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第4話
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小学校からの付き合いである友人・陸斗は、漫画や小説を読むことが好きだ。
でも最近はビジネス書も読んでいるようだ。
「陸斗」
「んー?」
僕はアパートの部屋で、座椅子に長座をして、録画していたドキュメンタリー番組を見ている。
そして自分の股間に……ではなく、股間を枕にしてビジネス書を読んでいる陸斗に対し、話しかけた。
この部屋は、会社が独身寮として借り上げているアパートの一室。そこまで広くはない。
和室とキッチンの、シンプルな1K。
「お前、疲れてないの?」
「んー、ちょっと疲れてたかな」
「ちょっとどころじゃないんじゃないの? きのう久しぶりに日本に帰ってきたばかりなんでしょ?」
「まあねー」
今年の四月に、僕たちは新社会人となった。
彼は東証一部上場の超有名商社に就職した。
入社一年目なのに、海外に出張していたらしい。
有名大学を主席で卒業。英語にも堪能。ハイスペック新入社員ということで、会社も期待して早いうちから現場を見せようとしたのだろう。
一方、僕は東京の印刷会社に就職した。
あまり大きな会社ではないが、残業代もくれるし休日もきちんとある。先輩や上司も親切で、よいところに入ったとは思っている。
「でさ、陸斗」
「んー?」
「そのビジネス書、面白い? 新入社員研修のときに読めって言われて買った本のなかの一つだけど。結局読んでないままなんだよね」
股間の彼に、聞く。
「まあ、勉強にはなる、かな」
「それ、よかったらあげるよ。どうせ僕は読まないだろうし」
「んー、いいや。また来週来るから」
「まーたそっちの会社の社員寮から一時間かけて来るんだ。大丈夫なの? しんどくないの?」
「んー……大丈夫」
彼が二回ほど目を指でこする。
頭が少し揺れるので股間に響いて困る。
「つーかさ。社会人にもなって人の股間を枕にしてるのって、まずくないか?」
「んー……」
彼が本にしおりを挟み、横に置く。
そして体を少し転がして仰向けになると、手足をギューッと伸ばしてストレッチ。
さらに頭を少し揺らして後頭部を僕の股間に沈ませると、そのまま目を閉じた。
少し休むのだろう。
特にキメずに自然にしている彼の髪は、相変わらずサラサラ。窓からカーテン越しに入る陽で、きれいに光っている。学生のころと変わらない。
脱力しきって目をつぶった顔も、やはり幼く見える。
彼の勤務先である商社のホームページには、入社式の写真がアップされていた。
そこで新入社員代表としてあいさつする彼の姿があったが、その写真では髪も顔もしっかりキマっていた。
いま股間にいる彼とは別人のようだった。
オンとオフでの切り替えが上手だと評価するべきなのだろうか。
しかし……一部上場企業の期待の新人が、人の股間を枕にして本を読み、そして寝ようとしているとは。
正直いかがなものか。
「んー……またチンポ勃ってるな」
「だからお前がそこで動くからだよ」
(続く)
でも最近はビジネス書も読んでいるようだ。
「陸斗」
「んー?」
僕はアパートの部屋で、座椅子に長座をして、録画していたドキュメンタリー番組を見ている。
そして自分の股間に……ではなく、股間を枕にしてビジネス書を読んでいる陸斗に対し、話しかけた。
この部屋は、会社が独身寮として借り上げているアパートの一室。そこまで広くはない。
和室とキッチンの、シンプルな1K。
「お前、疲れてないの?」
「んー、ちょっと疲れてたかな」
「ちょっとどころじゃないんじゃないの? きのう久しぶりに日本に帰ってきたばかりなんでしょ?」
「まあねー」
今年の四月に、僕たちは新社会人となった。
彼は東証一部上場の超有名商社に就職した。
入社一年目なのに、海外に出張していたらしい。
有名大学を主席で卒業。英語にも堪能。ハイスペック新入社員ということで、会社も期待して早いうちから現場を見せようとしたのだろう。
一方、僕は東京の印刷会社に就職した。
あまり大きな会社ではないが、残業代もくれるし休日もきちんとある。先輩や上司も親切で、よいところに入ったとは思っている。
「でさ、陸斗」
「んー?」
「そのビジネス書、面白い? 新入社員研修のときに読めって言われて買った本のなかの一つだけど。結局読んでないままなんだよね」
股間の彼に、聞く。
「まあ、勉強にはなる、かな」
「それ、よかったらあげるよ。どうせ僕は読まないだろうし」
「んー、いいや。また来週来るから」
「まーたそっちの会社の社員寮から一時間かけて来るんだ。大丈夫なの? しんどくないの?」
「んー……大丈夫」
彼が二回ほど目を指でこする。
頭が少し揺れるので股間に響いて困る。
「つーかさ。社会人にもなって人の股間を枕にしてるのって、まずくないか?」
「んー……」
彼が本にしおりを挟み、横に置く。
そして体を少し転がして仰向けになると、手足をギューッと伸ばしてストレッチ。
さらに頭を少し揺らして後頭部を僕の股間に沈ませると、そのまま目を閉じた。
少し休むのだろう。
特にキメずに自然にしている彼の髪は、相変わらずサラサラ。窓からカーテン越しに入る陽で、きれいに光っている。学生のころと変わらない。
脱力しきって目をつぶった顔も、やはり幼く見える。
彼の勤務先である商社のホームページには、入社式の写真がアップされていた。
そこで新入社員代表としてあいさつする彼の姿があったが、その写真では髪も顔もしっかりキマっていた。
いま股間にいる彼とは別人のようだった。
オンとオフでの切り替えが上手だと評価するべきなのだろうか。
しかし……一部上場企業の期待の新人が、人の股間を枕にして本を読み、そして寝ようとしているとは。
正直いかがなものか。
「んー……またチンポ勃ってるな」
「だからお前がそこで動くからだよ」
(続く)
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