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第二部 人間に戻りました
23 ヨボヨボ爺さん、実はすごい人
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翌日、私とロンダさんは斡旋所を訪れていた。入り口の横の壁は掲示板になっていて、そこに仕事の依頼がびっしりと張られている。
「受付順になってるみたいだけど、番号のインクの色がバラバラですよね。何か意味があるんですか?」
「仕事の難易度によって、朱肉の色を変えてるのよ。色が違うから一目瞭然でしょ? いちばん簡単な仕事が紫、次が青、緑、オレンジ、赤の順で難しくなるの。船の護衛はオレンジだったわ」
「あんな大ダコが出るのにオレンジ色なんだ……。赤でもいいような気がするけど」
「クラーケンは滅多に出て来ない魔物だし、毒蛇や大サソリに比べたら倒すのが楽だからね。毒を吐くわけでもないし……って、倒せなかったアタシが言えることじゃないけど」
確かにそうかもしれない。ハル様は竜みたいな大きさの毒蛇を退治して、毒のせいで死ぬところだった。あのサイズの毒蛇は滅多にいないと言っていたけど、私にあれが倒せるとは思えない。
「リノにとっては最初の仕事だから、紫の依頼を探しましょ。何件かこなせば難しい仕事も受けられるようになるわよ」
「この薬術士向けというのはなんですか? 青と緑の依頼に多いみたいですけど、薬を作る仕事ですかね」
それらの依頼書を見ると、腰痛がひどいから薬を作ってくれとか、虫が多いから殺虫剤を作ってくれなどという依頼が多い。腰痛は病院に行けばいいと思うんだけど。
「東大陸は薬草が多い土地柄なせいか、薬術が発展してるのよ。魔力を込めた薬はよく効くから、他の大陸でも良く売れてるらしいわ。今の賢者が薬術と呪術に詳しい人でね、薬術士と呪術士っていう新しい資格まで作ったみたいで――」
「呪術!? 東大陸の賢者は、呪術に詳しいんですか!?」
「そっ、そうだけど。すごい食いつきだわね……。呪術に興味があるの?」
「私の恩人の……人生の恩人のハル様が、とある事情で呪術に掛かっちゃったんです。ネネさんていう魔法士の人が何とか解こうと頑張ってくれたんですけど解けなくて。東大陸の賢者に相談できないかなぁ」
「そんなに大切な恩人だったんだ。でも賢者ってそうそう会えるもんでもないわよ。何しろ魔法院のトップ……かなりのお偉いさんだからね」
「あのヨボヨボ爺さんがトップ……!?」
賢者っていうぐらいだから偉いんだろうなとは思ってたけど。魔法院のトップ。あのレゲ爺さんが!
「南大陸の賢者はお爺さんなんだっけ? でもここの賢者は女の人だよ。ターニア様と仰る美女……というかまぁ、薬術で年を誤魔化してらっしゃるからな……。見た目は若いんだけど」
「賢者って、お年寄りしかなれない決まりでもあるんですか? シルバーオンリーですか?」
「そういう訳じゃないけど。三カ国で魔法院長を務めると、賢者と認められるシステムなのよ。熾烈な派閥争いを征してやっと賢者になれるってわけ。そりゃ時間かかるわよ」
「そんな偉い人だったんだ……会うのは難しそうだなぁ……」
レゲ爺さんなんか普通に会えたのに、と思ってしまう。
でも私がレゲ爺さんに会えたのは召喚された勇者だったからだ。それも南大陸限定というオプション付きな訳だから、ここでは美女ターニア様に会える可能性は低そうである。
「とりあえず、紫の依頼を受けてみようかな……。この猫探しってのをやってみます」
「げ。またあそこの猫、逃げたんだ」
一枚の紙を手に取ると、ロンダさんはしかめっ面になった。依頼書を忌々しそうに見ている。
「知ってる猫なんですか? オスの黒猫って書いてありますけど。猫捕まえるだけで二万はお得なのでは?」
