【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま

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第二部 人間に戻りました

27 ハルディア、爽真に恵んでやる(ハルディア視点)

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 海鳥がミャアミャアと鳴いている。風は潮気をはらんで湿っぽく、呼吸するたびに海の香りが鼻をかすめる。
 ここは東大陸の最南端、コンヤ岬だ。俺とソーマとネネリム殿はようやく東大陸に到着した。

「や、やっと着いた……。俺もう酔いそう」

「酔いそうと言うか完全に酔ってますよね。ソーマ様が船に弱いなんて意外です。お陰で高速船に乗れなかったじゃないですか」

「だって高速船だと、もっと揺れがひどいって言うじゃねーか! 普通の船でも酔うのに……!」

 ソーマは青い顔で堤防に座り込んでいる。船の揺れがキツかったらしい。高速船に乗れなかったから移動に半日かかったが、俺は焦っていなかった。

 セルディスが書いたメモによると、リノはずっと同じ街にいるようだ。お金のない魔法使いと一緒に働いているとの事で、きっと金を貯めようと頑張っているんだろう。

「とりあえず山を越えよう。プロクスを召喚して……」

「プッ、プロクス!? あのデカい竜っすか? 今あいつに乗ったら、俺は間違いなくゲロる……!」

「げろる?」

「吐くって事じゃないでしょうか。確かに今のソーマ様は、翼竜の高速移動には、耐えられふぉうにないれふね」

 ネネリム殿は腹がへったのか、どこかの店から串肉を買ってきて食べている。ソーマは「すいません」と小声で言ってふらふらと歩き出したが、薬術士の店でふと足を止めた。

「酔いを治す薬が売ってる! ……でも高ぇ! 一粒で三千もする……!」

「お兄さん、船酔いなの? わたしが作った薬は高いけどよく効くわよ~。飲めば数秒で酔いが消えるわ。でも副作用があるから、一日に二粒が限度よ」

 薬術士の営業にソーマはしばらく迷った様子を見せたが、やがて振り返ってネネリム殿に言った。

「ネネリム、金貸してくれ。俺あんまり手持ちがないんだ。後で返すからさ」

「いいですよ。でも一日ごとに、十割の利子を付けて返却してください」

「一日で十割!? とんだ高利貸しじゃねーか! 鬼! 悪魔!」

「ソーマ、俺が買ってやる。それを飲めばプロクスに乗れそうなんだろう?」

「公爵様……! このご恩は決して忘れないっす!」

 俺は酔いを治す薬を十粒買い、薬術士に金を支払った。すでに港で両替は済んでいる。今のレートだと一ディラはほぼ一ルゥドだった。

 小さな薬を一つ飲んだソーマはすぐに回復し、プロクスを呼んでくれと言っている。俺はプロクスを召喚し、ソーマと一緒に乗り込んだ――が、いつの間にかネネリム殿がいない。
 ソーマがどこかを指差して叫んだ。

「あっ、あそこ! あいつどっかの貴族に売り込みしてます!」

 ネネリム殿は子犬を連れた貴族と何か話し込んでいた。自分が南大陸の賢者の弟子だと紹介し、動物と会話ができる魔道具を売りつけるつもりのようだ。

 商売は成功したようで、魔道具の首輪を付けた子犬と貴族は嬉しそうに会話し、ネネリム殿は大金を手にしている。ほくほくした顔でこちらに戻ってきた。

「ネネリム殿は商魂たくましいな」

「しんどい人生を送ってきたから、金に執着してるのかもですね……。ネネリムは何処でも生きていけそうだな」

「お待たせしました。懐も温かくなりましたし、出発しましょうか」

 そうして俺たちはプロクスに乗り、街と街を隔てている山脈を越えた。上空から見た東大陸は広大で、リノがどこにいるのかは見当もつかなかった。
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