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第二部 人間に戻りました
39 男嫌いの女王様
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これも駄目、あれも駄目。
昼下がり、私は書庫に入ってひたすら呪術の本を調べていた。でもどの文献にも体に掛けられた呪術については説明があるが、ハル様のように誰かを忘れる呪いなんてどこにも記述がない。
(そう言えばネネさんがハル様の呪術を見て『禁呪』って言ってたな……。命と引き換えに掛けたとか。禁止されてるぐらいだから、簡単に手に入る本になんか書いてないのかも)
はぐれの魔法使いたちなら禁呪について書かれた怪しげな本も持っていそうだけど、キーファみたいな頭のおかしい奴らとお近づきになるなんて御免だ。お金のために呪術をかけるような奴らはきっとまともじゃない。
いつの間にか夕方になり、書庫のなかは薄暗くなってきている。ランプに火を入れようとした時、書庫の中にティティンさんがやってきた。
「リノさん、ターニア様がお呼びですよ」
「もうご飯ですか? ちょっと早いような……」
「ご飯ではありません。リノさんにお客さまが来ているのですが、それについて問題があるそうです」
「え? お客?」
誰だろう。ロンダさんだろうか。帰ると言ったくせに帰らなかったから心配しているのかもしれない。
私はティティンさんと一緒にターニア様の部屋へ向かった。ターニア様は大きな水晶玉をのぞき込んで厳しい顔をしており、その様子はまるっきり魔女だった。絶対に言わないけど。
「おまえに客が来ているようです。――が、問題が発生したため入城を拒否しました」
「拒否……やっぱりロンダさんですか?」
「ロンダではありません。これをご覧なさい」
ターニア様が水晶をずいっと差し出すので、私もそこに映った動画を見る事になった。王宮の門の辺りに十人ぐらい人が集まって何か話し合っている様子だけど、あまりいい雰囲気ではない。揉めている感じだ。
誰が来ているのかと顔を近づけた瞬間、銀髪の男性の麗しいお顔がアップになった。
「あっ、ハル様!? 来てくれたんだ……!」
嬉しくて声が震えた。目頭が熱くなり、勝手に涙が出てくる。まさかと思っていたけど、本当に迎えに来てくれるなんてめちゃくちゃ嬉しい。よく見れば、爽真とネネさんまで一緒だ。
しかし盛り上がっていた私の気分は、ターニア様の冷ややかな声で一気に冷めた。
「おまえの客は忌まわしい呪いに掛かっています。こんな人間が入ってきたら魔法院の清浄な空気が穢れる。この男に会うのは諦めなさい」
「そっそんなぁ! 確かにハル様は呪われてるけど、勝手に拒否するなんでひどいじゃないですか! 私はハル様の呪いを解くためにここにいるのに!」
思わずムカッとして叫ぶと、ターニア様のオーラが急に膨れ上がったように感じた。ターニア様の背景で炎がゴウゴウと燃えている。鬼だ。阿修羅だ!
「おまえは男のために薬術を学んでいるのですか……!」
「男とか関係ないですよ! ハル様は私の恩人なんです! 恩人の役に立ちたいと思うのは当然でしょ!?」
正直にいって私はかなりビビッていた。しかしハル様たちがわざわざ遠方から来てくれたのに、ここで引くわけには行かない。ターニア様が鬼女化しようと負けるもんか!
