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第二部 人間に戻りました
33 ハルディア、手掛かりを発見する(ハルディア視点)
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「莉乃見つからないっすね……。俺、思うんですけど……進むべき方向を間違えたような気がするんです」
「俺もだ。どうしてこんな場所に来てしまったんだろう」
俺とソーマ、ネネリム殿が東大陸に到着して二日たった。俺たちは今、テュルキエという国の都市の一つ、スミリュナに来ている。
リノと魔法使いは山を越えた後に半日ほど馬車に乗り、どこかの都市に到着したらしい。箱馬車の御者に話を聞いたところ、最大都市アンドナ行きの馬車に魔法使いらしき女性と小さな少女が乗っていたとの事だった。
ただ、二人がどこで馬車を降りたのかは分からない。それで俺たちは馬車が停まった街を一つずつ順繰り調べているのだが、どこの斡旋所でもリノという名前の登録者はいないと言われた。
いないのなら、その街に用はない。さっさと次の街に行こう――と考えた俺とソーマは今、街はずれで途方に暮れている。頭上を太陽がじりじりと照りつけ非常に暑い。
「またネネリム殿とはぐれたな……」
「きっとまたどっかで商売してるんすよ。早く次の馬車に乗りたいのに……!」
ソーマが焦れた声を出したとき、街の上空をふよふよと飛ぶ影が現れた。影は俺とソーマに気づき、こちらにゆっくりと飛んでくる。
「ネネリム! 勝手に商売に行くなって言っただろ!」
「すみません、魔道具が飛ぶように売れるので調子に乗ってしまいました。でもいい情報も仕入れましたよ」
「いい情報?」
ネネリム殿は手に何かの紙を持っていた。この街で発行されている新聞のようだ。一面にはでかでかと写真が載り、どこかで山火事があったと書かれている。
「ジャコウ山脈という場所で大規模な山火事があったみたいですね。魔法士が総動員で火事を消したそうですが、不思議なことが起こったようです」
「魔法で火事を消したってことか? 別に不思議じゃないような……」
「大規模な山火事を消せる魔法なんてある訳ないでしょう。雨を降らせるにしてもせいぜい建物一つぐらいの面積がやっとだし、制御が難しくて普通の魔法士なら水浸しにして終わりです。ソーマ様ならどうやって雨を降らせます?」
ソーマは森の方向に向かって手をかざし、空中からバケツをひっくり返したような水をザバッと出した。それを三回繰り返し、無念そうに呟く。
「……くそ。めちゃくちゃ難しいな」
「そうでしょう。水を出すことは出来ても、雨のように細かい水滴にするのは非常に高度な魔法で、簡単ではないんですよ。でもこの新聞によると、さらに驚くことが起きたみたいですね」
「……雪が降ったと書いてあるな。しかも、山をいくつも覆うような巨大な吹雪が起こったと」
新聞には雪を被った山々の写真が掲載されていた。この暑さで雪が自然に降るわけがないから、魔法の雪と考えるのが妥当だろう。ただ、理性が「そんな事が起こるわけがない」と叫んでいる。
「雨でも難しいのに、雪……!? 山を何個も真っ白にするような雪? そんな神様みたいな魔法があんのか?」
「もう聖獣レベルですよね。どれだけの魔力が必要か想像もできません。……私が言いたい事、分かります?」
「だいたい分かった。この魔法を起こしたのはリノだと言いたいんだろう?」
リノは以前、湖の上に巨大な水の竜巻を発生させた。あの水が全て雪に変わったとすれば、量的にも釣り合うのではないかと思う。
「た、確かに莉乃は、めちゃくちゃ魔力が多いって聞いたけどさ……。でもリーディガーでは魔法なんか使ってなかったよな? 何がどうなって、雪を降らせる魔法を習得したんだ?」
「ペペはリノ様が山で盗賊を撃退したと言ってましたし、何度か魔法を使ううちにコツを掴んだのかもしれないですね。まぁちょっと……かなり異常な成長速度ですが」
「セルディスに訊いてみたいが、今の時間だとまだ学校だからな……。とりあえずリノだと仮定して、アンドナへ行ってみよう。俺も何故だか、リノが雪を降らせたような気がするんだ」
俺たちはアンドナ行きの馬車に乗り、日が落ちて暗くなった頃にようやく都市部に到着した。宿を確保してセルディスにリノの事を尋ねると、確かに彼女は山で雪を降らせたらしい。が、その後は何処からか馬車が迎えにやって来て、金のない魔法使いとは別れたようだと書いてあった。
「俺もだ。どうしてこんな場所に来てしまったんだろう」
俺とソーマ、ネネリム殿が東大陸に到着して二日たった。俺たちは今、テュルキエという国の都市の一つ、スミリュナに来ている。
リノと魔法使いは山を越えた後に半日ほど馬車に乗り、どこかの都市に到着したらしい。箱馬車の御者に話を聞いたところ、最大都市アンドナ行きの馬車に魔法使いらしき女性と小さな少女が乗っていたとの事だった。
ただ、二人がどこで馬車を降りたのかは分からない。それで俺たちは馬車が停まった街を一つずつ順繰り調べているのだが、どこの斡旋所でもリノという名前の登録者はいないと言われた。
いないのなら、その街に用はない。さっさと次の街に行こう――と考えた俺とソーマは今、街はずれで途方に暮れている。頭上を太陽がじりじりと照りつけ非常に暑い。
「またネネリム殿とはぐれたな……」
「きっとまたどっかで商売してるんすよ。早く次の馬車に乗りたいのに……!」
ソーマが焦れた声を出したとき、街の上空をふよふよと飛ぶ影が現れた。影は俺とソーマに気づき、こちらにゆっくりと飛んでくる。
「ネネリム! 勝手に商売に行くなって言っただろ!」
「すみません、魔道具が飛ぶように売れるので調子に乗ってしまいました。でもいい情報も仕入れましたよ」
「いい情報?」
ネネリム殿は手に何かの紙を持っていた。この街で発行されている新聞のようだ。一面にはでかでかと写真が載り、どこかで山火事があったと書かれている。
「ジャコウ山脈という場所で大規模な山火事があったみたいですね。魔法士が総動員で火事を消したそうですが、不思議なことが起こったようです」
「魔法で火事を消したってことか? 別に不思議じゃないような……」
「大規模な山火事を消せる魔法なんてある訳ないでしょう。雨を降らせるにしてもせいぜい建物一つぐらいの面積がやっとだし、制御が難しくて普通の魔法士なら水浸しにして終わりです。ソーマ様ならどうやって雨を降らせます?」
ソーマは森の方向に向かって手をかざし、空中からバケツをひっくり返したような水をザバッと出した。それを三回繰り返し、無念そうに呟く。
「……くそ。めちゃくちゃ難しいな」
「そうでしょう。水を出すことは出来ても、雨のように細かい水滴にするのは非常に高度な魔法で、簡単ではないんですよ。でもこの新聞によると、さらに驚くことが起きたみたいですね」
「……雪が降ったと書いてあるな。しかも、山をいくつも覆うような巨大な吹雪が起こったと」
新聞には雪を被った山々の写真が掲載されていた。この暑さで雪が自然に降るわけがないから、魔法の雪と考えるのが妥当だろう。ただ、理性が「そんな事が起こるわけがない」と叫んでいる。
「雨でも難しいのに、雪……!? 山を何個も真っ白にするような雪? そんな神様みたいな魔法があんのか?」
「もう聖獣レベルですよね。どれだけの魔力が必要か想像もできません。……私が言いたい事、分かります?」
「だいたい分かった。この魔法を起こしたのはリノだと言いたいんだろう?」
リノは以前、湖の上に巨大な水の竜巻を発生させた。あの水が全て雪に変わったとすれば、量的にも釣り合うのではないかと思う。
「た、確かに莉乃は、めちゃくちゃ魔力が多いって聞いたけどさ……。でもリーディガーでは魔法なんか使ってなかったよな? 何がどうなって、雪を降らせる魔法を習得したんだ?」
「ペペはリノ様が山で盗賊を撃退したと言ってましたし、何度か魔法を使ううちにコツを掴んだのかもしれないですね。まぁちょっと……かなり異常な成長速度ですが」
「セルディスに訊いてみたいが、今の時間だとまだ学校だからな……。とりあえずリノだと仮定して、アンドナへ行ってみよう。俺も何故だか、リノが雪を降らせたような気がするんだ」
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