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第二部 人間に戻りました
番外編 爽真、変な装置を頼まれる
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俺――斉藤爽真と莉乃がこの世界に来てから、三ヶ月ほど経過した。賢者レゲリュクスの弟子になった俺は魔法陣の勉強を続けている。
賢者レゲとネネリムの得意分野は魔法陣の分析と開発だから、俺も自然と同じ道を歩む事になった。今は特殊な効果を持つ魔法陣を作れるか試しているところだ。
「爽真! 爽真、お願いがあるんだけど!」
「うわっ! いきなり登場すんなよ……」
一心不乱に魔術文字を書いていたら、後ろから突然肩をたたかれた。幼なじみの莉乃だ。こいつは普段ロイウェルで暮らしているが、遠距離転移が可能なせいかちょくちょくブルギーニュへやってくる。どうせまたくだらない用事だろう。
冷め切った俺に構うことなく、莉乃は興奮した様子で話しかけてくる。
「魔法陣ってさ、ずっと同じ温度を保つ装置とかも作れるんでしょ?」
「作れるけど。すでに冷蔵庫みたいな魔道具もあるし……。公爵様の城にも同じような魔道具あっただろ?」
「あるけど、今回は別のものがほしいんだよね。ずっと四十度ぐらいの温度を保つ装置を作ってほしい!」
「……なんで?」
俺の頭の中にはすでにアレだろうなという予想がついていた。でも一応きいといてやる。
「納豆が食べたいッ! もう我慢の限界なんです……ッ!」
「うわ、マジでくだらねぇ用事じゃねえか……。おまえそこはせめてヨーグルトって言っとけよ」
「酸っぱい系の食べ物はもういい。私は日本食に飢えている! 納豆が……白っぽくなるまでかき混ぜた納豆に、醤油を垂らして食べたいんだよ……!!」
「東大陸に納豆に似たやつあっただろ? アレじゃ駄目なのかよ」
「アレ乾いてたじゃん。あれじゃ甘納豆だよ……。甘納豆で糸が引けると思う?」
莉乃は遠い目をしながら言った。心なしか表情にも哀愁を感じるし、反語を使うほど納豆に飢えているのか。
「でも納豆、臭いだろ。発酵してる間にも匂いを放つんじゃねぇの? 公爵様いっぱい犬飼ってるし、嫌がられそうな気もするけどな」
「……分かってるよ。親ビンたちにも迷惑かけらんないし、ターニア様のとこで納豆を作るつもり。ハル様に臭いって言われたら、私だってショックだし……」
「ターニア様のとこで納豆……地雷じゃねぇ? 下手したら破門されそうな予感がするぜ……」
莉乃にとっては破門よりも公爵様に嫌われない事のほうが重要なのか。こいつも鈍いなりに少しは公爵様の好意に気づき始めたのか?
「しょうがねぇなあ……。作ってやるよ。冷蔵庫を改造すりゃすぐに出来んだろ」
「本当!? ありがと! 納豆が出来たら爽真にも分けてあげるね!」
莉乃は嬉しそうに言って転移し、俺はすぐに納豆装置を作り始めた。冷蔵庫用の魔法陣を書き換えるだけだから、三日もすれば出来上がるだろう。
一週間後、莉乃は俺が作った納豆装置を持って東大陸へ転移した。小型の冷蔵庫ぐらいの大きさだから、部屋の隅に置いてこっそり発酵させるつもりだと言っていた。
しかしやっぱりターニア様にバレて「臭い」と大目玉をくらったらしく、納豆装置は何故か俺のところへ戻ってきた。今も発酵中で、部屋の中が異常に納豆臭い。そのため大急ぎで匂いを封じる魔道具を作っているところだ。
「俺の役目って、勇者の尻拭いなのかよ……」
俺はひとり、納豆臭い部屋で呟いたのだった。
賢者レゲとネネリムの得意分野は魔法陣の分析と開発だから、俺も自然と同じ道を歩む事になった。今は特殊な効果を持つ魔法陣を作れるか試しているところだ。
「爽真! 爽真、お願いがあるんだけど!」
「うわっ! いきなり登場すんなよ……」
一心不乱に魔術文字を書いていたら、後ろから突然肩をたたかれた。幼なじみの莉乃だ。こいつは普段ロイウェルで暮らしているが、遠距離転移が可能なせいかちょくちょくブルギーニュへやってくる。どうせまたくだらない用事だろう。
冷め切った俺に構うことなく、莉乃は興奮した様子で話しかけてくる。
「魔法陣ってさ、ずっと同じ温度を保つ装置とかも作れるんでしょ?」
「作れるけど。すでに冷蔵庫みたいな魔道具もあるし……。公爵様の城にも同じような魔道具あっただろ?」
「あるけど、今回は別のものがほしいんだよね。ずっと四十度ぐらいの温度を保つ装置を作ってほしい!」
「……なんで?」
俺の頭の中にはすでにアレだろうなという予想がついていた。でも一応きいといてやる。
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「うわ、マジでくだらねぇ用事じゃねえか……。おまえそこはせめてヨーグルトって言っとけよ」
「酸っぱい系の食べ物はもういい。私は日本食に飢えている! 納豆が……白っぽくなるまでかき混ぜた納豆に、醤油を垂らして食べたいんだよ……!!」
「東大陸に納豆に似たやつあっただろ? アレじゃ駄目なのかよ」
「アレ乾いてたじゃん。あれじゃ甘納豆だよ……。甘納豆で糸が引けると思う?」
莉乃は遠い目をしながら言った。心なしか表情にも哀愁を感じるし、反語を使うほど納豆に飢えているのか。
「でも納豆、臭いだろ。発酵してる間にも匂いを放つんじゃねぇの? 公爵様いっぱい犬飼ってるし、嫌がられそうな気もするけどな」
「……分かってるよ。親ビンたちにも迷惑かけらんないし、ターニア様のとこで納豆を作るつもり。ハル様に臭いって言われたら、私だってショックだし……」
「ターニア様のとこで納豆……地雷じゃねぇ? 下手したら破門されそうな予感がするぜ……」
莉乃にとっては破門よりも公爵様に嫌われない事のほうが重要なのか。こいつも鈍いなりに少しは公爵様の好意に気づき始めたのか?
「しょうがねぇなあ……。作ってやるよ。冷蔵庫を改造すりゃすぐに出来んだろ」
「本当!? ありがと! 納豆が出来たら爽真にも分けてあげるね!」
莉乃は嬉しそうに言って転移し、俺はすぐに納豆装置を作り始めた。冷蔵庫用の魔法陣を書き換えるだけだから、三日もすれば出来上がるだろう。
一週間後、莉乃は俺が作った納豆装置を持って東大陸へ転移した。小型の冷蔵庫ぐらいの大きさだから、部屋の隅に置いてこっそり発酵させるつもりだと言っていた。
しかしやっぱりターニア様にバレて「臭い」と大目玉をくらったらしく、納豆装置は何故か俺のところへ戻ってきた。今も発酵中で、部屋の中が異常に納豆臭い。そのため大急ぎで匂いを封じる魔道具を作っているところだ。
「俺の役目って、勇者の尻拭いなのかよ……」
俺はひとり、納豆臭い部屋で呟いたのだった。
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めっちゃ最高に良かったー!!
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楽しんでいただけたようで良かったです。
感想ありがとうございました!
いやあ~、笑った笑った!(主にペエ、ペエいってるとことか)
異世界モノで、もふもふと一緒にというのはけっこうあると思うんですが、自分がもふもふってあまりないですよね
普通の犬猫だったら、意地悪な人や天敵にひどい目にあわされる機会もあるかもしれませんが、聖獣ならほぼ大丈夫そうだし
これが男性作者が書いたもので爽真視点でだったら、自分が勇者でお姫様とデキて‥となって非常につまんないストーリーになってたかもしれません
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楽しい作品をありがとうございました!これからもどうぞ頑張ってください!応援してます!
ありがとうございます〜! 読んで笑ってもらうのが目的だったので非常に嬉しい(笑)
動物視点のモフモフものが読みたくて、自分で書いてみたのです。笑って貰えてよかったー
感想ありがとうございます m(_ _)m
面白かったです‼️
今日みつけたのですが、
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ロンダさんの前髪のところは
声を出して笑ってしまいました~✴️
すごく読みやすかったですし、
(リノが)楽しくて
(ぺぺが)かわいい物語でした💖
素敵なお話、ありがとうございます🎵
よくぞ見つけてくれました…! しかも感想まで書いてくれるなんて本当に嬉しい! ありがとうございます〜