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第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
44 偉い爺さんへの呪い
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そんな不安を抱えたまま二日ほどたち、とうとうその日がやってきた。朝食のあとに地下室へ行ったら、ハル様が皆を見渡して言ったのだ。
「昨日、ワイアット殿下の元へブルギーニュの使者が来たらしい。聖獣に会わせて欲しいという話で、快く了承したとのことだ」
「了承って……ペペを渡しちゃうってこと?」
「いや、了承したのは面会だけと言っていた。今日の昼過ぎぐらいに、アシュリー殿下と賢者たちがこの屋敷へ来るそうだ。俺もその時間になったら戻ってくるから、用意しといてくれ」
「うん。行ってらっしゃい」
お兄ちゃんを見送ったセル様も学校へ行く準備を始めた。でも何となくそわそわしている様子だ。
「賢者かあ……。僕、賢者に会うの初めてなんだよね。どんな凄い人なのかな……きっと威厳のあるお爺さんなんだろうな。あー、楽しみ!」
なんてブツブツ言って学校に行ってしまった。対して私はといえば、威厳のある爺さんにはむしろ会いたくない気持ちであった。
(その爺さんが、魔法でえいやっ!と私を成鳥にしちゃったら……ここから出て行かないといけない。やだよぉ。偉い爺さんになんか会いたくないよぉ)
爺さんがギックリ腰になって、ここへ来るのを諦めてくれたら嬉しい。ギックリ腰はちょっと可哀相かな。転んだ拍子に膝をすりむいて、やる気がなくなったとかでもいい。爺さん頼む、私を成鳥にしないでおくれぇッ……!
『なにをブツブツ言ってますの。あーたちょっと怖いですわよ』
『えっ。聞こえてた?』
セル様の部屋で本を読んでいたら、いつの間にかレティ姐さんがじっと私を見ている。観察してたんですか。
『あーたは心の声が漏れるタイプですわね。ギックリ腰とか何とか、全部聞こえてましたわ』
『だ、だってさぁ。偉い賢者の爺さんがここに来たら、魔法で私を成鳥にしちゃうかもしれないんだよ? そうなったら私、霊山に帰らないといけないんだもん』
『っはぁ~。中身は十七歳のくせに、とんだひよっ子ですこと。見た目は雛鳥、中身は大人!……ってヤツですわね。すっかり騙されましたわ。名探偵もビックリですわ』
見た目とか中身とか、どこかで聞いたような台詞。
レティ姐さんはぴょんとソファの上に乗り、私の隣に座った。ふさふさの尻尾を上品に体の横に置いている。
『あーた、ハルディア様のことが好きなんですの?』
『……はい? 何やて? ど、どうしてイキナリ、そないなこと言うねん!?』
『中身は人間なんでしょ。十七歳の乙女――乙女というのは相応しくないわね。大食い過ぎるわ。まぁとにかく、お付き合いの一つや二つはしててもおかしくない年齢ですわよね。しかもハルディア様はとびきりのイケメンで、身分のある大金持ち。玉の輿ってやつですわよ。恋してもおかしくありませんわ』
『はぁ……。確かにハル様のことは好きだけど、家族として大事に思ってるよ。それに私は聖獣なんだから、ハル様とずっと一緒にいるのは無理で……セル様とも……』
『魂と肉体が合ってないって話だったでしょ。人間に戻れるという可能性は考えたことありませんの?』
『えっ!?』
そんな事、全然考えたこともなかった。人間に戻る? 今さら? 私の体がどこに行ったのかも分からないのに?
