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第四章 目覚める才能

第4話 真っ向勝負

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「へえ、けっこーやる気あんじゃねーか。ならよお・・・・・・」
 地面からつるのムチがたくさん現れ、うようよアルの辺りを漂う。トゲもある。
「いけえ!」
 ヒュン!何本かのムチが私をめがけて一直線におそってくる。たぶんしばりつける気だ。足腰に力を入れて。
「ふん!」
 その場で大ジャンプ!意外といい景色。でも油断禁物。
「はっ」
 つるの先が手の形に変わり、足や胴をつかもうと更に伸びる。その最中に上へと向かう力が無くなり、地面へ急降下する力が働く。つま先と木で出来た手の距離が徐々に縮んでいく。おそらくクナイでは対応できない。スピーディーにふところへしまい、再び刀を空中で抜いた。あと1秒おくれたらつかまる!という緊迫のある中、半円状に横に複数のムチを切った。
 ドスン!
 手がムチの脳的な役割を果たしていたんだろう。意識がなくなったように上昇スピードは弱まりやがて落ちる。土にキレツを入れて、普通の植物よりもずっとずっと速く枯れていった。栄養が大地に還るさまは、まさに生きている証である。きれいだ、と夢中で散りぎわを見ていた。
「やるじゃん。お前」
 アルはうれしそうに笑いながら、私をほめたたえた。でも私はうれしくない。今私は、彼の目よりも彼の足元の方が気になってしょうがない。アルが歩いた場所に生える草や小さい花が、彼によって元気をうばわれている。花びらは色を失い、茎は折れている。雑草に至っては今にも地面から抜けそう。何だか敵の周りだけ、酸素あふれる森とは場所が違うかのようだ。これじゃ大自然が台無し。
 人々が一生懸命育てて培ってきたこの森の栄養を、あんたみたいなどろぼうに全部取られてたまるか。心の中で小さい怒りがふつふつとにえたぎっている時、アルが私に追いうちをかけた。
「足元の枯れてるやつが気になんのか?安心しろ、オレがこの森中の養分吸い取ってやる。そしたら残り物なんてなくなる。少しでも残ってるのはイヤだろ?んで、そのエネルギーはオレの攻撃とかのパワーになる。今のつるのムチの精度も上がるし、体もかたくなる。オレ体木で出来てるからさ。簡単に変換できるわけよ。オレの咲かす花はもっと美しくなる。オレの生やす草木はもっと強くなる。全てはそのためだ」
「・・・・・」
「どうして生き物ってもんは時が経つと枯れるんだ?永遠に生きていた方がいいじゃないか。オレの育てる植物は不死だ、オレの中で何年も咲き続ける。オレが生きている限り。永遠とわの美しさこそ植物のだいごみだ。美しさを保てないものは、さっさとかてにされればいい。この森に生息するような、弱々しい草木はエネルギーになるいい例だ」
 そこまで彼が言ったのをチャンスに、私はいつの間にか重くなっていた口を開きながらおそるおそる言う。
「つまり・・・・、散っていく生き物に意味はないと言いたいの・・・・・?」
「あ?違う違う。意味はあるぜ。オレの栄養になるっていう大きな意味がな!」
「・・・・それこそ違うよ・・・・」
「?」
「どんな生き物も、生まれてきた瞬間から死ぬってことが約束されてる。あんたもそうだ。それに、誰かのために生きる人生なんて誰も持っちゃいない。皆自分のために生きるんだからね。・・・・・そうだよ。誰だってそりゃあ、ずっと生きていて欲しいとか、この美しい状態のままがいいとか思うよ。でも、死ぬから、散るから。その人、その生き物の素晴らしさに気づくことが出来る。改めてまた、生き様に感動することが出来るんだ。終わりがあるから美しいんだ」
「お前・・・・」
「ちょっと話が合うと思ったけど、ぜっんぜんそうじゃなかったわ。森の精霊なんてエラそうな名前だね・・・!」
「・・・・・何?」
 彼の声がかわいい少年から一変してこわい口調になった。おじけず続ける。
「こんな気持ちになったのは久しぶりだよ・・・・。興奮してる」
 胸の中でぞわぞわと霧のような何かが漂う。こんな気持ちになったのは、いつ以来だろう。それが満たされた時、無意識に私は刀をさやにおさめていた。
「?」
 自分の本心がおくれて分かった。私は、自分で覚えた術で彼を倒そうと考えたのだ。武器に頼らず、自分の力で。私はさっきと同じようにバク転し距離を置き、図鑑で見た忍者の構えをマネした。
「・・・来なよ」これまためずらしい低い声で言う。
「・・・・・真っ向勝負ってわけか。どうやらオレは、お前の何らかのスイッチを押しちまったみてえだ」
 彼も少しだけ後ろに下がり、それぞれの間が広くなった。頭のてっぺんで気持ちいい風が通り過ぎる。少しだけ快感を感じた。もう一回だけ深呼吸をする。
 よし、行こう!がさっ!!私の地面をける衝撃で雑草がゆれる。
 空中で無数の種がまう。何だろう、と思ってじっと見ていた。ポンポンとコミカルな音と一緒に大地に落ちる。目に入るのを防ぐため、顔を両腕でおおう。腕をもどすと。
「ええっ!!」
 背の高い若葉に行くてをはばまれた。いっぱいありすぎて前が見えない。それでも刀は出さず、忍術の準備に入る。知ってるかもしれないけど、忍術は、火とん、風とん、水とん、土とん、木とんなどに別れている。今この状況を越えるには、火とんの技で全部焼くしかない。気合いで覚えた呪文を舌を回しながら唱える。
えんとうしゃくすいこうへい!」
 漢字がムズい!全部へんが火へんの漢字だ。おまけに画数多いし。こんなの、いくら練習しても暗記出来そうにない。次戦う時は忘れてるかもしれない。ま、いいや。
 今の呪文は、火とんの術を行うためのパワーを体に溜めるために言うもの。言葉が長ければ長いほどパワーも多く溜まるが、舌が疲れる。漢字6文字ほどが基準らしい。文字の数によって強さや多さが左右される。これが史実かどうか私は知りません。でも多分違うな。唱えて火の玉が出てくるのはフィクションだろうね。この話もそうなんだけどさ。
「いっくよー」
 温存したばかりの力を両手に集中させる。どこぞの戦とう民族の王子の必殺と同じポーズをとり、声を張った。
「フレイムパニッシャー!!」
 ズドオオオオオ。大きな炎が、レーザーのように一直線で道を開く。周囲の若葉はあっという間に燃えカスと化す。・・・・ちょいダジャレ入った、すんません。
 さて急に横文字だが、これは私が技の名前をイジったものだ。本当は、『火炎横断砲』というが、これじゃなんかダサいし言いにくいから。勝手に名前変えたってわけ。え?最初のがいいって?いやいやいや、ここは私の案採用してよ~。めっちゃ考えた結果だから!お願い、これで行かせて。・・・・うん、ありがとう。
 ・・・・話しすぎたみたいだ。アルの足音がする。それが遠ざかっていくのを確かめて、私は腕を横に戻す。
「逃げられたか・・・・」
 意外と意気地なしじゃんか。ほぼ戦ってないのに。どこ行ったんだろ。
「また出てくるだろうし・・・・・。どーしたらいいかなあ」
 などと言っていたけど、結局やることは1つ。彼を求めて歩く。炎を使ってモーゼみたい開いた道を、せっせと歩く。いつどこで攻撃が来るか・・・・。
 ひゅうう・・・・
 ふわっと優しい風がどこからか吹く。一緒に無数の葉っぱが空を舞う。気がつくと、目の前だけじゃなくて、私の周りいっぱいに草の壁が出来ていた。ひげおじさんのレースゲームのイカ並みに視界がじゃまされる。ただでさえ森の中が暗いってのに。
「もう!何とか向こう行かないの?」
 とりあえずこれを追っ払わないと。こんな時こそ、アレだ!ニン!とでも言いそうな指のポーズをし、また呪文を集中して唱える。
かざふうかいさつそうれつ!」
 もっかい言うよ、漢字がムズイっ!かいとかそうとか幻魔になってなかったら絶対見ない漢字だ。それか忍者を目指すオタクになるか。明日の朝にはきっとこの文忘れてるわ。
 漢字を見れば分かると思うけど、今私は風とんの術のためのエネルギーを溜めた。今周囲に吹く風より強いのを起こして、遠くにこの葉っぱを飛ばす。うん、いけそう。
「んん・・・・・ええい!」
 ボン!手のひらの上にテニスボースぐらいの大きさの気弾が出来る。これが風のかたまり。でね。
「やっ」
