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第四章 目覚める才能
第5話 白い影、黒い光
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「おっ?」
アルを倒し、また森の散歩をしていると、ツタやコケにおおわれた丸太のコテージを見つけた。キャンプ場のものとして建てられたのかな。さっそく中に入ってみよう!・・・・・ドアノブが閉まってなければ。
「おっじゃまっしまーす」
リズミカルに階段を上り、ドアの手すりを握る。開いてる。さびて閉まらなくなっちゃったのね、きっと。
ガチャ。汚れているはいるけれど、衣食住、最低限の生活はできそうだった。完全にダメってわけではなさそう。茶色を基調とした内装は、もしこの森が晴れていたら、映える仕様になっている。陽の光に当たって、自然をたんのうする。いいロケーションだ!今それが出来ないのはホント残念!プライベートで来ていいなら、今度はお客さんになろうっと。
いけない。インテリアの説明をしないと。ってそれほどキレイじゃないけどね。
テレビやエアコン、電気はほこりを被り、壁や床はくさっている。換気せんやせん風機を回そうとしても、イヤな音がするだけで動かなかった。冷蔵庫や食洗機には何もなく、誰かが使い終わった後が保たれていた。んーこれだけじゃあ、まだ分かんない。ボスの意図を読まないと。
最初から気になっていたロフトに上がり、見学。きれいにたたまれた布団だけがすみっこにあった。
「収穫なしかー」
そう言ってハシゴを降り、まだ新しめのじゅうたんをふむ。でもガビョー的な気になるものはない。
「おじゃましましたー」
最後には振り返りもせずにあっけなくコテージを出たのだった。
さて。こちらは千代が出ていった後のコテージの様子である。
彼女が十分、ログハウスから離れた後、一匹の狐が壁をすり抜けて中へ入っていく。そして先ほど彼女がちらりと見た新しい絨毯に、狐は自分の鼻をつける。匂いを嗅いでいるのだ。
「やっぱりあの子ね」
顔を上げながら彼女は言った。
白い毛とふさふさした尻尾をもち、頬には人魂の形をしたフェイスペイントがされている。赤いスカーフを巻き、狛犬のような姿だ。厳密に言うと狛犬なのだが、神社といえばお稲荷さんという謎の思い込みによるイメージから生まれたから、狐に似てなくもない。ちなみに前述のイメージを、彼女は消極的に受け止めている。本当はもっと強い動物が良かったとのこと。
「どっちに行ったの?」
誰にともなく彼女は扉に向かって言う。すると。千代が辿った道は光となって、路上に反映される。彼女の魔力によるものだ。
「まずいわ。あっちはアタシの祠・・・・・・。急がないと」
狐は精一杯の速さで、光を追っていった。
残り1時間と15分。ほぼゼロと言っていいくらい突っかかるものがない。・・・・・・ん?でも、最初に見たオフィスの健全ぶりは、ちょいと気になる。地震や火事でもあったら、木でできているから、すぐにこわれたり燃えたりするはずだ。なのにあそこは、本当にキレイな状態で残っている。怪魔がひょっこり現れて、おそわれた?いや。物を破かいせずに人をおそえるはずがない。
だとしたら。アレは一体何だ?
マジで分からん。
それに・・・・・。
「おんなじとこずーっと歩いてる気がする・・・・」
キツネにつままれるって、こういうこと?さっきもこの大きな木見たことある。・・・・・カン違い?別の種類だとか?いやいやいや、私、自称・材木鑑定団(何だそれって自分でツッコむ)の団長よ?(たった今考えた)木を見る目は良いんだから!
ってふざけてる場合じゃないね。ゴメンナサイ。でも目が良いのは本当。葉っぱを見れば、オスメスの区別ができたり似ていてそうじゃない植物の見分けを出来るのが、ちょっとした特技かな。あんま役に立たんと思うけど。とはいえここで鑑定wなんかしてたら、絶対時間食う。今ここではしない。
にしても、ボスを突き止めるなんてちょっとミステリー感があるなあ。見た目は子どもの天才高校生は、めちゃくちゃ殺人事件に出くわしている。そうぐうし過ぎて気の毒になるくらい。そんな彼になりきって推理する・・・・。ワクワクするが、今の私にはそれが出来るのか?
だって、理科以外成績悪い私が頭いいはずないもん。まあ逆を言えば、理科だけは中学の進級お祝いテストで100点取ってるから文句なしってわけ。でも、これだけじゃあねえ・・・・・・。なーんか心もとないつーか、何だろ?
