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第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
59 ごめんなさいと感謝
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がっくりうな垂れていると、ハル様が屈みこんで私を腕に抱っこした。こうなったら旅の恥はかき捨てだ。ついでにプロクス問題をはっきりさせてしまおう。
「ハル様、プロクスの名前は誰が考えたんですかペ? ハル様にしてはセンスが高すぎだペエ」
「……何気にひどいこと言ってるな……。確かにその通りだけどな。プロクスの名は父上が考えたんだ。あいつは俺が十五のときに召喚契約した竜でな」
「お父さまでしたかぺエ。魅了の力を使ったですペ? ネネさんが、ハル様の目は魔物を魅了する不思議な目だって言ってたペエ」
「ああ……。だから子供の頃から気をつけていたんだ。魔物がいる場所には近寄らないようにしていたし、目の力を制御する訓練だってしていた。プロクスに会ったのは、騎士団に入ってすぐの頃だ。遠征先の森で出会った」
ハル様は昔を懐かしむように遠い目をしている。私も十五歳のハル様を見たかった。きっともの凄く可愛い少年だった事だろう。
「プロクスは森の中で湧き水を飲んでいた。父上は害獣ではないから無視すると言ったんだが、俺はどうしても気になってあいつを見てしまったんだ。そして……翼竜を召喚できたら便利だろうなと考えた。無意識に目の力を使ってしまったんだと思う。プロクスには申し訳ないことをした」
「プロクスはハル様に懐いてるペエ。魅了されたからって言うよりは、ハル様のことを気に入って懐いてる感じだペ。セル様が誘拐された時も、あいつは心配そうな顔してたペ……プロクスにとって、ハル様は家族なんだペエ」
「……そうだろうか」
「そうペエ。プロクスも親ビン達も私も、ハル様とセル様を家族のように大切に思ってるペ。でも……だからって、勝手なことをしたのはすみませんでしたペエ」
「なんだ急に。なんのことだ?」
急に話の方向を変えたせいか、ハル様がきょとんとしている。私は暗い気分のまま話を続けた。
「……エリック殿下のことペエ。ハル様はあのバカ王子を憎んでいて……絶対に殺したかったはずだペ。ネネさんがキーファを殺したいほど恨んでるみたいに……」
ネネさんの話を聞いている内に、私はハル様にとんでもない事をしたのではないかと不安になった。ハル様はエリック殿下のせいで、家族を三人とも失うところだったのだ。エリック殿下のことは絶対に殺してやりたいと決意していたはずだ。
私はまだ、誰かを殺したいほど恨んだ事はない。ハル様の憎しみも理解してなかったくせに、エリック殿下を守るようなことをしてしまった。
私がした事は正しかったんだろうか? ハル様に無理やり諦めさせてしまったのでは……。
「すみませんでしたペエ……。私は正しい事をしたのか自信がないですペ。きっとハル様は無理やり我慢したペエ」
「……まぁな。本当はもの凄く、これ以上はないぐらいに、あのクソ王子を殺したかったよ。あいつを馬車に乗せて、同じ目に会わせてやりたいと何度も考えた。……でもいいんだ。そんな俺を見たらセルディスが怖がる。もしあの場でエリックを殺していたら、セルディスの心に一生残る傷を与えてしまっただろう。だからいいんだ」
ハル様はそこで言葉を切り、私の体を持ち上げた。
「おまえには感謝しているよ。ありがとう」
と囁いて――――私の、おでこに、キスをした。キスを、したぁぁぁあ。
「ペギャハァッ……!」
「そろそろ寝よう。明日もキーファが邪魔しに来るだろうからな」
何事もなかったような顔で山小屋に戻ろうとする。そりゃね、ペンギンのデコにキスしたぐらいで動揺する人なんかいないよね……。分かってるけど若干のモヤモヤ感。
ハル様は私を抱っこしたままドアを開けようとしたが、取っ手に触れたときに小さなくしゃみをした。山だから余計に寒いのかもしれない。
「ハル様、寒いペエ? 私を抱いて寝てくださいペ。きっとあったかい……!?」
――ゴンッ!