「今のおまえが何の役に立つというのです? 薬術士でもないおまえが――」
「お言葉ですが、ターニア様。リノさんは五種の薬をすべて完成させました。ですからわたしの権限で、彼女に薬術士の資格を与えました」
「なっ……たった一日で!? 普通は早くても半年は掛かるのに……!」
ティティンさんの報告を聞いたターニア様は、目を剥いてブルブルと震えている。マジで怖い。褒められる事をしたはずなのに、むしろ逆鱗に触れちゃったみたいな感じ。
その予感は的中し、しばらく震えていたターニア様は私に大声で叫んだ。
「とにかく呪いを受けた者の入城は許しません! 会いたいのならおまえが外に出なさい!」
「ハイッ! そうします!」
昼下がり、私は書庫に入ってひたすら呪術の本を調べていた。でもどの文献にも体に掛けられた呪術については説明があるが、ハル様のように誰かを忘れる呪いなんてどこにも記述がない。
(そう言えばネネさんがハル様の呪術を見て『禁呪』って言ってたな……。命と引き換えに掛けたとか。禁止されてるぐらいだから、簡単に手に入る本になんか書いてないのかも)
はぐれの魔法使いたちなら禁呪について書かれた怪しげな本も持っていそうだけど、キーファみたいな頭のおかしい奴らとお近づきになるなんて御免だ。お金のために呪術をかけるような奴らはきっとまともじゃない。
いつの間にか夕方になり、書庫のなかは薄暗くなってきている。ランプに火を入れようとした時、書庫の中にティティンさんがやってきた。
「リノさん、ターニア様がお呼びですよ」
「もうご飯ですか? ちょっと早いような……」
「ご飯ではありません。リノさんにお客さまが来ているのですが、それについて問題があるそうです」
「え? お客?」
誰だろう。ロンダさんだろうか。帰ると言ったくせに帰らなかったから心配しているのかもしれない。
私はティティンさんと一緒にターニア様の部屋へ向かった。ターニア様は大きな水晶玉をのぞき込んで厳しい顔をしており、その様子はまるっきり魔女だった。絶対に言わないけど。
「おまえに客が来ているようです。――が、問題が発生したため入城を拒否しました」
「拒否……やっぱりロンダさんですか?」
「ロンダではありません。これをご覧なさい」
ターニア様が水晶をずいっと差し出すので、私もそこに映った動画を見る事になった。王宮の門の辺りに十人ぐらい人が集まって何か話し合っている様子だけど、あまりいい雰囲気ではない。揉めている感じだ。
誰が来ているのかと顔を近づけた瞬間、銀髪の男性の麗しいお顔がアップになった。
「あっ、ハル様!? 来てくれたんだ……!」
嬉しくて声が震えた。目頭が熱くなり、勝手に涙が出てくる。まさかと思っていたけど、本当に迎えに来てくれるなんてめちゃくちゃ嬉しい。よく見れば、爽真とネネさんまで一緒だ。
しかし盛り上がっていた私の気分は、ターニア様の冷ややかな声で一気に冷めた。
「おまえの客は忌まわしい呪いに掛かっています。こんな人間が入ってきたら魔法院の清浄な空気が穢れる。この男に会うのは諦めなさい」
「そっそんなぁ! 確かにハル様は呪われてるけど、勝手に拒否するなんでひどいじゃないですか! 私はハル様の呪いを解くためにここにいるのに!」
思わずムカッとして叫ぶと、ターニア様のオーラが急に膨れ上がったように感じた。ターニア様の背景で炎がゴウゴウと燃えている。鬼だ。阿修羅だ!
「おまえは男のために薬術を学んでいるのですか……!」
「男とか関係ないですよ! ハル様は私の恩人なんです! 恩人の役に立ちたいと思うのは当然でしょ!?」
正直にいって私はかなりビビッていた。しかしハル様たちがわざわざ遠方から来てくれたのに、ここで引くわけには行かない。ターニア様が鬼女化しようと負けるもんか!
「今のおまえが何の役に立つというのです? 薬術士でもないおまえが――」
「お言葉ですが、ターニア様。リノさんは五種の薬をすべて完成させました。ですからわたしの権限で、彼女に薬術士の資格を与えました」
「なっ……たった一日で!? 普通は早くても半年は掛かるのに……!」
ティティンさんの報告を聞いたターニア様は、目を剥いてブルブルと震えている。マジで怖い。褒められる事をしたはずなのに、むしろ逆鱗に触れちゃったみたいな感じ。
その予感は的中し、しばらく震えていたターニア様は私に大声で叫んだ。
「とにかく呪いを受けた者の入城は許しません! 会いたいのならおまえが外に出なさい!」
「ハイッ! そうします!」
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