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第一章 運命の始まり

第9話 秘密の場所

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 「「どうしてここに呼んだんですか」」
 私たちは声をハモらせて言った。松ノ殿は呆れたように言う。
「聞きたいのは私だ。なぜこんな所にいる」
 由紀ちゃんが答えた。
「だって、約束より10分前に着いたから・・・、散歩しようと思って・・・」
「なにが10分前だ。時計を見てみろ」
 私がつけていた腕時計を見る。4時5分。予定の5分を過ぎていた。返す言葉もない。
「・・・すいませんでした」
 私は謝った。
「まあ、いい。場所を言ってなかったからな。しょうがない」
「「場所?」」
「ここじゃ話しにくい。ついてきたまえ」
 そう言って松ノ殿は、ふよふよ浮きながら歩き(?)出した。
 ゆらゆら揺れながら進む神様に、私達は付いていく。
 なんだか落ち着きのない動きに見えた。
「あれ、ホントに神様?」
 由紀ちゃんが聞いてくる。自分でもよく判らないけど、とりあえず答えた。
「まあ、そうなんじゃない、かなあ?」
「なんか全然拝もう、ていう気持ちしないもん」
 その言葉はダメなんじゃ、と思いながら私は彼女に、
「シーッ!」
 と、慌てて唇に人差し指をつけた。
「案ずるな」
 前から声がした。
「ウギョッ」
「バレたか」
 口々に図星の声を上げた。
 神は言葉を続けた。
「そう思われるのも、確かだ。今私が居るのは、人間界。わざわざ本来の姿を見せることなどしない」
「人間界・・・、普段は聖域みたいな所に居るんですか」
「ああ。神と、神に許されたものしか入れない、神王殿で暮らしている」
「へえ」
 半分意味不明の思いを明かすように、頷いた。
 やがてこの公園のもう一つのシンボル、ひょうたん池(どこにでもありそう)を過ぎ、遊具広場を抜けてしばらく歩いたところで、松ノ殿の動きが止まった。
 右を向いた彼の先に、深い森があった。立ち入り禁止区域になっている。
「行くぞ」
 看板やカラーコーンに貼ってあるテープを無視して、進んでいこうとする。
 由紀ちゃんは大慌てで呼び止めた。
「ちょ、松ノ殿様!ここは立ち入り禁止ですよ!」
 すると、昨日私に見せた不思議な笑顔を見せて言った。
「神に不可能はない。さあ、きたまえ」
 少し困ったように私達は顔を見合わせたが、彼がどんどん奥に行くので仕方なく、森に入った。
 木の本数は多く、太陽の光が木々の隙間から少しだけ見えるくらいだった。
 ザッ、ザッ、ザッ。
 おそらく冬に地面に落ちて、そのままだろうと思われる枯れ葉が、靴とこすりあい足音を作る。
 私は少し不安に思いながら進んでいった。
 500メートルは歩いたかと思った時、松ノ殿は、さっきのブナの木よりも大きい広葉樹の前で止まった。
 由紀ちゃんが後ろから、ちょっとした段差を降りてやって来る。
「ここだ」
 まるでここまで大変な思いをして、やっとこさ街にたどり着いた勇者の様に言った。
「これは・・・、何の木だろう。ブナよりは大きいねえ」
 由紀ちゃんは、まさに今私が思っていたことを言った。
「クスノキだよ」
 どこかで聞いたことがある。確か、森の中に昔から住んでいる化け物が登場する、超有名映画に出てくる。その映画で出てきた物も、この木は大きかった。その木は化け物のすみかにつながっているという設定だったが、この件がそれにつながっているのは、まず、ないだろう。
「この木のここを、押してと」
 ス・・・、と木の表皮に触る。
 ガゴン!
 松ノ殿がグッ、と押した瞬間。手に触れた表皮が、いや、木そのものが凹んだ。
 彼が手を当てた場所に、"聖”の字が浮かび上がる。
 ギギギ、ズドオオン。
 木に穴が開いて、振動で木が揺れる。
 ゴロゴロ・・・。
 中をのぞくと、いつの間にかはしごが掛かっていた。
「降りるぞ」
 神の言う通り、私達は慎重に下へ降りた。
「うう~こわ~」
「暗いから、余計不安感が増すわ~」
 ゆっくり、ゆっくりと下って行った。
 ようやく地面に着くと、あたりは真っ暗で何も見えなかった。その時。フッと少しばかりの風は吹いて、明かりがついた。岩の壁にかかった松明の光が、前から奥へ幻想的に灯っていく。
「「うわあ」」
 これには私達も驚きの声を上げた。
「さあ、来い。あと少しだ」
 洞窟は、ヒンヤリしていた。今着ている、春用のブレザーが丁度いい。
 しばらく歩いて、目の前に大きな門が姿を現した。
「さあ、ここだ」
 松ノ殿は金庫のロックを開けるように、キーボタンを押していく。確認完了のピーッという機械音が鳴ったあと、重々しい動きで門が開いた。
「長いこと歩いてご苦労だった」
 付け加えるように言って、中に入っていく。そこは、何らかの研究所の感じがした。
 私達は小さな警戒心を募らせながら、奥へと進んでいった。  
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