つまり、要は・・・・。・・・・ごめん。自分でも言葉を整理できない。というか・・・・。
「何?この頭痛。思考が止まりそうなくらいしめつけられてる気がする・・・・・」
!脳内にイナズマみたいなのが走って______
「んんっ、ああぁぁぁああああぁぁ!!!」
いっったあっっ!!ヤバい、ほんっとにヤバい。頭を地面に打ち付けるよりも、ずっと痛い。
「んん~~~、ううんん・・・・・、ああっ・・・・」
・・・・ちょっと良くなった?ツラいなあ。どうしてこんな頭痛が・・・・・・。
「もしかして、何かの術?」
そういう攻撃方法だってありえるかもしれない。ただ確証がないから、何とも言えんのだけど。こうしてみると、確証が欲しい場面がたくさんある。言い切れないのがもどかしい。ただその原因が、手がかりが断片的であることだ。ひとつのことがあったとして、それが別の出来事と必ずつながるとは限らない。そして今は、『限らない』の場面である。だから、ここまでのことをまとめたって・・・・。
え、書いてみろ?まあ一応メモもペンもあるけど、何するの?・・・・ああ、箇条書きってヤツか。ふーん、結果は分かんないけど、とりあえずやってみようかな。
分かったこと、気づいたことを書くのね。・・・・・こんな感じ?
・もとはキャンプ場だった
・受付がまだキレイ、外観が荒れている
・企画制作の途中だった
・コテージは普通、一番被害が少ない
・職員室の床にグラス、割れていた
・人影はない、死体も見つからない
・駐車場も空、襲われた可能性はなさそう?
7つ書けた。これを見て、関連性のあるものとないものを消す。
受付で見たものでまとめてみよう。
・まだキレイ、外観が荒れている
・床にグラス、割れていた
・企画制作の途中だった
・人影はない
こうして見てみると、あの施設だけで多くの情報を得ていた。要するに、そこが今回のキースポットとなっている。怪魔は自分に縁のある場所に身を寄せたがる性格らしい。
そもそもなぜこうして推理をするのか?それすら疑問に思えてくる。確かにやみくもに歩いても非効率だし、時間のムダになるから、真相を探って一気に追いつめた方がいいのかもしれない。でも、考えている時間が、一番のムダにもならないか?人間の世界でも同じような問題が討論され、答えが出ていないからこの世界でも反映されているんだろう。
その時私の頭の中で、一つの仮定が生まれた。
それを説明するために、ここで怪魔について補足をしよう。これが私達が推理をする大きな理由になっている。そして自分の意見を話す大前提にもなる。
怪魔は、人間の悪の感情から生まれた、いわゆる思念体だ。人が強い感情を持つと、その近くで怪魔が繁殖する。そして生みの人間の元から離れ、罪のない他人の心に入り、入った人を操って悪事を働く。種類は様々だ。強盗、ひぼう中傷、ゆうかい、さらには殺害だってやる。意識は怪魔に乗っ取られる。事件中、体の持ち主は気を失っているという扱いになる。警察にバレて捕まった時、怪魔は体から抜け出し、また別の人を見つける。これを繰り返すことでいわゆる経験が積み重なり、やがて人間の体の形を覚える。すると今度は自ら変形して、人に似せようとする。そして自分の心のままに周囲を荒らす。それもまた何回かやると、知能がつき、完全な怪魔に進化する。
理想としては最初の段階で怪魔を全滅させたいんだけど、幻魔側のネットワークより敵の行動が速いらしい。追いついてないみたい。おまけに何が起こるか分からない(と言われている)この時代、悪い感情に飲まれる人が多いようで、次から次へと新たな怪魔が発見されている。幻魔協会は人手が欲しすぎて、子供にも求人募集を始めたそうな。私達もまだ子供だけど。
さて話を戻そう。さっき強い感情って言ったね。これ、一人の人の気持ちが強くなくても、チリも積もれば山となる方式で多くの人が同じ感情を味わった場合もこうなる。ともかく一定のエネルギーを達すれば自動的に生まれてくるらしい。誕生するさい、普通の生き物や人間と同じように巣を作る。ここで思うのが、思念体だから巣とかいらんよね?ということ。このシステム謎すぎる・・・・。とぼやいてもしょうがない。んで巣に近い場所で行動するらしい。巣は感情の主のいる場所に起こるのだ。
だからここがこの事件の原因てのは確定。そしてここで仮説が話せる。
証拠の多そうな職員室は、色んな企画を考えたり施設の方針などを決める場所でもある。案か何かがとん挫して、そのショックやふがいなさの思いで生まれたら?最初にショックになるのは運営。運営がいるのは受付。つまり巣はあそこ!まあ必ずいるとは限らないけどね、きっとこんせきはあるはず!