 花火のように打ち上げ、弾が上昇していく。生い茂った木々の少し上で止まり、ポン!と破れつする。その瞬間、森中に暴風が起こった。やり過ぎたかも。木が折れそうだ。めりめり幹から音がする。私自身も、立っていられないほどの向かい風を受けている。目も開けられない。マフラーが激しくなびく。しかしちゃんと、私を妨害していた多数の草が遠くに吹っ飛ぶ。目的は達成された。
 2、3分ほど強風にさいなまれた後、森はまた静かになった。木々から数枚若葉が落ちた。さらさらと風の余いんにひたる。なんて心地よいのだろう。目を閉じて自然のゆらぎがもたらす空気を楽しむ。その時だけ、私は戦いの最中であることを忘れていた。つかの間の休息とはこういうことなのだろうね。
 ゴボゴボゴボ・・・・・・、と地面の中から音がする。音の場所から土が盛り上がってもいる。モグラが穴をほっているみたいだ。目であとを追うと、私の少し離れたところでそれは止まった。その地点から芽が出てそれがぐんぐんぐんぐん成長して、大きな木になって。ぶっとい幹がひび割れ、こちらに倒れてくる。動きを読みながら、慎重に後ろに下がって様子を見る。折れていく木の影に隠れておぼろげだけど、人がいるのが見える。
 なんと巨木の中に人が入っていた!そしてその人物は・・・・・。
「よお」
「!・・・・・・」
 アルだ。ちっとも前線に出てないのに何笑ってんだか。
「あーれえ、イラついてるう?」
 彼の声はまた小学生の子のような高い声に変わってる。でもその無邪気さが、今の私には少々不快だ。
「まあ、いいや。お前の実力はよーく分かった。オレのトラップを2つもクリアしちまうなんて、センスあんじゃん」
 やっぱりこの子にほめられてもうれしくないのは変わらない。まだ私は口を閉じる。
「だからオレ決めた____」
 そこまで言った彼は、全速力で走ってくる。さっきのゾンビと比にならない。
「?!」
 気がつくと、少しささくれのある木の感触の腹パンを食らっていた。
「ぐううっああっ」
 この佐々木(松田)千代という人生の中で、初めて出した奇声?は思ったよりも周囲にひびく。コウモリか鳥がバサバサとツバサの音を鳴らすのがかすかに分かった。
「んんっ」
 どうにか背中を木にぶつける前に、足に力をこめブレーキ。すれすれで止まる。腰に刀がある。それを振っても良かった。でもなぜか私のプライドが、武器を使うことを止めていた。本当に、理由が分からない。
 少年は途中で止めた言葉の続きを言う。
「オレも、正々堂々戦うってな」
「今までかくれてたのは、いわゆる力試し?」
「まあそんなもんだ。いつもここにくる連中は、ちょっとやそっとのイタズラですぐ逃げていく。つまんねーの、と思ってたんだ。だが、お前と会って、お前の力見て、久しぶりに楽しく戦えそうだと考えたってわけよ」
「ある意味光栄だね。あなたのヒマつぶしになれてさ」
「だな。ってなわけで」
 敵は一度深呼吸をし、私と対じする姿勢をとった。最初と同じように、2人で向き合う。
「やらせてもらうぜ?」
「・・・いいよ」
 自然の風が私達の前を通り過ぎる。それがおさまると同時に、互いにその場から駆け出す。
 私はいち早く手を出し、火のオーラを両手にまとう。正直言って熱い。でもそんなの気にするな。今は攻撃に集中。彼の突き出した手に触れ、力を入れる。
「ふん!」
 ジジ・・・・と物が焼ける音がする。敵の手のひらと腕がこげてる。アルの体は木で出来ている。だから、燃やせば肉体は消える。火とんの術で勝つぞ。彼はマズい!と言わんばかりに顔をゆがめ、もう片方の手で焼かれている手をつかんだ。そして自らバキィとこげた腕を折った。二の腕から盛大に。胴につながっていない、体のカケラとなった腕をうばいとり、目を向けずに近くに投げ捨てる。しかし大事な部分を失っても、彼は苦しんでいなかった。
「あめえな・・・・。確かに火当てられちゃ燃えちまうけど、オレ自己再生出来んだよ」
「!」
 そうだ。植物は、環境さえ整えば世界中どこでもいくらでも生命を殖やすことが可能だ。この子も木だというなら、その能力を持っている。ちょっとした誤算ね。大丈夫、まだ勝てる。そう思っている間に、アルは自分の体を回復させ、右腕が戻った。
