【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま

文字の大きさ
上 下
73 / 115
第二部 人間に戻りました

8 横取り?

しおりを挟む
「そ……そうね。よくお似合いですわ。とてもお若いようですのに」

「でもあと五年待ってお召しになったら、もっとお似合いだったんじゃないかしら。マルシア様ほど育つまで」

「マルシア様はスタイルがいいものね」

 マルシアというのは赤いドレスの少女らしい。名前を出された彼女は誇らしげに胸を張り、その大きさは明らかに私を上回っている様子だ。揺れるぐらいの豊かさだ。頭の中に「がーん」という音が響き渡る。

(あと五年待ったところで、あんな大きさになるわけないよ……。童顔で体も貧弱とか、肩身が狭すぎる。ネネさんに頼んで豊満になる魔法でも掛けてもらおうかな……)

 子供みたいな私に、大切なドレスを着る価値なんてあるんだろうか。落ち込んでいるとペペが私にぎゅっとしがみ付いて言った。

「ペペ、ママがいいペエ。こわい人、いやペエ!」

『そうですわよ。いくら綺麗にめかしこんでいようと、胸が豊満だろうと、アタクシの尻尾を踏んだ罪は重くてよ。そう簡単に許しませんわ』

 いつの間に部屋に入ってきたのか、レティ姐さんが「ナァーオ」と鳴きながら私の膝に乗ってきた。

「この人たち、レティのしっぽ、ふんだペエ。いじわるペエ」

「そうだったよね。僕に話しかけるばっかりで、レティの尻尾踏んでたよね。僕は動物に優しくない人は好きになれないなあ」

「と、鳥さんがお喋りしてますわ!」

「今はそれどころじゃないでしょ。ごめんなさい、尻尾を踏んだのは謝りますわ」

「でもわたし達、本当にセルディス様をお慕いして……」

「僕じゃないでしょ。きみ達は兄上のお嫁さんになりたいだけでしょ!」

 セル様が強い口調で言うと、少女たちはシュンとうな垂れて大人しくなった。ただ一人、マルシアという名の少女だけが悔しそうな顔を上げている。

「それの何がいけませんの? 貴族の娘として生まれたからには、三公の妻になりたいと望むのは当然のことですわ! 勇者か何か知りませんけど、途中で横取りされてたまるものですか!」

「マルシア様、お言葉が過ぎますわよ!」

「横取りって……兄上はマルシアのものじゃないよ」

「こわいペエ!」

「今日のところはこれで失礼いたしますわ。御機嫌よう!」

 マルシアさんは不機嫌な表情のまま挨拶をして、部屋を出て行ってしまった。残りの令嬢たちも慌てて彼女の後を追いかけ、急に部屋が静かになったけど、セル様は満足そうだ。

「作戦は成功だね。これでしばらくは来ないんじゃないかな」

「マルシアさん、怒ってたね……。確かにちょっと怖い人だけど、あの人の言うことにも一理あるかも……」

 あの若さでハル様の妻の座を狙う執念には恐怖を感じるけど、あの子が言っていた「横取り」という台詞はその通りだと思った。

(いきなりこの世界に勇者として召喚されたけど、私がやった事って確かに横取りみたいなものかも。ずっとハル様のお嫁さんになりたかった人からすれば、やっぱり邪魔なんだろうなぁ……)

 俯いていると、レティ姐さんが私の頬をざりっと舐めた。結構痛い。

『あの人たちの努力と執念は間違ってますわ。ただのありがた迷惑ですから、あーたが気にする事じゃなくてよ』

「リノは気にしなくていいよ。リノが勇者として頑張ってくれたから、そのドレスを着て欲しいと思ったんだよ」

「ママ、みんな、たすけたペエ。ママ、えらいペエ」

「うん……。皆ありがとう。そうだね、私は自分に出来ることを頑張るよ」

 セル様とクララさんの期待に応えるためにも、私に出来ることを探してみよう。そしたらマルシアさんも私を認めてくれるかもしれないし、ハル様にも褒めて貰えるかもしれない。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

処理中です...