【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま

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第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?

57 ネネさんの告白

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「いただきますペエ!」
「いただきます」
「昼食を食べる時間がなかったですね。はぁ、お腹すいた」
「そろそろ食事にしようと思った段階で襲われたからな」

 しばらくの間、皆なにも言わず黙々と食事をした。やけにお腹がすいたと思ってたけど、昼食を抜いたせいだったのだ。
 キーファはわざわざ食事の時間を狙って攻撃してきたと分かり、ますます奴に対する恨みがつのる。今度会ったらワカメを切り取って丸坊主にしてやりたい。

 食事が済むと爽真がヤカンを使って湯を沸かし、四人分の紅茶をいれた。爽真も私も両親が共働きで忙しい人たちだったので、自分で食事を作ったりする事に慣れているのだ。
 しばらくまったりとした時間が流れたが、ネネさんがお茶のカップを置いて話し始めた。

「公爵様にお願いがあるんですが」

「……いきなりだな。どんなお願いだ?」

「キーファを殺す役目を私に譲って頂きたいんです。あの変態狂人は私の兄なので」

 突然ものすごい事を言い出すので、まったりした空気はどこかに吹っ飛んでしまった。爽真が目も口もぽかんと開けて放心している。私も同じで、寝耳に水状態。
 しかしネネさんは気にする様子もなく話し続けている。

「もうお気づきだとは思うんですが、公爵様のご両親が亡くなった事故に兄は関わっています。さらに言えば、弟君の誘拐もあいつの仕業ですよね。でも、それでも兄を殺す役目を私に譲ってほしいんです」

「……理由を訊いてもいいか? 正直に言うと、今すぐにでもキーファを八つ裂きにしてやりたい気分なんだ。そう易々と譲りたくない」

「私もまっったく同じ気持ちです。あの野郎を殺すことだけ夢見て生きてきたので、公爵様のお気持ちはすんごく良く分かります。理由は……見せた方が早いかな」

 そう言って、黒いローブを脱いで椅子の上に置いた。下には白いブラウスと長いスカートを着ていたようだ。ブラウスの袖をぐいと引っ張りあげ、上腕の部分を私たちの前にさらす。腕を見たハル様ははっと息を飲み、私と爽真もその模様に釘付けになった。

(何の模様だろう……。円の中に正三角形が描かれてる。正三角形の中にあるのは……人間の目?)

 それはとても奇妙で不気味な模様だった。円に内接する正三角形の中に、くっきりと人間の目が描かれている。模様の部分だけ火傷の痕のように皮膚がただれていてとても痛々しい。
 腕を見ていたハル様が低い声で呟いた。

「ネネリム殿は……奴隷になったことがあるのか」
「えっ」

 爽真が短く叫び、もう一度ネネさんの腕に目を走らせる。奴隷というものに全く馴染みがない私と爽真にとっては、ひどく衝撃的な事実だった。
(じゃあ、あの模様は焼き印ってこと? 本当に奴隷がいる世界なんだ……)
 ネネさんがブラウスの袖を元に戻し、再び話し始めた。

「ソーマ様とリノ様にはショックが大きかったですかね。これは奴隷を表す焼き印の痕です。この印がある限り、奴隷商から逃げ出してもすぐに捕まって連れ戻されてしまいます。私がいま人間らしく生きていられるのは、たまたま私を買ったのが先生だったからです」

「奴隷になったのはキーファのせいか?」

「そうです。まぁ直接的にではないですけど……。私の故郷は北大陸にあるラヴァーリョという国で、うちの家は昔から続く魔法士の家系でした。両親も魔法院で働いてましたよ。私が十二歳ぐらいまでは割と平和に暮らしてたんですけど……兄が魔法を試すために大勢の同級生を殺してしまったせいで、国から追われる事態になりまして」

 ネネさんは一旦言葉を切り、お茶を飲んだ。
 凄い内容の話を淡々と話すので、私と爽真は何も言えないままだ。

「兄は一人でさっさと国から逃げましたけど、両親は兄の責任を取るために死にました。最初は一家心中をするつもりだったようです。でも娘を殺すのは忍びないと思っちゃったようで、私だけ取り残されたんですよね。お金を持たされて山の中に置き去りにされたんですけど、やっとの思いで帰って来たら家も両親も燃えた後でした。街をふらついてる間に奴隷商に捕まって……三年ぐらいは奴隷として働いたのかな」

「よく無事だったな……。奴隷商人のなかには、過酷な労働で奴隷を死なせてしまう輩もいるらしいが」

「何回も死に掛けましたよ。私は魔力が高い方だったから、皮膚や肉の一部を切り取られて魔法の実験に使われてたし……。奴隷は道具か何かの材料ぐらいにしか思われてませんから」

「……あのさ。ネネリムは強いんだから、魔法で逃げたりは出来なかったのか?」

 ずっと黙っていた爽真が、重々しい口調で尋ねた。確かに爽真の疑問はもっともだ。あれだけ強い魔法を使えるネネさんなら、逃げることも出来たような気がするのに。
 彼女は苦笑しながら答えた。

「最初から強かったわけじゃないんですよ。十二歳のときの私は、今のソーマ様のように簡単な魔法しか使えませんでした。それに奴隷になると魔法を無効化する首輪を嵌められるので、簡単には逃げられないんです。先生の弟子になってから八年間、死に物狂いで勉強しました」

 爽真を見ていたネネさんは視線をハル様へ移し、懇願するように頭を下げる。

「私は不幸自慢をしたいわけじゃないんです。公爵様にも兄を殺したい動機があるのはもちろん知ってます。でもどうか、兄を殺す役目は私に任せて頂けないでしょうか。お願いします」

 ハル様は沈黙したままネネさんを見つめていたけど、しばらくして、
「分かった」
 と短く答えた。
 ネネさんは笑顔でお礼を言い、私と爽真は安堵のため息をついた。
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