呆然としている間もレティ姐さんが横であーだこーだと何か言っている。でも言葉が耳を素通りして、頭には入ってこない。
『―――という事もあり得ますわよ。とにかく賢者が来ないことには分からないんだから、無駄に悩むのはおやめなさい』
『あ、え? は、ハイ!』
よく分からないままコクコク頷くと、レティ姐さんは満足げな顔で部屋を出て行った。まずい。後半ほとんど聞いてなかった。
(今さら人間に戻るなんて……そんなこと出来るの? 私の体は日本にあるかも知れないのに)
爽真は体も魂もちゃんとこちらの世界に来たけど、私はそうじゃなかった。十七年使った体はどこかに消えてしまい、白いペンギンになって魔法陣から出てきたのだ。
たとえ体が無くなったとしても、ここは魔法がある世界だから、肉体を作ったりも出来る……のかも? 培養液の中で成長させるとか。それって完全にホムンクルス。
「昨日、ワイアット殿下の元へブルギーニュの使者が来たらしい。聖獣に会わせて欲しいという話で、快く了承したとのことだ」
「了承って……ペペを渡しちゃうってこと?」
「いや、了承したのは面会だけと言っていた。今日の昼過ぎぐらいに、アシュリー殿下と賢者たちがこの屋敷へ来るそうだ。俺もその時間になったら戻ってくるから、用意しといてくれ」
「うん。行ってらっしゃい」
お兄ちゃんを見送ったセル様も学校へ行く準備を始めた。でも何となくそわそわしている様子だ。
「賢者かあ……。僕、賢者に会うの初めてなんだよね。どんな凄い人なのかな……きっと威厳のあるお爺さんなんだろうな。あー、楽しみ!」
なんてブツブツ言って学校に行ってしまった。対して私はといえば、威厳のある爺さんにはむしろ会いたくない気持ちであった。
(その爺さんが、魔法でえいやっ!と私を成鳥にしちゃったら……ここから出て行かないといけない。やだよぉ。偉い爺さんになんか会いたくないよぉ)
爺さんがギックリ腰になって、ここへ来るのを諦めてくれたら嬉しい。ギックリ腰はちょっと可哀相かな。転んだ拍子に膝をすりむいて、やる気がなくなったとかでもいい。爺さん頼む、私を成鳥にしないでおくれぇッ……!
『なにをブツブツ言ってますの。あーたちょっと怖いですわよ』
『えっ。聞こえてた?』
セル様の部屋で本を読んでいたら、いつの間にかレティ姐さんがじっと私を見ている。観察してたんですか。
『あーたは心の声が漏れるタイプですわね。ギックリ腰とか何とか、全部聞こえてましたわ』
『だ、だってさぁ。偉い賢者の爺さんがここに来たら、魔法で私を成鳥にしちゃうかもしれないんだよ? そうなったら私、霊山に帰らないといけないんだもん』
『っはぁ~。中身は十七歳のくせに、とんだひよっ子ですこと。見た目は雛鳥、中身は大人!……ってヤツですわね。すっかり騙されましたわ。名探偵もビックリですわ』
見た目とか中身とか、どこかで聞いたような台詞。
レティ姐さんはぴょんとソファの上に乗り、私の隣に座った。ふさふさの尻尾を上品に体の横に置いている。
『あーた、ハルディア様のことが好きなんですの?』
『……はい? 何やて? ど、どうしてイキナリ、そないなこと言うねん!?』
『中身は人間なんでしょ。十七歳の乙女――乙女というのは相応しくないわね。大食い過ぎるわ。まぁとにかく、お付き合いの一つや二つはしててもおかしくない年齢ですわよね。しかもハルディア様はとびきりのイケメンで、身分のある大金持ち。玉の輿ってやつですわよ。恋してもおかしくありませんわ』
『はぁ……。確かにハル様のことは好きだけど、家族として大事に思ってるよ。それに私は聖獣なんだから、ハル様とずっと一緒にいるのは無理で……セル様とも……』
『魂と肉体が合ってないって話だったでしょ。人間に戻れるという可能性は考えたことありませんの?』
『えっ!?』
そんな事、全然考えたこともなかった。人間に戻る? 今さら? 私の体がどこに行ったのかも分からないのに?
呆然としている間もレティ姐さんが横であーだこーだと何か言っている。でも言葉が耳を素通りして、頭には入ってこない。
『―――という事もあり得ますわよ。とにかく賢者が来ないことには分からないんだから、無駄に悩むのはおやめなさい』
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