【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま

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第二部 人間に戻りました

8 横取り?

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「そ……そうね。よくお似合いですわ。とてもお若いようですのに」

「でもあと五年待ってお召しになったら、もっとお似合いだったんじゃないかしら。マルシア様ほど育つまで」

「マルシア様はスタイルがいいものね」

 マルシアというのは赤いドレスの少女らしい。名前を出された彼女は誇らしげに胸を張り、その大きさは明らかに私を上回っている様子だ。揺れるぐらいの豊かさだ。頭の中に「がーん」という音が響き渡る。

(あと五年待ったところで、あんな大きさになるわけないよ……。童顔で体も貧弱とか、肩身が狭すぎる。ネネさんに頼んで豊満になる魔法でも掛けてもらおうかな……)

 子供みたいな私に、大切なドレスを着る価値なんてあるんだろうか。落ち込んでいるとペペが私にぎゅっとしがみ付いて言った。

「ペペ、ママがいいペエ。こわい人、いやペエ!」

『そうですわよ。いくら綺麗にめかしこんでいようと、胸が豊満だろうと、アタクシの尻尾を踏んだ罪は重くてよ。そう簡単に許しませんわ』

 いつの間に部屋に入ってきたのか、レティ姐さんが「ナァーオ」と鳴きながら私の膝に乗ってきた。

「この人たち、レティのしっぽ、ふんだペエ。いじわるペエ」

「そうだったよね。僕に話しかけるばっかりで、レティの尻尾踏んでたよね。僕は動物に優しくない人は好きになれないなあ」

「と、鳥さんがお喋りしてますわ!」

「今はそれどころじゃないでしょ。ごめんなさい、尻尾を踏んだのは謝りますわ」

「でもわたし達、本当にセルディス様をお慕いして……」

「僕じゃないでしょ。きみ達は兄上のお嫁さんになりたいだけでしょ!」

 セル様が強い口調で言うと、少女たちはシュンとうな垂れて大人しくなった。ただ一人、マルシアという名の少女だけが悔しそうな顔を上げている。

「それの何がいけませんの? 貴族の娘として生まれたからには、三公の妻になりたいと望むのは当然のことですわ! 勇者か何か知りませんけど、途中で横取りされてたまるものですか!」

「マルシア様、お言葉が過ぎますわよ!」

「横取りって……兄上はマルシアのものじゃないよ」

「こわいペエ!」

「今日のところはこれで失礼いたしますわ。御機嫌よう!」

 マルシアさんは不機嫌な表情のまま挨拶をして、部屋を出て行ってしまった。残りの令嬢たちも慌てて彼女の後を追いかけ、急に部屋が静かになったけど、セル様は満足そうだ。

「作戦は成功だね。これでしばらくは来ないんじゃないかな」

「マルシアさん、怒ってたね……。確かにちょっと怖い人だけど、あの人の言うことにも一理あるかも……」

 あの若さでハル様の妻の座を狙う執念には恐怖を感じるけど、あの子が言っていた「横取り」という台詞はその通りだと思った。

(いきなりこの世界に勇者として召喚されたけど、私がやった事って確かに横取りみたいなものかも。ずっとハル様のお嫁さんになりたかった人からすれば、やっぱり邪魔なんだろうなぁ……)

 俯いていると、レティ姐さんが私の頬をざりっと舐めた。結構痛い。

『あの人たちの努力と執念は間違ってますわ。ただのありがた迷惑ですから、あーたが気にする事じゃなくてよ』

「リノは気にしなくていいよ。リノが勇者として頑張ってくれたから、そのドレスを着て欲しいと思ったんだよ」

「ママ、みんな、たすけたペエ。ママ、えらいペエ」

「うん……。皆ありがとう。そうだね、私は自分に出来ることを頑張るよ」

 セル様とクララさんの期待に応えるためにも、私に出来ることを探してみよう。そしたらマルシアさんも私を認めてくれるかもしれないし、ハル様にも褒めて貰えるかもしれない。
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