30 / 55
第三章 修行の日々
第3話 扉の先に
しおりを挟む
おお、皆が来た。
私は下を見下ろしていた。
松ノ殿に導かれ、近所の公園にやって来た私達は、この地下通路に通された。その道は、思ったより激しく曲がりくねったりしているのだ。その道を、今通って来たのである。
「いたたた・・・。あの道、きっつ!」
自分の思いのまま、由紀ちゃんは洞窟中に言った。そのまま、ゆっくり立ち上がる。
「本当だよ」
春は由紀ちゃんの言葉に同意する。千代ちゃんも、頷いて意思を見せた。春が言葉を続ける。
「真っすぐ行くかと思ったら、急カーブがあるし。それが終わったと思えば、波みたいに上下するしさあ」
「そんなに激しいか。このストロー型滑り台は」
神が少し残念そうに言った。
松ノ殿はなんも苦も無く出て来られるからいい。私達はあなたみたいにワープができなければ、超能力、それにこれを作る技術だって無いの。というか、それそんな名前付いてたの。ストローだって、こんなに曲がりゃあしないよ、普通。
「喜んでもらえると思ったが、まあいい。本題はこの奥だからな」
私らもう子供じゃないんだから、それじゃあ喜ばないよ・・・。
松ノ殿が指した方向に目を向ける。この間見たのと同じような、固そうな扉。この奥が秘密基地なのだとしたら、かなり厳重な守りである。今の私ならこの戸を、動かすことすらできないだろう。これを、まるで消しゴムを持つくらいの少しの力で、開けられるようになるのだろうか。その自分を想像すると、少し怖く思えた。
「ここは私と、君達幻魔しか立ち入ることの出来ない異空間だ。君達の言う、現実世界の時間と少しずれている。ここでの一日は、向こうは1時間。自分が居たいだけ、ここにいれる」
アニメとかで、よくあるよね。時間がずれてるパターン。しばらくの間は、時差ボケするかも。
「さあ、あけるぞ。よーく見てろよ」
扉に近づくと、神は手のひらをそれに置き、目を閉じる。しばらくして手を離すと、いつか見たような気がする、聖の字が浮かんだ。字に反応した扉は、美しい星模様に沿って光っていく。
「うわああ」
一斉に驚きの声を上げた。私は、光の扉に目を奪われていた。
その美しさに似つかわしくない大きな重い音を立て、ゆっくりドアが開いていく。
どんどん奥が見えてくる。もう少しで、全てが見える。あと、ちょっと。もうすぐ___。
全開になってすぐ、私は向こうへ駆け出した。
「あ、加奈!」
由紀ちゃんが呼び止めてるみたいだけど、気にしない。私はもう、ここに期待でしかないんだから。
一回立ち止まって、あたりを見回した。
「!!!」
なんて言ったらいいのだろう。全てが輝きに満ちていた。
木製のちゃぶ台に、小さなウォーターサーバー。旅館にあるような、内側に反っている椅子。優しい感触の畳。桜の模様があしらわれた、大きな障子。
言い出したら、きりがない。
「あ」
生け花が飾られた床の間。トラの絵の掛け軸もある。
「うちによく似てるなあ」
由紀ちゃんが言った。彼女の家は、由緒正しい和の館だ。私よりも、こういうものは見慣れているだろう。
「驚いただろう?」
「ええ、とても凄いですよ、これ!」
千代ちゃんは震えた声で叫んだ。 ここで生活できると思うと、嬉しかった。
「さあ、次だ。個室に案内しよう」
リビングを出るため、今度は右にあるふすまを開ける。
向こうには長い廊下が続いていて、8つの部屋が用意されていた。左が部屋、右が縁側だ。
コン・・・、と静かにししおどしが落ちる。近くには灯篭もある。
松ノ殿が、すぐ近くにあった部屋を指して。
「こっから順に」
と始め、それからテンポよく言って歩く。
「矢代、近衛、谷川、佐々木」
ちょうど4つの部屋が残って、空いている。残りの子の部屋かもしれない。
松ノ殿は、試しに私の部屋を開けた。
「おお!!」
驚いた。こんな素晴らしい部屋は見たことない。
一瞬で眠りに落ちてしまいそうな、ふかふかの布団。縦140センチは超えると思われる楕円形の鏡。暖かい色合いのタンス、その隣に6段の大きな本棚と、反対に低くて小さいテーブル。
「あ、テレビ」
およそ60インチの大きなテレビが壁にかかっている。
リモコンをつけると、人形が行きかう子供向け番組が映った。もっと見ていたかったけど、皆が待っている様だったので今は止めた。
外に出ると、松ノ殿は振りかえって言った。
「3人のも同じような構図になっている。後でまた、見にくるといい」
そして続けた。
「次は、図書室に案内しよう」
私は下を見下ろしていた。
松ノ殿に導かれ、近所の公園にやって来た私達は、この地下通路に通された。その道は、思ったより激しく曲がりくねったりしているのだ。その道を、今通って来たのである。
「いたたた・・・。あの道、きっつ!」
自分の思いのまま、由紀ちゃんは洞窟中に言った。そのまま、ゆっくり立ち上がる。
「本当だよ」
春は由紀ちゃんの言葉に同意する。千代ちゃんも、頷いて意思を見せた。春が言葉を続ける。
「真っすぐ行くかと思ったら、急カーブがあるし。それが終わったと思えば、波みたいに上下するしさあ」
「そんなに激しいか。このストロー型滑り台は」
神が少し残念そうに言った。
松ノ殿はなんも苦も無く出て来られるからいい。私達はあなたみたいにワープができなければ、超能力、それにこれを作る技術だって無いの。というか、それそんな名前付いてたの。ストローだって、こんなに曲がりゃあしないよ、普通。
「喜んでもらえると思ったが、まあいい。本題はこの奥だからな」
