43 / 115
第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
43 続・変なハル様
しおりを挟む
室内はしんと静まり返って、誰も口を開こうとしない。ハル様は私を膝に乗せたものの、両手を上げっぱなしで変なポーズになっている。しばらくしてセル様がおずおずと話しかけた。
「兄上……僕になにか用があったんじゃないの?」
「あっ、ああ!!」
声デカッ。
いつもの数倍の声量で言うから、ピョンと膝の上で跳ねてしまった。跳び箱してるわけじゃないよ。かつ、踊ってるわけでもないからね。
ハル様は両手を不自然な位置に上げたまま、しどろもどろと話し始めた。
「ええ、と……。ペ、ペペを拾ったのは、モンドアの森だった」
「それは前にも聞いたけど」
「そして拾った日は、ブルギーニュが、勇者召喚の儀をした日と、同じだっ……たぁ!」
私が膝の上でもぞっと動いた途端、ハル様の声が裏返ってしまった。微動だにすら許されない状況。なんか悲しくなってきた。
向かい側でセル様が笑いをかみ殺している。
「あ、兄上さぁ……ちょっと面白すぎるよ。ついこないだまで普通にペペを抱っこしてたくせに、その変貌ぶりはなんなの?」
「……俺は変貌なんかしてない」
「はぁー……。そういうのは、ペペの顔を見てからいいなよ。泣きそうになってるよ」
「なに!?」
ハル様が慌てて私を抱っこしたけど、目はフリッパーで隠して見せなかった。本当に泣きそうなのだ。私はハル様の膝にいるのに、ハル様は私に見向きもしないから……。近いのに、すごく遠くにいるみたいで悲しい。
フリッパーが涙でしっとりしてきた。
「俺が悪かった。泣くな……。泣くな、ペペ」
「ペェェ……」
「はい、ハンカチ」
セル様が差し出したハンカチを受け取り、涙を拭いてくれる。ハル様とちゃんと目が合ったのは、何日ぶりだろう。
「やっと抱っこしてあげたね。いつもそうやって抱っこしてあげなよ」
「普通の抱っこならな。腕に抱くだけなら……いや、腕に抱っこするだけだ! 変な意味じゃないぞ!」
「誰に言ってるの?」
「…………別に」
ハル様は額に汗をかきながらボソッと言った。まだ挙動不審なところはあるけど、抱っこは再開してくれるらしい。良かった。クララさんの作戦が上手くいったんだ。
「それで……。何の話だったかな」
「……ペペの話でしょ。拾った日が、勇者召喚と同じだったって話してたけど」
「そうだ。ブルギーニュにはちゃんと勇者がいるそうだから、召喚された異界人は二人いるんじゃないかと思う」
「え? でもペペは、異界人じゃない……よね?」
「体はな。いや、やましい意味じゃなくて。つまりその、魂とから……見た目が釣り合ってないんじゃないかと!」
何でところどころ急に早口になるんだろう。ハンカチでやたらと顔の汗を拭いてるのも気になるけど、今は見ない振りをしておこう。
「そろそろ賢者が目覚める頃だ。ロイウェルに聖獣がいるのはアシュリー殿下も知ってるはずだから、賢者を連れてここに来るかもしれない。最初はワイアット殿下が交渉にあたるだろうけどな」
「ペペを寄こせって言われたらどうしよう」
「そこまで強引な事は言わないと思うが……。ペペはたった一人でモンドアの森にいたんだ。役に立ちそうにないと判断されて、城から追い出されたんだろう。可哀相に……」
「ペへへェ」
ハル様が頭をよしよしと撫でてくれた。実際は私が爽真にペンギンアタックを仕掛けたせいで追放されたんだけど、それは黙っておこう。
「賢者が来てくれたら詳しい話を聞けると思う。ペペがどうして雛のままなのかも、その時に尋ねてみよう」
「うん、分かった。どんな事になっても、ペペが幸せになれるようにしたいね」
「ペペには本当に世話になったからな……。おまえが幸せになるまで、ちゃんと面倒を見るからな」
