【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま

文字の大きさ
上 下
85 / 115
第二部 人間に戻りました

20 お買い物

しおりを挟む
 お金を受け取ったロンダさんと私は斡旋所を出て、市場を目指して歩いた。家にはほとんど食料がない。市場で野菜や肉を買おうというわけだ。

 この世界には地球に無かった食材もあるけど、人参やトマト等の見知った野菜もちゃんとある。ロンダさんはなにを買うつもりなのかと様子を伺っていたら、彼女は屋台のような場所を目指して歩きだした。

「ちょ、ロンダさん。あんまりお金がないんですよね? 外食するより、作った方がいいんじゃないですか? 長い目で見れば自炊した方が安上がりだし」

 一刻も早くお金を稼いで、南大陸へ向かう船に乗りたい。そのためには無駄遣いはご法度だ。自炊するべきだ――と考えて声を掛けたのだが、ロンダさんはぎくりと体を震わせた。振り返った彼女は苦々しい顔をしている。

「アタシにも分かってるのよ。作った方がいいって事は……。でもね、人には向き不向きってモンがあるの。神はアタシに料理する能力を授けなかったのよ!」

「つまり料理するのが苦手なんですね?」

「……はい、そうです。アタシが作れるのは野菜のスープぐらいのもので、切って煮るしか出来ません」

 この世の終わりのような暗い顔で呟いた。外食が多いからお金がないのかもしれない。
 私は料理もひと通り作れるから、炊事は私が担当しよう。

「じゃあ私が作りますよ。肉と魚、どっちが好きですか?」

「つっ作れるの!? じゃあチキンが食べたい! おっきなチキンを焼いて二人で食べましょ!」

「食べきれる量を買いましょうよ……。すぐにお金なくなっちゃいますよ」

「……はい」

 諸手を上げてチキンと絶叫したロンダさんは急にシュンとなり、とぼとぼと市場を歩き出した。ちょっと可哀相な気もするけど、たった二人でチキンの丸焼きなんか食べきれるわけがない。

(何となくロンダさんが貧乏な理由が分かってきたわ……。入ってきたお金をすぐに使っちゃうタイプなのかな)

 家で料理を作るなら、調味料も何種類かほしい。出来れば使い慣れた醤油や味噌なんかもほしい。そう思って歩いていると、塩や砂糖、香辛料を売っている店を見つけた。樽に入った黒い液体もある。

「あっ! ロンダさん、あの黒いのって醤油ですか!?」

「……ショーユ? 何それ。あれはシンチョウって言って、しょっぱい味がする調味料よ。アタシは使ったことないけど、大豆から作るんだって」

「醤油と同じだぁ! やっと会えた……!」

 日本を離れてはや二ヶ月。とうとう醤油と感動の再会!
 私は店番をしていた女性に頼んで、少し味見をさせてもらった。日本の醤油よりは甘みが強いけど、確かにこの味は醤油だ。シンチョウが一リットルほど入った瓶を一つ買った。

(これで照り焼きチキンが作れる……!)

 その後はロンダさんの望みどおり鶏肉を買い新鮮な野菜も買い、ついでに白米も二キログラムほど購入した。家に帰ってきてさっそく調理する。

「いただきまーす!」

「恵みに感謝し、有難くいただきます。……ふぅん。シンチョウで味付けすると、こんな味になるのね。こってりしてて美味しい……白いご飯に合うわ。いつもパンか麺を食べてるけど、ご飯もなかなかいいわね」

 ロンダさんはお気に召したようで、照り焼きチキンを夢中になって食べている。この料理、異世界でもウケるのか。素晴らしいわ。

「リーディガーは洋風の味付けが多かったから、醤油の料理が食べたかったんですよ……。ハル様にもこの料理、食べてもらいたいなぁ」

「ハルさま? ……ははぁ、さては恋人ね?」

「ブフォッ! あ、すいません」

 ロンダさんがとんでもない事を言うので、食べていたサラダを噴いてしまった。ロンダさんの頭に菜っ葉がのっている。

「ハル様というのは、私がお世話になった人で……。ちょっと説明が難しいんですけど、私のご主人様みたいな人ですかね」

「それでメイド服着てるんだ。あんたはハル様のメイドってわけね」

 メイドとは違うけど、私は元ペンギンでハル様は飼い主ですなんて言ったら余計にややこしくなりそうだ。私は曖昧に頷いた。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

処理中です...