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第二部 人間に戻りました
48 衝撃のプレゼント
しおりを挟む ヘロヘロになったレゲ爺さんの回復を一週間ほど待ち、いよいよ明日、南大陸へ帰ることになった。
ターニア様は別人のように優しくなり、ハル様たちを魔法院に泊めてもいいと言ってくれたので、私たちは皆でのんびりと過ごしている。別れの挨拶をするために、ロンダさんにも来てもらった。
今は私とロンダさん、ティティンさんの三人でお茶を飲んでいるところだ。ハル様たちは旅立ちの準備をしていて、ターニア様はレゲ爺さんとの別れを惜しんでいるとの事だった。あの二人、ちゃんと離れられるんだろうか。
「ロンダさん、教員試験合格おめでとうございます」
「良かったね! ロンダさん!」
「ありがとう。リノがチャンスをくれたからね……。それにターニア様も、魔法士の資格をアタシに戻してくれたから」
私がロンダさんを魔法院に呼びたいと言っても、ターニア様は嫌がったりしなかった。それどころか、魔法院から追放して悪かったとロンダさんに謝罪したのだ。そっけない口調ではあったけども。
「ターニア様の変わりっぷりには正直ビックリです……。そんなにレゲ爺さんのこと好きだったのかな」
「よほど賢者レゲリュクスに想いが通じたのが嬉しかったのでしょうね。最近のターニア様は恋をした少女のようで可愛らしいです。でもリノさんが帰ってしまうのは寂しいわ……。リノさん、また魔法院へ来てくださいね」
「勿論です! まだ薬術について学びたい事があるから、ちょくちょく来ますね!」
ターニア様は私を東大陸に縛りつけるつもりはないらしく、勉強のためにときどき南大陸から転移で通う事を許してくれた。
ロイウェルはまだまだ魔法士不足だし、傷に効くようないい薬はあまりない。私がここで学んだ薬術はきっと役に立つはずだ。
なんて考えていると、私をじっと見ていたロンダさんが、急にニヤッと笑って話しかけてきた。
「リノってやっぱりロイウェルに帰るんだよね?」
「そりゃ帰りますよ。私はハル様とセル様のために働こうと思ってるし」
「やだわ、働くのではないでしょう。公爵様のお嫁さんになるために帰るんでしょう?」
「ぶフォッ!」
ティティンさんが朗らかな口調で当然のように言うので、熱いお茶を思いっきり口に入れてしまった。
あっつぅ!
「あっ、あちち! ちょ、いきなり変なこと……!」
「変じゃないですよ。だってあの方、リノさんと婚約するって高らかに宣言してましたもの」
「アタシの家に来た時から、そういう雰囲気あったけどねぇ……。あーこの人、リノに気があるなあって思ってた。記憶がないのに好きなんて、すんごくロマンチックよね。あぁ羨ましい! 幸せになってね!」
「し、幸せにって……。そりゃハル様のことは嫌いじゃないけど……」
ハル様は呪術から解けたばかりで、精神が混乱していた可能性もある。あるいは夢の中で出会った私に懐かしさでも感じて口走ってしまっただけ――なんて考えているとドアがノックされて、どやどやと爽真たちが入ってきた。
「ロンダさん、合格おめでとう! いやー、俺たちもやっと仕事が終わったぜ。……っていうか、俺はネネリムの商売に付き合わされたんだけど」
「首輪はお陰さまで完売しました。やっぱり東大陸でもヒットしましたね! ソーマ様の商売人魂、しかと目に焼き付けましたよ。素晴らしい売りっぷりでした……! 先生に頼んで、ソーマ様も弟子にしてもらいましょう!」
「嬉しくねぇッ……!」
呻きながら震える爽真の後ろからハル様が出てきた。やっぱり赤い顔をしていて、椅子に座る私の横に来たかと思うといきなり床に膝をつく。そして私の左手をそっと握った。
「リ……リノに似合う指輪を、見つけてきたんだ……。嵌めてもいいか?」
「……はぁ。いいですけど」
自分から嵌めてもいいかと言ったくせに、手がぶるぶる震えている。緊張してるんだろうか。いつの間にか部屋がシンと静まり返って、皆がハル様の動きに釘付けになっていた。視線が突き刺さりそうで怖いんだけど。
ハル様は私の左手薬指にそぉっと指輪を嵌めて、満足そうに息をはいた。かなり高そうな指輪だけど、呪術を解いてくれてありがとうという意味のプレゼントかな?
