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第二部 人間に戻りました
11 誘拐されちゃった?
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地面がゆらゆらと揺れている。リズムはゆったりとしていて、まるで波間に漂う船のような動きだ。ハンモックで寝ているような感じだ。
(気持ちいい……。でも床が硬いな。ちゃんとベッドで寝ればよかった)
私はどうやら、あお向けの状態で硬い床の上に寝ているらしい。意識が浮上してくると、ざざぁ、という水の音まで聞こえてきた。少し生臭いにおいまで漂っている。
(この匂い、何だっけ……。どこかで嗅いだことがあるんだけど。確か、夏に海へ遊びに行ったときに……)
「――海!?」
急に目が覚めた。湖で散歩していたはずなのに、海にいるのはおかしい。しかし目を開けているにも関わらず周囲は真っ暗で、手は背中側で縛られているのかびくともしない。
仕方なく足をじたばたと動かすと上に固定されていた蓋が外れ、ようやく天井が見えてきた。私は棺のような細長い箱の中に閉じ込められていたようだ。
手が使えないので、芋虫のようにうねうねと動いてやっと体を起こす。
「あいたた……。ここ何処なの?」
部屋の中は暗く、目を凝らすと荷物だらけだった。木箱や樽、麻の袋がごちゃごちゃと置いてあり、どういうわけか窓は一つもない。たくさんの荷物と一つのドア。それだけの部屋だ。
床は平らなものの、壁は下から上に向かって緩くカーブを描いており、建物の中ではない様子だった。何かの乗り物の中かもしれない。だんだん混乱してきた。
(えぇーっ……。なんだっけ、どうしてこんな事になったんだっけ? 私は今日、昼下がりにお城を抜け出して、湖を散歩してたはずなんだけど)
目を閉じるとキラキラ光る湖面さえ目蓋の裏に浮かぶようだ。湖の周囲を歩いている途中、黒い馬車が近づいてきて……中にはマルシアさんが乗っていて。
「あっ、そうだ! お菓子を食べたら急に眠くなったんだわ! ……で、寝たからって何でこんな場所にいるわけ?」
訳が分からない。お菓子を食べて満腹になり、だらしなく寝入った私にマルシアさんが呆れてどこかに放り出したんだろうか。最後に「ごめんなさいね」とか呟いていたし。
(私を箱に入れて放置した後、その箱を引越し屋が荷物と間違えて回収した――とか? まさか犬や猫みたいに、当てのない放ろう旅に出ることになろうとは!)
誰が予想できただろうか。いや、誰も出来なかったに違いない。
耳を澄ますと確かに壁の向こうから、ざざあ、という波の音が聞こえる。チャプチャプという音も。もう間違いない、ここは海の上だ。私は船でお引越しさせられている!
「どえらい事だわ……! とにかく引越し業者に事情を伝えないと!」
棺みたいな箱から飛び出し、背中でくくられた手でドアノブを回してみる。が、鍵が掛かっているのか全然開く様子がない。
「すいませーん! 誰かいませんかー!」
何度も叫んでいると足音がして、鍵が開く音がした。やっと業者が来てくれたのかと顔を輝かせれば、入ってきたのは胸毛の濃いオッサンである。明らかに引越し業者ではない。オッサンは私を見てギョッとした様子だった。
「なんだぁ!? 荷物の中に、人間がまぎれこんでたのかぁ!?」
「寝てる間に箱詰めされちゃったんです。すいません、ここ何処ですか?」
オッサンは頭にターバンみたいな布を巻いていて、どちらかと言えば海賊のような雰囲気だった。でも腰に剣を挿したりはしていない。オッサンはのしのしと歩いてきて、私の手を縛った縄を細いナイフで切ってくれた。
「この船は東大陸のオルトー行きだ。こりゃ参ったな。おまえさん、この箱に入ってたのか? 手を縛られてたぐらいだから……まさか誘拐されたとか? 面倒な事になっちまったなぁ」
「誘拐なのかな……って、東大陸? そんな! 南大陸を出ちゃったの!? 帰る方法ないですか!?」
「ない事もねぇけどな。一旦出航した船は戻れねぇから、とりあえず東大陸に着いてから自力で帰るこった。この船は魔法式高速船だから、あと一時間もすりゃ到着だぜ」
「自力……。お金持ってない……! お、オッサン! 後でちゃんと返すから、お金貸してください!」
「誰がオッサンだ! 俺はまだ三十二だぞ! ――うわっ!?」
オッサンが叫んだ時、急に船が大きく揺れた。私とオッサンはよろけて荷物と一緒に床を転がってしまう。
「いてて……。急になんだろ」
「まさか、アイツが出たのか!?」
オッサンはそう叫んで部屋を飛び出して行った。アイツって誰だろう。親しげな雰囲気ではなかったけど。
