45 / 115
第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
45 空とぶ馬車で来客
しおりを挟む
悩んでいる内に昼が過ぎ、最初にセル様が学校から帰ってきた。オヤツを食べて、うきうきしながら着替えている。偉い爺さんに会うために自ら選んだ、お気に入りのお召し物だ。
頬を染めて嬉しそうに着替える彼を見ていたら、見知らぬ爺さんに対するギックリの呪いは諦めるしかないという悟りが芽生えてきた。
私が浅はかでした。純朴な少年の願いを踏みにじるなんて恥ずべき行為でした。
そうしてハル様も転移でお屋敷に戻ってきたので、私たちは皆で外に出て空を見上げている。姫と賢者一行はたいそう不思議な乗り物でやって来るらしいので、皆で見ようという事になったのだ。
「あっ、何か見えてきたよ! あれじゃない!?」
セル様がはしゃいだ声で空の一点を指差すと、親ビンたちもウォンだのキャオンだのと大騒ぎし始めた。誰も彼も嬉しそうだ。はぁ。
『ホントに空を飛んでんぞォ! 何だありゃァ?』
『親ビン、馬車でっせ! 馬車が空を飛んでるんでさァ!』
てっきりプロクス的な乗り物かと思ったら、そうではなかった。見た目は普通そうな馬車だけど、屋根の部分に鳥の翼が生えている。あんな頼りない翼で車体が浮くものなのか。
『すごいね、馬車が飛ぶなんて。ブルギーニュの魔法技術って本当に発展してるんだ。あの翼って本物かな。それともただの幻?』
『ごちゃごちゃうるさいですわよ。あんなの魔法の翼でしょ。ブラッシングも出来ない偽物よ』
レティ姐さんが冷ややかに言った。彼女は基本的に自分にしか興味がない猫なので、翼のある馬車なんかどうでもいいのだ。大事なのは毛並み。艶々してたらなお良し。
羽馬車は空中を軽やかに走り、やがてカラカラと音を鳴らして地上に着地した。誰も何も言わず、馬車の様子を伺っている。やがてガタッと音がして扉が開き――
「いたたたた! あー腰が痛いわい! もうちっと内装を柔らかくできんもんかのう」
サンタクロースみたいな白いヒゲの爺さんが、腰を手で擦りながら登場した。まさかあれが賢者? ギックリの呪いが発動した……わけじゃないよね?
私を抱っこしているセル様も「……まさかね」と呟いている。まだ希望を捨てきれないご様子だ。
サンタ爺さんの後ろから足首ぐらいまでのドレスを来たお姫様が、そしてローブをまとった黒っぽい髪の女性が続き、さらにその後ろから――
「ペギャッ!?」
(爽真ぁ!?)
騎士みたいな服を着た爽真が出てきたのだ。奴はセル様に抱っこされた私を見て、ばつの悪そうな顔をしている。私が莉乃ってことに気がついているんだろうか。
ハル様が一歩前に出て、姫様一行に挨拶した。
「ようこそリーディガーへ。国を代表して歓迎いたします」
「突然の訪問で申し訳ありません。今日はお時間を頂き、感謝いたしますわ。こちらが賢者レゲリュクス、その隣が弟子のネネリム、そして異界人のソーマ様です」
アシュリー姫が紹介を始めると、セル様の手からそこはかとなく脱力感が伝わってきた。腰をさする爺さんを見つめながら、「嘘でしょ」とか「思ってたのと違う」とかブツブツ呟いている。
威厳のある爺さんは腰をさすったりしない。「いたたた」なんてもちろん言わない。きっとセル様の中で、威厳のある賢者像がガラガラと音を立てて崩れていることだろう。後でもふもふフリッパーで慰めてあげるからね。
羽馬車を庭の端っこに移動させ、皆でぞろぞろとお屋敷へ戻ると、いつもオヤツを食べている部屋へ入ることになった。
普段よりも数倍大きなテーブルセットが用意され、クララさんが万全の体制で待ち構えている。いつでもお茶を出せます。そういう雰囲気だ。
賢者レゲリュリュ……レゲリュリャ? もういい。レゲ爺さんがケーキスタンドを見て目を輝かせたので、自然とお茶会の流れになった。
「いやぁ、すまんのう。賢者は何しろ頭を使う職業なもんで、甘いものが欠かせんのじゃ」
「先生は馬車の中でも、ずっとショコラをつまんでたじゃありませんか」
「甘いもんは別腹じゃから」
爺さんが白いヒゲを白いクリームだらけにして、子供のようにオヤツにがっついている。普段の私もあんな感じなのかな。ちょっと冷静になってきた。
お姫様の隣では爽真が無言のままお茶を飲んでいる。日本にいた頃より体格が良くなったようで、ガッシリした体は少年というより青年といった方が相応しい感じだった。勇者として頑張って来たんだろう。
頬を染めて嬉しそうに着替える彼を見ていたら、見知らぬ爺さんに対するギックリの呪いは諦めるしかないという悟りが芽生えてきた。
私が浅はかでした。純朴な少年の願いを踏みにじるなんて恥ずべき行為でした。
そうしてハル様も転移でお屋敷に戻ってきたので、私たちは皆で外に出て空を見上げている。姫と賢者一行はたいそう不思議な乗り物でやって来るらしいので、皆で見ようという事になったのだ。
「あっ、何か見えてきたよ! あれじゃない!?」
セル様がはしゃいだ声で空の一点を指差すと、親ビンたちもウォンだのキャオンだのと大騒ぎし始めた。誰も彼も嬉しそうだ。はぁ。
『ホントに空を飛んでんぞォ! 何だありゃァ?』
『親ビン、馬車でっせ! 馬車が空を飛んでるんでさァ!』
てっきりプロクス的な乗り物かと思ったら、そうではなかった。見た目は普通そうな馬車だけど、屋根の部分に鳥の翼が生えている。あんな頼りない翼で車体が浮くものなのか。
『すごいね、馬車が飛ぶなんて。ブルギーニュの魔法技術って本当に発展してるんだ。あの翼って本物かな。それともただの幻?』
『ごちゃごちゃうるさいですわよ。あんなの魔法の翼でしょ。ブラッシングも出来ない偽物よ』
レティ姐さんが冷ややかに言った。彼女は基本的に自分にしか興味がない猫なので、翼のある馬車なんかどうでもいいのだ。大事なのは毛並み。艶々してたらなお良し。
羽馬車は空中を軽やかに走り、やがてカラカラと音を鳴らして地上に着地した。誰も何も言わず、馬車の様子を伺っている。やがてガタッと音がして扉が開き――
「いたたたた! あー腰が痛いわい! もうちっと内装を柔らかくできんもんかのう」
サンタクロースみたいな白いヒゲの爺さんが、腰を手で擦りながら登場した。まさかあれが賢者? ギックリの呪いが発動した……わけじゃないよね?
私を抱っこしているセル様も「……まさかね」と呟いている。まだ希望を捨てきれないご様子だ。
サンタ爺さんの後ろから足首ぐらいまでのドレスを来たお姫様が、そしてローブをまとった黒っぽい髪の女性が続き、さらにその後ろから――
「ペギャッ!?」
(爽真ぁ!?)
騎士みたいな服を着た爽真が出てきたのだ。奴はセル様に抱っこされた私を見て、ばつの悪そうな顔をしている。私が莉乃ってことに気がついているんだろうか。
ハル様が一歩前に出て、姫様一行に挨拶した。
「ようこそリーディガーへ。国を代表して歓迎いたします」
「突然の訪問で申し訳ありません。今日はお時間を頂き、感謝いたしますわ。こちらが賢者レゲリュクス、その隣が弟子のネネリム、そして異界人のソーマ様です」
アシュリー姫が紹介を始めると、セル様の手からそこはかとなく脱力感が伝わってきた。腰をさする爺さんを見つめながら、「嘘でしょ」とか「思ってたのと違う」とかブツブツ呟いている。
威厳のある爺さんは腰をさすったりしない。「いたたた」なんてもちろん言わない。きっとセル様の中で、威厳のある賢者像がガラガラと音を立てて崩れていることだろう。後でもふもふフリッパーで慰めてあげるからね。
羽馬車を庭の端っこに移動させ、皆でぞろぞろとお屋敷へ戻ると、いつもオヤツを食べている部屋へ入ることになった。
普段よりも数倍大きなテーブルセットが用意され、クララさんが万全の体制で待ち構えている。いつでもお茶を出せます。そういう雰囲気だ。
賢者レゲリュリュ……レゲリュリャ? もういい。レゲ爺さんがケーキスタンドを見て目を輝かせたので、自然とお茶会の流れになった。
「いやぁ、すまんのう。賢者は何しろ頭を使う職業なもんで、甘いものが欠かせんのじゃ」
「先生は馬車の中でも、ずっとショコラをつまんでたじゃありませんか」
「甘いもんは別腹じゃから」
爺さんが白いヒゲを白いクリームだらけにして、子供のようにオヤツにがっついている。普段の私もあんな感じなのかな。ちょっと冷静になってきた。
お姫様の隣では爽真が無言のままお茶を飲んでいる。日本にいた頃より体格が良くなったようで、ガッシリした体は少年というより青年といった方が相応しい感じだった。勇者として頑張って来たんだろう。
15
お気に入りに追加
2,616
あなたにおすすめの小説

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。

目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる