鮮明だったこともあり、すんなり行けた。
 だがそのあとの道は、やや記憶が薄れてしまっており、完全には覚えていなかった。

 暗めの照明の中、無機質で冷たいコンクリート打ちっぱなしの壁が続く道を、迷い気味ながらも思い出しながら進む。

 ヒーロー関係者らしき人に途中で遭遇すればありがたいなと思った。
 支部の場所は非公開であるので、前にハヤテに肩を貸して行ったところまで一人でフラフラ行くのは罪悪感があるためだ。
 しかし残念ながら、誰にも会うことはなかった。
 
 ――ここだ。

 関係者以外立入禁止の文字が書かれている、金属の扉。
 かなり暗いが、前回と違い一人であるため、周りも見渡す余裕があった。
 
 少し開けたホール状になっているが、通路の行き止まりではなかった。
 右にも、左にも、左右対称な位置ではないが、よく見ると通路がある。どちらも先は暗くて見えない。

 ワタルは扉を叩く前に、少し気持ちを整えようとした。

 そこで、右の通路の方から会話の声が聞こえた。
 いいところに来た。そう思って、現れたら声をかけようとした。

「……!?」

 が、近づいてくる会話の中から『殉職』という言葉が聞こえてきて、ワタルの背筋に冷たいものが走った。
 思わず、左に見えていた通路の方に隠れてしまった。

 扉の前のホールに現れたのは、スーツ姿の男二人だった。

「戸籍がないゆえ表に情報が出ないのはありがたいが。補充は大丈夫なのか」
「個体はもう確保できていますが、すぐには無理ですね」
「そのエリアも当面は一人体制だな」
「はい。装置にかけた後の再教育の手間さえもっと簡略化できればよいのですが」

 その会話のあまりの不穏さに、ワタルは声をかけるタイミングを見計らうことはできなかった。
 男の片方が、金属扉の横にある機器にカードと手のひらをかざす。
 扉が開き、中へと入っていった。

 戸籍がない? 補充? 個体? 装置? 再教育?
 心臓が強く脈打つのを感じたまま、またワタルは扉の前に戻った。

「そこで何をしている」

 落ち着いた冷たい声。
 ふたたびワタルの背筋に冷たいものが走ると同時に、破裂せんばかりの勢いで心臓が強く収縮した。



(続く)
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『勇者の股間触ったらエライことになった』
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