【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま

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第二部 人間に戻りました

5 お母ちゃんのツッパリ

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 木立の向こうに広がる美しい湖。その奥に佇む荘厳なお城。
 たった一週間ぐらいのお出掛け(?)だったのに、ひどく懐かしい気持ちになる。

「私は帰ってきた……! 懐かしいお城に!」

『あーた、うるさいですわよ。いつまで同じ事を言ってますの。もう三日目でしょ』

 陽光を浴びて伸びをする私の横で、レティ姐さんが冷ややかに言った。そうなのだ。私は人間に戻ったというのに、いまだに動物と会話ができるのだ。何とも言えない微妙な気持ちである。

「不思議ですよねぇ。ひと月も肉体が入れ替わった影響で、聖獣の能力がリノ様に受け継がれたんでしょうか。魔道具なしで動物と喋れる人間なんてリノ様ぐらいですよ。素晴らしい研究材料です! さぁ、今日も張り切って実験しましょう!」

 部屋の床に変な模様のカーペットを広げながら、ネネさんが嬉々として言った。ここはネネさんのために用意された研究室だ。
 リーディガーに戻ってきてもやっぱりハル様の記憶は戻らず、ネネさんはブルギーニュとロイウェルを往復しながら原因を探ってくれている。
 でもハル様の件だけではなく、他にも調べたいことがあるらしい。私とペペの事だ。

「これは魔力を高める効果がある魔法陣です。今日はこの上でお一人ずつ、聖なる息吹ルアハーが出せるかやってみましょう。まず、ペペから」

「ペエッ!」
 名前を呼ばれたペペは右フリッパーをびしっと上げ、よちよち歩きでカーペット魔法陣の上に乗る。

「はい、吸って~、吐いて~……今です! 聖なる息吹ルアハー!」
「ペェェエエッ!!」

 ――シーン……。
 勢いよくフリッパーを突き出したペペだったが、やはりと言うか想像通りと言うか、何の光も出て来ない。

『やっぱり何も出ないじゃありませんの』
『ペペェ! 根性ォ出せ! もう一息だァ!』

 取ってこい遊びをしていた親ビンが帰ってきて、ペペを激励している。それでもやはりペペのフリッパーは沈黙したままだ。ションボリするペペを親ビンたちが慰めている。

「ダメですか。じゃあ次はリノ様、やってみましょう」
「ハイッ!」

 ペペと入れ替わりに魔法陣の上に立ち、精神を集中させる。あの時の感覚を思い出すんだ。熱を高めるんだ……!

「はい、どうぞ」
「はんがァァァァッ! ふぐぅ! ふんぬぅぅ!」

『何も出てませんわね』
『どうなってやがるんでェ。オレが大怪我したときにゃァ、ペペが出した光で助かったっていうのによォ』

「ママ、がんばってペエ!」
 正方形のカーペットに描かれた円形の魔法陣。そこに乗って、両手を空中に向かって突き出している私。これって突っ張りの稽古じゃない? 完全にお相撲さんだよね?
 何度も突っ張りしてたら息が切れてきた。

「もう無理! 私に突っ張りを極めるのは無理です!」

「ツッパリという技は知りませんが、とにかくお一人ずつだと聖なる息吹ルアハーは出せないようですね。ペペ一人だと魔力が足りないので、リノ様が補っているんでしょうか……つまり二人でひとつなんですね。これは有意義な研究ですよ……! 親鳥が雛の成育を待ってから死ぬのは、聖なる息吹ルアハーを出せるかどうか見極めていたんですね!」

「私ちょっと気になる事があるんですけど……。あの白い光って、呪術には効かないんでしょうか? ハル様の毒は治ったのに、呪術はそのままで……万能かと思ってたのにショックです」

「恐らくですが、魂の浄化までは出来ないんでしょう。記憶は魂に結びついていますから、効果がなかったのではないかと思われます。……そうだ、ここもレポートに纏めておくべきですね! 私は一旦ブルギーニュへ戻ります!」

「あっ、ネネさん! ……消えちゃった」

 ネネさんは急に何かを思いついたようで、転移魔法陣を展開させて消えてしまった。転移はとても疲れる魔法だと言っていたから、次にお城に来るのは明後日ぐらいだろう。

 床の魔法陣をクルクルと巻いて片付けた時、ドアが開いてクララさんが入ってきた。

「リノ、そろそろお茶の時間ですよ。旦那様にはリノが持って行ってあげてね」

「はぁい。……やっぱり私が持って行かないとダメですか?」

 私が人間に戻ってからというもの、クララさんはハル様へのお茶出しを私に任せるようになった。でも私としては複雑な気分だ。

 ハル様は私を見るたびにしかめっ面になるので、会うのが辛いというのが正直な本音である。たくさん思い出を作ろうと言ったのは私だけども。
 私の弱音を聞いたクララさんは目をギラッと光らせ、両肩を力強く掴んできた。ちょっと怖い。

「ダメですとも。いいですか、これは絶好の機会です。神が我々に与えたもうた、最後のチャンスです」

「さ……最後? 大げさじゃ……」

「大げさではありません。旦那様はもう二十七歳。じきに二十八になります。堅物の旦那様に女性を意識させるには、リノが体を張るしかないのです。あなたはこのお屋敷で唯一……ただ一人の、未婚女性なのですよ。さぁ、このワゴンを持って」

「は、はいぃ」

 ほとんど強引に、お茶のセットが載ったワゴンを引かせようとする。促されるままに取っ手を握ると、足元で誰かが私の黒いスカートをくいくいと引っ張った。ペペだ。サイズが合う服がないので、私はいまだにメイド服を着ている。

「ママ、だっこぉ。だっこしてペエ」
「よしよし、いい子ね。ママに抱っこしてもらいましょうね」

 クララさんはサラシのような幅の広い布を持ってきて、私の背中にペペをおんぶさせた。さらにその上から柔らかいショールを巻いて保温。完全に昭和のお母ちゃん状態。
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