私もオッサンに続いて部屋を出たけど、廊下を歩いている間も船が激しく揺れる。ここはデッキの下なのか、天井の上から「ギャー」だの「逃げろ」だの叫ぶ声が聞こえてきた。海賊でも出たんだろうか。
(気持ちいい……。でも床が硬いな。ちゃんとベッドで寝ればよかった)
私はどうやら、あお向けの状態で硬い床の上に寝ているらしい。意識が浮上してくると、ざざぁ、という水の音まで聞こえてきた。少し生臭いにおいまで漂っている。
(この匂い、何だっけ……。どこかで嗅いだことがあるんだけど。確か、夏に海へ遊びに行ったときに……)
「――海!?」
急に目が覚めた。湖で散歩していたはずなのに、海にいるのはおかしい。しかし目を開けているにも関わらず周囲は真っ暗で、手は背中側で縛られているのかびくともしない。
仕方なく足をじたばたと動かすと上に固定されていた蓋が外れ、ようやく天井が見えてきた。私は棺のような細長い箱の中に閉じ込められていたようだ。
手が使えないので、芋虫のようにうねうねと動いてやっと体を起こす。
「あいたた……。ここ何処なの?」
部屋の中は暗く、目を凝らすと荷物だらけだった。木箱や樽、麻の袋がごちゃごちゃと置いてあり、どういうわけか窓は一つもない。たくさんの荷物と一つのドア。それだけの部屋だ。
床は平らなものの、壁は下から上に向かって緩くカーブを描いており、建物の中ではない様子だった。何かの乗り物の中かもしれない。だんだん混乱してきた。
(えぇーっ……。なんだっけ、どうしてこんな事になったんだっけ? 私は今日、昼下がりにお城を抜け出して、湖を散歩してたはずなんだけど)
目を閉じるとキラキラ光る湖面さえ目蓋の裏に浮かぶようだ。湖の周囲を歩いている途中、黒い馬車が近づいてきて……中にはマルシアさんが乗っていて。
「あっ、そうだ! お菓子を食べたら急に眠くなったんだわ! ……で、寝たからって何でこんな場所にいるわけ?」
訳が分からない。お菓子を食べて満腹になり、だらしなく寝入った私にマルシアさんが呆れてどこかに放り出したんだろうか。最後に「ごめんなさいね」とか呟いていたし。
(私を箱に入れて放置した後、その箱を引越し屋が荷物と間違えて回収した――とか? まさか犬や猫みたいに、当てのない放ろう旅に出ることになろうとは!)
誰が予想できただろうか。いや、誰も出来なかったに違いない。
耳を澄ますと確かに壁の向こうから、ざざあ、という波の音が聞こえる。チャプチャプという音も。もう間違いない、ここは海の上だ。私は船でお引越しさせられている!
「どえらい事だわ……! とにかく引越し業者に事情を伝えないと!」
棺みたいな箱から飛び出し、背中でくくられた手でドアノブを回してみる。が、鍵が掛かっているのか全然開く様子がない。
「すいませーん! 誰かいませんかー!」
何度も叫んでいると足音がして、鍵が開く音がした。やっと業者が来てくれたのかと顔を輝かせれば、入ってきたのは胸毛の濃いオッサンである。明らかに引越し業者ではない。オッサンは私を見てギョッとした様子だった。
「なんだぁ!? 荷物の中に、人間がまぎれこんでたのかぁ!?」
「寝てる間に箱詰めされちゃったんです。すいません、ここ何処ですか?」
オッサンは頭にターバンみたいな布を巻いていて、どちらかと言えば海賊のような雰囲気だった。でも腰に剣を挿したりはしていない。オッサンはのしのしと歩いてきて、私の手を縛った縄を細いナイフで切ってくれた。
「この船は東大陸のオルトー行きだ。こりゃ参ったな。おまえさん、この箱に入ってたのか? 手を縛られてたぐらいだから……まさか誘拐されたとか? 面倒な事になっちまったなぁ」
「誘拐なのかな……って、東大陸? そんな! 南大陸を出ちゃったの!? 帰る方法ないですか!?」
「ない事もねぇけどな。一旦出航した船は戻れねぇから、とりあえず東大陸に着いてから自力で帰るこった。この船は魔法式高速船だから、あと一時間もすりゃ到着だぜ」
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「誰がオッサンだ! 俺はまだ三十二だぞ! ――うわっ!?」
オッサンが叫んだ時、急に船が大きく揺れた。私とオッサンはよろけて荷物と一緒に床を転がってしまう。
「いてて……。急になんだろ」
「まさか、アイツが出たのか!?」
オッサンはそう叫んで部屋を飛び出して行った。アイツって誰だろう。親しげな雰囲気ではなかったけど。
私もオッサンに続いて部屋を出たけど、廊下を歩いている間も船が激しく揺れる。ここはデッキの下なのか、天井の上から「ギャー」だの「逃げろ」だの叫ぶ声が聞こえてきた。海賊でも出たんだろうか。
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