一か八かそこに向かうことにした。森の中を全速力でかける。向かい風が私の顔を直撃し、髪を揺らす。
大きな建物の前で、息を切らしながら立ち止まる。うっし、着いた。ボスがいるかもしれないという危機に備え、手のひらを刀に当てながら、くさった木の床を鳴らし職員室へ入る。
さっきガラスをふんだ辺りまで歩き、周りを見回す。暗い部屋の中にただせいじゃくが舞う。なのに私の耳元では、ホラー映画のBGMっぽい音楽が雑に流れていた。小さなローソクの上で、ちらちら揺れる火は私が目を向けてすぐに消えた。だるまさんが転んだ、みたいだ。
革ブーツのエナメルは相変わらずほのかな光を反射する。この暗色の空間だと、この程度で焼けそうと思ってしまう自分が怖くなる。
戦いでくだけたデスクを見つけると、ここに来た目的を発見した。絶妙に台の上に乗った、10枚ほどの紙束。
いったん乗せたまま中を開き、挿絵を見る。それがさす事柄のいくつかに既視感を感じ、もう一度表に戻す。
「これだ!」
叫びながら持ち上げる。表紙にはフリーイラスト風に描かれたはてなマークがあった。ひとまとまりになっているいわゆる企画書ってやつ。
その紙を、翻訳用メモ帳と照らし合わせ読み取っていく。段々と解読に慣れ、読むスピードも速くなっていく。
文章を完全に理解した瞬間、紙の両端をグシャっと握りつぶし、自分が事件解決の確証をしたこと芯から感じた。その勢いで、紙を持ったまま来た道をまたかける。肩や腕を痛めつけ、それでもまだ走った。体中、いや魂中興奮していたからだ。
走りながら、私は言う。
「ここまでのことは偶然じゃない。ちゃんと事件の大筋として最初から設定されてたんだ!」
最初に受付に行った時、天井のコンクリートが割れたでしょ?あの出来事、この書類に書いてある。
そして私にだけじゃない。ここに来た一般の人にも、幻魔協会の調査部隊にも。同じ物語を展開して、邪魔してた。そしてそのストーリーは、一連の事件が起こる前から決まっていた。案の定、そのカギはあの職員室にまるまるあった。例のデスクにあった、今持っている書類。これに、この世界(キャンプ場のことね)最大の秘密が全部書かれている。
この書類を元に導いたボスの居場所は・・・・・。最後のページの場内マップと見比べ、確認する。
「・・・・フウウ・・・・」小さく息を吐く。人間の時より酸素の消費量が少ないように思える。
あたりを見回す。ここだ。小さくてかわいらしい、キツネの石像が立っている。その後ろに、ほこらがあった。
書類に書いてあったのは、キャンプ場で開かれるはずだった謎解きイベントの問題だった。そしてここが、謎解きのゴールだ。なぜここだと分かったのか、語い力少ないし長くなるけど、お伝えしよう。
こういう類のイベントは基本的にストーリが用意され、物語の主人公として謎を解いていくシステムが多い。
このイベントのあらすじは、こう。書類に書いてあったのを引用した。ふりがなは、私の判断で書かないことにしました。ご了承ください。では、どうぞ。
むかしむかし、あるところに人々から愛されるキャンプ場がありました。
そこでは毎日、笑顔や笑い声にあふれ、空気も美味しく、楽園のような場所でした。
しかし。ある日。ソロキャンプにきた一人のおじさんが、顔色を悪くして受付にかけつけてきました。
「あ、あそこに・・・・ユーレイがいる!」
その日から『こもれびの森林』で何回も、人だまが動く事件が発生したのです。そのうわさはあっという間に広がり、お客さんは減ってしまいました。
さあ大変!このままでは、このキャンプ場はつぶれてしまいます・・・・。あなたは、従業員としてこの事態を調査することになりました。
このキャンプ場を救うためです、力を貸してください!
・・・とまあ、こんなもん。漢字多いし、第一長い。そして終わりの方にテキトー感が・・・。これホントに子ども向けかな?怪しい・・・。
まあそんなことはどーでもいい。んで、紙束の中に謎解き用冊子の中身をコピーしたのがあって、そこには問題のページの前後に主人公の状況などが書かれている。そしてこっからが重要なのよ。聞いて。
まず1問目。問題はここに書けないが、その前フリとしてこんな文章が用意されている。
あなたはまず、いつもの職場である職員室を見てみることにしました。すると何かをふんだような気がして、下を見ると、飲み口の割れたグラスが落ちていました。それを拾うと、あら不思議。月の光を受けて、なぞが浮かび上がってきました。
はい、気づいたかな?1時間と数分前(皆からしたらここから2つ前、第3話のこと)、私職員室に入ったよね?そん時私がふんだのは・・・・・、そうっ!『飲み口の(一部が)割れた』グラス!いくら襲われた後とはいえ、細かいところまで一緒でこれを偶然と言うにはムズくない?
え?まだ信じられないって?
ふふっ、実はこんだけじゃあないんですよー。次行くね。この謎を解いた後の文章。
その答えをつぶやいたその時です。グラスがけむりになり、そして真っ黒のゾンビのような怪物に変身したのです!あなたはこの状況の中、何をしますか?
登場の仕方は違うけど、見覚えのある単語が見つからない?うん、『真っ黒なゾンビ』だね。私がこの森で一番最初に戦った敵。この物語でも最初の障害として、登場している。
ね?似ているでしょう?私の行動とこの話の内容。ん、偶然だよーって?
