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第二部 人間に戻りました
40 再会
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私とティティンさんは逃げるようにターニア様の部屋から出た。鬼と対峙したぐらいの恐怖だったのに、ティティンさんは楽しげに笑っている。
「やっぱりリノさんといると楽しいわ。活気があります」
「活気ってレベルじゃなかったですよ……。生か死かみたいなギリギリ感でしたよ」
どうやらティティンさんは怖いもの見たさ的な楽しさを見出してしまったらしい。恐怖は楽しさのスパイス。怖くないと楽しくない、みたいな。今までどれだけ退屈してたんだろう。
(今はとにかくハル様たちに会いに行かなくちゃ。追い返されたら、会う方法がなくなっちゃう)
廊下を早足で進み、魔法院の転移門を目指すとなぜかティティンさんまでついて来る。
「ティティンさん? どうして一緒に来るんですか?」
「楽しそうな事が起こってますから。わたしもご一緒しますね」
「はぁ」
まぁいいか。ティティンさんにハル様の呪いを見てもらおう。
私とティティンさんは一緒に転移門に飛び込んだ。出た先は王宮の門の前で、すでに誰もいなくなっている――が、少し離れた噴水のところで話し合うハル様たちを発見。
「ハル様ぁ! 爽真、ネネさぁん!」
「莉乃!?」
「リノ!」
私はダダッと駆け出して、ハル様に抱きつこうとした。が、今の私はペペではないし、ハル様は私を忘れている。
(あ、危なぁ。ペペの時の感覚で抱きついちゃうところだった……!)
慌てて足に急ブレーキをかけたけれど、なぜかハル様は真っすぐに突っ込んで来て私をぎゅうっと抱きしめた。
「無事だったんだな……! 心配したぞ」
「ひゃ、ひゃいっ」
はががが。つま先が宙に浮いている。心臓が爆発しそうになって、しかもなんだか恥ずかしくて、ぎこちなく周りを見ると生ぬるい目をした爽真に気がついた。急速に頭が冷えた。
「は、ハル様……あの、そろそろ降ろしてください」
「……あっ、すまん。リノを見たら体が勝手に動いて……。でも元気そうで良かった」
ホッとしたように言うから、私まで泣きそうになってしまう。何の手がかりもない私を探すのはかなり大変だったと思うのに、ちゃんと探しに来てくれたんだ。
「こちらの女性はどなたですか? リノ様と同じ衣装を着てらっしゃいますね」
「あ、この人はティティンさんです。私と一緒にターニア様の弟子をしてる人で……」
自然と自己紹介する流れになり、私たちはお互いに顔と名前を覚えあった。ティティンさんはハル様の首の辺りを怪訝そうに見て、呪術ですねと呟いている。
「ティティンさんには見えるんですか?」
「ハッキリとではないですが、黒いモヤが巻きついているのが見えます。ここまで邪悪で重たい呪術は初めて見ました。禁呪ですね」
「ネネリムも言ってたけど、禁呪ってなんすか? 禁止されてる呪術のこと?」
「禁呪というのは禁じられた呪法――呪術と魔法のことで、呪術以外の魔法もいくつか定められています。錬金魔法でいえば、生物に関する錬金は全ての魔法院で禁止されています」
「公爵様に掛けられた精神に作用する呪術は禁呪ですが、呪術はとにかく種類が多くて、世界中の魔法院でも全てを把握しきれないんですよ」
「そうです。日々新たな呪術が作られているので、全部を禁止するのは無理なのです。まぁ大抵どうという事もない呪術ですが……公爵様に掛けられたものは難しそうですね。やっぱりターニア様が……」
ティティンさんは言いかけて口をつぐんだ。激怒していたターニア様がハル様を助けてくれるわけがないと分かっているからだ。
「俺たちもそのターニア様に会おうとしたんだけどさ、入城は許さん!て怒られたんだよな。何が駄目だったんだろ?」
「ターニア様はハル様を入れたら魔法院の空気が穢れるって言ってたよ。それでケンカになっちゃってさ、私はハル様の呪いを解くためにここにいるんだ!って言ったら余計に怒られちゃった。おまえは男のために薬術を学んでいるのですか、って」
「ターニア様は魔法を学ぶ姿勢にもの凄くこだわりがあるようです。わたしを弟子にする際も、どうして魔法士を志したのか一時間以上問い詰められました。男の影をちらつかせたら即追放されていたと思います」
「いっ一時間……! 即追放って!」
完全に尋問だ。どうしてそこまで男の影を排除するのか。ここの魔法院って恋愛禁止?
