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第1部 終わるかもしれない新生代
第6話
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「お前さあ、『子供の頃もヒーローには興味ゼロだった』って言ってなかった?」
ワタルは大学の食堂で、そう突っ込まれた。
住んでいる一人暮らしのアパートは大学に近い……というよりも大学のすぐ裏。
この大学には同じヒーローが担当するであろうエリアに住んでいる友達も多かったため、彼らからヒーロー出没情報を聞き出そうとすることも増えていた。
「そうだったんだけどね」
一緒に昼食を食べていた三人のゼミ仲間に、ワタルは苦笑を返すしかない。
湧き出てくる興味はいかんともしがたい、といったところだ。
「ちょっといろいろあって、ここにきて興……ん!?」
突然、防災警報の音がした。
広い食堂で、全員の会話と動きが止まる。
『大学事務局です。獣機が接近中です。全校生徒は速やかに避難経路に従い避難してください』
生徒が一斉に立ち上がる。
避難訓練は頻繁におこなわれているため、混乱は起きない。
皆スムーズに、校舎外を目指して流れていった。
一人、ワタルを除いては。
獣機は人型・獣型を問わず、跳躍力が強く登攀能力も高い。飛行可能な個体もある。
そのため、高い階層に直接現れての奇襲が多いとされている。
途中で友人たちと離れたワタルは、食堂のあった大学の建物の地下から、最上階の三階へと移った。
耳に神経を集中する。
しばらくすると、ガラスが割れる音、物が壊れる音が聞こえた。
ヒーローの仕事の邪魔になるのは避けたい。
だから、戦闘終了後でいい。もし来たヒーローが彼なのであれば、一言二言でも会話ができれば――。
そう思って、慎重に現場と思われる方向を目指そうとした。
が、聞こえていた音が一瞬止まると……
ふたたび聞こえてきた音は、ゆっくりとワタルに近づいてきた。
破壊音ではなく、足音と思われる金属音だった。
「げっ」
公務員試験予備校で殺されかけた記憶が蘇る。
いくらなんでも、まともに獣機に鉢合わせするのはまずい。
やっぱり逃げよう。そう思い、階段を見る。
上り階段と、下り階段。
この様子だと、まだヒーローは到着していない。
もし獣機が自分の存在に気付いて接近しているのであれば、下に逃げるとまだ避難途中の学生のところまで獣機を誘導してしまう可能性がある。
時間がなさすぎてしっかり考えたわけではないが、ワタルはそう結論付けて階段を上った。
自分の存在が気づかれていませんように。
そう祈ったワタルだったが、無情にも、閉めていた屋上への出入り口の扉が開いた。
おもむろに入ってきた、人型をしたメタルの体。
パッと見は、この前予備校で鉢合わせた獣機によく似ていた。
それが余計に恐怖だった。
獣機が一歩進むと、ワタルも一歩後ずさる。
まだ少し離れてはいたが、恐怖心により、またすぐに尻もちをついてしまった。
しかし獣機は、そこで足を止めた。
「やはりお前か」
意味のわからないことを言われ、ワタルが黙っていると、さらに言葉を続けてきた。
「二十日前、お前に世話になった仲間は、私の部下だ」
「……! やり返しに大学まで来たってわけかよ……」
獣機について総復習を終えた感のあるワタルには、わかる。
彼らの脳の起源は、人間の脳をほぼ『完コピ』したであろう違法人工知能。
その後独自の進化を遂げているとはいえ、復讐の概念は当然あってしかるべきだ。
しかし、ワタルの予想は外れた。
「そうではない」
獣機は続けた。
「私はあのとき部下に対し、先にヒーローのほうにとどめをさすよう指示を出した。だが途中から暴走してしまって指示を聞かなくなってしまったのだ」
「……」
「原因を考察した結果、お前は『死の鍵』を持つ可能性があると判断した。部下を殺されたのは遺憾であるが、お前を持ち帰って研究材料とすることで弔いとなるだろう」
「な、何のことかさっぱりわからないけど、ついていくわけないだろ」
「お前の意思は私の判断に何の影響も与えない」
冷たい声で、接近してくる。
「く、来るな」
どこに連れ去られるのかは知らないが、殺されるより恐ろしいことになる気がした。
何か武器は――。
尻もちをついたまま、必死に周囲を見る。
だが何もない屋上。前回のように椅子など武器になるものすらない。
まずい――。
そう思ったとき
何者かがどこからか飛んできた。
尻もちをついていたワタルの両ひざの下に腕が入れられ、体が抱えられた。
そして宙を飛ぶ。
何が起きたのかわからないくらい速いスピードだった。
「わっ」
獣機から十分に離れた箇所での着地。
そこに運んで立たせてくれたのは、赤色と黒色の密着型特殊戦闘ボディスーツを着用し、電子警棒を右手に持つヒーローだった。
「ワタル! 大丈夫か?」
その一声で、中身がハヤテであることもわかった。
「……僕の名前、覚えてくれてたんだ」
「あったり前よ! 俺、ずっと覚えとくって言っただろ?」
急展開すぎて、思わず状況にふさわしくないことを言ってしまったワタル。
