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第10話
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勇者様がこの町を離れ、次の町に向かう。
その知らせを聞きつけた町の人間たちが、石畳の道の両脇に大勢集まってきていた。
道の中央には、勇者。
その横には小さくまとめた荷物を背負ったエルが立っている。
「勇者様、本当によろしいのですか? さすがにご迷惑では」
二人の正面でそう言うのは、町を代表して見送りに来た町長。
他にも幼年学校の校長や、孤児院の院長、商会の会長なども来ているが、全員が町長と同じ表情をしていた。
「僕からお願いしたいのです。ぜひエルくんと一緒にこの先の旅をさせてください」
「そ、そうですか……。それはもちろんわたくしどもとしてはまったく構わないのですが……」
エルは勇者と目を合わせ、微笑み合う。
「んじゃ行ってくるよ。町長さんたち、今まで迷惑かけて悪かったな」
「えっ!?」
「何? 勇者さん」
「エルくんが頭を下げているのを、初めて見た」
「余計なこと言うな。でもそんなに驚いてる顔は初めて見たし面白いから、まあ許す」
困惑の色を隠せない町の関係者たちに別れの挨拶をすると、二人は町の出口を目指し、歩き出した。
「オレ、町の人に『何でお前が勇者様の横を』って感じで見られてるな」
勇者と一緒に道を歩きながら、エルは面白そうに言った。
「なるほど。じゃあ、そう見られないようにしようかな」
勇者が足を止める。エルもつられて立ち止まった。
「ん、どうやって……って、わっ」
かがんだ勇者の頭が、エルの股に差し込まれた。
軽々と持ち上げ、肩車にした状態でまた歩き出す。
「横じゃなくて上ってことか。今度はめちゃくちゃ子ども扱いに見えてそうだな」
「ごめんごめん。降ろしたほうがいいかい?」
「いや、気持ちいいんで降ろさなくていい」
「ではこのままで行こう」
「よろしくな。ああ、でも……」
「でも?」
「……疲れたら、ちゃんと言えよ?」
エルがそう言って笑うと、勇者も笑った。
(終わり)
その知らせを聞きつけた町の人間たちが、石畳の道の両脇に大勢集まってきていた。
道の中央には、勇者。
その横には小さくまとめた荷物を背負ったエルが立っている。
「勇者様、本当によろしいのですか? さすがにご迷惑では」
二人の正面でそう言うのは、町を代表して見送りに来た町長。
他にも幼年学校の校長や、孤児院の院長、商会の会長なども来ているが、全員が町長と同じ表情をしていた。
「僕からお願いしたいのです。ぜひエルくんと一緒にこの先の旅をさせてください」
「そ、そうですか……。それはもちろんわたくしどもとしてはまったく構わないのですが……」
エルは勇者と目を合わせ、微笑み合う。
「んじゃ行ってくるよ。町長さんたち、今まで迷惑かけて悪かったな」
「えっ!?」
「何? 勇者さん」
「エルくんが頭を下げているのを、初めて見た」
「余計なこと言うな。でもそんなに驚いてる顔は初めて見たし面白いから、まあ許す」
困惑の色を隠せない町の関係者たちに別れの挨拶をすると、二人は町の出口を目指し、歩き出した。
「オレ、町の人に『何でお前が勇者様の横を』って感じで見られてるな」
勇者と一緒に道を歩きながら、エルは面白そうに言った。
「なるほど。じゃあ、そう見られないようにしようかな」
勇者が足を止める。エルもつられて立ち止まった。
「ん、どうやって……って、わっ」
かがんだ勇者の頭が、エルの股に差し込まれた。
軽々と持ち上げ、肩車にした状態でまた歩き出す。
「横じゃなくて上ってことか。今度はめちゃくちゃ子ども扱いに見えてそうだな」
「ごめんごめん。降ろしたほうがいいかい?」
「いや、気持ちいいんで降ろさなくていい」
「ではこのままで行こう」
「よろしくな。ああ、でも……」
「でも?」
「……疲れたら、ちゃんと言えよ?」
エルがそう言って笑うと、勇者も笑った。
(終わり)
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ありがとうございます!
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とても・・・とても好きです・・・(語彙力皆無)
ありがとうございます!