104 / 115
第二部 人間に戻りました
39 男嫌いの女王様
しおりを挟む
これも駄目、あれも駄目。
昼下がり、私は書庫に入ってひたすら呪術の本を調べていた。でもどの文献にも体に掛けられた呪術については説明があるが、ハル様のように誰かを忘れる呪いなんてどこにも記述がない。
(そう言えばネネさんがハル様の呪術を見て『禁呪』って言ってたな……。命と引き換えに掛けたとか。禁止されてるぐらいだから、簡単に手に入る本になんか書いてないのかも)
はぐれの魔法使いたちなら禁呪について書かれた怪しげな本も持っていそうだけど、キーファみたいな頭のおかしい奴らとお近づきになるなんて御免だ。お金のために呪術をかけるような奴らはきっとまともじゃない。
いつの間にか夕方になり、書庫のなかは薄暗くなってきている。ランプに火を入れようとした時、書庫の中にティティンさんがやってきた。
「リノさん、ターニア様がお呼びですよ」
「もうご飯ですか? ちょっと早いような……」
「ご飯ではありません。リノさんにお客さまが来ているのですが、それについて問題があるそうです」
「え? お客?」
誰だろう。ロンダさんだろうか。帰ると言ったくせに帰らなかったから心配しているのかもしれない。
私はティティンさんと一緒にターニア様の部屋へ向かった。ターニア様は大きな水晶玉をのぞき込んで厳しい顔をしており、その様子はまるっきり魔女だった。絶対に言わないけど。
「おまえに客が来ているようです。――が、問題が発生したため入城を拒否しました」
「拒否……やっぱりロンダさんですか?」
「ロンダではありません。これをご覧なさい」
ターニア様が水晶をずいっと差し出すので、私もそこに映った動画を見る事になった。王宮の門の辺りに十人ぐらい人が集まって何か話し合っている様子だけど、あまりいい雰囲気ではない。揉めている感じだ。
誰が来ているのかと顔を近づけた瞬間、銀髪の男性の麗しいお顔がアップになった。
「あっ、ハル様!? 来てくれたんだ……!」
嬉しくて声が震えた。目頭が熱くなり、勝手に涙が出てくる。まさかと思っていたけど、本当に迎えに来てくれるなんてめちゃくちゃ嬉しい。よく見れば、爽真とネネさんまで一緒だ。
しかし盛り上がっていた私の気分は、ターニア様の冷ややかな声で一気に冷めた。
「おまえの客は忌まわしい呪いに掛かっています。こんな人間が入ってきたら魔法院の清浄な空気が穢れる。この男に会うのは諦めなさい」
「そっそんなぁ! 確かにハル様は呪われてるけど、勝手に拒否するなんでひどいじゃないですか! 私はハル様の呪いを解くためにここにいるのに!」
思わずムカッとして叫ぶと、ターニア様のオーラが急に膨れ上がったように感じた。ターニア様の背景で炎がゴウゴウと燃えている。鬼だ。阿修羅だ!
「おまえは男のために薬術を学んでいるのですか……!」
「男とか関係ないですよ! ハル様は私の恩人なんです! 恩人の役に立ちたいと思うのは当然でしょ!?」
正直にいって私はかなりビビッていた。しかしハル様たちがわざわざ遠方から来てくれたのに、ここで引くわけには行かない。ターニア様が鬼女化しようと負けるもんか!
