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第二部 人間に戻りました
20 お買い物
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お金を受け取ったロンダさんと私は斡旋所を出て、市場を目指して歩いた。家にはほとんど食料がない。市場で野菜や肉を買おうというわけだ。
この世界には地球に無かった食材もあるけど、人参やトマト等の見知った野菜もちゃんとある。ロンダさんはなにを買うつもりなのかと様子を伺っていたら、彼女は屋台のような場所を目指して歩きだした。
「ちょ、ロンダさん。あんまりお金がないんですよね? 外食するより、作った方がいいんじゃないですか? 長い目で見れば自炊した方が安上がりだし」
一刻も早くお金を稼いで、南大陸へ向かう船に乗りたい。そのためには無駄遣いはご法度だ。自炊するべきだ――と考えて声を掛けたのだが、ロンダさんはぎくりと体を震わせた。振り返った彼女は苦々しい顔をしている。
「アタシにも分かってるのよ。作った方がいいって事は……。でもね、人には向き不向きってモンがあるの。神はアタシに料理する能力を授けなかったのよ!」
「つまり料理するのが苦手なんですね?」
「……はい、そうです。アタシが作れるのは野菜のスープぐらいのもので、切って煮るしか出来ません」
この世の終わりのような暗い顔で呟いた。外食が多いからお金がないのかもしれない。
私は料理もひと通り作れるから、炊事は私が担当しよう。
「じゃあ私が作りますよ。肉と魚、どっちが好きですか?」
「つっ作れるの!? じゃあチキンが食べたい! おっきなチキンを焼いて二人で食べましょ!」
「食べきれる量を買いましょうよ……。すぐにお金なくなっちゃいますよ」
「……はい」
諸手を上げてチキンと絶叫したロンダさんは急にシュンとなり、とぼとぼと市場を歩き出した。ちょっと可哀相な気もするけど、たった二人でチキンの丸焼きなんか食べきれるわけがない。
(何となくロンダさんが貧乏な理由が分かってきたわ……。入ってきたお金をすぐに使っちゃうタイプなのかな)
家で料理を作るなら、調味料も何種類かほしい。出来れば使い慣れた醤油や味噌なんかもほしい。そう思って歩いていると、塩や砂糖、香辛料を売っている店を見つけた。樽に入った黒い液体もある。
「あっ! ロンダさん、あの黒いのって醤油ですか!?」
「……ショーユ? 何それ。あれはシンチョウって言って、しょっぱい味がする調味料よ。アタシは使ったことないけど、大豆から作るんだって」
「醤油と同じだぁ! やっと会えた……!」
日本を離れてはや二ヶ月。とうとう醤油と感動の再会!
私は店番をしていた女性に頼んで、少し味見をさせてもらった。日本の醤油よりは甘みが強いけど、確かにこの味は醤油だ。シンチョウが一リットルほど入った瓶を一つ買った。
(これで照り焼きチキンが作れる……!)
その後はロンダさんの望みどおり鶏肉を買い新鮮な野菜も買い、ついでに白米も二キログラムほど購入した。家に帰ってきてさっそく調理する。
「いただきまーす!」
「恵みに感謝し、有難くいただきます。……ふぅん。シンチョウで味付けすると、こんな味になるのね。こってりしてて美味しい……白いご飯に合うわ。いつもパンか麺を食べてるけど、ご飯もなかなかいいわね」
ロンダさんはお気に召したようで、照り焼きチキンを夢中になって食べている。この料理、異世界でもウケるのか。素晴らしいわ。
「リーディガーは洋風の味付けが多かったから、醤油の料理が食べたかったんですよ……。ハル様にもこの料理、食べてもらいたいなぁ」
「ハルさま? ……ははぁ、さては恋人ね?」
「ブフォッ! あ、すいません」
ロンダさんがとんでもない事を言うので、食べていたサラダを噴いてしまった。ロンダさんの頭に菜っ葉がのっている。
「ハル様というのは、私がお世話になった人で……。ちょっと説明が難しいんですけど、私のご主人様みたいな人ですかね」
「それでメイド服着てるんだ。あんたはハル様のメイドってわけね」
