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第三章 修行の日々

第7話 ヴァンとエア

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「おそいぞ、ヴァン」
 携帯に向かって神は言った。知り合いの様だ。
「あ?今終わったとこ。うん。あ、わかった。連れてく。うん、サンキュー。またな」
 リズムも言葉も軽快だ。仲が良いのだろう。それにしても連れてくって・・・、何だ?
「今話してたヤツか。私の元・同僚だ。いや、相棒と言っていい」
 え、え。
「えーーー!!」
 またみんなで一緒に叫んだ。
「な、何だよ・・・」
「いやあ、松ノ殿様にそういう人、居たんだなって。ほら、神様ってなかなか下界のものと会うイメージが無いじゃないですか。だから、その、すごく、意外で」
「アイツは、もともと天界のものだぞ」
「え!!」
「私の事でハモるの、もう止めろ・・・」
 少し迷惑そうな顔で要求してきたので、あまり驚きを声に出さないよう意識した。
 はあ、と大きなため息をつき、また話し始めた。
「俺、いや、私は、神になることを幼い頃から約束されていた。そして人間界の16歳で神になった。神々の半分は、そういう経緯で神になる。私が松ノ殿になってしばらく経った頃。ヴァンという同い年の少年が、私の一つ下の位に就いた。彼は天界の者だったものの、神としての生活とはかけ離れていた。しかし彼は自力で勉強し、努力の末に神になった。彼は天才的な頭脳で私を支えてくれた。彼は神のとしての名を、竹ノ殿という」
 なるほど。じゃあその下の位は、梅ノ殿だな。だって、松竹梅だもん。松から順にレベルが下がっていく、この言葉。おそらく、これをモチーフにしているんだ。
「今ヴァンは世界幻魔協会、通称・WGAの会長を務めている。3千人近くが入会し本部で働いている、とても大きな組織なのだ」
「かいちょー!?」由紀ちゃんが言う。
「今も松ノ殿様の協力をし続けているんですね。良い友達だなー」これは春。
「でも、何で神様を降板したんだろう」と私。
「・・・アイツが、自分から名乗り出たんだ」
「立候補?」千代ちゃんが首を傾げた。
「WGAを作るとき、アイツは私に言った。・・・私は、エアと呼ばれている」

 ヴァンと私がWGAの設立を知ったその日の午後。
「なあ、ヴァン。WGAって何すると思う」
「あ?何するって・・・、俺もしらねえよ」
「だよなあ・・・」
「どうしたんだよ。お前らしくない顔だな」
「別に。・・・ただ、聞いてみたかっただけだよ」
「ハア?何だよ、それ。今日のお前、ちょっと変だぞ」
「いいから。仕事しようぜ」
「・・・ったよ。はい、書類」
「ああ」
 私はなんだか自分が、協会の者になりそうで怖かった。私は、この普通の神王殿で仕事をしたかった。でも、会長候補に挙げられていて・・・、逃げれなかった。
 迷っていたが、この一週間後の仕事終わり。
「よう、エア!」
「・・・ヴァンか」
 彼の顔は嬉しそうだった。
「おい、聞けよエア。俺、会長になったんだぜ。スゲエだろ!」
「会長って・・・、WGAのか?」
「ああ!明日から早速その仕事だ!」
「おい、ちょっと待てよ。候補に挙がってたのは、俺だろ。何でお前が・・・」
「・・・お前、本当はやりたくなかったんだろ?会長」
「!!!!」
 私が立ち止まり、彼が歩き続けるため、彼の後ろ姿が目の前に映った。
「俺はすぐに判ったぜ。お前は、俺と仕事するのが楽しくてここを手放せなかった。でも、期待に応えなければ大王神様に何されるか判らない。だからお前は、ずっと迷っていたんだ」
 図星だ。私はヴァンと一緒にいるのが楽しかった。だから、離れたくなかった。手放したくなかった。この神殿を。今任されている仕事を。
「だから俺は、お前のできなかったことを成し遂げる。それで・・・、また一緒に仕事する。それでいいだろ?もう迷う必要なんてないんだ。お前は、お前のしたいことを出来る限り尽くすんだ。そうやって成長して・・・、また会おうぜ」
 別れが辛くて、うつむいて地面を見ることしかできなかった。それでも何とか言おうと、
「ああ」とだけ呟いた。
「・・・またな。エア」
 彼は庭園を横切り、出口へ向かっていく。私は顔を弾き上げ、必死に呼び止めた。
「ヴァン!」
 彼は首だけこちらを向けて、私を見た。
「俺・・・、約束する。また、お前と出来るように・・・。一人前の神になる。いつか、今の大王神様を超えて見せる。誰よりも立派な神になる!・・・だから、俺の事、ずっと見ててよな」
 すると体も首と同じ方向にして。
「ああ!待ってるぜ」
 それから私は、いつも以上に業務に専念した。ヴァンがいると思うと、残業も辛くなかった。
 そして50年後。人間界でいうと22歳の時、ヴァンと再会した。
「またお前と協力プレイ出来て、嬉しいぜ」
「俺もだよ」
「8人ってやつは、いつ来るのか?」
 言葉とは裏腹に、皮肉がこもっていた。
「大丈夫だ。お前の思っているより、ずっと早い。ちゃんと連れてくる」
 彼は一瞬口をきゅっと結び、また戻した。
「そうか。頼んだぞ、相棒」
「ああ!」

「そして君達を幻魔として、強くするために協力してもらうことにしたのだ」
 いや、それは判ったんだけどさ。
「松ノ殿様、いくつ何ですか」
 彼は怒りもせず、怖気もせず、淡々と答えた。
「この世界で換算すると、200歳かな」
「200か、んでそっちの世界の感じだと」
「まだ24だな」
 由紀ちゃんが振り向いて、まるでセリフを棒読みするように言った。
「この年齢感覚、おかしいでしょ」
 顔を向かれた私達は、
「うーん。24歳とは言い難いなあ」
 と控えめに言う。
「この世界の年齢感覚に姿を変えているんだ。向こうじゃまだ、一つもしわが無いぞ」
 それはいいかもしれないけど・・・、やっぱそれで学生っていうのは無理がある。
 本人はこれ以上、この話題を続けることを許さなかった。大きな音を立て、手を二度叩く。
「まあ、そんなわけで!今から幻魔協会に行く。そこで、ヴァンの話を聞くことだな」
 世界幻魔協会。一体どんな組織か。松ノ殿の友達、ヴァンは何者か。
 私の脳裏で、様々な疑問が渦巻いた。
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