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第9話

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 前に、エルくんは僕に『どうしていつも一人なの?』って聞いていたよね? あれはさ、魔王討伐が終わって帰国したら、国から討伐のパーティを解散するようにというお達しがあったからなんだ。同じメンバーでの再結成も禁止ということになった。

 その理由は、魔王討伐パーティは魔王軍より強いんだろうという誤解が広まってしまって、怖がってしまう人が出てきてしまっていたから――らしい。

 そういう噂が流れるのは仕方ない部分もあるから、誰のせいでもないと思う。でもガックリは来たよ。僕はパーティのみんなと以前のような冒険者生活を続けられると思っていたから。
 え? 新しくメンバーを募集すればよかったんじゃないかって? 最初はそうするつもりでいたよ。けれども僕と組んでくれる人はいなかった。それもすごく凹んだなあ。

 あと魔王討伐の旅の途中から、寝るときに悪夢を見るようになって、それがどんどん悪化してきた。
 原因? 魔王軍の魔族は魔獣と違って言葉を話すから、痛いとか、死ぬのは嫌だとか、殺さないでくれとか、やめてくれとか、そんなことを致命傷を与えた後で叫ばれることも多くて。それが焼き付いてしまって、寝ているときに出てきてしまっているみたいだ。

 薬草の飲みすぎで副作用がなかなか消えてくれないのもしんどいね。あのころは戦いばっかりで、痛みを紛らわせる薬草や、気分が高揚する薬草をよく使っていた。あまり使いすぎるなって言われていたけれども、使わないとキツいことも多くてさ。頭がボーっとしたり突然痛くなったり、耳がいきなり聞こえづらくなったり、めまいがしたり、なんだかいろいろな症状が出ているみたい。

 剣士としてはもう難しいかなと思って、城で働かせてもらえないかと頼んでみたのだけれども、それも世界を救った勇者に城で働かせるのはおそれ多いという理由で断られた。
 ん? 本当にそれが理由なのかって? パーティ解散も、城に置いてもらえないのも、陛下や高官が地位をまくられると思ってビビったからだろう? ……んー、僕はそんなことはないと思うけどね?

 まあそういうことで、一人で細々と冒険者業を続けてきていたけれども、やはりちょっと無理があったかなあ、という感じだね。

 別に食うに困るとか、そんなことはないけど。なんだか少し疲れてしまったよ。
 この世界はもういいのかな、と思うようになった。もう守るべきものもないわけだし、さようならしても別に問題ないかな、ってね。



「どう? だいたいきみの想像どおりかな」

 毒蔦による手足の運動麻痺で身振り手振りができないからそう見えるのかもしれないが、淡々と、勇者は語った。
 すでに痛々しさすら感じる彼の笑顔を見て、もちろんエルは一緒に笑う気になどなれない。

「まー、だいたい想像どおりの内容……なわけねえだろ。想像の五倍くらいはひでえよ」

 エルにとって、話の内容は寒気すら覚えた。
 世界を救ったであろう人間にこんなこと、いやこんな仕打ちがあってよいのだろうか、と。
 しかも、そのことを誰も知らない。そんなことがあってよいのだろうか、と。

 なぜこの状況を訴えない? エルはそう思った。
 でもそうしない理由は、彼の『この世界はもういい』という一言にも現れているかもしれない。そんな気もした。

 エルは『この世界』などというものを意識したことが一度もない。他の人間もそうだろう。
 彼はあまりに大きすぎる仕事、あまりに大きすぎる自己犠牲をやってのけたため、感覚が普通の人間と違ってしまっているのではないか。

 悪い意味で、執着や欲がなくなっている。
 知り合ったときから違和感はあった。何をやられても怒らない、怒鳴らない。唯一エルが聞いた勇者の怒声は、こちらの身を心配して怒った……いや怒ってくれたという、先ほどの一件のみ。

 おそらく『自身に不利益が生じる』という理由では、怒ったり腹を立てたりすることがないのだろう。
 だから、理不尽な環境に身を置くことになっても解決しようと思わない。ただがっかりする、ただしんどいと思うだけなのだ。

 そして生きるのに疲れてしまっても、生きることを終わらせれば良いと考えるだけ。
 自分の死すらも特別なことではなく、誰にも迷惑をかけずに世界と決別する方法としか思っていない可能性もある。

 これはヤバい――とエルは思った。

「勇者さん、あんたやっぱり誰かと一緒にいるべきだろ。誰かと一緒にいれば、『この世界はもういい』なんて考えることはなくなると思うぜ」

 とりあえず言えることは、今の勇者は一人では生きていけないだろうということ。
 話を聞き、その結論に達するのは容易だった。

 だが、勇者はため息で返した。

「難しいだろうな。もうこの世界には、離れて僕に手を振ってくれる人はいても、僕に近づいてきてくれる人は――」
「あのなぁ……」

 エルは勇者の言葉をさえぎった。
 まだ四肢に力が入らないであろう彼のズボンと下着を、ふたたび、今度は少々乱暴に降ろした。
 勇者の足を広げ、中に入り込み、顔を近づける。

「何だい」
「見りゃわかるだろ。チンコ舐めるんだよ」
「え――」
「やったことないから下手だろうけど、我慢しろよ?」

 そういうとエルは、彼の陰茎を口に含んだ。



 歯を立てないよう気を付けはしたが、顔と舌の動きはやや乱暴だったかもしれない。
 それでも、勇者の陰茎は口の中ですぐに大きくなった。

「……ぅ……」

 漏れた声が耳に入ると、エルは舐めながらチラリと彼を見上げた。
 顔が上がり、首が左右に揺れている。

「ぅ……ぁっ……」

 エルの頭に彼の両手が乗った。離そうとする動きだった。
 だが毒蔦による運動感覚の麻痺がまだ残っており、まったく力が入っていない。
 エルはその手をのけて、続ける。

「ぁぁ……ぁ、も、もう……」

 そろそろか――と思ったエルは、さらに動きを速めた。

「あ、顔を離っ、ぁっ、うぁっ、うぁぁあっ――」

 あえぐ声とともに、彼の陰茎が強く脈打つ。
 口蓋に、勢いよく発射された温かい液体を感じた。

 エルはすぐに少し離れ、せき込む。

「おえっ、まずっ……こんな味がするのか……」

 水筒の水で口をゆすぐと、エルはまた勇者に近づき、立ったまま言った。

「フン、どうだ? オレは勇者さんに近づくし、触るし、舐めるぞ。たぶん何でもできる」
「……」

 呆気に取られている彼に対し、エルは続けた。

「勇者さん、オレを連れてけ。オレがパーティ組んでやる」
「ええ!?」

 彼が驚く。

「いや、気持ちはありがたいけど。でもまだ冒険者登録したばかりの子どもだと、僕が任せてもらえるような仕事は危ないよ」
「勇者さんはオレを舐めすぎ。幼年学校時代に成績が優秀で、性格が悪い以外は完璧な生徒だった奴が付いてきてくれるんだ。黙って喜んどけ」

「でも、きみに何かあったら――」
「何かないように守ってくれればいい。あんたはたぶん守るもんがあったほうがいいんだ。それにあんた、この国を、この世界を、守ったんだろ? ならオレ一人くらい何とかなるだろ。もし守り切れなくてオレに何かあったら泣いとけ。大泣きでもすれば許してやる。
 あと、この前宿屋でオレとくっついて寝たたとき、あんたはうなされる声も震えも止まってぐっすり寝てた。次の日に調子いいって言ってたよな? だからこれからはオレが夜一緒に寝てやる。パーティメンバーなら同じ部屋に泊まっても不自然じゃないし、誰も邪魔はしないだろ。嫌だと言ってもベッドにもぐりこんでやるぞ。これは決まりだ。いいな?」



(続く)
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