「……ふぅ。指輪ぐらい贈らないと、婚約者とはいえないからな」
「えっ!? この指輪ってそういう意味!?」
「そりゃそーだろ。大人しく受けとったくせに、意味分かってなかったのかよ」
「公爵様は何時間もかかって選んでましたよ。でも指輪のサイズをちゃんと分かってるあたり、計画性を感じます。鈍い人かと思ったら、そういう所は外さないちゃっかり感と言いますか……。敵に回したら怖いタイプですね」
廊下から足音がして、ターニア様と爺さんに戻ったレゲ爺さんもやって来た。
「ロンダ、よくやりましたね。学園の魔法科から合格の知らせを聞きました」
「あっはい! ありがとうございます、ターニア様!」
ロンダさんは椅子から立ち上がり、ほとんど直角にお辞儀した。ちょっと軍隊っぽい動きだ。
ふとターニア様を見ると盛んに左手で髪をかき上げていて、どこかわざとらしいなと思って凝視すれば、美女の左手にも燦然と輝く指輪が。
「た、ターニア様……その指輪は」
「気が付きましたか。レゲリュクスが愛の証に贈ってくれたのです」
わ、わざとらしい……! 絶対見せつけたいだけだ!――と誰もが思っていただろうけど、それを口にする人間はいなかった。皆、自分の身はかわいいのだ。水虫にはなりたくない。
レゲ爺さんはハンカチで顔の汗を拭いている。
「婚約指輪を贈る代わりに、南大陸へ戻ってもいいと言ってもらえたんじゃ……」
ああ、そういう事……。
爺さんの言葉で何もかも分かってしまい、私たちはただ微笑ましくターニア様と爺さんを見守ったのだった。
ターニア様は別人のように優しくなり、ハル様たちを魔法院に泊めてもいいと言ってくれたので、私たちは皆でのんびりと過ごしている。別れの挨拶をするために、ロンダさんにも来てもらった。
今は私とロンダさん、ティティンさんの三人でお茶を飲んでいるところだ。ハル様たちは旅立ちの準備をしていて、ターニア様はレゲ爺さんとの別れを惜しんでいるとの事だった。あの二人、ちゃんと離れられるんだろうか。
「ロンダさん、教員試験合格おめでとうございます」
「良かったね! ロンダさん!」
「ありがとう。リノがチャンスをくれたからね……。それにターニア様も、魔法士の資格をアタシに戻してくれたから」
私がロンダさんを魔法院に呼びたいと言っても、ターニア様は嫌がったりしなかった。それどころか、魔法院から追放して悪かったとロンダさんに謝罪したのだ。そっけない口調ではあったけども。
「ターニア様の変わりっぷりには正直ビックリです……。そんなにレゲ爺さんのこと好きだったのかな」
「よほど賢者レゲリュクスに想いが通じたのが嬉しかったのでしょうね。最近のターニア様は恋をした少女のようで可愛らしいです。でもリノさんが帰ってしまうのは寂しいわ……。リノさん、また魔法院へ来てくださいね」
「勿論です! まだ薬術について学びたい事があるから、ちょくちょく来ますね!」
ターニア様は私を東大陸に縛りつけるつもりはないらしく、勉強のためにときどき南大陸から転移で通う事を許してくれた。
ロイウェルはまだまだ魔法士不足だし、傷に効くようないい薬はあまりない。私がここで学んだ薬術はきっと役に立つはずだ。
なんて考えていると、私をじっと見ていたロンダさんが、急にニヤッと笑って話しかけてきた。
「リノってやっぱりロイウェルに帰るんだよね?」
「そりゃ帰りますよ。私はハル様とセル様のために働こうと思ってるし」
「やだわ、働くのではないでしょう。公爵様のお嫁さんになるために帰るんでしょう?」
「ぶフォッ!」
ティティンさんが朗らかな口調で当然のように言うので、熱いお茶を思いっきり口に入れてしまった。
あっつぅ!
