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第二部 人間に戻りました
1 目が覚めたら青汁づけ
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子供というのは本当に可愛い生き物だ。白く柔らかな羽毛、大きくて円らな黒い瞳。抱きしめるとお日様の匂いがして、ふわふわでモフモフで……。
(子供って、モフモフしてるっけ? 何かがおかしいような……)
いつの間にか私はお母さんになっていて、数十匹の雛の面倒を見ている。どの子も「ママ」とあちこちから私を呼ぶので頭が割れそうだ。
ママ! ママぁ! ママ、ママ、ママママママ……。
「――はっ!?」
恐ろしいママ連呼で目を覚ますと、私は透明なガラスケースの中で温い液体に浸かりながら寝ていた。
(何これ。まさかガラスの棺おけ? 私まだ死んでないんですけど!)
しかも腕が重たくて動かず、何が起こったのかと目を走らせれば、白いモフモフの生き物が私の右腕の上で寝ている。ぷすー、ぷすーと寝息をたてながら。
そうだった。霊山から聖獣の雛を連れて帰って来たんだった。
「もしも~し。開けてくださぁい。誰かぁ、開けてぇ~」
叫びながらガラスケースの蓋を左手でゴンゴンとノックしていると、離れた場所から足音が聞こえてきた。お医者さんのような白衣を着たネネさんだ。
蓋を開けてくれたので何とか体を起こしたが、体がヌルヌルして非常に気持ちが悪い。雛はヌルったまま、まだ寝ている。
私は病院の患者が着るような薄っぺらい服を身につけていて、着替えさせてくれたのはネネさんでありますようにと無言で祈った。
「おはようございます、リノ様。気分はいかがですか?」
「割といいですね。体も軽くなったみたいだし」
ネネさんはふむ、と頷いて、手に持ったボードのようなものに何か書き付けている。本当にお医者さんみたいだなと思いつつ周囲を見ると、ガラスケースには何本もの管が接続され、怪しげな色の液体が流れ込んでいた。腐った沼みたいな色だ。
「うわっ!? 私を青汁づけにしてたんですか?」
「アオジルというのはよく分かりませんが、これは私が開発した生体回復装置です。数十種類のスパイス……じゃなくて薬物をブレンドし、魔力と相性のいい千年槻の粉末まで景気よくぶち込んだ、ハイパーでスペシャルな装置ですよ。実験は見事に成功です!」
「その言い方だと、私が初めての被験者なんですね!? だから何かメモってるんでしょ!」
「まぁまぁ。とにかく回復したようですから、まずはお風呂でも入ったらどうでしょうか。ここはブルギーニュの王宮にある私と先生の研究所ですよ。最新の設備が揃ってます。もちろん、広いお風呂も」
広いお風呂と聞いて、私はヌルヌル装置から雛を腕に抱えたまま脱出した。とにかく風呂に入りたい。そしてヌルヌルを洗い流したい。
床はタイル張りになっており、すぐ隣が浴室だった。青汁まみれで部屋をうろつく必要がない設計にしてあるようだ。
大きな浴槽から遠慮なくお湯を汲み、寝たままのペペにかけてやるとようやく雛は目を覚ました。
「……ペエ? ママ?」
「ここはお風呂だよ。体が汚れたから洗おうね」
ペペは抵抗することもなく、大人しく私に洗われている。そう言えばこの世界に転移した頃、温泉でお兄さんたちが私を文字通りたらい回しにしたものだった。今ならお兄さん達の気持ちが分かる。可愛い生き物を近くで見たいという気持ちが。
心ゆくまでお風呂を堪能し、脱衣所で体を拭いて着替えた。白い服に、黒のワンピース。これはもしかしなくてもメイド服ではないのか。ネネさんにはこんな趣味があったのか。
脱衣所から出ると、ネネさんは何かのレポートをまとめている。
「ネネさん。このメイド服はネネさんの趣味ですか?」
「はい? いえ、私にそのような趣味はありません。リノ様の体に合う服が見つからず、小さいサイズのメイド服がちょうど良さそうだと考えただけです。よくお似合いですね」
「はぁ……。どうも」
日本でも私は背が高い方ではなかったけど、この世界だとますます小さい人間になった気分だ。ネネさんもアシュリー姫も欧米人のように背が高いから、私とは服のサイズが違うんだろう。
(子供って、モフモフしてるっけ? 何かがおかしいような……)
いつの間にか私はお母さんになっていて、数十匹の雛の面倒を見ている。どの子も「ママ」とあちこちから私を呼ぶので頭が割れそうだ。
ママ! ママぁ! ママ、ママ、ママママママ……。
「――はっ!?」
恐ろしいママ連呼で目を覚ますと、私は透明なガラスケースの中で温い液体に浸かりながら寝ていた。
(何これ。まさかガラスの棺おけ? 私まだ死んでないんですけど!)
