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第二部 人間に戻りました
12 まさかの漂流
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階段を登って甲板に出た途端、大きな波が襲ってきて私をびしょ濡れにした。うへえ、しょっぱい。海の水だ。
空は晴れていて、嵐が起こった様子はないのに波が高いのはどういう事なのか――と思って周囲を見れば、海の中に巨大なタコがいる。
「大王イカ……じゃないな。大王タコ? そんなんいたっけ?」
タコは長い脚で人間を捕まえ、オモチャのように振り回している。誰かが「クラーケンが出た」と叫んだので、ようやく魔物の名前が分かった。
甲板に立った何人かのオッサン達が、黒いローブを着た誰かにクラーケンを何とかしろと言っている。
(黒いローブ……魔法士? ネネさん!?)
私はワラにも縋る思いで魔法士のもとへ駆け寄ったけど、ローブを着ているのはネネさんではなかった。三十歳ぐらいの女性で、ミルクティー色の杖を持っている。
「錬金――槍! クラーケンを貫け!」
女性は魔法で槍を作り出し、クラーケン目掛けて解き放った。槍は命令どおり飛んで行った――が、クラーケンの肉が分厚いせいか、ぼよんと跳ね返って刺さらない。よく見たら槍の先が丸っこくて尖っていないのだ。錬金失敗?
「おいっ! 金払って雇ったんだから、ちゃんと仕事しろよ!」
「わ、分かってるわよ!」
魔法士がオッサンに怒られている。彼女は錬金魔法は諦めたようで、空中に氷の矢を何本か作った。今度はちゃんとクラーケンに命中し、当たった場所から魔物の体が凍り付いていく。脚から解放された人が海に落ち、ボートに乗せられた。
「ゴファァァツ!」
「まだ他の脚が生きてる! 全部凍らせてくれ! ……って、おい!」
「も……無理……」
つい先ほどまでカッコ良く魔法を使っていたのに、なぜか魔法士はその場にズルズルとへたり込んでしまった。私とオッサンで立たせようとしたけど、彼女は力のない声で、
「おなか……へった…………」
などと呟いている。オッサンは今にもブチキレそうだ。金払っただろ、仕事しろと何度も絶叫。しかし女性は動かない。
「また脚が来るぞ! 甲板を割られたら転覆しちまう!」
(こうなったら私が魔法を使おう。ここは海の上だから、大丈夫だよね!?)
今回は水ではなく、別の物を出した方が良さそうだ。魔法士が出した氷の矢が効いたんだから、私も氷を出してみよう。
「出でよぉっ! 氷! とにかくたくさんの氷、出てこいっ!」
どれぐらいの量を出すかは全く考えていなかった。手を上に掲げて叫ぶと、クラーケンの真上に青い光が現れ、またたく間に巨大化していく。氷塊だ。南極の氷山みたいな大きさだ。
「なんかイメージと違うけど……まぁいいか。えぇい!」
手を下ろすと同時に、氷塊がクラーケンに直撃した。魔物の巨大な体がぐらりと傾き、海に倒れて、大きな波が巻き起こる。本当は凍らせたかったのに脳震盪を起こしたらしい。
「うわわわわっ!」
「ぎゃーっ!」
船が転覆寸前まで傾き、私と魔法士の女性は海に投げ出されてしまった。その辺に浮いていた流木に何とか掴まったけど、乗っていた船は波に押されてぐんぐん離れていく。
「ま、まってぇ~! 置いてかないでぇ! ……はっ!」
ふと隣を見れば、空腹で倒れた魔法士がぶくぶくと沈んでいくところだった。慌てて彼女の腕を掴み、流木に体を浮かせてやる。そんな事をしていたらますます船が離れ、もう追いかけるのは無理そうな距離になってしまった。
「がーん……。どうすりゃいいのよ」
もう日が暮れかけて、空はすっかり茜色だ。夜なったらもっと魔物が増えるかもしれない。私は周囲を見渡し、いちばん近くに見える島を目指して移動することにした。
(距離は二百メートルぐらいありそうだけど……死ぬよりまし!)
