【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま

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第二部 人間に戻りました

25 依頼完了

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 私たちは絨毯に乗り、上空から商店街の様子を覗いた。表通りは人だらけだけど、裏手では子供や動物が遊んでいたりする。魚屋の裏でうずくまっている黒い猫がいて、よくよく見れば皿に載った餌を食べているところだった。

「いた! 白い首輪の黒猫……アルルだ!」

「本当にいた……。うん、もう細かいこと気にすんのやめるわ。リノが普通じゃないのはよく分かった」

 商店街から離れた場所で絨毯から降り、アルルの様子を盗み見る。そろそろ餌を食べ終わるようだ。私が商店街側に、そしてロンダさんが裏手に回ってアルルを挟み撃ちにする事にした。が、しかし。

「あっ、逃げた!」
「もーっ、猫って気配に敏感だから嫌なのよね!」

 黒猫アルルは不穏な気配を察知したのか、積んであった箱に飛び乗って屋根の上に行ってしまった。慌てて絨毯に乗り、アルルを追いかける。

 住宅が密集しているせいか、アルルは屋根から屋根へ身軽に飛びうつり、なかなか捕まえられない。ヤツは屋根からジャンプして高い木に登っている。十メートルぐらいありそうな高さだ。

「これはアレかな……。怖くない、怖くない、をやるべきかな」

「変なこと言ってる場合じゃないよ。あんまり追い詰めたら木から落ちるかもしれないし……。そうなったら礼金どころか治療費払わないと」

 絨毯に乗ったままふよふよとアルルに接近すると、ヤツはシャーッと逆毛を立てて威嚇してきた。黄緑色の目が「こっち来んな」と言っている。

「どうしてそんなに怒ってんの?」
『……!?』

 人間に話しかけられるとは思っていなかったのか、仰天したアルルはバランスを崩して枝から落ちてしまった。
(あーっ、失敗した!)
 私は咄嗟に絨毯から飛び出し、アルルに向かって手を伸ばす。

「リノ!」

 ロンダさんが叫んでいる。その瞬間は、まるで時が止まったかのように何もかもゆっくりに見えた。黒猫の体は空中で静止し、私も何故か浮いている。

(事故に会う瞬間って、スローモーションみたいに見えるらしいけど……本当なんだ。……あれ?)

 このまま地面に激突か――と思っていたのに、やっぱり私とアルルは宙に浮いている。よく見ると猫の体は結界に包まれていて、こっちに来るように念じると近づいてきて私の腕の中におさまった。
 アルルは目を丸くしたまま私に抱っこされている。

「重力遮断の結界に……浮遊魔法!? どうなってんの? そんな高等魔法を使えるなんて、リノって何者なの!?」

「わ、私にも何がなんだか……。とりあえず、下に降ります」

 地面に降りたいと念じれば、体が自然と下に落ちる。そしてゆっくりと着地した。どこにも怪我はしていない。絨毯に乗っていたロンダさんも地上に降りてきた。

「良かったぁ、アルルも無事みたいです。ビックリしてるみたいだけど」

「あんたやっぱり普通じゃないわ……。まぁとにかく、依頼は無事に終了だね。依頼人にアルルを……ちょっと待って。リノって動物と喋れるんだよね?」

「喋れますね。普通に受け入れてるロンダさんもすごいけど」

「じゃあさ、どうしてアルルが逃げ出したのか訊いてみたらどうかな。もう三回ぐらい脱走してるし、何か理由があるんじゃない?」

「あっ……なるほど! そうですね!」

 ロンダさんの意見はまさに目から鱗だった。私もハル様のペットだったけど、幸せだったから逃げようとは思わなかった。アルルはそうじゃないのかもしれない。

「アルル、どうしてお家から逃げたの? もうペット嫌になった?」

『……ボクはいらない子なんだ。ご主人様は、ボクなんかいらないんだ!』

「なんだって?」

「ボクはいらない子なんだとか言ってます。猫なりに悩みがあるっぽいですね。どうしてそう思うの?」

『ご主人様は子猫ばっかり可愛がる! ボクのことはあんまり膝に乗せてくれない!』

「あ、そういう事ね」

 私とロンダさんはアルルと一緒に絨毯に乗り、大きなお屋敷ばかり並んでいる地区へ向かった。依頼人はお金持ちとあって、この辺りに住んでいるらしい。
 門番にアルルを捕まえたことを報告したら、屋敷の方からふっくらしたマダムが走ってきた。

「アルル! 心配したのですよ!」

 黒猫は最初すねた顔をしていたものの、マダムに抱っこされて嬉しそうだった。アルルが子猫に焼きもちをやいていた事をさりげなく伝えると、マダムはどうして知っているのかと大いに驚き、感謝し、報酬の他に礼金まで包んでくれた。

「猫一匹で三万も貰えるなんてすごい事よ」
「この調子でどんどんお金を貯めたいですね。この辺うろついてたら、賢者に会えたりしないかなぁ」

 斡旋所に依頼が終了したことを報告した帰り道、私とロンダさんは王宮の近くまで絨毯で飛んでみた。ロンダさんはあまり気乗りしない様子だったけど、王宮を近くで見たいと頼んで一緒に来てもらったのだ。
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