【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま

文字の大きさ
上 下
70 / 115
第二部 人間に戻りました

5 お母ちゃんのツッパリ

しおりを挟む
 木立の向こうに広がる美しい湖。その奥に佇む荘厳なお城。
 たった一週間ぐらいのお出掛け(?)だったのに、ひどく懐かしい気持ちになる。

「私は帰ってきた……! 懐かしいお城に!」

『あーた、うるさいですわよ。いつまで同じ事を言ってますの。もう三日目でしょ』

 陽光を浴びて伸びをする私の横で、レティ姐さんが冷ややかに言った。そうなのだ。私は人間に戻ったというのに、いまだに動物と会話ができるのだ。何とも言えない微妙な気持ちである。

「不思議ですよねぇ。ひと月も肉体が入れ替わった影響で、聖獣の能力がリノ様に受け継がれたんでしょうか。魔道具なしで動物と喋れる人間なんてリノ様ぐらいですよ。素晴らしい研究材料です! さぁ、今日も張り切って実験しましょう!」

 部屋の床に変な模様のカーペットを広げながら、ネネさんが嬉々として言った。ここはネネさんのために用意された研究室だ。
 リーディガーに戻ってきてもやっぱりハル様の記憶は戻らず、ネネさんはブルギーニュとロイウェルを往復しながら原因を探ってくれている。
 でもハル様の件だけではなく、他にも調べたいことがあるらしい。私とペペの事だ。

「これは魔力を高める効果がある魔法陣です。今日はこの上でお一人ずつ、聖なる息吹ルアハーが出せるかやってみましょう。まず、ペペから」

「ペエッ!」
 名前を呼ばれたペペは右フリッパーをびしっと上げ、よちよち歩きでカーペット魔法陣の上に乗る。

「はい、吸って~、吐いて~……今です! 聖なる息吹ルアハー!」
「ペェェエエッ!!」

 ――シーン……。
 勢いよくフリッパーを突き出したペペだったが、やはりと言うか想像通りと言うか、何の光も出て来ない。

『やっぱり何も出ないじゃありませんの』
『ペペェ! 根性ォ出せ! もう一息だァ!』

 取ってこい遊びをしていた親ビンが帰ってきて、ペペを激励している。それでもやはりペペのフリッパーは沈黙したままだ。ションボリするペペを親ビンたちが慰めている。

「ダメですか。じゃあ次はリノ様、やってみましょう」
「ハイッ!」

 ペペと入れ替わりに魔法陣の上に立ち、精神を集中させる。あの時の感覚を思い出すんだ。熱を高めるんだ……!

「はい、どうぞ」
「はんがァァァァッ! ふぐぅ! ふんぬぅぅ!」

『何も出てませんわね』
『どうなってやがるんでェ。オレが大怪我したときにゃァ、ペペが出した光で助かったっていうのによォ』

「ママ、がんばってペエ!」
 正方形のカーペットに描かれた円形の魔法陣。そこに乗って、両手を空中に向かって突き出している私。これって突っ張りの稽古じゃない? 完全にお相撲さんだよね?
 何度も突っ張りしてたら息が切れてきた。

「もう無理! 私に突っ張りを極めるのは無理です!」

「ツッパリという技は知りませんが、とにかくお一人ずつだと聖なる息吹ルアハーは出せないようですね。ペペ一人だと魔力が足りないので、リノ様が補っているんでしょうか……つまり二人でひとつなんですね。これは有意義な研究ですよ……! 親鳥が雛の成育を待ってから死ぬのは、聖なる息吹ルアハーを出せるかどうか見極めていたんですね!」

「私ちょっと気になる事があるんですけど……。あの白い光って、呪術には効かないんでしょうか? ハル様の毒は治ったのに、呪術はそのままで……万能かと思ってたのにショックです」

「恐らくですが、魂の浄化までは出来ないんでしょう。記憶は魂に結びついていますから、効果がなかったのではないかと思われます。……そうだ、ここもレポートに纏めておくべきですね! 私は一旦ブルギーニュへ戻ります!」

「あっ、ネネさん! ……消えちゃった」

 ネネさんは急に何かを思いついたようで、転移魔法陣を展開させて消えてしまった。転移はとても疲れる魔法だと言っていたから、次にお城に来るのは明後日ぐらいだろう。

 床の魔法陣をクルクルと巻いて片付けた時、ドアが開いてクララさんが入ってきた。

「リノ、そろそろお茶の時間ですよ。旦那様にはリノが持って行ってあげてね」

「はぁい。……やっぱり私が持って行かないとダメですか?」

 私が人間に戻ってからというもの、クララさんはハル様へのお茶出しを私に任せるようになった。でも私としては複雑な気分だ。

 ハル様は私を見るたびにしかめっ面になるので、会うのが辛いというのが正直な本音である。たくさん思い出を作ろうと言ったのは私だけども。
 私の弱音を聞いたクララさんは目をギラッと光らせ、両肩を力強く掴んできた。ちょっと怖い。

「ダメですとも。いいですか、これは絶好の機会です。神が我々に与えたもうた、最後のチャンスです」

「さ……最後? 大げさじゃ……」

「大げさではありません。旦那様はもう二十七歳。じきに二十八になります。堅物の旦那様に女性を意識させるには、リノが体を張るしかないのです。あなたはこのお屋敷で唯一……ただ一人の、未婚女性なのですよ。さぁ、このワゴンを持って」

「は、はいぃ」

 ほとんど強引に、お茶のセットが載ったワゴンを引かせようとする。促されるままに取っ手を握ると、足元で誰かが私の黒いスカートをくいくいと引っ張った。ペペだ。サイズが合う服がないので、私はいまだにメイド服を着ている。

「ママ、だっこぉ。だっこしてペエ」
「よしよし、いい子ね。ママに抱っこしてもらいましょうね」

 クララさんはサラシのような幅の広い布を持ってきて、私の背中にペペをおんぶさせた。さらにその上から柔らかいショールを巻いて保温。完全に昭和のお母ちゃん状態。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

処理中です...