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第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
60 やっぱりまた来た
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翌朝は寒かった。起きたハル様は私を抱っこしたまま部屋の隅に歩き、薪ストーブの前に座らせてくれる。見た目はペンギンだけど、やっぱり寒いものは寒い。山地だから気温が低いんだろうか。
爽真もネネさんも起きてきて皆で朝食を取った。昨日やたら重たい話をしたネネさんはすっかりいつもの調子で、私はちょっとホッとしていた。爽真はまだぎこちない顔をしてたけど、朝食が終わる頃には気分がほぐれた様子だった。
「この小屋を出たら、いよいよ山に差し掛かる。寒くなるから厚着した方がいい」
山小屋を出る直前、ハル様は収納魔法から厚手のマントを二枚出した。一枚は自分が羽織り、もう一枚は爽真と私ごと包んでくれる。ネネさんもローブを生地が厚い物に変えたみたいだ。
そして山小屋を出て歩き出したのだが、山に繋がる坂道を進むほど気温が下がって息が白くなってきた。爽真が「さみぃ」と呟いている。
「うわ、とうとう雪が見えてきた」
「えっ? わぁ……ホントだ、雪だペエ」
山道を進んでいると、地面を白いものが覆っているのが見えた。雪だ。私と爽真の地元は滅多に雪が降らない地方なので、実際に目にするとちょっとはしゃいでしまう。雪をブーツで踏むギュ、ギュ、という音も新鮮だ。
「不思議ペエ。島に上陸したときは寒くなかったのに、山の周りだけ異様に寒いペエ」
「これも神がかり的な力のせいなのかな。霊山って見た目からして普通の山とは違うもんな」
霊山は綺麗な円錐で、頂上は雲に突き刺さっているせいで下からはよく見えない。夢の中であの山を見たときも、頂上はどこなのかなと不思議に思った覚えがある。
「霊山の頂上は、天上の世界に繋がっていると言われています。まだ誰も到達したことのない未開の地ですよ。まさに神の領域ですね」
いつの間に収納魔法から出したのか、ネネさんはカメラのような道具を使って霊山の写真を撮っている。本気でレポートにまとめるつもりらしい。霊山って写真を撮っても大丈夫なんだろうか。心霊写真とか出てきそうだけど。
そんな事を考えていたら、視界の端で白いものがぴょんと跳ねた。背景と同化してるけど、よく見たらウサギだ。雪の中から黒い瞳で私たちをじっと見ている。
「ウサギだペエ。普通のウサギもいるペ?」
「霊山オンブラフルにだけ生息すると噂のオンブラウサギですね。野生のウサギは換毛によって色が変わりますが、あのウサギはずっと白いままなんだそうです」
「霊山が一年中雪に覆われているせいだろう。白い雪の中で黒い毛に変わったら、目立ちすぎてすぐに魔物の餌になってしまうからな」
「自分の身を守るためにずっと白いままなのか。賢いなぁ……って、ネネリム。何してんだ?」
「せっかくですから、生け捕りにしようかと」
ネネさんは収納魔法に腕を突っ込み、虫取り網のような物を出している。本気で捕獲するつもりらしい。
「やめとけよ。霊山のウサギだぞ? バチが当たるって!」
「バチが怖くて魔法使いなんてやってられますか」
ネネさんが足を一歩踏み出したとき、ハル様が低い声で「ネネリム殿」と呟いた。やっぱり希少なウサギの捕獲は怒られちゃうのか。引率の先生から注意を受ける行為なのか――と思ってハル様を見れば、彼はどこか遠くを睨んでいる。
彼の視線の先を追うと、雪だらけの白い景色にぽつんと黒いものがあり、それが何か気づいた私たちはみんな無言になった。ネネさんも虫取り網を片付けている。
「キーファだな」
「やっぱり来ましたね。多分デュクハルトから依頼を受けたんでしょう。私たちを全滅させて、聖獣を回収してこいとか」
爽真が小さな声で「全滅」と呟いた。背中越しに爽真の震えが伝わってくる。全滅なんて簡単な響きだけど、要するにハル様とネネさんと爽真を殺すという意味だ。とんでもない事だけど、すでに何人も殺したキーファにとっては何でもない事なんだろう。
「ここは私に任せて、公爵様たちは先を進んでください。もうすぐ洞窟が見えてくるはずです。兄をぶっ殺したら、私も後から追いかけますので」
「……わかった」
「ネネリム、無理すんなよ」
「気をつけてくださいペ」
三人の言葉に、ネネさんは不敵にニッと笑った。私たちはネネさんを雪原に残し、さらに山の奥へと登っていった。
爽真もネネさんも起きてきて皆で朝食を取った。昨日やたら重たい話をしたネネさんはすっかりいつもの調子で、私はちょっとホッとしていた。爽真はまだぎこちない顔をしてたけど、朝食が終わる頃には気分がほぐれた様子だった。
「この小屋を出たら、いよいよ山に差し掛かる。寒くなるから厚着した方がいい」
山小屋を出る直前、ハル様は収納魔法から厚手のマントを二枚出した。一枚は自分が羽織り、もう一枚は爽真と私ごと包んでくれる。ネネさんもローブを生地が厚い物に変えたみたいだ。
そして山小屋を出て歩き出したのだが、山に繋がる坂道を進むほど気温が下がって息が白くなってきた。爽真が「さみぃ」と呟いている。
「うわ、とうとう雪が見えてきた」
「えっ? わぁ……ホントだ、雪だペエ」
山道を進んでいると、地面を白いものが覆っているのが見えた。雪だ。私と爽真の地元は滅多に雪が降らない地方なので、実際に目にするとちょっとはしゃいでしまう。雪をブーツで踏むギュ、ギュ、という音も新鮮だ。
「不思議ペエ。島に上陸したときは寒くなかったのに、山の周りだけ異様に寒いペエ」
「これも神がかり的な力のせいなのかな。霊山って見た目からして普通の山とは違うもんな」
霊山は綺麗な円錐で、頂上は雲に突き刺さっているせいで下からはよく見えない。夢の中であの山を見たときも、頂上はどこなのかなと不思議に思った覚えがある。
「霊山の頂上は、天上の世界に繋がっていると言われています。まだ誰も到達したことのない未開の地ですよ。まさに神の領域ですね」
いつの間に収納魔法から出したのか、ネネさんはカメラのような道具を使って霊山の写真を撮っている。本気でレポートにまとめるつもりらしい。霊山って写真を撮っても大丈夫なんだろうか。心霊写真とか出てきそうだけど。
そんな事を考えていたら、視界の端で白いものがぴょんと跳ねた。背景と同化してるけど、よく見たらウサギだ。雪の中から黒い瞳で私たちをじっと見ている。
「ウサギだペエ。普通のウサギもいるペ?」
「霊山オンブラフルにだけ生息すると噂のオンブラウサギですね。野生のウサギは換毛によって色が変わりますが、あのウサギはずっと白いままなんだそうです」
「霊山が一年中雪に覆われているせいだろう。白い雪の中で黒い毛に変わったら、目立ちすぎてすぐに魔物の餌になってしまうからな」
「自分の身を守るためにずっと白いままなのか。賢いなぁ……って、ネネリム。何してんだ?」
「せっかくですから、生け捕りにしようかと」
ネネさんは収納魔法に腕を突っ込み、虫取り網のような物を出している。本気で捕獲するつもりらしい。
「やめとけよ。霊山のウサギだぞ? バチが当たるって!」
「バチが怖くて魔法使いなんてやってられますか」
ネネさんが足を一歩踏み出したとき、ハル様が低い声で「ネネリム殿」と呟いた。やっぱり希少なウサギの捕獲は怒られちゃうのか。引率の先生から注意を受ける行為なのか――と思ってハル様を見れば、彼はどこか遠くを睨んでいる。
彼の視線の先を追うと、雪だらけの白い景色にぽつんと黒いものがあり、それが何か気づいた私たちはみんな無言になった。ネネさんも虫取り網を片付けている。
「キーファだな」
「やっぱり来ましたね。多分デュクハルトから依頼を受けたんでしょう。私たちを全滅させて、聖獣を回収してこいとか」
爽真が小さな声で「全滅」と呟いた。背中越しに爽真の震えが伝わってくる。全滅なんて簡単な響きだけど、要するにハル様とネネさんと爽真を殺すという意味だ。とんでもない事だけど、すでに何人も殺したキーファにとっては何でもない事なんだろう。
「ここは私に任せて、公爵様たちは先を進んでください。もうすぐ洞窟が見えてくるはずです。兄をぶっ殺したら、私も後から追いかけますので」
「……わかった」
「ネネリム、無理すんなよ」
「気をつけてくださいペ」
三人の言葉に、ネネさんは不敵にニッと笑った。私たちはネネさんを雪原に残し、さらに山の奥へと登っていった。
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