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第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
46 賢者とその弟子
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セル様が私を膝に抱っこして、アシュリー姫に話しかけた。
「アシュリー殿下、この鳥が聖獣の雛です。僕たちはペペと呼んでいます」
「こちらが……? 聖獣となって空を飛んだと聞きましたが、また雛に戻ってしまったのですか?」
「ペペは力を使うとかなり体力を消耗するようです。聖獣となったのも一瞬だけで、すぐに雛に戻ってしまいました。窮地に追い込まれた時だけ力を発揮しますが、それも無理やり出しているという感じを受けます」
「……ん? 中身が変じゃな」
ハル様の発言を聞いたレゲ爺さんは首をひねり、ぼそっと小さな声で呟いた。中身と言われて、私の心臓がドキドキしてくる。
(中身――魂が変ってこと? 私の魂を外に出す気なのかな。魂だけになったら死んじゃう?)
もしそうなったら、私は浮遊霊となって彷徨うしかないのか。あるいはこのお城に地縛霊となってとり憑いてしまうのか。できれば井戸の中で大人しくしていたい。
レゲ爺さんはクリームだらけになった手をおしぼりで拭き、隣に座る女性に話しかけた。よく見ると真っ黒ではなく、黒っぽい緑の髪の女性だ。昆布みたいな色だ。
「ネネリム、霊映しの鏡を出すんじゃ」
「はい、先生」
ネネリムと呼ばれた女性は、何もない空間にいきなりずぼっと手を突っ込んだ。肘から先が見えなくなったけど、多分、収納魔法のなかをいじっているんだろう。
しばらくして彼女は楕円形の鏡を取り出し、早口で捲くし立てるように語りだした。
「こちらの商品は霊映しの鏡と言いまして、体に宿る魂を映し出す鏡です。国王の体を乗っ取ってやりたい放題した悪い魔法士がいたので開発した特別な代物です。今ならお一つ七百万ディラ。なんと七百万ポッキリ! ご奉仕価格です!!」
「アホウ! 魔道具を売りに来たんじゃないわい!」
「はっ。私としたことが、ついいつものクセで」
「またやってる……」
賢者と弟子のやり取りを見ていた爽真が小さく呟いた。なんだか不思議だ。爽真に会ったら泣いてしまうかと思っていたのに、私の心は凪いでいる。懐かしいとは思うんだけど。
レゲ爺さんは鏡を持って立ち上がり、私をちょいちょいと手招きした。
「すまんのう。恥ずかしいかもしれんが、おまえさんの本当の姿を見せとくれ」
そう言って、鏡を私の前に置く。白いペンギンを映した鏡は水面のように揺れて、やがて一人の少女が現れた。死の月の夜に見たのと同じ、紺色のブレザーを着た“私”だ。
爽真がはっと息を飲み、
「莉乃……!」
と呟くと、セル様とハル様がガタンと音を立てて勢いよく立ち上がった。
「リノっていうの!?」
「ペペは『リノ』という名前なのか!?」
「えっ? あっ、ハイ! そうです! すんません!」
「やっぱりソーマ様の言った通りでしたのね。あの時にお城から追い出した鳥さんが、ソーマ様の幼なじみのリノ様で……実は聖獣の雛だったのですね。リノ様、本当に申し訳ありませんでした」
アシュリー姫は私に向かって深々と頭を下げた。あの時はただ怖いお姫様だと思ったけど、ちゃんと話が通じる人のようでホッとする。
「ペエ、ペェエ」
「気にせんでいいと言っとるみたいじゃな。こちらの世界の言葉が分かるらしい。……という事は、ワシが転移魔法陣に組み込んだ翻訳の術式は、しっかり効いとったんじゃ。やっぱりワシって凄いじゃん」
「でも喋ることは出来ないみたいですよ」
「そりゃそうじゃろ。この雛には人間と同じ声帯がないんじゃから。ネネリム、アレの出番じゃ」
「はい、先生」
ネネリムさんはもういちど収納魔法に手を突っ込み、細いベルトのようなものを取り出した。ベルトの中央に丸い部品が付いている。
「こちらの商品は」
「売り込みせんでいい」
「……こちらの首輪は、動物が人間の言葉を話せるようになる魔道具です。ある貴族の依頼を受けて作ったものですが、大ヒットしていまだに注文が後を絶ちません。まさにロングセラー! 愛するペットとお喋りができる、夢の魔道具です……!」
「もういいから、早くつけてあげようぜ」
爽真が焦れた様子でネネリムさんの手から首輪を取り、私の首に付けようとする。が、手を伸ばした爽真の前にハル様が立ち塞がって低い声を出した。
「俺がつけてもいいだろうか」
「ハッ、ハイ! どうぞ!」
爽真はハル様の前ではなぜかガチガチに緊張するらしい。確かにハル様の方が背が高いけど、怒るとめちゃくちゃ怖いけど……本当は優しい人なんだけどな。
「アシュリー殿下、この鳥が聖獣の雛です。僕たちはペペと呼んでいます」
「こちらが……? 聖獣となって空を飛んだと聞きましたが、また雛に戻ってしまったのですか?」
「ペペは力を使うとかなり体力を消耗するようです。聖獣となったのも一瞬だけで、すぐに雛に戻ってしまいました。窮地に追い込まれた時だけ力を発揮しますが、それも無理やり出しているという感じを受けます」
「……ん? 中身が変じゃな」
ハル様の発言を聞いたレゲ爺さんは首をひねり、ぼそっと小さな声で呟いた。中身と言われて、私の心臓がドキドキしてくる。
(中身――魂が変ってこと? 私の魂を外に出す気なのかな。魂だけになったら死んじゃう?)
もしそうなったら、私は浮遊霊となって彷徨うしかないのか。あるいはこのお城に地縛霊となってとり憑いてしまうのか。できれば井戸の中で大人しくしていたい。
レゲ爺さんはクリームだらけになった手をおしぼりで拭き、隣に座る女性に話しかけた。よく見ると真っ黒ではなく、黒っぽい緑の髪の女性だ。昆布みたいな色だ。
「ネネリム、霊映しの鏡を出すんじゃ」
「はい、先生」
ネネリムと呼ばれた女性は、何もない空間にいきなりずぼっと手を突っ込んだ。肘から先が見えなくなったけど、多分、収納魔法のなかをいじっているんだろう。
しばらくして彼女は楕円形の鏡を取り出し、早口で捲くし立てるように語りだした。
「こちらの商品は霊映しの鏡と言いまして、体に宿る魂を映し出す鏡です。国王の体を乗っ取ってやりたい放題した悪い魔法士がいたので開発した特別な代物です。今ならお一つ七百万ディラ。なんと七百万ポッキリ! ご奉仕価格です!!」
「アホウ! 魔道具を売りに来たんじゃないわい!」
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「またやってる……」
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レゲ爺さんは鏡を持って立ち上がり、私をちょいちょいと手招きした。
「すまんのう。恥ずかしいかもしれんが、おまえさんの本当の姿を見せとくれ」
そう言って、鏡を私の前に置く。白いペンギンを映した鏡は水面のように揺れて、やがて一人の少女が現れた。死の月の夜に見たのと同じ、紺色のブレザーを着た“私”だ。
爽真がはっと息を飲み、
「莉乃……!」
と呟くと、セル様とハル様がガタンと音を立てて勢いよく立ち上がった。
「リノっていうの!?」
「ペペは『リノ』という名前なのか!?」
「えっ? あっ、ハイ! そうです! すんません!」
「やっぱりソーマ様の言った通りでしたのね。あの時にお城から追い出した鳥さんが、ソーマ様の幼なじみのリノ様で……実は聖獣の雛だったのですね。リノ様、本当に申し訳ありませんでした」
アシュリー姫は私に向かって深々と頭を下げた。あの時はただ怖いお姫様だと思ったけど、ちゃんと話が通じる人のようでホッとする。
「ペエ、ペェエ」
「気にせんでいいと言っとるみたいじゃな。こちらの世界の言葉が分かるらしい。……という事は、ワシが転移魔法陣に組み込んだ翻訳の術式は、しっかり効いとったんじゃ。やっぱりワシって凄いじゃん」
「でも喋ることは出来ないみたいですよ」
「そりゃそうじゃろ。この雛には人間と同じ声帯がないんじゃから。ネネリム、アレの出番じゃ」
「はい、先生」
ネネリムさんはもういちど収納魔法に手を突っ込み、細いベルトのようなものを取り出した。ベルトの中央に丸い部品が付いている。
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「俺がつけてもいいだろうか」
「ハッ、ハイ! どうぞ!」
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