「あっ、あちち! ちょ、いきなり変なこと……!」
「変じゃないですよ。だってあの方、リノさんと婚約するって高らかに宣言してましたもの」
「アタシの家に来た時から、そういう雰囲気あったけどねぇ……。あーこの人、リノに気があるなあって思ってた。記憶がないのに好きなんて、すんごくロマンチックよね。あぁ羨ましい! 幸せになってね!」
「し、幸せにって……。そりゃハル様のことは嫌いじゃないけど……」
ハル様は呪術から解けたばかりで、精神が混乱していた可能性もある。あるいは夢の中で出会った私に懐かしさでも感じて口走ってしまっただけ――なんて考えているとドアがノックされて、どやどやと爽真たちが入ってきた。
「ロンダさん、合格おめでとう! いやー、俺たちもやっと仕事が終わったぜ。……っていうか、俺はネネリムの商売に付き合わされたんだけど」
「首輪はお陰さまで完売しました。やっぱり東大陸でもヒットしましたね! ソーマ様の商売人魂、しかと目に焼き付けましたよ。素晴らしい売りっぷりでした……! 先生に頼んで、ソーマ様も弟子にしてもらいましょう!」
「嬉しくねぇッ……!」
呻きながら震える爽真の後ろからハル様が出てきた。やっぱり赤い顔をしていて、椅子に座る私の横に来たかと思うといきなり床に膝をつく。そして私の左手をそっと握った。
「リ……リノに似合う指輪を、見つけてきたんだ……。嵌めてもいいか?」
「……はぁ。いいですけど」
自分から嵌めてもいいかと言ったくせに、手がぶるぶる震えている。緊張してるんだろうか。いつの間にか部屋がシンと静まり返って、皆がハル様の動きに釘付けになっていた。視線が突き刺さりそうで怖いんだけど。
ハル様は私の左手薬指にそぉっと指輪を嵌めて、満足そうに息をはいた。かなり高そうな指輪だけど、呪術を解いてくれてありがとうという意味のプレゼントかな?
「……ふぅ。指輪ぐらい贈らないと、婚約者とはいえないからな」
「えっ!? この指輪ってそういう意味!?」
「そりゃそーだろ。大人しく受けとったくせに、意味分かってなかったのかよ」
「公爵様は何時間もかかって選んでましたよ。でも指輪のサイズをちゃんと分かってるあたり、計画性を感じます。鈍い人かと思ったら、そういう所は外さないちゃっかり感と言いますか……。敵に回したら怖いタイプですね」
廊下から足音がして、ターニア様と爺さんに戻ったレゲ爺さんもやって来た。
「ロンダ、よくやりましたね。学園の魔法科から合格の知らせを聞きました」
「あっはい! ありがとうございます、ターニア様!」
ロンダさんは椅子から立ち上がり、ほとんど直角にお辞儀した。ちょっと軍隊っぽい動きだ。
ふとターニア様を見ると盛んに左手で髪をかき上げていて、どこかわざとらしいなと思って凝視すれば、美女の左手にも燦然と輝く指輪が。
「た、ターニア様……その指輪は」
「気が付きましたか。レゲリュクスが愛の証に贈ってくれたのです」
わ、わざとらしい……! 絶対見せつけたいだけだ!――と誰もが思っていただろうけど、それを口にする人間はいなかった。皆、自分の身はかわいいのだ。水虫にはなりたくない。
レゲ爺さんはハンカチで顔の汗を拭いている。
「婚約指輪を贈る代わりに、南大陸へ戻ってもいいと言ってもらえたんじゃ……」
ああ、そういう事……。
爺さんの言葉で何もかも分かってしまい、私たちはただ微笑ましくターニア様と爺さんを見守ったのだった。
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