そんなことはお構いなしというように、彼は胸を張ってグーサインを出した。
(続く)
ワタルは大学の食堂で、そう突っ込まれた。
住んでいる一人暮らしのアパートは大学に近い……というよりも大学のすぐ裏。
この大学には同じヒーローが担当するであろうエリアに住んでいる友達も多かったため、彼らからヒーロー出没情報を聞き出そうとすることも増えていた。
「そうだったんだけどね」
一緒に昼食を食べていた三人のゼミ仲間に、ワタルは苦笑を返すしかない。
湧き出てくる興味はいかんともしがたい、といったところだ。
「ちょっといろいろあって、ここにきて興……ん!?」
突然、防災警報の音がした。
広い食堂で、全員の会話と動きが止まる。
『大学事務局です。獣機が接近中です。全校生徒は速やかに避難経路に従い避難してください』
生徒が一斉に立ち上がる。
避難訓練は頻繁におこなわれているため、混乱は起きない。
皆スムーズに、校舎外を目指して流れていった。
一人、ワタルを除いては。
獣機は人型・獣型を問わず、跳躍力が強く登攀能力も高い。飛行可能な個体もある。
そのため、高い階層に直接現れての奇襲が多いとされている。
途中で友人たちと離れたワタルは、食堂のあった大学の建物の地下から、最上階の三階へと移った。
耳に神経を集中する。
しばらくすると、ガラスが割れる音、物が壊れる音が聞こえた。
ヒーローの仕事の邪魔になるのは避けたい。
だから、戦闘終了後でいい。もし来たヒーローが彼なのであれば、一言二言でも会話ができれば――。
そう思って、慎重に現場と思われる方向を目指そうとした。
が、聞こえていた音が一瞬止まると……
ふたたび聞こえてきた音は、ゆっくりとワタルに近づいてきた。
破壊音ではなく、足音と思われる金属音だった。
「げっ」
公務員試験予備校で殺されかけた記憶が蘇る。
いくらなんでも、まともに獣機に鉢合わせするのはまずい。
やっぱり逃げよう。そう思い、階段を見る。
上り階段と、下り階段。
この様子だと、まだヒーローは到着していない。
もし獣機が自分の存在に気付いて接近しているのであれば、下に逃げるとまだ避難途中の学生のところまで獣機を誘導してしまう可能性がある。
時間がなさすぎてしっかり考えたわけではないが、ワタルはそう結論付けて階段を上った。
自分の存在が気づかれていませんように。
そう祈ったワタルだったが、無情にも、閉めていた屋上への出入り口の扉が開いた。
おもむろに入ってきた、人型をしたメタルの体。
パッと見は、この前予備校で鉢合わせた獣機によく似ていた。
それが余計に恐怖だった。
獣機が一歩進むと、ワタルも一歩後ずさる。
まだ少し離れてはいたが、恐怖心により、またすぐに尻もちをついてしまった。
しかし獣機は、そこで足を止めた。
「やはりお前か」
意味のわからないことを言われ、ワタルが黙っていると、さらに言葉を続けてきた。
「二十日前、お前に世話になった仲間は、私の部下だ」
「……! やり返しに大学まで来たってわけかよ……」
獣機について総復習を終えた感のあるワタルには、わかる。
彼らの脳の起源は、人間の脳をほぼ『完コピ』したであろう違法人工知能。
その後独自の進化を遂げているとはいえ、復讐の概念は当然あってしかるべきだ。
しかし、ワタルの予想は外れた。
「そうではない」
獣機は続けた。
「私はあのとき部下に対し、先にヒーローのほうにとどめをさすよう指示を出した。だが途中から暴走してしまって指示を聞かなくなってしまったのだ」
「……」
「原因を考察した結果、お前は『死の鍵』を持つ可能性があると判断した。部下を殺されたのは遺憾であるが、お前を持ち帰って研究材料とすることで弔いとなるだろう」
「な、何のことかさっぱりわからないけど、ついていくわけないだろ」
「お前の意思は私の判断に何の影響も与えない」
冷たい声で、接近してくる。
「く、来るな」
どこに連れ去られるのかは知らないが、殺されるより恐ろしいことになる気がした。
何か武器は――。
尻もちをついたまま、必死に周囲を見る。
だが何もない屋上。前回のように椅子など武器になるものすらない。
まずい――。
そう思ったとき
何者かがどこからか飛んできた。
尻もちをついていたワタルの両ひざの下に腕が入れられ、体が抱えられた。
そして宙を飛ぶ。
何が起きたのかわからないくらい速いスピードだった。
「わっ」
獣機から十分に離れた箇所での着地。
そこに運んで立たせてくれたのは、赤色と黒色の密着型特殊戦闘ボディスーツを着用し、電子警棒を右手に持つヒーローだった。
「ワタル! 大丈夫か?」
その一声で、中身がハヤテであることもわかった。
「……僕の名前、覚えてくれてたんだ」
「あったり前よ! 俺、ずっと覚えとくって言っただろ?」
急展開すぎて、思わず状況にふさわしくないことを言ってしまったワタル。
そんなことはお構いなしというように、彼は胸を張ってグーサインを出した。
(続く)
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