「今度はオレからだっ!」
 手のひらを地面にたたきつけ、衝撃を生む。彼の手をスタート地点に、土の中から大きな木のトゲが飛び出し私を刺そうとねらう。
 ドンドンドンドン!!!続けざまに私を追いかけてくる。逃げれば逃げるほど太く、大きくなっていく。でも反対に、私から距離の遠いトゲは地中にひっこむ。そうだなら、ジャンプして・・・・。
「はっ!」
 トゲの執着心がすごい。森の木よりも高く飛んだってのに、それに合わせてハリの背も伸びる。でも案の定、生えるのと同じスピードで地面にうまる物がある。これは規則正しく生えていく。そこがこの術?の難点。つまりいきなり敵のいるところに出現させることはできないってこと。意味わかる?ちょっとムリがあるか。
 その・・・・つまり、ジャンプしてトゲのないところに移動されても、トゲの現在地からしか再スタート出来ないってワケ。うーん、ムズいかあ。いいよ、ここは。さらっと流してください。
「おっ、見抜かれちまった」
 また楽しそうに、アルは笑う。そしてすぐに魔法を解いた。トゲが消える。
 続いて敵は私に向かって手をかざす。すると、シュルシュルシュルシュルーーっと両手からつるのムチが発射される。最初のより太めだ。止めきれず自分の頬に命中。皮膚がやわらかいぶん、痛さも強い。
「ぬ!」
 一瞬そこをおさえて、様子を確認する。少し血が出ている。初めての出血だ。さすが怪魔だね。
「痛いだろ?じまんの技だからな」
 本当にじまんしているような口調で言う。これで興奮したのか、彼はさらに戦いのハードルを上げる。
「そうだなー。お前には、オレのとっておきでも見せてやるか!」
「?」
「パワー解放!いでよ、オレの奥義!」
 ヒーローっぽく決め台詞を言いながら、両腕を天に突き出す。腕がオーラをまとい、光を浴びながら形を変える。
ニュニュニュ、と刃が現れ、カマみたいな形を作る。光が消え、姿が明らかになる。木でできた刃がトッキントッキンのガード兼武器だ。かなり強力な、それこそ切り札というべき変身術。
「いくぜっ」
 いきなり肉弾戦!ちょっと苦手なんだよなあ・・・・。それに攻撃したってすぐ回復から、一発でキメないといかんのよねえ。それがめんどいんだよなー。
 そんな風に試行さく誤していると、アルが自分の腕のカマをガードにしながら、体をぶつけてきた。
 どうすることもしなかった私は、あごを傷つけられた。
「戦意そう失か?」
 私は口を閉じ、あごの出血量をみる。そこまでではない。
「・・・・・何か言えよ」
 それでも私は何も言わなかった。なぜなら今、昨日の荷物チェックの様子を思い出すのに集中していたから。

 昨日の夕方。
「まあ、最初はこんなもんだろ」
 松ノ殿が、床に広げた武器やらおやつやらを見て言った。
「思ったより少ないですね」
「多すぎてもいけないだろ。動きにくくなる」
 その時床にあったのは、刀とクナイ、傷薬やピンセット(トゲに刺さった時に使うから)、おやつのクッキーとグミ。予想より少ないでしょ?でもこれだけでけっこー重いのよねー。
 他に必要なものはありますか、と聞こうとして口を開きかけた瞬間。彼の顔がハッとなった。
「ああ、そうだ。ちょっと待ってろ」
 そう言って神はそこから離れ、しばらく倉庫の中を探った。そして小さいビンを私の手に乗っける。
「時限チビ爆弾。今は全部一か所に集まってるからまあまあ見えるが、一つ一つになるとつまんでいるのかさえ分からなくなるほど小さい持ち運びに便利な爆弾だ。こいつも持ってけ。これだけ1人は倒せるはずだ」
「へー期待大ー。でもなんで私に?」
「忍者は敵に気づかれないようワナをしかけて戦っていたんだ。君の得意分野だろう?」
「確かに!そうですね。ありがとうございます、使ってみます」
 こうしてそれを、自分のふところに今日の朝入れて、出発した。

 もし途中で落ちてなかったら。アル攻略に使える。
 相手にバレないように胸の中に手を入れる。やがて冷たいガラスの感触を覚え、よし!と心臓の奥でつぶやいた。勝つ確率がグンと上がったのが原因になり、心音のスピードも速くなっている。このままダンドリ良く・・・・・って、ダンドリって何?教えてくれる人いる?
