【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま

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第二部 人間に戻りました

26 ああロンダさん

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 噴水の周囲にはカフェのような店もあり、張り出した屋根の下でお茶をする人の姿も見える。お洒落だ。都会な感じだ。

「私たちも何か飲みます?」
「んー……そうね。悪くない……げげ」

 カフェでお茶でも洒落こむかと思っていると、ロンダさんが変な声を出した。どこを見ているのかと視線を追えば、王宮から出てきた黒いローブの集団を眺めている。
 ロンダさんは無理やり背を縮めて私の背中に隠れたが、どう見ても隠れきれていない。むしろ目立ちそう。

「あの人たちがどうかしたんですか?」
「あれはテュルキエの魔法士たちよ。ああ神様、頼むからこのまま通りすぎますように……!」

 しかしその願いは叶わなかった。ロンダさんは明らかに私の体からはみ出しており、隠れようとする様子がかえって目立ってしまったらしい。予想通りだけど。
 集団の一人がロンダさんを見つけ、わざとらしい声を出した。

「おやおや、ロンダじゃないか。魔法院をクビになったおまえがこんな所で何してんだ?」

 その声で気が付いたのか、他の魔法士までこちらに近づいてくる。
 ロンダさんは私の背中で震えたままだ。

「魔法士試験をギリギリで受かったくせに、男と結婚するって理由で辞めたんだよな」

「でも結局、結婚できなかったんだろ? でなきゃこの街にいるはずねぇし」

「んで、また魔法院で働こうとしたけど、ターニア様に出禁くらったんだもんなぁ。あの方は色恋沙汰で揉め事を起こすバカな魔法士が大嫌いだからな。ははは!」


 ああロンダさん。あなたにはそんな事情があったんですか。寿退社後、結婚詐欺に会ったんですね。きっと内緒にしておきたかっただろうに、何もかも知ってしまいました。


(なにもこんな公衆の面前でばらさなくてもいいのに……! なんつー性格の悪い奴ら!)

 敵意むき出しで魔法士たちを睨んでいたら、私の事まで馬鹿にしたような眼差しで見ている。

「こんな子供とつるんで仕事か? 何の仕事してんだ?」

「猫を捕まえる仕事ですよ。お陰で三万も手に入りました!」

「三万だってよ! やっすぅ!」

 魔法士たちが爆笑している。三万のどこが安いのか理解不能。ちりも積もれば山になるというのに。

「惨めなもんだな、ロンダ。ちょうどいい、おまえに試験してやろう。これをクリア出来たら、俺からターニア様におまえを許してくれるよう頼んでやるよ。そら!」

 いきなりとんでもない台詞を吐いて、私たち目掛けて炎の玉を放ってきた。
 アホか。街中で何を仕出かす気だ。

「このドアホウ! 火事になるでしょうがっ!」

 私は怒鳴り、震えてるロンダさんに代わって分厚い氷の壁を作った。炎の玉は壁に触れただけでフッと消え、氷が溶けた様子もない。なんて弱っちい炎だ。

(コツを掴んだせいかな……。イメージ通りの魔法が使えるようになってきたわ)

 手をニギニギして実感していると、魔法士たちが呆然と呟いた。

「嘘だろ……。魔法の起動が速すぎる。絶対に攻撃が当たると思ったのに、あの速度で氷壁を作るなんて……」

「杖も持ってねぇガキのくせに……! これならどうだ? 錬金――スピア!」

 キン、と硬質な音がして、魔力による鋭い槍が作り出された。風を切るような速さで飛んでくる。

(槍か。氷では防げないかもしれない。だったら燃やしてしまおう。ネネさんが霊山で出したような、マグマのように強力な炎で)

 私は前方に右手を突き出し、炎の塊を出した。手の形をした真っ赤な炎が氷の壁ごと槍を握りつぶし、ジュッと音を立てて何もかも蒸発させる。
 いつの間にか周囲はシンと静まり返って、街の人たちまで立ち止まって私たちを見ていた。

「ばっ……化け物……!」
「あっこら、逃げるな! 約束守れっつーの! ターニア様に頼むって言ってたでしょーが!」

 魔法士たちがわらわらと逃げ出すので、結界で閉じ込めてやろうとしたら、後ろからロンダさんが私の腕をつかんだ。

「もういいよ。ありがと、リノ。アタシ一人だったら丸焦げになって、噴水に飛び込んでたと思う」

「そんな恥ずかしい事させるつもりだったんだ……! あの外道どもめぇ! 私が奴らを丸焦げにしてくれる!」

「ちょ、もういいって。これ以上騒いだら本当にターニア様が出てきちゃうわ」

 ロンダさんが焦った様子で言うので、私は仕方なく丸焦げを諦めた。街の人たちは何かのパフォーマンスかと思ったようで、「いいぞー」だの「もっと魔法を見せてくれ」なんて上機嫌だ。大道芸じゃないんですけど。

 ここまで目立ったらお洒落にカフェタイムは無理なので、私とロンダさんは絨毯に乗って家に帰る事にした。

「恥ずかしいとこ見せちゃったね……。あいつらが言ってたことは本当なの。アタシ、故郷に結婚を約束した恋人がいたんだけどさ。魔法士になるって夢を叶えるために、結婚を待って貰ってて……でもいざ約束を果たそうと故郷に戻ったら、彼はもう別の人と結婚してたわ。アハハ、バカみたいな話でしょ」

「ろっ……ロンダさん……!」

「んもう、泣かないでよ。アタシはもう涙なんか枯れちゃったわ。でもさっきのリノ、カッコ良かったなぁ……。あんたが男だったら惚れてたかも。あともうちょっと身長が高かったら最高だわね」

「もう伸びないと思います。これが私の完成形なので。あいつら全員、ロンダさんと同じ色の杖を持ってましたね。ミルクティーみたいな色の」

「あれは魔法士になると国からお祝いで貰える杖なのよ。魔力を吸って変性したけやきで作られた杖でね、白っぽいほど高いんだって。灰白色の杖なんか、億が付くようなお値段らしいわよ」

 ああ、やっぱり。ネネさんはレゲ爺さんに駄々をこねて買ってもらったんだろうか。何だかんだ言って、レゲ爺さんはネネさんを可愛がってるから。

「杖に嵌ってる青い石には何か意味があるんですか? やっぱり杖って持ってた方がいいのかな……」

「青い石には持ち主の魔力を一点に集約させる効果があるのよ。魔法士が杖を持ってるのは、魔法の精度を上げるためだわね。炎の温度を上げたり、硬くて丈夫な氷を作ったり……。でもリノには必要なさそうよね」

「そんなお金もないですしね。ロンダさん……もし可能なら、もう一度魔法院へ戻りたいですか?」

 私が訊くと、ロンダさんは少し寂しそうな表情をした。振り返って王宮の方を眺めている。

「ううん。もう帰りたいとは思わないかな……。アタシへっぽこ魔法士だから、いつも皆の足を引っ張ってたしさ。それでもアタシがオレンジランクの仕事を貰えるのは、元魔法士って肩書きがあるからなんだけどね……。さぁ、家に着いたわ。今日もお疲れさま」

「お疲れさまでした」

 ロンダさんは笑っていたけれど、泣き笑いのような表情で、明らかに空元気な感じだった。私はいずれ東大陸を出て、リーディガーに戻るつもりでいる。でも私がいなくなった後のロンダさんを想像したら胸が痛くなって、早くリーディガーに戻りたいような、戻りたくないような……微妙な気分だった。
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