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第7話
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「……ん……んん? あれ? どうしてエルくんが?」
「あ、やっと起きたか勇者さん。もう朝だぞ」
目を開いた勇者は、目の前にエルの顔があることを確認すると、すぐに上下左右の景色を確認した。
ベッドの上、自分は裸、掛け布団がない、腕の中にはエルーー。
経緯がわかっていないであろう勇者は、現状を認識すると苦笑いして頭をかいた。
「これは……もしかして僕、何かきみにしでかしてしまったかな?」
そんなことを言うので、エルの苦笑にも拍車がかかる。
「してない。オレ服着てるだろ」
「あ、そうだね」
「したのはオレのほうだよ。勇者さんのチンコしごいてイかせてやったぜ」
「え? そうなんだ?」
「ああ。証拠はあのくずかごの中にあるから後で見とけ」
くずかごを指したあと意地の悪い笑いを送ったが、勇者はそれには乗ってこなかった。
「そうか、そういうことだったのか……納得」
「納得って、どういうことだよ」
「いや、何でもないよ。僕からは何もしてないということでいいんだね?」
「だからそう言ってるだろ」
「そうか、よかった」
エルの金髪に勇者の手がのびる。くしゃくしゃとかき回された。
優しい圧でも隠し切れない、歴戦の勇者の手の硬さ。それを感じながら、エルはため息を返した。
「勇者さん、最初だいぶうなされてたぞ」
「んー、まあ、悪夢を見ることはあるよ。でも起きてしまうことはないから大丈夫」
「……起きられない悪夢って最悪じゃないか?」
悪夢がいつまでも終わらないってことだよな? とエルは思う。
勇者は少し驚いたような顔をした。
「そう言われればそうか。心配させる言い方をして悪かったね」
「別に心配したわけじゃねえよ。あと、そろそろオレの体を離そうな。起きてからもコレだと何もしてないって言えなくなるぞ」
「お、ごめん」
思い出したように腕を外して、彼がエルの体を解放する。
「もしかして、エルくん。ずっとここから出られなかったのかな」
「そのとおり」
「そうか。申し訳ない」
「被害者に謝られてもなあ。つーかさぁ、こんなにされても怒らない取り乱さないって、あんたホント異常だよ」
エルがベッドから降りると、勇者も続いた。
「うん。今日は少し調子がいいな」
そして彼は服を着ると、笑顔でそう言った。
「あっそ」
エルのほうは、口ではそう答えた。
内心では、確かに笑顔が少しいつもと違うかもしれない、と思った。
ギャフンと言わせたくなる平面的な感じが消えているような、そんな気がした。
そして、今日”は”とは……? という疑問を持った。
◇
エルは宿屋を出入り禁止になった。
成り行きで朝まで勇者の部屋にいたため、帰る際にバレてしまったらしい。
やはり問題になってしまい、
「勇者様に失礼があってはならない」
という町長の指示で、宿屋に見張りが付くようになった。
結局夜討ちは一日しか成功しなかったことになる。
勇者様がまた出かけるらしい――。
その情報をつかんだエルは、町の出入り口近くで勇者を待ち伏せした。
時間が早いので町の人はほとんどいないと思われたが、念のために大きな帽子を深くかぶり、顔がわかりづらいようにした。
剣と盾、そして荷物袋を背負った勇者に、後ろから近づき……
……かわされなかった。
手のひらに、ムニュっとした勇者の股間の感触。
「お?」
勇者が振り向く。
意外な結果だったため、エルは持続的に揉むのを忘れ、股間から手が離れた。
「あ、エルくんか。おはよう」
「おはよう……って、オレに気づかなかったのか?」
「きみが気配を消すのが上手くなったのかもしれないな。物事には慣れというものがあるから。で、何か用なのかい?」
「仕事に行くんだろ? 景気づけにまた触ってやろうと思ってな。だからいま用は済んだ」
「あはは。相変わらずだね」
「で、勇者さん。また一人なわけ?」
「まあね」
「へえ。じゃあ後を付けていって、魔獣と戦っているときに後ろから勇者さんを襲おうかな」
「それは絶対にだめだよ。きみの身があぶないからね」
勇者は笑顔だった。