流木に掴まり、必死で手足を動かす。そうしてようやく島に辿りついた時にはすっかり疲れ果て、白い砂浜に倒れこんでしまった。
空は晴れていて、嵐が起こった様子はないのに波が高いのはどういう事なのか――と思って周囲を見れば、海の中に巨大なタコがいる。
「大王イカ……じゃないな。大王タコ? そんなんいたっけ?」
タコは長い脚で人間を捕まえ、オモチャのように振り回している。誰かが「クラーケンが出た」と叫んだので、ようやく魔物の名前が分かった。
甲板に立った何人かのオッサン達が、黒いローブを着た誰かにクラーケンを何とかしろと言っている。
(黒いローブ……魔法士? ネネさん!?)
私はワラにも縋る思いで魔法士のもとへ駆け寄ったけど、ローブを着ているのはネネさんではなかった。三十歳ぐらいの女性で、ミルクティー色の杖を持っている。
「錬金――槍! クラーケンを貫け!」
女性は魔法で槍を作り出し、クラーケン目掛けて解き放った。槍は命令どおり飛んで行った――が、クラーケンの肉が分厚いせいか、ぼよんと跳ね返って刺さらない。よく見たら槍の先が丸っこくて尖っていないのだ。錬金失敗?
「おいっ! 金払って雇ったんだから、ちゃんと仕事しろよ!」
「わ、分かってるわよ!」
魔法士がオッサンに怒られている。彼女は錬金魔法は諦めたようで、空中に氷の矢を何本か作った。今度はちゃんとクラーケンに命中し、当たった場所から魔物の体が凍り付いていく。脚から解放された人が海に落ち、ボートに乗せられた。
「ゴファァァツ!」
「まだ他の脚が生きてる! 全部凍らせてくれ! ……って、おい!」
「も……無理……」
つい先ほどまでカッコ良く魔法を使っていたのに、なぜか魔法士はその場にズルズルとへたり込んでしまった。私とオッサンで立たせようとしたけど、彼女は力のない声で、
「おなか……へった…………」
などと呟いている。オッサンは今にもブチキレそうだ。金払っただろ、仕事しろと何度も絶叫。しかし女性は動かない。
「また脚が来るぞ! 甲板を割られたら転覆しちまう!」
(こうなったら私が魔法を使おう。ここは海の上だから、大丈夫だよね!?)
今回は水ではなく、別の物を出した方が良さそうだ。魔法士が出した氷の矢が効いたんだから、私も氷を出してみよう。
「出でよぉっ! 氷! とにかくたくさんの氷、出てこいっ!」
どれぐらいの量を出すかは全く考えていなかった。手を上に掲げて叫ぶと、クラーケンの真上に青い光が現れ、またたく間に巨大化していく。氷塊だ。南極の氷山みたいな大きさだ。
「なんかイメージと違うけど……まぁいいか。えぇい!」
手を下ろすと同時に、氷塊がクラーケンに直撃した。魔物の巨大な体がぐらりと傾き、海に倒れて、大きな波が巻き起こる。本当は凍らせたかったのに脳震盪を起こしたらしい。
「うわわわわっ!」
「ぎゃーっ!」
船が転覆寸前まで傾き、私と魔法士の女性は海に投げ出されてしまった。その辺に浮いていた流木に何とか掴まったけど、乗っていた船は波に押されてぐんぐん離れていく。
「ま、まってぇ~! 置いてかないでぇ! ……はっ!」
ふと隣を見れば、空腹で倒れた魔法士がぶくぶくと沈んでいくところだった。慌てて彼女の腕を掴み、流木に体を浮かせてやる。そんな事をしていたらますます船が離れ、もう追いかけるのは無理そうな距離になってしまった。
「がーん……。どうすりゃいいのよ」
もう日が暮れかけて、空はすっかり茜色だ。夜なったらもっと魔物が増えるかもしれない。私は周囲を見渡し、いちばん近くに見える島を目指して移動することにした。
(距離は二百メートルぐらいありそうだけど……死ぬよりまし!)
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