じゃ、もう1つ根拠ね。3問目。ちなみに2問目はこの森をモチーフにした迷路なので、スキップ。
ガサガサっ、ガサ!どこからか草のゆれる音がします。音に聞き入っていると、今度は風が流れてきました。風向きに目を向けると。いつの間にか、知らない男の子がわくわくした表情であなたを見ていました。
「へえ、よく見たら普通の人間じゃんか。あのゾンビ倒したから、もっと強いのかと思った」
その子はこう名乗りました。
「オレはアル!この森をまとめる精霊だ!」
皆、もうこれで良いよね?アルは私がついさっき倒したばかりの怪魔。肩書きも名前も一緒。これはもう必然と考えた方が自然だ。
つまり何が言いたいかっていうと、あまりにも忠実な二次創作をしている。だからボスはこのイベントに関して、何か思いを持っているということになる。その想いが強すぎて、全く同じ物語をここにきた全員をキャラクターとして描いている。そしてこのほこらだが、最後のページ、謎解きのゴールを示した絵がある。ここまでの出来事を考えれば、この私の行動もここで終わるはずだった。だがそうはいかなかった。だって私、色々スキップしてここまできたから、ある意味チートしてんの。そこまでは視野に入っていない、ということにしといてここに来た。案の定、危ない気配はない。油断されている。
それにしても、何でここまでするのか?環境破壊をにくむ人たちの思念でも、開発者達を成敗する方法はこの他にもたくさんあったはずだ。ビルを壊すなり、お金を奪うなり。
なのにこのキャンプ場という場所で、そしてそこでしか知ることのなかった物語に沿って被害を起こしている。これはもう、この場所に関する何かが、怪魔の中にあるからだ。
執着。その言葉が脳をよぎる。このもよおしに何らかの原因で依存し、今もなお抜け出すことができなくなっている。何らかの原因が、私にはまだ分からない。でも、依存の原因を捨てることはできる。依存するにおいて一番大事なもの。ビールなら飲むことを止めるだし、ゲームなら遊ばないこと。ただ、自分自身で捨てることはとても難しい。だから、私がやるのだ。
この事件を断つにはこれしかない。神様、どうかお許しを。
胸の中で祈りながら、腰の刀の柄を握る。静かに抜刀し、刃をほこらに向けた。
「コイツで、ようやく解放されるね!!」
自分でも気持ちよくなりそうな声で周りに言う。
小さいお地蔵様がにこやかに笑っている。でもその中に気味の悪さだって、見えるかもしれない。ちなみに私は少し怖いなと感じた。まあ人それぞれだもんね。
「お地蔵様、バツはいくらでも受けます!・・・・やああっっっ!!!」
叫びながら、ほこらをまるごとナナメに切って分断した!当然、お供え物は全部地面に落ち、お地蔵様はくだけた。正しいのか分かんないけど、手のひらを合わせおわびの礼をした。そして散ったカケラを集め、まとめる。解決のためとは言え、いけないことをしたからね。過ぎたことしちゃってごめんなさい。
さて。来るなら来い!何だけど・・・・・・・。気配が、ない!これ、ニセモノ?本当はちがう場所?だとしたら、めんどいな。また1から推理しなおしなんて・・・・。でも資料を読んでみると、こことしか考えられないし・・・・・。とあれこれ思っていると。
モヤアと目の前で霧が上る。どこから?と目を落としてみると、割れたお地蔵様の破片からだった。
「?」
人の手で作られてない?真正面で何かがくずれる音がする。顔を上げる。すると、ほこらが一瞬で消えてしまった。
「??!!」
やっぱりボスに見せかけられたニセモノか?何も出来ず、そのままポツンと立っていると。どこからか、ねっとりとした女性の声が聞こえた。
「まあ、あたしのワナをいとも簡単にかいくぐるなんて。こざかしいのにも程があるわ」
こざかしいって何?どゆこと?言葉?どういう意味?
「自覚ないの。驚いた」
「?」
声の主の言っている意味がわからない。ただ悪意だけっていう訳でもなさそうだ。私はあたりを見回し、問う。
「あなたは誰?出てきなよ。聞きたいことがいっぱいある」
「ふん、失礼ねえ。このあたしに指図するなんて。ま、いいわ。今回は特別よ」
するとその時。目の前にむらさきのけむりが集中し、何かの形をつくる。キツネだ。石像と全く同じの、かわいらしい体つきをしている。やがてけむりの色は暗い色から一気にキレイな紙を色に変わる。京都の神社の参道のお土産ショップでぬいぐるみとして売られていそうな、かわいらしい顔立ちをしている。頬にあるのはフェイスペイントだろうか?火の玉みたいな形だ。
「改めまして。あたしがこの森をすべる狐型怪魔、霊子です」
なんかかわいい。声がいい。とても邪悪な霊達の下っぱと思えない。でも次のセリフで、そのイメージは溶けるように消えた。
「さあ、どう呪おうかしら・・・・・。ふふっ」
彼女の口角は、不気味なほどに曲がった。
アルを倒し、また森の散歩をしていると、ツタやコケにおおわれた丸太のコテージを見つけた。キャンプ場のものとして建てられたのかな。さっそく中に入ってみよう!・・・・・ドアノブが閉まってなければ。
「おっじゃまっしまーす」
リズミカルに階段を上り、ドアの手すりを握る。開いてる。さびて閉まらなくなっちゃったのね、きっと。
ガチャ。汚れているはいるけれど、衣食住、最低限の生活はできそうだった。完全にダメってわけではなさそう。茶色を基調とした内装は、もしこの森が晴れていたら、映える仕様になっている。陽の光に当たって、自然をたんのうする。いいロケーションだ!今それが出来ないのはホント残念!プライベートで来ていいなら、今度はお客さんになろうっと。
いけない。インテリアの説明をしないと。ってそれほどキレイじゃないけどね。
テレビやエアコン、電気はほこりを被り、壁や床はくさっている。換気せんやせん風機を回そうとしても、イヤな音がするだけで動かなかった。冷蔵庫や食洗機には何もなく、誰かが使い終わった後が保たれていた。んーこれだけじゃあ、まだ分かんない。ボスの意図を読まないと。
最初から気になっていたロフトに上がり、見学。きれいにたたまれた布団だけがすみっこにあった。
「収穫なしかー」
そう言ってハシゴを降り、まだ新しめのじゅうたんをふむ。でもガビョー的な気になるものはない。
「おじゃましましたー」
最後には振り返りもせずにあっけなくコテージを出たのだった。
さて。こちらは千代が出ていった後のコテージの様子である。
彼女が十分、ログハウスから離れた後、一匹の狐が壁をすり抜けて中へ入っていく。そして先ほど彼女がちらりと見た新しい絨毯に、狐は自分の鼻をつける。匂いを嗅いでいるのだ。
「やっぱりあの子ね」
顔を上げながら彼女は言った。
白い毛とふさふさした尻尾をもち、頬には人魂の形をしたフェイスペイントがされている。赤いスカーフを巻き、狛犬のような姿だ。厳密に言うと狛犬なのだが、神社といえばお稲荷さんという謎の思い込みによるイメージから生まれたから、狐に似てなくもない。ちなみに前述のイメージを、彼女は消極的に受け止めている。本当はもっと強い動物が良かったとのこと。
「どっちに行ったの?」
誰にともなく彼女は扉に向かって言う。すると。千代が辿った道は光となって、路上に反映される。彼女の魔力によるものだ。
「まずいわ。あっちはアタシの祠・・・・・・。急がないと」
狐は精一杯の速さで、光を追っていった。
残り1時間と15分。ほぼゼロと言っていいくらい突っかかるものがない。・・・・・・ん?でも、最初に見たオフィスの健全ぶりは、ちょいと気になる。地震や火事でもあったら、木でできているから、すぐにこわれたり燃えたりするはずだ。なのにあそこは、本当にキレイな状態で残っている。怪魔がひょっこり現れて、おそわれた?いや。物を破かいせずに人をおそえるはずがない。
だとしたら。アレは一体何だ?
マジで分からん。
それに・・・・・。
「おんなじとこずーっと歩いてる気がする・・・・」
キツネにつままれるって、こういうこと?さっきもこの大きな木見たことある。・・・・・カン違い?別の種類だとか?いやいやいや、私、自称・材木鑑定団(何だそれって自分でツッコむ)の団長よ?(たった今考えた)木を見る目は良いんだから!
ってふざけてる場合じゃないね。ゴメンナサイ。でも目が良いのは本当。葉っぱを見れば、オスメスの区別ができたり似ていてそうじゃない植物の見分けを出来るのが、ちょっとした特技かな。あんま役に立たんと思うけど。とはいえここで鑑定wなんかしてたら、絶対時間食う。今ここではしない。
にしても、ボスを突き止めるなんてちょっとミステリー感があるなあ。見た目は子どもの天才高校生は、めちゃくちゃ殺人事件に出くわしている。そうぐうし過ぎて気の毒になるくらい。そんな彼になりきって推理する・・・・。ワクワクするが、今の私にはそれが出来るのか?
だって、理科以外成績悪い私が頭いいはずないもん。まあ逆を言えば、理科だけは中学の進級お祝いテストで100点取ってるから文句なしってわけ。でも、これだけじゃあねえ・・・・・・。なーんか心もとないつーか、何だろ?
つまり、要は・・・・。・・・・ごめん。自分でも言葉を整理できない。というか・・・・。
「何?この頭痛。思考が止まりそうなくらいしめつけられてる気がする・・・・・」
!脳内にイナズマみたいなのが走って______
「んんっ、ああぁぁぁああああぁぁ!!!」
いっったあっっ!!ヤバい、ほんっとにヤバい。頭を地面に打ち付けるよりも、ずっと痛い。
「んん~~~、ううんん・・・・・、ああっ・・・・」
・・・・ちょっと良くなった?ツラいなあ。どうしてこんな頭痛が・・・・・・。
「もしかして、何かの術?」
そういう攻撃方法だってありえるかもしれない。ただ確証がないから、何とも言えんのだけど。こうしてみると、確証が欲しい場面がたくさんある。言い切れないのがもどかしい。ただその原因が、手がかりが断片的であることだ。ひとつのことがあったとして、それが別の出来事と必ずつながるとは限らない。そして今は、『限らない』の場面である。だから、ここまでのことをまとめたって・・・・。
え、書いてみろ?まあ一応メモもペンもあるけど、何するの?・・・・ああ、箇条書きってヤツか。ふーん、結果は分かんないけど、とりあえずやってみようかな。
分かったこと、気づいたことを書くのね。・・・・・こんな感じ?
・もとはキャンプ場だった
・受付がまだキレイ、外観が荒れている
・企画制作の途中だった
・コテージは普通、一番被害が少ない
・職員室の床にグラス、割れていた
・人影はない、死体も見つからない
・駐車場も空、襲われた可能性はなさそう?
7つ書けた。これを見て、関連性のあるものとないものを消す。
受付で見たものでまとめてみよう。
・まだキレイ、外観が荒れている
・床にグラス、割れていた
・企画制作の途中だった
・人影はない
こうして見てみると、あの施設だけで多くの情報を得ていた。要するに、そこが今回のキースポットとなっている。怪魔は自分に縁のある場所に身を寄せたがる性格らしい。
そもそもなぜこうして推理をするのか?それすら疑問に思えてくる。確かにやみくもに歩いても非効率だし、時間のムダになるから、真相を探って一気に追いつめた方がいいのかもしれない。でも、考えている時間が、一番のムダにもならないか?人間の世界でも同じような問題が討論され、答えが出ていないからこの世界でも反映されているんだろう。
その時私の頭の中で、一つの仮定が生まれた。
それを説明するために、ここで怪魔について補足をしよう。これが私達が推理をする大きな理由になっている。そして自分の意見を話す大前提にもなる。
怪魔は、人間の悪の感情から生まれた、いわゆる思念体だ。人が強い感情を持つと、その近くで怪魔が繁殖する。そして生みの人間の元から離れ、罪のない他人の心に入り、入った人を操って悪事を働く。種類は様々だ。強盗、ひぼう中傷、ゆうかい、さらには殺害だってやる。意識は怪魔に乗っ取られる。事件中、体の持ち主は気を失っているという扱いになる。警察にバレて捕まった時、怪魔は体から抜け出し、また別の人を見つける。これを繰り返すことでいわゆる経験が積み重なり、やがて人間の体の形を覚える。すると今度は自ら変形して、人に似せようとする。そして自分の心のままに周囲を荒らす。それもまた何回かやると、知能がつき、完全な怪魔に進化する。
理想としては最初の段階で怪魔を全滅させたいんだけど、幻魔側のネットワークより敵の行動が速いらしい。追いついてないみたい。おまけに何が起こるか分からない(と言われている)この時代、悪い感情に飲まれる人が多いようで、次から次へと新たな怪魔が発見されている。幻魔協会は人手が欲しすぎて、子供にも求人募集を始めたそうな。私達もまだ子供だけど。
さて話を戻そう。さっき強い感情って言ったね。これ、一人の人の気持ちが強くなくても、チリも積もれば山となる方式で多くの人が同じ感情を味わった場合もこうなる。ともかく一定のエネルギーを達すれば自動的に生まれてくるらしい。誕生するさい、普通の生き物や人間と同じように巣を作る。ここで思うのが、思念体だから巣とかいらんよね?ということ。このシステム謎すぎる・・・・。とぼやいてもしょうがない。んで巣に近い場所で行動するらしい。巣は感情の主のいる場所に起こるのだ。
だからここがこの事件の原因てのは確定。そしてここで仮説が話せる。
証拠の多そうな職員室は、色んな企画を考えたり施設の方針などを決める場所でもある。案か何かがとん挫して、そのショックやふがいなさの思いで生まれたら?最初にショックになるのは運営。運営がいるのは受付。つまり巣はあそこ!まあ必ずいるとは限らないけどね、きっとこんせきはあるはず!