「もうこないなら、オレの勝ちだぜ!?」
「!」
 しまった。もたもたしすぎちゃった。クナイを出すフリをしながら、ビンのフタを開ける。
 そして出せなかったという体で攻撃を受ける。この時には数粒の爆弾をつまんでいる。そして。
「ぐあっ」
 とやられるのに見せかけて腕を小さく振る。じいっと見つめて、ちゃんと飛び散っていくのを見届けた。
 でもその代わり。
 ビリっ!!服がぎせいになってしまう。・・・・いやむしろ油断していると見られて、作戦がやりやすいかも。
 よおしもっと投げるぜえーー!
 こうして私はダメージは徐々に受けつつも、身をていして彼の身の周りにまいていく。アルは自分が戦局をリードしているのに気を取られ、私の真意を見ようともしない。
 ツボに手をつっこみ、中を確認する。もうない!OK!
 今度こそクナイを取り出し、なおも突進とカマによる連撃を続けるアルを、ほぼ初めてはね返す。
 少しだけ彼もけいかいの色を見せる。その後にまたよゆうシャクシャクの口調で言った。
「負けおしみってやつか?残念だな、お前がオレに勝てるこたあない」
 そろそろ言ってもいいだろう。彼を見つめ、くちびるのはしを上げる。
「・・・・・・そうだね。私やられちゃう。でも実際はそうじゃない」
「?」
「気づかなかった?」
「何が」
「自分の体よく見なよ」言いながら武器をしまった。決着がついたからだ。
「?・・・・・・・!!!!」
 ぴっ、ぴっ、ぴっ、とタイマーのカウントダウンがかすかに鳴る。残り40秒くらいだろう。
「時限チビ爆弾だよ。どんなものにもくっついて必ず離さない。小さいけどパワーはめっちゃあるらしいよ」
 さっきは言い忘れたけど、そんな特徴もあるんだって。くっついた瞬間、カウントダウンがスタートする仕組みになっているそうだ。
 今回初めて使ったからバレないかドキドキしたけど、作戦が成功して良かった。これで私の勝ちだ。
「あんたが手のカマで私を攻撃してる間に、ハラハラまいてたんだ」
「!」
 彼は顔をしかめる。でも何もしてこなかった。抵抗はムダだと自分で気づいているのだろう。
 私はせめての優しさのつもりで、笑ってみせた。彼にとってはただ自分をイライラさせるのに、すぎないと思うけど。顔を見て一瞬だけ、彼が普通の人間の子供に見えた。たぶん8歳か9歳ぐらいだ。悲しそうな、苦しそうなふんいきを出しながらも、顔は笑っている。少しだけ、昔生き別れた弟に似ている。彼に対する複雑な感情が、ちょっと晴れたような気がした。
「祐樹・・・・・」
 無意識に名前を呼んでいた。
 アルの正体は、私より年下の自然大好きな優しい少年だった。目を見張ったが、もう、凶暴な目をしたおそろしい怪魔の姿に戻っていた。弟の影を思いながらゆっくり口を開いて言った。
「少し楽しかったよ。・・・・・・・また会おう!」
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 焼けあとに近づき、その場にしゃがむ。焼けるに至らなかった小さい木片の数々が、彼の生き様を示していた。
「最後までしぶといね・・・・・」
 近くにあったカケラの1つをつまみ、よーく細かい部分まで観察する。繊維方向にヒビが入っていた。これがどうやって出来たのか、私は知らない。でも、アルの人生で残るものといえばこのくらいだ。例え敵同士でも、同じ生物として生きていたのに変わりはない。
「君の証は、私が大事にするよ・・・・・」
 手に取った破片をふところにしまうと、立ち上がり、自分が投げ捨てたスマホを拾い、遠くからもう一度遺影を見てから、うす暗い森の奥へまた歩み始めた。
 タイムリミットは、半分を過ぎていた。
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