メイドとは違うけど、私は元ペンギンでハル様は飼い主ですなんて言ったら余計にややこしくなりそうだ。私は曖昧に頷いた。
この世界には地球に無かった食材もあるけど、人参やトマト等の見知った野菜もちゃんとある。ロンダさんはなにを買うつもりなのかと様子を伺っていたら、彼女は屋台のような場所を目指して歩きだした。
「ちょ、ロンダさん。あんまりお金がないんですよね? 外食するより、作った方がいいんじゃないですか? 長い目で見れば自炊した方が安上がりだし」
一刻も早くお金を稼いで、南大陸へ向かう船に乗りたい。そのためには無駄遣いはご法度だ。自炊するべきだ――と考えて声を掛けたのだが、ロンダさんはぎくりと体を震わせた。振り返った彼女は苦々しい顔をしている。
「アタシにも分かってるのよ。作った方がいいって事は……。でもね、人には向き不向きってモンがあるの。神はアタシに料理する能力を授けなかったのよ!」
「つまり料理するのが苦手なんですね?」
「……はい、そうです。アタシが作れるのは野菜のスープぐらいのもので、切って煮るしか出来ません」
この世の終わりのような暗い顔で呟いた。外食が多いからお金がないのかもしれない。
私は料理もひと通り作れるから、炊事は私が担当しよう。
「じゃあ私が作りますよ。肉と魚、どっちが好きですか?」
「つっ作れるの!? じゃあチキンが食べたい! おっきなチキンを焼いて二人で食べましょ!」
「食べきれる量を買いましょうよ……。すぐにお金なくなっちゃいますよ」
「……はい」
諸手を上げてチキンと絶叫したロンダさんは急にシュンとなり、とぼとぼと市場を歩き出した。ちょっと可哀相な気もするけど、たった二人でチキンの丸焼きなんか食べきれるわけがない。
(何となくロンダさんが貧乏な理由が分かってきたわ……。入ってきたお金をすぐに使っちゃうタイプなのかな)
家で料理を作るなら、調味料も何種類かほしい。出来れば使い慣れた醤油や味噌なんかもほしい。そう思って歩いていると、塩や砂糖、香辛料を売っている店を見つけた。樽に入った黒い液体もある。
「あっ! ロンダさん、あの黒いのって醤油ですか!?」
「……ショーユ? 何それ。あれはシンチョウって言って、しょっぱい味がする調味料よ。アタシは使ったことないけど、大豆から作るんだって」
「醤油と同じだぁ! やっと会えた……!」
日本を離れてはや二ヶ月。とうとう醤油と感動の再会!
私は店番をしていた女性に頼んで、少し味見をさせてもらった。日本の醤油よりは甘みが強いけど、確かにこの味は醤油だ。シンチョウが一リットルほど入った瓶を一つ買った。
(これで照り焼きチキンが作れる……!)
その後はロンダさんの望みどおり鶏肉を買い新鮮な野菜も買い、ついでに白米も二キログラムほど購入した。家に帰ってきてさっそく調理する。
「いただきまーす!」
「恵みに感謝し、有難くいただきます。……ふぅん。シンチョウで味付けすると、こんな味になるのね。こってりしてて美味しい……白いご飯に合うわ。いつもパンか麺を食べてるけど、ご飯もなかなかいいわね」
ロンダさんはお気に召したようで、照り焼きチキンを夢中になって食べている。この料理、異世界でもウケるのか。素晴らしいわ。
「リーディガーは洋風の味付けが多かったから、醤油の料理が食べたかったんですよ……。ハル様にもこの料理、食べてもらいたいなぁ」
「ハルさま? ……ははぁ、さては恋人ね?」
「ブフォッ! あ、すいません」
ロンダさんがとんでもない事を言うので、食べていたサラダを噴いてしまった。ロンダさんの頭に菜っ葉がのっている。
「ハル様というのは、私がお世話になった人で……。ちょっと説明が難しいんですけど、私のご主人様みたいな人ですかね」
「それでメイド服着てるんだ。あんたはハル様のメイドってわけね」
メイドとは違うけど、私は元ペンギンでハル様は飼い主ですなんて言ったら余計にややこしくなりそうだ。私は曖昧に頷いた。
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