一か八かそこに向かうことにした。森の中を全速力でかける。向かい風が私の顔を直撃し、髪を揺らす。
大きな建物の前で、息を切らしながら立ち止まる。うっし、着いた。ボスがいるかもしれないという危機に備え、手のひらを刀に当てながら、くさった木の床を鳴らし職員室へ入る。
さっきガラスをふんだ辺りまで歩き、周りを見回す。暗い部屋の中にただせいじゃくが舞う。なのに私の耳元では、ホラー映画のBGMっぽい音楽が雑に流れていた。小さなローソクの上で、ちらちら揺れる火は私が目を向けてすぐに消えた。だるまさんが転んだ、みたいだ。
革ブーツのエナメルは相変わらずほのかな光を反射する。この暗色の空間だと、この程度で焼けそうと思ってしまう自分が怖くなる。
戦いでくだけたデスクを見つけると、ここに来た目的を発見した。絶妙に台の上に乗った、10枚ほどの紙束。
いったん乗せたまま中を開き、挿絵を見る。それがさす事柄のいくつかに既視感を感じ、もう一度表に戻す。
「これだ!」
叫びながら持ち上げる。表紙にはフリーイラスト風に描かれたはてなマークがあった。ひとまとまりになっているいわゆる企画書ってやつ。
その紙を、翻訳用メモ帳と照らし合わせ読み取っていく。段々と解読に慣れ、読むスピードも速くなっていく。
文章を完全に理解した瞬間、紙の両端をグシャっと握りつぶし、自分が事件解決の確証をしたこと芯から感じた。その勢いで、紙を持ったまま来た道をまたかける。肩や腕を痛めつけ、それでもまだ走った。体中、いや魂中興奮していたからだ。
走りながら、私は言う。
「ここまでのことは偶然じゃない。ちゃんと事件の大筋として最初から設定されてたんだ!」
最初に受付に行った時、天井のコンクリートが割れたでしょ?あの出来事、この書類に書いてある。
そして私にだけじゃない。ここに来た一般の人にも、幻魔協会の調査部隊にも。同じ物語を展開して、邪魔してた。そしてそのストーリーは、一連の事件が起こる前から決まっていた。案の定、そのカギはあの職員室にまるまるあった。例のデスクにあった、今持っている書類。これに、この世界(キャンプ場のことね)最大の秘密が全部書かれている。
この書類を元に導いたボスの居場所は・・・・・。最後のページの場内マップと見比べ、確認する。
「・・・・フウウ・・・・」小さく息を吐く。人間の時より酸素の消費量が少ないように思える。
あたりを見回す。ここだ。小さくてかわいらしい、キツネの石像が立っている。その後ろに、ほこらがあった。
書類に書いてあったのは、キャンプ場で開かれるはずだった謎解きイベントの問題だった。そしてここが、謎解きのゴールだ。なぜここだと分かったのか、語い力少ないし長くなるけど、お伝えしよう。
こういう類のイベントは基本的にストーリが用意され、物語の主人公として謎を解いていくシステムが多い。
このイベントのあらすじは、こう。書類に書いてあったのを引用した。ふりがなは、私の判断で書かないことにしました。ご了承ください。では、どうぞ。
むかしむかし、あるところに人々から愛されるキャンプ場がありました。
そこでは毎日、笑顔や笑い声にあふれ、空気も美味しく、楽園のような場所でした。
しかし。ある日。ソロキャンプにきた一人のおじさんが、顔色を悪くして受付にかけつけてきました。
「あ、あそこに・・・・ユーレイがいる!」
その日から『こもれびの森林』で何回も、人だまが動く事件が発生したのです。そのうわさはあっという間に広がり、お客さんは減ってしまいました。
さあ大変!このままでは、このキャンプ場はつぶれてしまいます・・・・。あなたは、従業員としてこの事態を調査することになりました。
このキャンプ場を救うためです、力を貸してください!
・・・とまあ、こんなもん。漢字多いし、第一長い。そして終わりの方にテキトー感が・・・。これホントに子ども向けかな?怪しい・・・。
まあそんなことはどーでもいい。んで、紙束の中に謎解き用冊子の中身をコピーしたのがあって、そこには問題のページの前後に主人公の状況などが書かれている。そしてこっからが重要なのよ。聞いて。
まず1問目。問題はここに書けないが、その前フリとしてこんな文章が用意されている。
あなたはまず、いつもの職場である職員室を見てみることにしました。すると何かをふんだような気がして、下を見ると、飲み口の割れたグラスが落ちていました。それを拾うと、あら不思議。月の光を受けて、なぞが浮かび上がってきました。
はい、気づいたかな?1時間と数分前(皆からしたらここから2つ前、第3話のこと)、私職員室に入ったよね?そん時私がふんだのは・・・・・、そうっ!『飲み口の(一部が)割れた』グラス!いくら襲われた後とはいえ、細かいところまで一緒でこれを偶然と言うにはムズくない?
え?まだ信じられないって?
ふふっ、実はこんだけじゃあないんですよー。次行くね。この謎を解いた後の文章。
その答えをつぶやいたその時です。グラスがけむりになり、そして真っ黒のゾンビのような怪物に変身したのです!あなたはこの状況の中、何をしますか?
登場の仕方は違うけど、見覚えのある単語が見つからない?うん、『真っ黒なゾンビ』だね。私がこの森で一番最初に戦った敵。この物語でも最初の障害として、登場している。
ね?似ているでしょう?私の行動とこの話の内容。ん、偶然だよーって?