「今のおまえが何の役に立つというのです? 薬術士でもないおまえが――」
「お言葉ですが、ターニア様。リノさんは五種の薬をすべて完成させました。ですからわたしの権限で、彼女に薬術士の資格を与えました」
「なっ……たった一日で!? 普通は早くても半年は掛かるのに……!」
ティティンさんの報告を聞いたターニア様は、目を剥いてブルブルと震えている。マジで怖い。褒められる事をしたはずなのに、むしろ逆鱗に触れちゃったみたいな感じ。
その予感は的中し、しばらく震えていたターニア様は私に大声で叫んだ。
「とにかく呪いを受けた者の入城は許しません! 会いたいのならおまえが外に出なさい!」
「ハイッ! そうします!」
昼下がり、私は書庫に入ってひたすら呪術の本を調べていた。でもどの文献にも体に掛けられた呪術については説明があるが、ハル様のように誰かを忘れる呪いなんてどこにも記述がない。
(そう言えばネネさんがハル様の呪術を見て『禁呪』って言ってたな……。命と引き換えに掛けたとか。禁止されてるぐらいだから、簡単に手に入る本になんか書いてないのかも)
はぐれの魔法使いたちなら禁呪について書かれた怪しげな本も持っていそうだけど、キーファみたいな頭のおかしい奴らとお近づきになるなんて御免だ。お金のために呪術をかけるような奴らはきっとまともじゃない。
いつの間にか夕方になり、書庫のなかは薄暗くなってきている。ランプに火を入れようとした時、書庫の中にティティンさんがやってきた。
「リノさん、ターニア様がお呼びですよ」
「もうご飯ですか? ちょっと早いような……」
「ご飯ではありません。リノさんにお客さまが来ているのですが、それについて問題があるそうです」
「え? お客?」
誰だろう。ロンダさんだろうか。帰ると言ったくせに帰らなかったから心配しているのかもしれない。
私はティティンさんと一緒にターニア様の部屋へ向かった。ターニア様は大きな水晶玉をのぞき込んで厳しい顔をしており、その様子はまるっきり魔女だった。絶対に言わないけど。
「おまえに客が来ているようです。――が、問題が発生したため入城を拒否しました」
「拒否……やっぱりロンダさんですか?」
「ロンダではありません。これをご覧なさい」
ターニア様が水晶をずいっと差し出すので、私もそこに映った動画を見る事になった。王宮の門の辺りに十人ぐらい人が集まって何か話し合っている様子だけど、あまりいい雰囲気ではない。揉めている感じだ。
誰が来ているのかと顔を近づけた瞬間、銀髪の男性の麗しいお顔がアップになった。
「あっ、ハル様!? 来てくれたんだ……!」
嬉しくて声が震えた。目頭が熱くなり、勝手に涙が出てくる。まさかと思っていたけど、本当に迎えに来てくれるなんてめちゃくちゃ嬉しい。よく見れば、爽真とネネさんまで一緒だ。
しかし盛り上がっていた私の気分は、ターニア様の冷ややかな声で一気に冷めた。
「おまえの客は忌まわしい呪いに掛かっています。こんな人間が入ってきたら魔法院の清浄な空気が穢れる。この男に会うのは諦めなさい」
「そっそんなぁ! 確かにハル様は呪われてるけど、勝手に拒否するなんでひどいじゃないですか! 私はハル様の呪いを解くためにここにいるのに!」
思わずムカッとして叫ぶと、ターニア様のオーラが急に膨れ上がったように感じた。ターニア様の背景で炎がゴウゴウと燃えている。鬼だ。阿修羅だ!
「おまえは男のために薬術を学んでいるのですか……!」
「男とか関係ないですよ! ハル様は私の恩人なんです! 恩人の役に立ちたいと思うのは当然でしょ!?」
正直にいって私はかなりビビッていた。しかしハル様たちがわざわざ遠方から来てくれたのに、ここで引くわけには行かない。ターニア様が鬼女化しようと負けるもんか!
「今のおまえが何の役に立つというのです? 薬術士でもないおまえが――」
「お言葉ですが、ターニア様。リノさんは五種の薬をすべて完成させました。ですからわたしの権限で、彼女に薬術士の資格を与えました」
「なっ……たった一日で!? 普通は早くても半年は掛かるのに……!」
ティティンさんの報告を聞いたターニア様は、目を剥いてブルブルと震えている。マジで怖い。褒められる事をしたはずなのに、むしろ逆鱗に触れちゃったみたいな感じ。
その予感は的中し、しばらく震えていたターニア様は私に大声で叫んだ。
「とにかく呪いを受けた者の入城は許しません! 会いたいのならおまえが外に出なさい!」
「ハイッ! そうします!」
12
お気に入りに追加
2,616
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる