【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま

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第二部 人間に戻りました

22 ハルディア、嫌な予感を覚える(ハルディア視点)

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 東大陸にリノを探しに行くと言っても、弟はもう騒がなかった。ただ静かな表情で俺の話を聞いている。セルディスも大人になりつつあるのかと感慨深い。

「セルディス、城とペペのことを頼むぞ。ペペの伝言はネネリム殿がくれたメモ帳に書いて教えてくれ」

「うん、分かった。必ず書いて伝えるよ」

 ペペは南大陸を保護する聖獣だから、今回の旅には連れて行けない。しかしリノが今なにをしているのかはペペがいちばん良く知っているため、ネネリム殿が伝言を可能にする魔道具を用意してくれた。不思議なメモ帳だ。

 二冊で一組になっており、俺がメモ帳に書いた内容はセルディスが持つメモ帳にも文字が浮かび上がる。逆も同じで、セルディスが書いた内容は俺のメモ帳でも読める。ペンの羽で撫でると文字は消え、また白い紙に戻る仕組みらしい。

 メモの台座には複雑な魔法陣が施されており、賢者レゲリュクスとネネリム殿の苦労が伝わるようだった。ネネリム殿は少々変わった女性だが、確かに賢者の弟子としては優秀だ。
 俺に変な色の飲み物を飲ませようとするのはやめて欲しいものだが。

「ペペ、セルと待ってるペエ。ママげんき。ハルたちといっしょにかえってくるの、待ってるペエ」

 ペペは霊山から戻ってきて以来、驚くほど大きく成長した。つい先日までもっちりした体格だったが、今ではセルディスと同じ身長になり、鳥らしい体つきになってきている。言葉も少しずつ増えてきた。雛というよりは幼鳥という感じだ。

 俺はセルディス達に別れを告げ、羽つき馬車に乗り込んだ。中にはすでにソーマとネネリム殿も乗っている。二人は東大陸の地図を見ているところだ。扉を閉めると馬車がふわりと浮かび上がった。

「リノ様が乗った船は、ティトラ半島付近でクラーケンに襲われたのではないでしょうか。自力で東大陸に上陸したわけですから、それほど離れていなかったはずです」

「ティトラ半島って海に向かって突き出してんだな。形はイタリアに似てるかも……。ペペは莉乃が山を越えたって言ってたっけ」

「半島の付け根あたりに街があって、その向こうは山だ。流れ着いた場所はティトラ半島で間違ってないだろう。それにしても、よく女性二人で山越えなんて危険な真似をしたな……」

「女性二人? リノ様が同行している魔法使いは女性だったんですか?」

「…………」

 しまった。これでは俺がペペから情報を聞き出したことがばれてしまう。
 何も答えずにいると、なぜかソーマがうんうんと深く頷いている。

「そういう心配もしてたんすね……。俺には公爵様の気持ちが分かります。そりゃそうですよね!」

「その生ぬるい目をやめてくれ。俺の心配は普通のことだ。十七歳の女の子が誰かと二人旅してるんだぞ?」

「しかもメイド服を着ているわけですからね。ソーマ様によると、リノ様のメイド姿は一部のマニアから絶賛される恐れがあるとか」

「変な言い方すんなよ! 俺と莉乃がいた日本では、そういう趣味の奴もいたってだけで……公爵様、拳が震えてます! 力こめすぎっす!」

「勝手に力が入るんだ。俺はどうも、リノに関する事になると精神が乱れるらしい。……ネネリム殿、収納魔法に何かを大量に入れているな」

 ネネリム殿は空間に手を突っ込み、何かブツブツと呟いている。三十万ディラとかなんとか言っているようだ。空間のすき間から荷物が落ち、ソーマの膝に落ちた。

「何だこれ。首輪? あっ、動物が喋れる首輪だ!」

「ネネリム殿、まさかとは思うが……」

「俺たち商品の売り込みに行くんじゃねーんだぞ!」

 ソーマが言うと、ネネリム殿はあからさまに残念そうな顔になった。東大陸で商売するつもりだったのか。

「分かっていますよ。今回の目的は三つ。魔道具を売ること。リノ様を見つけること。公爵様の呪術を解く方法を探ることです」

「順番がおかしくないか? 魔道具がいちばん先というのは……」

「賢者レゲ、呪術のことは苦手みたいだもんな。向こうの賢者は俺たちを助けてくれるかな」

「東大陸の賢者はターニア様と仰るそうですが、先生はどうも苦手のようで」

「ターニア? 名前からすると女性か?」

「もの凄い美女なんだそうです」

 ソーマが「うっひょう」と声を出した。まだ十七歳のソーマからすれば、美女というものは魅力的に感じるんだろう。
 しかし。

「ただ、薬術で年齢を誤魔化してるそうで。本当は先生と同い年の六十八歳です」

 ネネリム殿のひと言で、ソーマは火が消えたように沈黙した。嘘だろ、と無念そうに呟いている。

「薬術というのは見た目も変えることが出来るのか?」

「むしろその目的で、若い頃から熱心に薬術の研究をしていたそうですよ」

「恐ろしい女じゃねーか……。自分の野望のために研究するとか……」

「むしろ自分に正直な人じゃないですか? 是非ともお近づきになりたいです」

「ネネリムはその若返りの薬術を金儲けに使おうと思ってるだけだろ!」

 ネネリム殿は何も答えず、春の日差しのような暖かい、それでいて胡散臭い笑顔を浮かべた。営業用の顔だ。
 俺とソーマは不安を感じずにはいられなかった。
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