【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま

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第二部 人間に戻りました

31 女王様登場

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 アンドナの斡旋所に戻り、所長に山火事が消えたことを報告して二人で家に帰った。昼ごはん抜きで消火活動したから腹ペコだ。

 夕食を作ってロンダさんと食べていると、家の玄関がゴンゴンとノックされる。この世界にはまだインターホンなんて物はなく、ドアノッカーという金属の輪をドアにぶつけて音を出すのだ。

「もぐ……。誰ですかね、こんな時間に」
「アタシが出るわ。リノは食べてて」

 外はすでに薄暗く、空はオレンジ色と藍色が混ざっている。夕飯時だ。こんな時間に訪問してくるなんて、強引な販売員に違いない。新聞か、布団か。
 なんて事を考えていたら、玄関からロンダさんの素っ頓狂な声が聞こえてきた。

「ほえっ!? えっ、何の用ですか!?」

「おまえじゃなくて、連れの方に用があるんだ。子供みたいな魔法使いと一緒にいただろう」

 子供みたいな魔法使い――私の事だろうか。
 私は食事の手を止めて玄関に歩いていった。

「私にご用ですか?」
 
 ダイニングからひょいっと顔を出すと、玄関にはロンダさんの他に黒づくめの集団がいる。一瞬なにかの犯罪組織かと思ったけど、よく見たら魔法士たちだ。黒いローブの胸の辺りに、魔法士を現す杖の紋章を付けている。
 彼らは私を見ると軽く頭を下げた。

「賢者ターニア様がお呼びです。魔法院まで我々とご同行ください」

「賢者が? どうして私を呼んでるんですか?」

「詳しい話はターニア様から聞いて頂きたい。我々はあなたを連れてくるように言われただけなので」

「リノ……ど、どうする? 何となく嫌な予感がするんだけど」

 ロンダさんが青い顔で怯えている。怖い婆さんから呼び出しを受けたんだから当然の反応だ。

(でも、もしかしたらハル様たちが来たのかもしれないし……。ロンダさんとハル様の呪術に関して直訴できるかもしれない)

「私、行きます」

「リノ……!」

「大丈夫ですよ。ハル様に会えるかもしれないから、ちょっくら行ってきますね。すぐに戻りますから」

 私は不安そうなロンダさんを家に残し、狭い通りにぎちぎちで泊まっている馬車に乗った。誰も何も喋らず、馬車が揺れる音だけが響いている。

 数十分かけてようやく王宮へ到着し、馬車を降りると三つの門があった。左の門には剣と盾の紋章、真ん中はテュルキエの国旗の紋、そして右の門には魔法士の杖の紋が彫られている。

(……? 門のなか、空間が歪んで見える……)

 門の向こうに王宮の建物が見えるけど、まるで蜃気楼のようにゆらゆらと歪んでいる。魔法士に「どうぞ」と言われて右の門をくぐると急に景色が変わった。いつの間にか建物の内部に移動し、目の前には長い廊下がある。

「えっ? あれ?」

「あの門は魔法院に直通している転移門です。せっかく来てもらったのに申し訳ないんですが、まずは風呂に入ってください。ターニア様は潔癖症なのでね」

「へ? 風呂って……え?」

 私を連れて来た魔法士たちは用が済んだとばかりにどこかへ行ってしまい、私はメイドさんに手を取られて廊下を歩き出した。

 何度も廊下を曲がったり階段を登ったりして、一つの部屋に案内される。床に大きな籠が置いてあり、奥の壁にガラスの扉がある部屋だ。脱衣所かなと考えていたら、メイドさんが私の服を脱がそうとしてきた。

「ひょえっ! じっ自分で脱ぎますので!」
「左様でございますか。浴場に係りの者がおりますから、洗浄はその者にお任せください」
「え」

 なかに係りの者がいる? 自分で洗えないの? 冗談でしょ、と思ってガラスの扉を開けると、二人の女性が手に石鹸やスポンジみたいな物を持って私を待ち構えている。冗談じゃなかった。

「ささ、こちらへ」
「ちょっ、あの、ひゃはは! くすぐったい!」
「お若いからイキがいいわねぇ。こんな元気な方を洗うのは久しぶりだわ」

 背中にざばっとお湯を掛けられ、泡立てたスポンジで体中をくまなく洗われた。自分で洗ってる時は平気なのに、他人にされるとどうしてこんなにくすぐったいのか。まるで地獄だ。くすぐり地獄だ。

 すっかり綺麗になった頃には笑い疲れて、ぐったりしたまま浴場を退出。メイドさんが疲れきった私の体を拭き、不思議な衣装を身につけさせた。
 上半身は着物で、下はスカートのようになった服だ。韓国の民族衣装によく似ている。

 着替え終わって廊下に出ると、私と同じ衣装を着た女性が立っていた。二十歳ぐらいで、ネネさんと年が近そうだ。この人が賢者様だろうか?

「わたしがターニア様の所へ案内しますね。付いてきてください」

 賢者じゃなかった。女性の後について、また廊下を歩いたり階段を下りたりする。いい加減、広すぎて疲れてきた。ハル様の城みたいに広くてしんどいんですけど!

 やがて両開きの扉にぶちあたり、女性はそこを開けて私を中に通した。部屋は不思議な香りで満ちていて、吸い込むと体が軽くなるようだった。疲れが抜けていく――これが薬術だろうか?

「ターニア様、お客様をお連れしましたよ」
「ごくろう」

 部屋の奥から色っぽい声がして、そちらを見ればチャイナ服のような裾の長い服をきた女性が立っている。

(ほわぁああ! すんごい美女!)

 波打つ艶やかな焦げ茶の髪に、アメジストみたいな紫の瞳。睫毛なんかバシバシだ。瞬きするたびにゆさゆさ揺れそうな長さだ。ちょっと垂れ目で、口元のホクロがよく似合っている。

 プロポーションも素晴らしく、チャイナ服がきつそうに見えるぐらいだった。何なの、あの胸。何が入ってるの? メロン?
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