【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま

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第二部 人間に戻りました

47 ハル様暴走する

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「セル様のお名前は、セルディス・フォース・ラルトゥアークです!」

「そうだ。とても美しい名前だろう? 俺にとって弟は宝物なんだ。あいつに可愛い花嫁が来るのが今から楽しみで……」

 ハル様は娘を持つ父親のようなことをしみじみと言って急に口を閉ざし、私をじっと見つめた。何か考え込んでいる。

「おまえは変だけど優しい奴みたいだから、セルディスの妻になってもいい…………いや、駄目だな。何だかそれは嫌だ」

「えっ……駄目なんですか?」

「駄目だ」
 えええ。私って信頼されてない?
 がっくりうな垂れていると、ふいにハル様がその言葉を口にした。

「――ペペ」
「…………え? なんて!?」
 まさか思い出した?
 ハル様は腕を組んで、不思議そうに首を傾げている。

「何でおまえにペペなんて言ってしまったんだろう……?」
「ハサミ効果です! さぁ、蛇を切らせてください!」
「お、おい」

 戸惑うハル様に構うことなく、蛇にハサミを入れた。シャーッと口を開けて噛みつこうとしてくるけど、実体がないから噛まれても痛くない。えい!と力を入れて切った。

「よぉし。ますます薄くなった。あと一回切れば……もしもし? ハル様?」

 あと一回で終わりそうなのに、ハル様は私の右手首を握って真っ赤な顔をしている。いつの間にか高校生時代は終わり、今のハル様に近づいたみたいだ。

「や、やめてくれ……。これを切られたら、俺はとんでもなく恥ずかしい事を思い出しそうな気がする。耐えられるか自信がない!」

「恥ずかしい事なんてしてないから大丈夫! 切りますね!」

 まぁ正直いって、ハル様の恥ずかしい事なんて私は存じ上げません。さっさと切ってしまおう。見切り発車的に蛇にハサミを入れると、とぐろを巻いていた蛇はするすると地面に落ちて消えてしまった。

「やったぁ……! 呪いが解けましたよ、ハル様! ……ハル様?」

 ハル様は地面に膝をついて頭を抱えている。私もしゃがみ込んでハル様の顔を覗きこむと、耳どころか首の後ろまで真っ赤だった。

「ハル様、真っ赤です」

「真っ赤にもなるだろ……! 俺はリノがペペだった頃、一緒にふ……風呂に入ったし……! 記憶を失ってからは堂々と抱きしめたりして! なんて破廉恥なんだ!」

 今どき『破廉恥』って言葉使う人いるんだ。ちょっと新鮮。

「気にしなくていいですよ。ハル様は私のご主人様なんだから……。一生守ってあげますね」

「いっ、一生……!?」

 何故かますます赤くなった。このままじゃ爆発しそうだと思っていたら、ハル様は私の手をぎゅっと握った。

「リノの気持ちは分かった。俺もリノの事は、す……好きだ。ちゃんと責任は取る」

「……? とりあえず戻りましょう?」

 砂時計の砂はもうギリギリで、今にも無くなってしまいそうだ。私はハル様と手を繋いだまま、戻りたいと強く念じた。体がふわりと浮かび、上にぽっかりと空いた光の穴に吸い込まれる。眩しくて目を閉じたけど、次に開けたときにはターニア様とティティンさんの顔が見えた。

「うまくやったようですね。呪術は解けています」
「お帰りなさい」
「良かった……! 成功したんだ! ハル様は……!?」

 繋いだはずの手は解けていて、ハル様の顔はやっぱり赤かった。彼は体を起こすと私の手を握り、ターニア様とティティンさんに深々と頭を下げる。

「本当に世話になった。感謝する。俺は……俺はやっと、大切なものを思い出した」

「記憶が戻ったみてーだけど、ちょっと様子が変だな。急にどうしたんだろ?」

「異様に顔が赤いですね。リノ様がペペだった頃の事を思い出して、頭がパンク状態なんでしょうか」

「ワシ……もう疲れた……」

 レゲ爺さんは相変わらず弱っており、ネネさんに不味そうな物を無理やり飲まされている。爽真とネネさんが怪訝そうにする中、ハル様は迷う様子もなく私の手を握ったまま高らかに宣言した。

「俺はリノと婚約しようと思う。リノは一生俺を守ってくれると言った。俺もリノの誠意に応えたい」

「…………ほえ?」

「まぁあ……! おめでとう、リノさん!」

 ティティンさんが感極まった声で呟くと、部屋の中にパチパチと拍手が広がった。え、何この雰囲気。

「ようやくここまで来たかー。長かったよなぁ」

「公爵様にしては思い切った発言ですねぇ。いかにも一大決心という感じです」

 呆然としたまま爽真とネネさんのコメントを聞いていると、いきなりターニア様が熱っぽい声で言った。

「羨ましいわ……! レゲリュクス! わたくし達も婚約を発表しましょう!」

「い、今さら!? ワシ達の年で婚約なんぞおかしいわい!」

 レゲ爺さんは明らかに怯えた様子で壁に背中を貼りつかせたけど、ターニア様は気にする様子もなく爺さんをぎゅうっと抱きしめた。首がしまった爺さんが「ぐえっ」と呻いている。

「何もおかしくないわ。あなたに再会してやっと分かったのよ……。恋は何歳になっても素晴らしいものだって! 今までのわたくしが間違っていたわ」

「も……だめぽ……」

 それだけ言うと爺さんはガクッと失神し、ターニア様は爺さんを軽々とお姫さま抱っこした。もちろん私に爺さんを気遣う余裕はなかった。
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