私らもう子供じゃないんだから、それじゃあ喜ばないよ・・・。
松ノ殿が指した方向に目を向ける。この間見たのと同じような、固そうな扉。この奥が秘密基地なのだとしたら、かなり厳重な守りである。今の私ならこの戸を、動かすことすらできないだろう。これを、まるで消しゴムを持つくらいの少しの力で、開けられるようになるのだろうか。その自分を想像すると、少し怖く思えた。
「ここは私と、君達幻魔しか立ち入ることの出来ない異空間だ。君達の言う、現実世界の時間と少しずれている。ここでの一日は、向こうは1時間。自分が居たいだけ、ここにいれる」
アニメとかで、よくあるよね。時間がずれてるパターン。しばらくの間は、時差ボケするかも。
「さあ、あけるぞ。よーく見てろよ」
扉に近づくと、神は手のひらをそれに置き、目を閉じる。しばらくして手を離すと、いつか見たような気がする、聖の字が浮かんだ。字に反応した扉は、美しい星模様に沿って光っていく。
「うわああ」
一斉に驚きの声を上げた。私は、光の扉に目を奪われていた。
その美しさに似つかわしくない大きな重い音を立て、ゆっくりドアが開いていく。
どんどん奥が見えてくる。もう少しで、全てが見える。あと、ちょっと。もうすぐ___。
全開になってすぐ、私は向こうへ駆け出した。
「あ、加奈!」
由紀ちゃんが呼び止めてるみたいだけど、気にしない。私はもう、ここに期待でしかないんだから。
一回立ち止まって、あたりを見回した。
「!!!」
なんて言ったらいいのだろう。全てが輝きに満ちていた。
木製のちゃぶ台に、小さなウォーターサーバー。旅館にあるような、内側に反っている椅子。優しい感触の畳。桜の模様があしらわれた、大きな障子。
言い出したら、きりがない。
「あ」
生け花が飾られた床の間。トラの絵の掛け軸もある。
「うちによく似てるなあ」
由紀ちゃんが言った。彼女の家は、由緒正しい和の館だ。私よりも、こういうものは見慣れているだろう。
「驚いただろう?」
「ええ、とても凄いですよ、これ!」
千代ちゃんは震えた声で叫んだ。 ここで生活できると思うと、嬉しかった。
「さあ、次だ。個室に案内しよう」
リビングを出るため、今度は右にあるふすまを開ける。
向こうには長い廊下が続いていて、8つの部屋が用意されていた。左が部屋、右が縁側だ。
コン・・・、と静かにししおどしが落ちる。近くには灯篭もある。
松ノ殿が、すぐ近くにあった部屋を指して。
「こっから順に」
と始め、それからテンポよく言って歩く。
「矢代、近衛、谷川、佐々木」
ちょうど4つの部屋が残って、空いている。残りの子の部屋かもしれない。
松ノ殿は、試しに私の部屋を開けた。
「おお!!」
驚いた。こんな素晴らしい部屋は見たことない。
一瞬で眠りに落ちてしまいそうな、ふかふかの布団。縦140センチは超えると思われる楕円形の鏡。暖かい色合いのタンス、その隣に6段の大きな本棚と、反対に低くて小さいテーブル。
「あ、テレビ」
およそ60インチの大きなテレビが壁にかかっている。
リモコンをつけると、人形が行きかう子供向け番組が映った。もっと見ていたかったけど、皆が待っている様だったので今は止めた。
外に出ると、松ノ殿は振りかえって言った。
「3人のも同じような構図になっている。後でまた、見にくるといい」
そして続けた。
「次は、図書室に案内しよう」
1
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
湖の民
影燈
児童書・童話
沼無国(ぬまぬこ)の統治下にある、儺楼湖(なろこ)の里。
そこに暮らす令は寺子屋に通う12歳の男の子。
優しい先生や友だちに囲まれ、楽しい日々を送っていた。
だがそんなある日。
里に、伝染病が発生、里は封鎖されてしまい、母も病にかかってしまう。
母を助けるため、幻の薬草を探しにいく令だったが――
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
GREATEST BOONS+
丹斗大巴
児童書・童話
幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。
異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)を生みだし、規格外のインベントリ&ものづくりスキルを使いこなす! ユニークスキルのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅する、ほのぼの異世界珍道中。
便利な「しおり」機能、「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です!
猫のお菓子屋さん
水玉猫
絵本
クマのパン屋さんのおとなりに、猫のお菓子屋さんができました。
毎日、いろんな猫さんが、代わる代わるに、お店番。
お店番の猫さんが、それぞれ自慢のお菓子を用意します。
だから、毎日お菓子が変わります。
今日は、どんなお菓子があるのかな?
猫さんたちの美味しい掌編集。
ちょっぴり、シュールなお菓子が並ぶことも、ありますよ。
顔見知りの猫さんがお当番の日は、是非是非、のぞいてみてください!
児童絵本館のオオカミ
火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる