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第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
45 空とぶ馬車で来客
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悩んでいる内に昼が過ぎ、最初にセル様が学校から帰ってきた。オヤツを食べて、うきうきしながら着替えている。偉い爺さんに会うために自ら選んだ、お気に入りのお召し物だ。
頬を染めて嬉しそうに着替える彼を見ていたら、見知らぬ爺さんに対するギックリの呪いは諦めるしかないという悟りが芽生えてきた。
私が浅はかでした。純朴な少年の願いを踏みにじるなんて恥ずべき行為でした。
そうしてハル様も転移でお屋敷に戻ってきたので、私たちは皆で外に出て空を見上げている。姫と賢者一行はたいそう不思議な乗り物でやって来るらしいので、皆で見ようという事になったのだ。
「あっ、何か見えてきたよ! あれじゃない!?」
セル様がはしゃいだ声で空の一点を指差すと、親ビンたちもウォンだのキャオンだのと大騒ぎし始めた。誰も彼も嬉しそうだ。はぁ。
『ホントに空を飛んでんぞォ! 何だありゃァ?』
『親ビン、馬車でっせ! 馬車が空を飛んでるんでさァ!』
てっきりプロクス的な乗り物かと思ったら、そうではなかった。見た目は普通そうな馬車だけど、屋根の部分に鳥の翼が生えている。あんな頼りない翼で車体が浮くものなのか。
『すごいね、馬車が飛ぶなんて。ブルギーニュの魔法技術って本当に発展してるんだ。あの翼って本物かな。それともただの幻?』
『ごちゃごちゃうるさいですわよ。あんなの魔法の翼でしょ。ブラッシングも出来ない偽物よ』
レティ姐さんが冷ややかに言った。彼女は基本的に自分にしか興味がない猫なので、翼のある馬車なんかどうでもいいのだ。大事なのは毛並み。艶々してたらなお良し。
羽馬車は空中を軽やかに走り、やがてカラカラと音を鳴らして地上に着地した。誰も何も言わず、馬車の様子を伺っている。やがてガタッと音がして扉が開き――
「いたたたた! あー腰が痛いわい! もうちっと内装を柔らかくできんもんかのう」
サンタクロースみたいな白いヒゲの爺さんが、腰を手で擦りながら登場した。まさかあれが賢者? ギックリの呪いが発動した……わけじゃないよね?
私を抱っこしているセル様も「……まさかね」と呟いている。まだ希望を捨てきれないご様子だ。
サンタ爺さんの後ろから足首ぐらいまでのドレスを来たお姫様が、そしてローブをまとった黒っぽい髪の女性が続き、さらにその後ろから――
「ペギャッ!?」
(爽真ぁ!?)
騎士みたいな服を着た爽真が出てきたのだ。奴はセル様に抱っこされた私を見て、ばつの悪そうな顔をしている。私が莉乃ってことに気がついているんだろうか。
ハル様が一歩前に出て、姫様一行に挨拶した。
「ようこそリーディガーへ。国を代表して歓迎いたします」
「突然の訪問で申し訳ありません。今日はお時間を頂き、感謝いたしますわ。こちらが賢者レゲリュクス、その隣が弟子のネネリム、そして異界人のソーマ様です」
アシュリー姫が紹介を始めると、セル様の手からそこはかとなく脱力感が伝わってきた。腰をさする爺さんを見つめながら、「嘘でしょ」とか「思ってたのと違う」とかブツブツ呟いている。
威厳のある爺さんは腰をさすったりしない。「いたたた」なんてもちろん言わない。きっとセル様の中で、威厳のある賢者像がガラガラと音を立てて崩れていることだろう。後でもふもふフリッパーで慰めてあげるからね。
羽馬車を庭の端っこに移動させ、皆でぞろぞろとお屋敷へ戻ると、いつもオヤツを食べている部屋へ入ることになった。
普段よりも数倍大きなテーブルセットが用意され、クララさんが万全の体制で待ち構えている。いつでもお茶を出せます。そういう雰囲気だ。
賢者レゲリュリュ……レゲリュリャ? もういい。レゲ爺さんがケーキスタンドを見て目を輝かせたので、自然とお茶会の流れになった。
「いやぁ、すまんのう。賢者は何しろ頭を使う職業なもんで、甘いものが欠かせんのじゃ」
「先生は馬車の中でも、ずっとショコラをつまんでたじゃありませんか」
「甘いもんは別腹じゃから」
爺さんが白いヒゲを白いクリームだらけにして、子供のようにオヤツにがっついている。普段の私もあんな感じなのかな。ちょっと冷静になってきた。
お姫様の隣では爽真が無言のままお茶を飲んでいる。日本にいた頃より体格が良くなったようで、ガッシリした体は少年というより青年といった方が相応しい感じだった。勇者として頑張って来たんだろう。
頬を染めて嬉しそうに着替える彼を見ていたら、見知らぬ爺さんに対するギックリの呪いは諦めるしかないという悟りが芽生えてきた。
私が浅はかでした。純朴な少年の願いを踏みにじるなんて恥ずべき行為でした。
そうしてハル様も転移でお屋敷に戻ってきたので、私たちは皆で外に出て空を見上げている。姫と賢者一行はたいそう不思議な乗り物でやって来るらしいので、皆で見ようという事になったのだ。
「あっ、何か見えてきたよ! あれじゃない!?」
セル様がはしゃいだ声で空の一点を指差すと、親ビンたちもウォンだのキャオンだのと大騒ぎし始めた。誰も彼も嬉しそうだ。はぁ。
『ホントに空を飛んでんぞォ! 何だありゃァ?』
『親ビン、馬車でっせ! 馬車が空を飛んでるんでさァ!』
てっきりプロクス的な乗り物かと思ったら、そうではなかった。見た目は普通そうな馬車だけど、屋根の部分に鳥の翼が生えている。あんな頼りない翼で車体が浮くものなのか。
『すごいね、馬車が飛ぶなんて。ブルギーニュの魔法技術って本当に発展してるんだ。あの翼って本物かな。それともただの幻?』
『ごちゃごちゃうるさいですわよ。あんなの魔法の翼でしょ。ブラッシングも出来ない偽物よ』
レティ姐さんが冷ややかに言った。彼女は基本的に自分にしか興味がない猫なので、翼のある馬車なんかどうでもいいのだ。大事なのは毛並み。艶々してたらなお良し。
羽馬車は空中を軽やかに走り、やがてカラカラと音を鳴らして地上に着地した。誰も何も言わず、馬車の様子を伺っている。やがてガタッと音がして扉が開き――
「いたたたた! あー腰が痛いわい! もうちっと内装を柔らかくできんもんかのう」
サンタクロースみたいな白いヒゲの爺さんが、腰を手で擦りながら登場した。まさかあれが賢者? ギックリの呪いが発動した……わけじゃないよね?
私を抱っこしているセル様も「……まさかね」と呟いている。まだ希望を捨てきれないご様子だ。
サンタ爺さんの後ろから足首ぐらいまでのドレスを来たお姫様が、そしてローブをまとった黒っぽい髪の女性が続き、さらにその後ろから――
「ペギャッ!?」
(爽真ぁ!?)
騎士みたいな服を着た爽真が出てきたのだ。奴はセル様に抱っこされた私を見て、ばつの悪そうな顔をしている。私が莉乃ってことに気がついているんだろうか。
ハル様が一歩前に出て、姫様一行に挨拶した。
「ようこそリーディガーへ。国を代表して歓迎いたします」
「突然の訪問で申し訳ありません。今日はお時間を頂き、感謝いたしますわ。こちらが賢者レゲリュクス、その隣が弟子のネネリム、そして異界人のソーマ様です」
アシュリー姫が紹介を始めると、セル様の手からそこはかとなく脱力感が伝わってきた。腰をさする爺さんを見つめながら、「嘘でしょ」とか「思ってたのと違う」とかブツブツ呟いている。
威厳のある爺さんは腰をさすったりしない。「いたたた」なんてもちろん言わない。きっとセル様の中で、威厳のある賢者像がガラガラと音を立てて崩れていることだろう。後でもふもふフリッパーで慰めてあげるからね。
羽馬車を庭の端っこに移動させ、皆でぞろぞろとお屋敷へ戻ると、いつもオヤツを食べている部屋へ入ることになった。
普段よりも数倍大きなテーブルセットが用意され、クララさんが万全の体制で待ち構えている。いつでもお茶を出せます。そういう雰囲気だ。
賢者レゲリュリュ……レゲリュリャ? もういい。レゲ爺さんがケーキスタンドを見て目を輝かせたので、自然とお茶会の流れになった。
「いやぁ、すまんのう。賢者は何しろ頭を使う職業なもんで、甘いものが欠かせんのじゃ」
「先生は馬車の中でも、ずっとショコラをつまんでたじゃありませんか」
「甘いもんは別腹じゃから」
爺さんが白いヒゲを白いクリームだらけにして、子供のようにオヤツにがっついている。普段の私もあんな感じなのかな。ちょっと冷静になってきた。
お姫様の隣では爽真が無言のままお茶を飲んでいる。日本にいた頃より体格が良くなったようで、ガッシリした体は少年というより青年といった方が相応しい感じだった。勇者として頑張って来たんだろう。
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