しかも腕が重たくて動かず、何が起こったのかと目を走らせれば、白いモフモフの生き物が私の右腕の上で寝ている。ぷすー、ぷすーと寝息をたてながら。
そうだった。霊山から聖獣の雛を連れて帰って来たんだった。
「もしも~し。開けてくださぁい。誰かぁ、開けてぇ~」
叫びながらガラスケースの蓋を左手でゴンゴンとノックしていると、離れた場所から足音が聞こえてきた。お医者さんのような白衣を着たネネさんだ。
蓋を開けてくれたので何とか体を起こしたが、体がヌルヌルして非常に気持ちが悪い。雛はヌルったまま、まだ寝ている。
私は病院の患者が着るような薄っぺらい服を身につけていて、着替えさせてくれたのはネネさんでありますようにと無言で祈った。
「おはようございます、リノ様。気分はいかがですか?」
「割といいですね。体も軽くなったみたいだし」
ネネさんはふむ、と頷いて、手に持ったボードのようなものに何か書き付けている。本当にお医者さんみたいだなと思いつつ周囲を見ると、ガラスケースには何本もの管が接続され、怪しげな色の液体が流れ込んでいた。腐った沼みたいな色だ。
「うわっ!? 私を青汁づけにしてたんですか?」
「アオジルというのはよく分かりませんが、これは私が開発した生体回復装置です。数十種類のスパイス……じゃなくて薬物をブレンドし、魔力と相性のいい千年槻の粉末まで景気よくぶち込んだ、ハイパーでスペシャルな装置ですよ。実験は見事に成功です!」
「その言い方だと、私が初めての被験者なんですね!? だから何かメモってるんでしょ!」
「まぁまぁ。とにかく回復したようですから、まずはお風呂でも入ったらどうでしょうか。ここはブルギーニュの王宮にある私と先生の研究所ですよ。最新の設備が揃ってます。もちろん、広いお風呂も」
広いお風呂と聞いて、私はヌルヌル装置から雛を腕に抱えたまま脱出した。とにかく風呂に入りたい。そしてヌルヌルを洗い流したい。
床はタイル張りになっており、すぐ隣が浴室だった。青汁まみれで部屋をうろつく必要がない設計にしてあるようだ。
大きな浴槽から遠慮なくお湯を汲み、寝たままのペペにかけてやるとようやく雛は目を覚ました。
「……ペエ? ママ?」
「ここはお風呂だよ。体が汚れたから洗おうね」
ペペは抵抗することもなく、大人しく私に洗われている。そう言えばこの世界に転移した頃、温泉でお兄さんたちが私を文字通りたらい回しにしたものだった。今ならお兄さん達の気持ちが分かる。可愛い生き物を近くで見たいという気持ちが。
心ゆくまでお風呂を堪能し、脱衣所で体を拭いて着替えた。白い服に、黒のワンピース。これはもしかしなくてもメイド服ではないのか。ネネさんにはこんな趣味があったのか。
脱衣所から出ると、ネネさんは何かのレポートをまとめている。
「ネネさん。このメイド服はネネさんの趣味ですか?」
「はい? いえ、私にそのような趣味はありません。リノ様の体に合う服が見つからず、小さいサイズのメイド服がちょうど良さそうだと考えただけです。よくお似合いですね」
「はぁ……。どうも」
日本でも私は背が高い方ではなかったけど、この世界だとますます小さい人間になった気分だ。ネネさんもアシュリー姫も欧米人のように背が高いから、私とは服のサイズが違うんだろう。
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