その笑顔はあの宿屋での朝に見たものとは異なり、元の、作りもの的な感じに戻った気がした。
「あ、やっと起きたか勇者さん。もう朝だぞ」
目を開いた勇者は、目の前にエルの顔があることを確認すると、すぐに上下左右の景色を確認した。
ベッドの上、自分は裸、掛け布団がない、腕の中にはエルーー。
経緯がわかっていないであろう勇者は、現状を認識すると苦笑いして頭をかいた。
「これは……もしかして僕、何かきみにしでかしてしまったかな?」
そんなことを言うので、エルの苦笑にも拍車がかかる。
「してない。オレ服着てるだろ」
「あ、そうだね」
「したのはオレのほうだよ。勇者さんのチンコしごいてイかせてやったぜ」
「え? そうなんだ?」
「ああ。証拠はあのくずかごの中にあるから後で見とけ」
くずかごを指したあと意地の悪い笑いを送ったが、勇者はそれには乗ってこなかった。
「そうか、そういうことだったのか……納得」
「納得って、どういうことだよ」
「いや、何でもないよ。僕からは何もしてないということでいいんだね?」
「だからそう言ってるだろ」
「そうか、よかった」
エルの金髪に勇者の手がのびる。くしゃくしゃとかき回された。
優しい圧でも隠し切れない、歴戦の勇者の手の硬さ。それを感じながら、エルはため息を返した。
「勇者さん、最初だいぶうなされてたぞ」
「んー、まあ、悪夢を見ることはあるよ。でも起きてしまうことはないから大丈夫」
「……起きられない悪夢って最悪じゃないか?」
悪夢がいつまでも終わらないってことだよな? とエルは思う。
勇者は少し驚いたような顔をした。
「そう言われればそうか。心配させる言い方をして悪かったね」
「別に心配したわけじゃねえよ。あと、そろそろオレの体を離そうな。起きてからもコレだと何もしてないって言えなくなるぞ」
「お、ごめん」
思い出したように腕を外して、彼がエルの体を解放する。
「もしかして、エルくん。ずっとここから出られなかったのかな」
「そのとおり」
「そうか。申し訳ない」
「被害者に謝られてもなあ。つーかさぁ、こんなにされても怒らない取り乱さないって、あんたホント異常だよ」
エルがベッドから降りると、勇者も続いた。
「うん。今日は少し調子がいいな」
そして彼は服を着ると、笑顔でそう言った。
「あっそ」
エルのほうは、口ではそう答えた。
内心では、確かに笑顔が少しいつもと違うかもしれない、と思った。
ギャフンと言わせたくなる平面的な感じが消えているような、そんな気がした。
そして、今日”は”とは……? という疑問を持った。
◇
エルは宿屋を出入り禁止になった。
成り行きで朝まで勇者の部屋にいたため、帰る際にバレてしまったらしい。
やはり問題になってしまい、
「勇者様に失礼があってはならない」
という町長の指示で、宿屋に見張りが付くようになった。
結局夜討ちは一日しか成功しなかったことになる。
勇者様がまた出かけるらしい――。
その情報をつかんだエルは、町の出入り口近くで勇者を待ち伏せした。
時間が早いので町の人はほとんどいないと思われたが、念のために大きな帽子を深くかぶり、顔がわかりづらいようにした。
剣と盾、そして荷物袋を背負った勇者に、後ろから近づき……
……かわされなかった。
手のひらに、ムニュっとした勇者の股間の感触。
「お?」
勇者が振り向く。
意外な結果だったため、エルは持続的に揉むのを忘れ、股間から手が離れた。
「あ、エルくんか。おはよう」
「おはよう……って、オレに気づかなかったのか?」
「きみが気配を消すのが上手くなったのかもしれないな。物事には慣れというものがあるから。で、何か用なのかい?」
「仕事に行くんだろ? 景気づけにまた触ってやろうと思ってな。だからいま用は済んだ」
「あはは。相変わらずだね」
「で、勇者さん。また一人なわけ?」
「まあね」
「へえ。じゃあ後を付けていって、魔獣と戦っているときに後ろから勇者さんを襲おうかな」
「それは絶対にだめだよ。きみの身があぶないからね」
勇者は笑顔だった。
その笑顔はあの宿屋での朝に見たものとは異なり、元の、作りもの的な感じに戻った気がした。
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