【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま

文字の大きさ
上 下
105 / 115
第二部 人間に戻りました

40 再会

しおりを挟む
 私とティティンさんは逃げるようにターニア様の部屋から出た。鬼と対峙したぐらいの恐怖だったのに、ティティンさんは楽しげに笑っている。

「やっぱりリノさんといると楽しいわ。活気があります」
「活気ってレベルじゃなかったですよ……。生か死かみたいなギリギリ感でしたよ」

 どうやらティティンさんは怖いもの見たさ的な楽しさを見出してしまったらしい。恐怖は楽しさのスパイス。怖くないと楽しくない、みたいな。今までどれだけ退屈してたんだろう。

(今はとにかくハル様たちに会いに行かなくちゃ。追い返されたら、会う方法がなくなっちゃう)

 廊下を早足で進み、魔法院の転移門を目指すとなぜかティティンさんまでついて来る。

「ティティンさん? どうして一緒に来るんですか?」
「楽しそうな事が起こってますから。わたしもご一緒しますね」
「はぁ」

 まぁいいか。ティティンさんにハル様の呪いを見てもらおう。
 私とティティンさんは一緒に転移門に飛び込んだ。出た先は王宮の門の前で、すでに誰もいなくなっている――が、少し離れた噴水のところで話し合うハル様たちを発見。

「ハル様ぁ! 爽真、ネネさぁん!」
「莉乃!?」
「リノ!」

 私はダダッと駆け出して、ハル様に抱きつこうとした。が、今の私はペペではないし、ハル様は私を忘れている。
(あ、危なぁ。ペペの時の感覚で抱きついちゃうところだった……!)

 慌てて足に急ブレーキをかけたけれど、なぜかハル様は真っすぐに突っ込んで来て私をぎゅうっと抱きしめた。

「無事だったんだな……! 心配したぞ」

「ひゃ、ひゃいっ」

 はががが。つま先が宙に浮いている。心臓が爆発しそうになって、しかもなんだか恥ずかしくて、ぎこちなく周りを見ると生ぬるい目をした爽真に気がついた。急速に頭が冷えた。

「は、ハル様……あの、そろそろ降ろしてください」

「……あっ、すまん。リノを見たら体が勝手に動いて……。でも元気そうで良かった」

 ホッとしたように言うから、私まで泣きそうになってしまう。何の手がかりもない私を探すのはかなり大変だったと思うのに、ちゃんと探しに来てくれたんだ。

「こちらの女性はどなたですか? リノ様と同じ衣装を着てらっしゃいますね」

「あ、この人はティティンさんです。私と一緒にターニア様の弟子をしてる人で……」

 自然と自己紹介する流れになり、私たちはお互いに顔と名前を覚えあった。ティティンさんはハル様の首の辺りを怪訝そうに見て、呪術ですねと呟いている。

「ティティンさんには見えるんですか?」

「ハッキリとではないですが、黒いモヤが巻きついているのが見えます。ここまで邪悪で重たい呪術は初めて見ました。禁呪ですね」

「ネネリムも言ってたけど、禁呪ってなんすか? 禁止されてる呪術のこと?」

「禁呪というのは禁じられた呪法――呪術と魔法のことで、呪術以外の魔法もいくつか定められています。錬金魔法でいえば、生物に関する錬金は全ての魔法院で禁止されています」

「公爵様に掛けられた精神に作用する呪術は禁呪ですが、呪術はとにかく種類が多くて、世界中の魔法院でも全てを把握しきれないんですよ」

「そうです。日々新たな呪術が作られているので、全部を禁止するのは無理なのです。まぁ大抵どうという事もない呪術ですが……公爵様に掛けられたものは難しそうですね。やっぱりターニア様が……」

 ティティンさんは言いかけて口をつぐんだ。激怒していたターニア様がハル様を助けてくれるわけがないと分かっているからだ。

「俺たちもそのターニア様に会おうとしたんだけどさ、入城は許さん!て怒られたんだよな。何が駄目だったんだろ?」

「ターニア様はハル様を入れたら魔法院の空気が穢れるって言ってたよ。それでケンカになっちゃってさ、私はハル様の呪いを解くためにここにいるんだ!って言ったら余計に怒られちゃった。おまえは男のために薬術を学んでいるのですか、って」

「ターニア様は魔法を学ぶ姿勢にもの凄くこだわりがあるようです。わたしを弟子にする際も、どうして魔法士を志したのか一時間以上問い詰められました。男の影をちらつかせたら即追放されていたと思います」

「いっ一時間……! 即追放って!」

 完全に尋問だ。どうしてそこまで男の影を排除するのか。ここの魔法院って恋愛禁止?
 ネネさんが何かを思いついたように右手をひょいと上げた。

「これは私の勘ですが、ターニア様と先生は過去に何かあったと思われます。二人は南大陸の魔法学校で学ぶ同級生だったそうで、しかも常に一位と二位を争っていたとか」

「うひょー。賢者レゲ、美女と仲良かったのかよ」

「そこが問題なんです。良きライバルだったのか、それとも憎しみあう仲だったのか……。先生は普通の同級生だと思っていた様子ですが、ターニア様はそうではなかったのかもしれません。東大陸に渡ったぐらいですし」

「しかし、成績で負けたぐらいで全ての男を憎むのはどうだろう……。やりすぎな気もするが」

「あっそうだわ」

 ティティンさんが何かを思い出した様子でぽんと両手を合わせた。

「ターニア様の部屋の本棚に、魔法学校のアルバムが入っているのを見ました。憎み合っていたとすれば、そんな物は処分しているのではないでしょうか?」

「……そうか、逆だな! きっとターニア様は賢者レゲが好きだったんだよ! でも俺は賢者を目指すから、おまえとは付き合えないとか何とか言われたんじゃねえ?」

「その線が濃厚ですかね。でもまぁ、本人に話を聞くのが一番でしょう。――というわけで、リノ様」

「……へっ? な、なんですか」
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

処理中です...