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第二部 人間に戻りました
46 ハル様の夢の中2
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「もうちょっと切らせてくださ……あ、あれ? ハル様?」
「時間切れだ。また別の場所で会おうぜ」
せっかく蛇を消すことができそうなのに、ハル様の姿も草原も足元からすぅーっと消えていく。
「えーっ、そんなぁ! ちょっまっ、ああ……」
また景色が暗闇になり、ハサミを宙に突き出す私だけが残された。虚しいし恥ずかしい。砂時計を確認するとすでに三分の一は落ちていて、あまり余裕はなさそうだ。
(あと何回こういうゲームを繰り返すんだろう。間に合うのかな……)
不安になっていると後ろからコツコツと足音がして、横に誰かが立つ気配がした。何者かと思えば今度は成長したハル様で、だいたい高校生ぐらいに見える。
「うわぁ……。急に大きくなっちゃった」
「誰だ、おまえは。南大陸ではあまり見ない顔だな。子供なのか大人なのか……どっちだ?」
無自覚に失礼なことを言って、少し離れた場所からまじまじと私を見ている。高校男子の首にはやっぱり蛇が巻きついていたけど、色は薄くなったままだ。さっき切った効果はちゃんと残っている。
「私はその蛇を切りにきた者です。さぁ、切らせてください!」
びしっとハサミを突きつけるとハル様は少し怯んだ様子だった。また変な女だと思われてそう。
「お、おまえ……ヤバイ女だな。ハサミを振り回す女に出会ったのは初めてだ」
変な女どころか、ヤバイ女認定されている。ターニア様、どうしてハサミにしたんですか。別の道具は無理だったんですか。
「あなたは呪いに掛かっています。私がその呪いを解いてあげましょう……!」
「他人に呪いだとか言う奴に限って、自分が呪いに掛かっているんだ。狂人は自分が狂っていると気づかないらしいぞ」
「ぐふぅッ……!」
ハル様の言葉は容赦なく私の胸にぐさぐさと突き刺さった。良心から助けにきたつもりなのに、完全に誤解されてる。
「本当の、本当に、助けに来たんですよぉ……! お願いだから信じて」
「……そうなのかもな。少し前からこの蛇のせいで調子が悪いんだ。体は思い通りに動かないし、誰かのことを忘れているような気がする……。おまえなら俺を助けられるのか?」
「はい、きっと!」
「じゃあ俺の問いに答えてみせろ。俺の名はなんだ? 全部言えよ」
「へっ? えーと……ハ、ハルディア・アステリ・ラルトゥアーク?」
「正解」
急にクイズ形式になってしまった。正解した私にハル様は満足げに拍手している。なんと言うか、新たなハル様を発見した気分だった。
「次の問題。今年生まれた俺の弟の名前は?」
「うっ……セ、セルディス?」
「不正解。全部言えないと合格できないぞ」
何の合格? ラルトゥアーク検定?
首をかしげていると私とハル様の前にふっと映像が浮かび、四人の親子が見えた。嬉しそうに赤ちゃんを抱っこする女性と、愛おしそうに見ている男性、そしてハル様だ。
(ハル様ってお父さん似だったんだ……)
生まれたばかりの赤ちゃんは銀髪と青い目で、セル様のようだった。お父様はハル様が年を取ったようなダンディさがあり、お母様は意外なほど小柄だった。私ぐらい小さいかもしれない。金髪の優しそうな顔をした女性だ。
「セル様が生まれた時の様子ですか?」
「ああ。本当は子供が二人欲しかったのに、なかなか生まれなくて父上と母上は悩んでいた。やっと授かった子供だからそれは喜んでな……。屋敷中が祭りのように大騒ぎだった」
お父様とお母様は話し合い、セル様に『セルディス・フォース・ラルトゥアーク』と名付けたようだ。急に画面が変わり、泣いているセル様をハル様が抱きしめている。
「……幸せだったのに、事故が起こって……父上と母上は死んだ。俺は王都にいたから何も知らなかった。俺だけが、痛みも苦しみも知らずに無事だったんだ……」
ハル様の声には後悔とエリック王子に対する憎しみが篭っていた。
泣いているセル様は頭も体も包帯だらけで、腕は骨折しているのか、添え木で固定してある。守ってもらったセル様があれだけ大怪我を負っているなら、盾になったお父様とお母様がどうなったかは考えるまでもない。
「ハル様……」
「なんだよ。どうしておまえが泣くんだ?」
「私は……ハル様の邪魔をしちゃったから……」
霊山でハル様は私に感謝していると言ってくれたけど、今のハル様はあの時のことを忘れている。エリック王子のことは消してやりたいと考えているはずだ。でも過去には戻れない。
「邪魔をしちゃった分、一生ハル様のために尽くします。私の人生はハル様に捧げますから!」
「だ、大胆だな……」