「このおばさんの猫、もう三回ぐらい逃げ出してるわよ。金持ちだから報酬も多いけど、街が広くて捕まえるのが面倒でさ……。割に合わない仕事だから、誰もやりたがらないんだよね」
「私、やってみます」
壁から迷い猫の依頼書を剥がし、受付へ持っていった。ロンダさんは渋い顔をしていたけれども。
受付でリノ・ヨシカワという請負人の登録をしてもらい、銀色のカードを受けとる。無事に依頼をこなすと、カードにどのランクの仕事を何個終わらせたのかが記録されるらしい。とても便利な魔道具だ。
「受付順になってるみたいだけど、番号のインクの色がバラバラですよね。何か意味があるんですか?」
「仕事の難易度によって、朱肉の色を変えてるのよ。色が違うから一目瞭然でしょ? いちばん簡単な仕事が紫、次が青、緑、オレンジ、赤の順で難しくなるの。船の護衛はオレンジだったわ」
「あんな大ダコが出るのにオレンジ色なんだ……。赤でもいいような気がするけど」
「クラーケンは滅多に出て来ない魔物だし、毒蛇や大サソリに比べたら倒すのが楽だからね。毒を吐くわけでもないし……って、倒せなかったアタシが言えることじゃないけど」
確かにそうかもしれない。ハル様は竜みたいな大きさの毒蛇を退治して、毒のせいで死ぬところだった。あのサイズの毒蛇は滅多にいないと言っていたけど、私にあれが倒せるとは思えない。
「リノにとっては最初の仕事だから、紫の依頼を探しましょ。何件かこなせば難しい仕事も受けられるようになるわよ」
「この薬術士向けというのはなんですか? 青と緑の依頼に多いみたいですけど、薬を作る仕事ですかね」
それらの依頼書を見ると、腰痛がひどいから薬を作ってくれとか、虫が多いから殺虫剤を作ってくれなどという依頼が多い。腰痛は病院に行けばいいと思うんだけど。
「東大陸は薬草が多い土地柄なせいか、薬術が発展してるのよ。魔力を込めた薬はよく効くから、他の大陸でも良く売れてるらしいわ。今の賢者が薬術と呪術に詳しい人でね、薬術士と呪術士っていう新しい資格まで作ったみたいで――」
「呪術!? 東大陸の賢者は、呪術に詳しいんですか!?」
「そっ、そうだけど。すごい食いつきだわね……。呪術に興味があるの?」
「私の恩人の……人生の恩人のハル様が、とある事情で呪術に掛かっちゃったんです。ネネさんていう魔法士の人が何とか解こうと頑張ってくれたんですけど解けなくて。東大陸の賢者に相談できないかなぁ」
「そんなに大切な恩人だったんだ。でも賢者ってそうそう会えるもんでもないわよ。何しろ魔法院のトップ……かなりのお偉いさんだからね」
「あのヨボヨボ爺さんがトップ……!?」
賢者っていうぐらいだから偉いんだろうなとは思ってたけど。魔法院のトップ。あのレゲ爺さんが!
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「そういう訳じゃないけど。三カ国で魔法院長を務めると、賢者と認められるシステムなのよ。熾烈な派閥争いを征してやっと賢者になれるってわけ。そりゃ時間かかるわよ」
「そんな偉い人だったんだ……会うのは難しそうだなぁ……」
レゲ爺さんなんか普通に会えたのに、と思ってしまう。
でも私がレゲ爺さんに会えたのは召喚された勇者だったからだ。それも南大陸限定というオプション付きな訳だから、ここでは美女ターニア様に会える可能性は低そうである。
「とりあえず、紫の依頼を受けてみようかな……。この猫探しってのをやってみます」
「げ。またあそこの猫、逃げたんだ」
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「知ってる猫なんですか? オスの黒猫って書いてありますけど。猫捕まえるだけで二万はお得なのでは?」
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