【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま

文字の大きさ
上 下
115 / 115
第二部 人間に戻りました

番外編 爽真、変な装置を頼まれる

しおりを挟む
 俺――斉藤爽真と莉乃がこの世界に来てから、三ヶ月ほど経過した。賢者レゲリュクスの弟子になった俺は魔法陣の勉強を続けている。
 賢者レゲとネネリムの得意分野は魔法陣の分析と開発だから、俺も自然と同じ道を歩む事になった。今は特殊な効果を持つ魔法陣を作れるか試しているところだ。

「爽真! 爽真、お願いがあるんだけど!」
「うわっ! いきなり登場すんなよ……」

 一心不乱に魔術文字を書いていたら、後ろから突然肩をたたかれた。幼なじみの莉乃だ。こいつは普段ロイウェルで暮らしているが、遠距離転移が可能なせいかちょくちょくブルギーニュへやってくる。どうせまたくだらない用事だろう。
 冷め切った俺に構うことなく、莉乃は興奮した様子で話しかけてくる。

「魔法陣ってさ、ずっと同じ温度を保つ装置とかも作れるんでしょ?」

「作れるけど。すでに冷蔵庫みたいな魔道具もあるし……。公爵様の城にも同じような魔道具あっただろ?」

「あるけど、今回は別のものがほしいんだよね。ずっと四十度ぐらいの温度を保つ装置を作ってほしい!」

「……なんで?」

 俺の頭の中にはすでにアレだろうなという予想がついていた。でも一応きいといてやる。

「納豆が食べたいッ! もう我慢の限界なんです……ッ!」

「うわ、マジでくだらねぇ用事じゃねえか……。おまえそこはせめてヨーグルトって言っとけよ」

「酸っぱい系の食べ物はもういい。私は日本食に飢えている! 納豆が……白っぽくなるまでかき混ぜた納豆に、醤油を垂らして食べたいんだよ……!!」

「東大陸に納豆に似たやつあっただろ? アレじゃ駄目なのかよ」

「アレ乾いてたじゃん。あれじゃ甘納豆だよ……。甘納豆で糸が引けると思う?」

 莉乃は遠い目をしながら言った。心なしか表情にも哀愁を感じるし、反語を使うほど納豆に飢えているのか。

「でも納豆、臭いだろ。発酵してる間にも匂いを放つんじゃねぇの? 公爵様いっぱい犬飼ってるし、嫌がられそうな気もするけどな」

「……分かってるよ。親ビンたちにも迷惑かけらんないし、ターニア様のとこで納豆を作るつもり。ハル様に臭いって言われたら、私だってショックだし……」

「ターニア様のとこで納豆……地雷じゃねぇ? 下手したら破門されそうな予感がするぜ……」

 莉乃にとっては破門よりも公爵様に嫌われない事のほうが重要なのか。こいつも鈍いなりに少しは公爵様の好意に気づき始めたのか?

「しょうがねぇなあ……。作ってやるよ。冷蔵庫を改造すりゃすぐに出来んだろ」

「本当!? ありがと! 納豆が出来たら爽真にも分けてあげるね!」

 莉乃は嬉しそうに言って転移し、俺はすぐに納豆装置を作り始めた。冷蔵庫用の魔法陣を書き換えるだけだから、三日もすれば出来上がるだろう。

 一週間後、莉乃は俺が作った納豆装置を持って東大陸へ転移した。小型の冷蔵庫ぐらいの大きさだから、部屋の隅に置いてこっそり発酵させるつもりだと言っていた。


 しかしやっぱりターニア様にバレて「臭い」と大目玉をくらったらしく、納豆装置は何故か俺のところへ戻ってきた。今も発酵中で、部屋の中が異常に納豆臭い。そのため大急ぎで匂いを封じる魔道具を作っているところだ。

「俺の役目って、勇者の尻拭いなのかよ……」

 俺はひとり、納豆臭い部屋で呟いたのだった。
しおりを挟む
感想 47

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(47件)

ai
2022.12.06 ai

めっちゃ最高に良かったー!!
幼なじみとくっつかず、ハルさんとで良かった!素敵なお話をありがとうございます!

千堂みくま
2022.12.07 千堂みくま

楽しんでいただけたようで良かったです。
感想ありがとうございました!

解除
Dominique
2022.06.01 Dominique

いやあ~、笑った笑った!(主にペエ、ペエいってるとことか)
異世界モノで、もふもふと一緒にというのはけっこうあると思うんですが、自分がもふもふってあまりないですよね
普通の犬猫だったら、意地悪な人や天敵にひどい目にあわされる機会もあるかもしれませんが、聖獣ならほぼ大丈夫そうだし
これが男性作者が書いたもので爽真視点でだったら、自分が勇者でお姫様とデキて‥となって非常につまんないストーリーになってたかもしれません
女性の作者様が書いてくださって本当によかった
楽しい作品をありがとうございました!これからもどうぞ頑張ってください!応援してます!

千堂みくま
2022.06.01 千堂みくま

ありがとうございます〜! 読んで笑ってもらうのが目的だったので非常に嬉しい(笑)
動物視点のモフモフものが読みたくて、自分で書いてみたのです。笑って貰えてよかったー
感想ありがとうございます m(_ _)m

解除
mico
2022.04.28 mico

面白かったです‼️
今日みつけたのですが、
思わず一気読みしてしまいました。

ロンダさんの前髪のところは
声を出して笑ってしまいました~✴️

すごく読みやすかったですし、
(リノが)楽しくて
(ぺぺが)かわいい物語でした💖

素敵なお話、ありがとうございます🎵

千堂みくま
2022.04.28 千堂みくま

よくぞ見つけてくれました…! しかも感想まで書いてくれるなんて本当に嬉しい! ありがとうございます〜

解除

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。