ハル様はボソッと言って頬を赤らめた。何か勘違いしている様子だけど、とにかく今は自分に出来ることをやろう。
「時間切れだ。また別の場所で会おうぜ」
せっかく蛇を消すことができそうなのに、ハル様の姿も草原も足元からすぅーっと消えていく。
「えーっ、そんなぁ! ちょっまっ、ああ……」
また景色が暗闇になり、ハサミを宙に突き出す私だけが残された。虚しいし恥ずかしい。砂時計を確認するとすでに三分の一は落ちていて、あまり余裕はなさそうだ。
(あと何回こういうゲームを繰り返すんだろう。間に合うのかな……)
不安になっていると後ろからコツコツと足音がして、横に誰かが立つ気配がした。何者かと思えば今度は成長したハル様で、だいたい高校生ぐらいに見える。
「うわぁ……。急に大きくなっちゃった」
「誰だ、おまえは。南大陸ではあまり見ない顔だな。子供なのか大人なのか……どっちだ?」
無自覚に失礼なことを言って、少し離れた場所からまじまじと私を見ている。高校男子の首にはやっぱり蛇が巻きついていたけど、色は薄くなったままだ。さっき切った効果はちゃんと残っている。
「私はその蛇を切りにきた者です。さぁ、切らせてください!」
びしっとハサミを突きつけるとハル様は少し怯んだ様子だった。また変な女だと思われてそう。
「お、おまえ……ヤバイ女だな。ハサミを振り回す女に出会ったのは初めてだ」
変な女どころか、ヤバイ女認定されている。ターニア様、どうしてハサミにしたんですか。別の道具は無理だったんですか。
「あなたは呪いに掛かっています。私がその呪いを解いてあげましょう……!」
「他人に呪いだとか言う奴に限って、自分が呪いに掛かっているんだ。狂人は自分が狂っていると気づかないらしいぞ」
「ぐふぅッ……!」
ハル様の言葉は容赦なく私の胸にぐさぐさと突き刺さった。良心から助けにきたつもりなのに、完全に誤解されてる。
「本当の、本当に、助けに来たんですよぉ……! お願いだから信じて」
「……そうなのかもな。少し前からこの蛇のせいで調子が悪いんだ。体は思い通りに動かないし、誰かのことを忘れているような気がする……。おまえなら俺を助けられるのか?」
「はい、きっと!」
「じゃあ俺の問いに答えてみせろ。俺の名はなんだ? 全部言えよ」
「へっ? えーと……ハ、ハルディア・アステリ・ラルトゥアーク?」
「正解」
急にクイズ形式になってしまった。正解した私にハル様は満足げに拍手している。なんと言うか、新たなハル様を発見した気分だった。
「次の問題。今年生まれた俺の弟の名前は?」
「うっ……セ、セルディス?」
「不正解。全部言えないと合格できないぞ」
何の合格? ラルトゥアーク検定?
首をかしげていると私とハル様の前にふっと映像が浮かび、四人の親子が見えた。嬉しそうに赤ちゃんを抱っこする女性と、愛おしそうに見ている男性、そしてハル様だ。
(ハル様ってお父さん似だったんだ……)
生まれたばかりの赤ちゃんは銀髪と青い目で、セル様のようだった。お父様はハル様が年を取ったようなダンディさがあり、お母様は意外なほど小柄だった。私ぐらい小さいかもしれない。金髪の優しそうな顔をした女性だ。
「セル様が生まれた時の様子ですか?」
「ああ。本当は子供が二人欲しかったのに、なかなか生まれなくて父上と母上は悩んでいた。やっと授かった子供だからそれは喜んでな……。屋敷中が祭りのように大騒ぎだった」
お父様とお母様は話し合い、セル様に『セルディス・フォース・ラルトゥアーク』と名付けたようだ。急に画面が変わり、泣いているセル様をハル様が抱きしめている。
「……幸せだったのに、事故が起こって……父上と母上は死んだ。俺は王都にいたから何も知らなかった。俺だけが、痛みも苦しみも知らずに無事だったんだ……」
ハル様の声には後悔とエリック王子に対する憎しみが篭っていた。
泣いているセル様は頭も体も包帯だらけで、腕は骨折しているのか、添え木で固定してある。守ってもらったセル様があれだけ大怪我を負っているなら、盾になったお父様とお母様がどうなったかは考えるまでもない。
「ハル様……」
「なんだよ。どうしておまえが泣くんだ?」
「私は……ハル様の邪魔をしちゃったから……」
霊山でハル様は私に感謝していると言ってくれたけど、今のハル様はあの時のことを忘れている。エリック王子のことは消してやりたいと考えているはずだ。でも過去には戻れない。
「邪魔をしちゃった分、一生ハル様のために尽くします。私の人生はハル様に捧げますから!」
「だ、大胆だな……」
ハル様はボソッと言って頬を赤らめた。何か勘違いしている様子だけど、とにかく今は自分に出来ることをやろう。
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