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第1部 終わるかもしれない新生代
第1話
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ビル最上階である八階の窓を破って侵入してきた『獣機』は、人間とほぼ同じ形状をしていた。
その金属の体には人間とほぼ同じ位置に関節が存在しているようで、手も五本指を備えているように見えた。
現在もっとも出現頻度が高いという『人型獣機』である。
ビルの警報機はきちんと作動していた。
街の検知器の電波をきちんと受診し、獣機侵入前にアナウンスを流していた。
八階の公務員試験対策予備校にいた人間をはじめ、一階から七階までのすべての人間が、すでに避難済みだと思われた。
しかし大学三年生の三条ワタルだけは、トイレで”大”のほうをしていたため、避難が少し遅れた。
予備校の教室に荷物を取りに戻ったら、そこで人型獣機と鉢合わせになってしまったのである。
「一人か。自殺願望でもあるのか」
割れている窓、そしてその向こうの夜空を背に、獣機はそう声を発した。
双眼のみの仮面のような顔から発せられた、抑揚の乏しい不気味な声だった。
ワタルは自身の危機感のなさを後悔した。お尻を洗って拭いている場合ではなかった。荷物を取りに行っている場合でもなかった。そのわずかな時間で、逃げるチャンスを逃した。
獣機が腕を伸ばし、構えた。
手の甲の部分が小さく開き、三連装の小さな銃口が出てきた。
照明の反射で鋭く光る。
「願いを叶えてやる」
それが発射される前に、ワタルはダメで元々のつもりで横に跳躍した。
軽快な銃声がした。
賭けは成功し、紙一重で避けていた。
が、跳躍先は机や椅子が並んでいる。
整然と並んでいたそれらをなぎ倒しながら、ワタルは派手に体を打ち付けた。
「ぐ……い、痛……」
倒れ、うずくまる。
昔よりだいぶ軽量化されているというスクール用机と椅子ではあったが、それでも衝撃や痛みで呼吸ができなくなった。
また獣機が手の甲の銃口を向けてきた。
今度はもう飛べない。ワタルは目をつぶった。
……が、自分の意識が途切れないことをワタルは不思議に思い、目を開けた。
獣機は、ワタルを向いていなかった。
「おい! 無事か!?」
教室の入り口方向から、若い男の声。
獣機はそちらを見ていたようだ。
ワタルは声の主のほうを見た。
赤と黒の色で構成された、体への密着度が高そうな特殊戦闘ボディスーツ。
肩、肘、膝など重要な関節部分はシルバーのプロテクターがついている。
ヘルメット部分は頬や口元までガードされるタイプであり、どんな顔をしているのかまではわかりづらい。
手には電子警棒を持っていた。
「な、なんとか」
ワタルは返事をした。発生の際にまたズキンと痛みが走った。
現れた彼は、国土交通省の外局・対獣機保安庁から業務委託されている対獣機戦闘担当員。いわゆるヒーローの一人で、きっとこのエリアを担当している人だ――
格好からすぐにそれがわかったワタルは、どうやら助かりそうだと判断し、避難しようとした。
が、痛みがまだ続いており、立ち上がれず。
仕方なく、重度のギックリ腰患者のように体を転がせたりくねらせたりで、教卓の方向を目指した。
むかし叱られた生徒が座席から教師を射殺する事件が起こり、現在でも学校や塾などで使われる教卓は銃弾に耐えられるものが多いということを、ワタルはどこかで聞いたことがあったからだ。
チラリと、ヒーローのほうを見る。
電子警棒を構えて、間合いをはかっていた。
「獣機の好きにはさせないぜ」
彼はそう言うと、突進していった。
(続く)
その金属の体には人間とほぼ同じ位置に関節が存在しているようで、手も五本指を備えているように見えた。
現在もっとも出現頻度が高いという『人型獣機』である。
ビルの警報機はきちんと作動していた。
街の検知器の電波をきちんと受診し、獣機侵入前にアナウンスを流していた。
八階の公務員試験対策予備校にいた人間をはじめ、一階から七階までのすべての人間が、すでに避難済みだと思われた。
しかし大学三年生の三条ワタルだけは、トイレで”大”のほうをしていたため、避難が少し遅れた。
予備校の教室に荷物を取りに戻ったら、そこで人型獣機と鉢合わせになってしまったのである。
「一人か。自殺願望でもあるのか」
割れている窓、そしてその向こうの夜空を背に、獣機はそう声を発した。
双眼のみの仮面のような顔から発せられた、抑揚の乏しい不気味な声だった。
ワタルは自身の危機感のなさを後悔した。お尻を洗って拭いている場合ではなかった。荷物を取りに行っている場合でもなかった。そのわずかな時間で、逃げるチャンスを逃した。
獣機が腕を伸ばし、構えた。
手の甲の部分が小さく開き、三連装の小さな銃口が出てきた。
照明の反射で鋭く光る。
「願いを叶えてやる」
それが発射される前に、ワタルはダメで元々のつもりで横に跳躍した。
軽快な銃声がした。
賭けは成功し、紙一重で避けていた。
が、跳躍先は机や椅子が並んでいる。
整然と並んでいたそれらをなぎ倒しながら、ワタルは派手に体を打ち付けた。
「ぐ……い、痛……」
倒れ、うずくまる。
昔よりだいぶ軽量化されているというスクール用机と椅子ではあったが、それでも衝撃や痛みで呼吸ができなくなった。
また獣機が手の甲の銃口を向けてきた。
今度はもう飛べない。ワタルは目をつぶった。
……が、自分の意識が途切れないことをワタルは不思議に思い、目を開けた。
獣機は、ワタルを向いていなかった。
「おい! 無事か!?」
教室の入り口方向から、若い男の声。
獣機はそちらを見ていたようだ。
ワタルは声の主のほうを見た。
赤と黒の色で構成された、体への密着度が高そうな特殊戦闘ボディスーツ。
肩、肘、膝など重要な関節部分はシルバーのプロテクターがついている。
ヘルメット部分は頬や口元までガードされるタイプであり、どんな顔をしているのかまではわかりづらい。
手には電子警棒を持っていた。
「な、なんとか」
ワタルは返事をした。発生の際にまたズキンと痛みが走った。
現れた彼は、国土交通省の外局・対獣機保安庁から業務委託されている対獣機戦闘担当員。いわゆるヒーローの一人で、きっとこのエリアを担当している人だ――
格好からすぐにそれがわかったワタルは、どうやら助かりそうだと判断し、避難しようとした。
が、痛みがまだ続いており、立ち上がれず。
仕方なく、重度のギックリ腰患者のように体を転がせたりくねらせたりで、教卓の方向を目指した。
むかし叱られた生徒が座席から教師を射殺する事件が起こり、現在でも学校や塾などで使われる教卓は銃弾に耐えられるものが多いということを、ワタルはどこかで聞いたことがあったからだ。
チラリと、ヒーローのほうを見る。
電子警棒を構えて、間合いをはかっていた。
「獣機の好きにはさせないぜ」
彼はそう言うと、突進していった。
(続く)
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