上 下
19 / 55
第二章 集う幻魔

第7話 初陣

しおりを挟む
 私はためらっていた。
 刀を握る手が震えている。春を斬らなければならないという、思いも寄らないことを体が受け付けていないのだ。武者震いが止まらない。
 足が。手が。こわばり、思考を停止する。
「由紀ちゃん」
 加奈が私を呼ぶ。心配した口調だった。
「大丈夫。いける。下がってて」
 刀をグッと握りなおす。そして、頭の上で構えた。
 加奈は判ったといわんばかりに、ロッカーの方へ下がった。
 そうだ。とにかく春を、皆を助けるんだ!
「よし、行くぞ!」
 ダン!地面をけって、しっかりと感じた。私はこの瞬間、人ととは違った生き方をし始めたのだと。
 春の爪が眼前に迫るのを、しっかり受け止める。
 キイイン。固いものがぶつかる音がした。
「上手い!刀を使いこなしている!いきなりの戦いなのに。何故だ」
 松ノ殿が驚いていた。
 加奈が戦いの衝撃波にもまれながら、私の説明をした。
「由紀ちゃん、剣道部なんですよ。結構昔から、武道系の習い事やってるみたいで」
 今入ってるのは、部活と同じ剣道。これもなかなか悪くは無い。
 や、今はそんな話をしてる場合じゃないぞ、ほんと!
 勢いよく刀を振りかぶり、グオンと前へ突き出す。
 ピュッ。相手の頬から数量の血が出た。
 皮膚だけだけど、切れた!いいぞ、このまま接近して。
 バチバチバチ!私の手元で音がした。
「信じられない・・・!」
 見ると、刀の表面で火花が散っていた。
「こんなにも早く、真髄を覚醒するとは・・・。なんて、すごい奴だ。君は」
「えっ」
 真髄?
「君はただの剣士じゃない。炎を操る、魔剣士一族の子だ」
 魔剣士。剣術と魔術を巧みに操る、空想の戦士。そんな者達の血を、私が受け継いだなんて。
「今は不完全だが、あいつを倒すことは出来よう。もっと集中。自分はできると、信じるんだ!」
「!!!」
 その声に妙な感覚を覚えた。脳裏に蘇るのは、母の姿だった。

 8歳の頃の話だ。
 その時私は、地域のスイミングスクールに通っていた。私はその中でも、常に上位クラスの技術を持っていて、良く友達から羨ましがられたり、妬まれたりしていた。
 そこは、2か月に一度に進級テストというものがある。
 自分のレベルによって、行う課題等が変わる仕組みだ。
 もちろんそこに基準点があるのだが、私が4級から3級に変わるためのテストの練習では、一度として超えることが出来なかった。
 10級から始まって、順調にやって来た私にとって、信じられないことだった。
 次第にやる気を失い、習慣だった市民プールでの練習もしないようになった。
 テストの日。家の玄関前で私と母は話した。
「由紀はきっとできるわ。母さん、信じてる。そうだ、良いこと教えてあげる」
「何?」
「心の中でいうの。私は出来る。精一杯やろう、ってね。そうすれば、自然と集中して取り組むことが出来るから。安心していってらっしゃい」
 本番。私の前の子が、スタートした。
 私は心の中で思い浮かべた。先ほどの母の姿を。
「私は・・・できる。必ず、出来る」
 ピイっ!
「次、由紀さん」
「あ、はい!」
 私は無我夢中で泳ぎ、蹴り、進んだ。
 頭の中に、余計なものは一つもなかった。ただ目標を達成する、その思いだけだった。
 プールから出て結果表を受け取ったとき、私は驚いた。
 基準点どころか、最高点を獲得して合格した。
 その時、自分を信じれば道は開けると知った。

 今、この瞬間も同じだ。
 自分を信じ、敵を倒す。
 ありがとう、母さん。私、やれそうだよ。
 なんとかしても。私は力を込めて、再び立つ。
「今出来ることを!全力でやりきる!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

処理中です...