【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま

文字の大きさ
上 下
72 / 115
第二部 人間に戻りました

7 意味深なドレス

しおりを挟む
「リノは僕たちの賓客ってことになってるからね。そりゃクララ達だって、働かせるのは抵抗あると思うよ」

 労働をしようと意気込んでから早三日。お茶以外の仕事をほとんどさせてもらえず、暇を持て余す私にセル様は言った。
 ハル様は騎士団の仕事に復帰し、ネネさんと爽真はブルギーニュへ帰っている。今は学校帰りのセル様とオヤツを食べているところだ。勿論ペペも。

「賓客……。私ってそんなに大切なお客さんかなぁ。もう聖獣じゃないし、大した役にも立ってないように思うけど……」

「あらまぁ、リノは自覚がないのね。あなたは南大陸を救った勇者なのですよ」

「そうだよ。リノのお陰でペペが目覚めて、僕の病気だって治ったんだよ。他の瘴気病の人だって、リノに感謝してると思うよ」

「そう……なのかな」
「そうだよ」
「そうです」

 セル様とクララさんの声はほぼ被っていて、私はもう口を閉ざすしかなかった。確かに自分でも、ペペだった頃の私はそれなりに頑張っていたと思う。命がけで誘拐されたりもしたし。

(でも……私は今の自分を認めてほしい。人間になった私の努力をハル様に褒めてほしい)

 感謝の押し売りはしないと言ったくせに、ハル様に褒めて欲しいと思う気持ちは少しずつ大きくなっていた。でも聖獣じゃなくなった私に特別な力はなく、勇者というのもいまいち実感が湧かない。
 ただの女子高生だった私に出来ることといえば、洗濯、掃除、炊事ぐらいのものだ。ああ働きたい。

「失礼いたします。坊ちゃま、ご学友の方たちがお見えです」

「やっぱり来た。そろそろだと思ったんだよね……。あの子たち兄上には相手してもらえないからって、僕ひとりの時を狙ってここに来るんだ」

「むしろ狙い通りですわ。今日はリノにドレスを着せてますもの」

「え? このドレス、何が意味があったの?」

 セル様とクララさんは顔を見合わせて、何かを企んでいるようにニヤリと笑った。お茶会の前に着替えようと言われてドレスを着たけど、お客さんが来るからだったらしい。
 生まれて初めて着たクリーム色のドレスは私にぴったりで、裾を踏むこともなく、体を締め付けることもない。とても快適だ。

 しばらくしてドアの向こうが騒がしくなり、太陽系の令嬢達がやって来た。今日も色とりどりのドレスを着ている。

「御機嫌よう、セルディス様!」

「今日はわたしが焼いたお菓子をお持ちしましたの。セルディス様、さぁどうぞ召し上がってくださいな」

「あら、食べない方がいいのではなくて? 怪しい薬でも入っていそうですわ」

「惚れ薬なんて混ぜていないでしょうね?」

「カイリーに惚れ薬なんて作れるわけがありませんわ」


 騒々しい。予想を超える騒々しさだ。部屋の隅でお茶の用意をするクララさんのこめかみがピクピクしている。ペペは怯えて私にしがみ付き、セル様は寄り添うように私の隣に椅子を移動させた。

 セル様の動きに目ざとく気づいた五人の令嬢たちが、鋭い目付きで私を観察している。なんだこの女は、どうしてセル様と親しげなんだとでも思っていそうだ。体に針がちくちくと刺さっているように感じる。視線が痛いです。

「セルディス様、そちらの方はどなたですか?」

「お年はわたくし達と同じぐらいに見えますわね」

「この人はリノだよ。南大陸の聖獣を目覚めさせてくれた勇者で、僕と兄上にとっても、すごく……すっごく大切な人なんだ」

「大切って……あっ、そのドレスは!」

 青いドレスの令嬢が小さく叫ぶと、他の令嬢たちもハッと息を飲んだようだった。どういう事だろう。普通のドレスに見えるけど、何か特別な品だったんだろうか。

「リノ様のドレスは、セルディス様のお母様がお召しになっていたものでは……!?」

「えぇっ!? そんな大切な服だったの!?」

「せっかく母上の服を残しておいたからさ、クララに手直ししてもらったんだよ」

「旦那様からもお許しを頂きましたわ。よくお似合いです」

(ハル様も!? 私がこのドレスを着ること、了承したんだ?)

 でもハル様の場合、私にお母様のドレスを着せたかったのではなく、記憶を失った事を気にして手直しを許可したような気がする。そう考えるのは少し悲しいけれども。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

処理中です...