ネネさんが何かを思いついたように右手をひょいと上げた。
「これは私の勘ですが、ターニア様と先生は過去に何かあったと思われます。二人は南大陸の魔法学校で学ぶ同級生だったそうで、しかも常に一位と二位を争っていたとか」
「うひょー。賢者レゲ、美女と仲良かったのかよ」
「そこが問題なんです。良きライバルだったのか、それとも憎しみあう仲だったのか……。先生は普通の同級生だと思っていた様子ですが、ターニア様はそうではなかったのかもしれません。東大陸に渡ったぐらいですし」
「しかし、成績で負けたぐらいで全ての男を憎むのはどうだろう……。やりすぎな気もするが」
「あっそうだわ」
ティティンさんが何かを思い出した様子でぽんと両手を合わせた。
「ターニア様の部屋の本棚に、魔法学校のアルバムが入っているのを見ました。憎み合っていたとすれば、そんな物は処分しているのではないでしょうか?」
「……そうか、逆だな! きっとターニア様は賢者レゲが好きだったんだよ! でも俺は賢者を目指すから、おまえとは付き合えないとか何とか言われたんじゃねえ?」
「その線が濃厚ですかね。でもまぁ、本人に話を聞くのが一番でしょう。――というわけで、リノ様」
「……へっ? な、なんですか」
「やっぱりリノさんといると楽しいわ。活気があります」
「活気ってレベルじゃなかったですよ……。生か死かみたいなギリギリ感でしたよ」
どうやらティティンさんは怖いもの見たさ的な楽しさを見出してしまったらしい。恐怖は楽しさのスパイス。怖くないと楽しくない、みたいな。今までどれだけ退屈してたんだろう。
(今はとにかくハル様たちに会いに行かなくちゃ。追い返されたら、会う方法がなくなっちゃう)
廊下を早足で進み、魔法院の転移門を目指すとなぜかティティンさんまでついて来る。
「ティティンさん? どうして一緒に来るんですか?」
「楽しそうな事が起こってますから。わたしもご一緒しますね」
「はぁ」
まぁいいか。ティティンさんにハル様の呪いを見てもらおう。
私とティティンさんは一緒に転移門に飛び込んだ。出た先は王宮の門の前で、すでに誰もいなくなっている――が、少し離れた噴水のところで話し合うハル様たちを発見。
「ハル様ぁ! 爽真、ネネさぁん!」
「莉乃!?」
「リノ!」
私はダダッと駆け出して、ハル様に抱きつこうとした。が、今の私はペペではないし、ハル様は私を忘れている。
(あ、危なぁ。ペペの時の感覚で抱きついちゃうところだった……!)
慌てて足に急ブレーキをかけたけれど、なぜかハル様は真っすぐに突っ込んで来て私をぎゅうっと抱きしめた。
「無事だったんだな……! 心配したぞ」
「ひゃ、ひゃいっ」
はががが。つま先が宙に浮いている。心臓が爆発しそうになって、しかもなんだか恥ずかしくて、ぎこちなく周りを見ると生ぬるい目をした爽真に気がついた。急速に頭が冷えた。
「は、ハル様……あの、そろそろ降ろしてください」
「……あっ、すまん。リノを見たら体が勝手に動いて……。でも元気そうで良かった」
ホッとしたように言うから、私まで泣きそうになってしまう。何の手がかりもない私を探すのはかなり大変だったと思うのに、ちゃんと探しに来てくれたんだ。
「こちらの女性はどなたですか? リノ様と同じ衣装を着てらっしゃいますね」
「あ、この人はティティンさんです。私と一緒にターニア様の弟子をしてる人で……」
自然と自己紹介する流れになり、私たちはお互いに顔と名前を覚えあった。ティティンさんはハル様の首の辺りを怪訝そうに見て、呪術ですねと呟いている。
「ティティンさんには見えるんですか?」
「ハッキリとではないですが、黒いモヤが巻きついているのが見えます。ここまで邪悪で重たい呪術は初めて見ました。禁呪ですね」
「ネネリムも言ってたけど、禁呪ってなんすか? 禁止されてる呪術のこと?」
「禁呪というのは禁じられた呪法――呪術と魔法のことで、呪術以外の魔法もいくつか定められています。錬金魔法でいえば、生物に関する錬金は全ての魔法院で禁止されています」
「公爵様に掛けられた精神に作用する呪術は禁呪ですが、呪術はとにかく種類が多くて、世界中の魔法院でも全てを把握しきれないんですよ」
「そうです。日々新たな呪術が作られているので、全部を禁止するのは無理なのです。まぁ大抵どうという事もない呪術ですが……公爵様に掛けられたものは難しそうですね。やっぱりターニア様が……」
ティティンさんは言いかけて口をつぐんだ。激怒していたターニア様がハル様を助けてくれるわけがないと分かっているからだ。
「俺たちもそのターニア様に会おうとしたんだけどさ、入城は許さん!て怒られたんだよな。何が駄目だったんだろ?」
「ターニア様はハル様を入れたら魔法院の空気が穢れるって言ってたよ。それでケンカになっちゃってさ、私はハル様の呪いを解くためにここにいるんだ!って言ったら余計に怒られちゃった。おまえは男のために薬術を学んでいるのですか、って」
「ターニア様は魔法を学ぶ姿勢にもの凄くこだわりがあるようです。わたしを弟子にする際も、どうして魔法士を志したのか一時間以上問い詰められました。男の影をちらつかせたら即追放されていたと思います」
「いっ一時間……! 即追放って!」
完全に尋問だ。どうしてそこまで男の影を排除するのか。ここの魔法院って恋愛禁止?
ネネさんが何かを思いついたように右手をひょいと上げた。
「これは私の勘ですが、ターニア様と先生は過去に何かあったと思われます。二人は南大陸の魔法学校で学ぶ同級生だったそうで、しかも常に一位と二位を争っていたとか」
「うひょー。賢者レゲ、美女と仲良かったのかよ」
「そこが問題なんです。良きライバルだったのか、それとも憎しみあう仲だったのか……。先生は普通の同級生だと思っていた様子ですが、ターニア様はそうではなかったのかもしれません。東大陸に渡ったぐらいですし」
「しかし、成績で負けたぐらいで全ての男を憎むのはどうだろう……。やりすぎな気もするが」
「あっそうだわ」
ティティンさんが何かを思い出した様子でぽんと両手を合わせた。
「ターニア様の部屋の本棚に、魔法学校のアルバムが入っているのを見ました。憎み合っていたとすれば、そんな物は処分しているのではないでしょうか?」
「……そうか、逆だな! きっとターニア様は賢者レゲが好きだったんだよ! でも俺は賢者を目指すから、おまえとは付き合えないとか何とか言われたんじゃねえ?」
「その線が濃厚ですかね。でもまぁ、本人に話を聞くのが一番でしょう。――というわけで、リノ様」
「……へっ? な、なんですか」
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