急によろけてドアに頭突きしている。もう少しで腕から転げ落ちるところだった。何なの、この人。ペンギンのデコにキスしたときは涼しい顔だったのに、一緒に寝るのは動揺するんだ?
「ハル様? どうしたんですペエ」
「……何でもない。もう寝よう…………」
額が赤くなったままドアを開け、二段ベッドの下にもぐり込む。おでこ痛くないのかな。結構な勢いでぶつけてたけど。
ハル様に抱っこされていると、彼の心臓の音がとくん、とくんと聞こえてくる。それで不思議な声は聞こえなくなり、私はいつしか眠ってしまった。
「ハル様、プロクスの名前は誰が考えたんですかペ? ハル様にしてはセンスが高すぎだペエ」
「……何気にひどいこと言ってるな……。確かにその通りだけどな。プロクスの名は父上が考えたんだ。あいつは俺が十五のときに召喚契約した竜でな」
「お父さまでしたかぺエ。魅了の力を使ったですペ? ネネさんが、ハル様の目は魔物を魅了する不思議な目だって言ってたペエ」
「ああ……。だから子供の頃から気をつけていたんだ。魔物がいる場所には近寄らないようにしていたし、目の力を制御する訓練だってしていた。プロクスに会ったのは、騎士団に入ってすぐの頃だ。遠征先の森で出会った」
ハル様は昔を懐かしむように遠い目をしている。私も十五歳のハル様を見たかった。きっともの凄く可愛い少年だった事だろう。
「プロクスは森の中で湧き水を飲んでいた。父上は害獣ではないから無視すると言ったんだが、俺はどうしても気になってあいつを見てしまったんだ。そして……翼竜を召喚できたら便利だろうなと考えた。無意識に目の力を使ってしまったんだと思う。プロクスには申し訳ないことをした」
「プロクスはハル様に懐いてるペエ。魅了されたからって言うよりは、ハル様のことを気に入って懐いてる感じだペ。セル様が誘拐された時も、あいつは心配そうな顔してたペ……プロクスにとって、ハル様は家族なんだペエ」
「……そうだろうか」
「そうペエ。プロクスも親ビン達も私も、ハル様とセル様を家族のように大切に思ってるペ。でも……だからって、勝手なことをしたのはすみませんでしたペエ」
「なんだ急に。なんのことだ?」
急に話の方向を変えたせいか、ハル様がきょとんとしている。私は暗い気分のまま話を続けた。
「……エリック殿下のことペエ。ハル様はあのバカ王子を憎んでいて……絶対に殺したかったはずだペ。ネネさんがキーファを殺したいほど恨んでるみたいに……」
ネネさんの話を聞いている内に、私はハル様にとんでもない事をしたのではないかと不安になった。ハル様はエリック殿下のせいで、家族を三人とも失うところだったのだ。エリック殿下のことは絶対に殺してやりたいと決意していたはずだ。
私はまだ、誰かを殺したいほど恨んだ事はない。ハル様の憎しみも理解してなかったくせに、エリック殿下を守るようなことをしてしまった。
私がした事は正しかったんだろうか? ハル様に無理やり諦めさせてしまったのでは……。
「すみませんでしたペエ……。私は正しい事をしたのか自信がないですペ。きっとハル様は無理やり我慢したペエ」
「……まぁな。本当はもの凄く、これ以上はないぐらいに、あのクソ王子を殺したかったよ。あいつを馬車に乗せて、同じ目に会わせてやりたいと何度も考えた。……でもいいんだ。そんな俺を見たらセルディスが怖がる。もしあの場でエリックを殺していたら、セルディスの心に一生残る傷を与えてしまっただろう。だからいいんだ」
ハル様はそこで言葉を切り、私の体を持ち上げた。
「おまえには感謝しているよ。ありがとう」
と囁いて――――私の、おでこに、キスをした。キスを、したぁぁぁあ。
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