じゃ、もう1つ根拠ね。3問目。ちなみに2問目はこの森をモチーフにした迷路なので、スキップ。
ガサガサっ、ガサ!どこからか草のゆれる音がします。音に聞き入っていると、今度は風が流れてきました。風向きに目を向けると。いつの間にか、知らない男の子がわくわくした表情であなたを見ていました。
「へえ、よく見たら普通の人間じゃんか。あのゾンビ倒したから、もっと強いのかと思った」
その子はこう名乗りました。
「オレはアル!この森をまとめる精霊だ!」
皆、もうこれで良いよね?アルは私がついさっき倒したばかりの怪魔。肩書きも名前も一緒。これはもう必然と考えた方が自然だ。
つまり何が言いたいかっていうと、あまりにも忠実な二次創作をしている。だからボスはこのイベントに関して、何か思いを持っているということになる。その想いが強すぎて、全く同じ物語をここにきた全員をキャラクターとして描いている。そしてこのほこらだが、最後のページ、謎解きのゴールを示した絵がある。ここまでの出来事を考えれば、この私の行動もここで終わるはずだった。だがそうはいかなかった。だって私、色々スキップしてここまできたから、ある意味チートしてんの。そこまでは視野に入っていない、ということにしといてここに来た。案の定、危ない気配はない。油断されている。
それにしても、何でここまでするのか?環境破壊をにくむ人たちの思念でも、開発者達を成敗する方法はこの他にもたくさんあったはずだ。ビルを壊すなり、お金を奪うなり。
なのにこのキャンプ場という場所で、そしてそこでしか知ることのなかった物語に沿って被害を起こしている。これはもう、この場所に関する何かが、怪魔の中にあるからだ。
執着。その言葉が脳をよぎる。このもよおしに何らかの原因で依存し、今もなお抜け出すことができなくなっている。何らかの原因が、私にはまだ分からない。でも、依存の原因を捨てることはできる。依存するにおいて一番大事なもの。ビールなら飲むことを止めるだし、ゲームなら遊ばないこと。ただ、自分自身で捨てることはとても難しい。だから、私がやるのだ。
この事件を断つにはこれしかない。神様、どうかお許しを。
胸の中で祈りながら、腰の刀の柄を握る。静かに抜刀し、刃をほこらに向けた。
「コイツで、ようやく解放されるね!!」
自分でも気持ちよくなりそうな声で周りに言う。
小さいお地蔵様がにこやかに笑っている。でもその中に気味の悪さだって、見えるかもしれない。ちなみに私は少し怖いなと感じた。まあ人それぞれだもんね。
「お地蔵様、バツはいくらでも受けます!・・・・やああっっっ!!!」
叫びながら、ほこらをまるごとナナメに切って分断した!当然、お供え物は全部地面に落ち、お地蔵様はくだけた。正しいのか分かんないけど、手のひらを合わせおわびの礼をした。そして散ったカケラを集め、まとめる。解決のためとは言え、いけないことをしたからね。過ぎたことしちゃってごめんなさい。
さて。来るなら来い!何だけど・・・・・・・。気配が、ない!これ、ニセモノ?本当はちがう場所?だとしたら、めんどいな。また1から推理しなおしなんて・・・・。でも資料を読んでみると、こことしか考えられないし・・・・・。とあれこれ思っていると。
モヤアと目の前で霧が上る。どこから?と目を落としてみると、割れたお地蔵様の破片からだった。
「?」
人の手で作られてない?真正面で何かがくずれる音がする。顔を上げる。すると、ほこらが一瞬で消えてしまった。
「??!!」
やっぱりボスに見せかけられたニセモノか?何も出来ず、そのままポツンと立っていると。どこからか、ねっとりとした女性の声が聞こえた。
「まあ、あたしのワナをいとも簡単にかいくぐるなんて。こざかしいのにも程があるわ」
こざかしいって何?どゆこと?言葉?どういう意味?
「自覚ないの。驚いた」
「?」
声の主の言っている意味がわからない。ただ悪意だけっていう訳でもなさそうだ。私はあたりを見回し、問う。
「あなたは誰?出てきなよ。聞きたいことがいっぱいある」
「ふん、失礼ねえ。このあたしに指図するなんて。ま、いいわ。今回は特別よ」
するとその時。目の前にむらさきのけむりが集中し、何かの形をつくる。キツネだ。石像と全く同じの、かわいらしい体つきをしている。やがてけむりの色は暗い色から一気にキレイな紙を色に変わる。京都の神社の参道のお土産ショップでぬいぐるみとして売られていそうな、かわいらしい顔立ちをしている。頬にあるのはフェイスペイントだろうか?火の玉みたいな形だ。
「改めまして。あたしがこの森をすべる狐型怪魔、霊子です」
なんかかわいい。声がいい。とても邪悪な霊達の下っぱと思えない。でも次のセリフで、そのイメージは溶けるように消えた。
「さあ、どう呪おうかしら・・・・・。ふふっ」
彼女の口角は、不気味なほどに曲がった。
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