幸せになれと言うのなら、私はずっとここにいたいです。ここにいるのが私の幸せです。
(なんてね……。本当は霊山に帰らないと駄目なんだよね。私は聖獣なんだから)
賢者がここに来たら、すごい力で私を一気に成鳥にしてしまうだろうか。もしそうなったら、一人で霊山に飛んで帰らないといけないのかな……。
「兄上……僕になにか用があったんじゃないの?」
「あっ、ああ!!」
声デカッ。
いつもの数倍の声量で言うから、ピョンと膝の上で跳ねてしまった。跳び箱してるわけじゃないよ。かつ、踊ってるわけでもないからね。
ハル様は両手を不自然な位置に上げたまま、しどろもどろと話し始めた。
「ええ、と……。ペ、ペペを拾ったのは、モンドアの森だった」
「それは前にも聞いたけど」
「そして拾った日は、ブルギーニュが、勇者召喚の儀をした日と、同じだっ……たぁ!」
私が膝の上でもぞっと動いた途端、ハル様の声が裏返ってしまった。微動だにすら許されない状況。なんか悲しくなってきた。
向かい側でセル様が笑いをかみ殺している。
「あ、兄上さぁ……ちょっと面白すぎるよ。ついこないだまで普通にペペを抱っこしてたくせに、その変貌ぶりはなんなの?」
「……俺は変貌なんかしてない」
「はぁー……。そういうのは、ペペの顔を見てからいいなよ。泣きそうになってるよ」
「なに!?」
ハル様が慌てて私を抱っこしたけど、目はフリッパーで隠して見せなかった。本当に泣きそうなのだ。私はハル様の膝にいるのに、ハル様は私に見向きもしないから……。近いのに、すごく遠くにいるみたいで悲しい。
フリッパーが涙でしっとりしてきた。
「俺が悪かった。泣くな……。泣くな、ペペ」
「ペェェ……」
「はい、ハンカチ」
セル様が差し出したハンカチを受け取り、涙を拭いてくれる。ハル様とちゃんと目が合ったのは、何日ぶりだろう。
「やっと抱っこしてあげたね。いつもそうやって抱っこしてあげなよ」
「普通の抱っこならな。腕に抱くだけなら……いや、腕に抱っこするだけだ! 変な意味じゃないぞ!」
「誰に言ってるの?」
「…………別に」
ハル様は額に汗をかきながらボソッと言った。まだ挙動不審なところはあるけど、抱っこは再開してくれるらしい。良かった。クララさんの作戦が上手くいったんだ。
「それで……。何の話だったかな」
「……ペペの話でしょ。拾った日が、勇者召喚と同じだったって話してたけど」
「そうだ。ブルギーニュにはちゃんと勇者がいるそうだから、召喚された異界人は二人いるんじゃないかと思う」
「え? でもペペは、異界人じゃない……よね?」
「体はな。いや、やましい意味じゃなくて。つまりその、魂とから……見た目が釣り合ってないんじゃないかと!」
何でところどころ急に早口になるんだろう。ハンカチでやたらと顔の汗を拭いてるのも気になるけど、今は見ない振りをしておこう。
「そろそろ賢者が目覚める頃だ。ロイウェルに聖獣がいるのはアシュリー殿下も知ってるはずだから、賢者を連れてここに来るかもしれない。最初はワイアット殿下が交渉にあたるだろうけどな」
「ペペを寄こせって言われたらどうしよう」
「そこまで強引な事は言わないと思うが……。ペペはたった一人でモンドアの森にいたんだ。役に立ちそうにないと判断されて、城から追い出されたんだろう。可哀相に……」
「ペへへェ」
ハル様が頭をよしよしと撫でてくれた。実際は私が爽真にペンギンアタックを仕掛けたせいで追放されたんだけど、それは黙っておこう。
「賢者が来てくれたら詳しい話を聞けると思う。ペペがどうして雛のままなのかも、その時に尋ねてみよう」
「うん、分かった。どんな事になっても、ペペが幸せになれるようにしたいね」
「ペペには本当に世話になったからな……。おまえが幸せになるまで、ちゃんと面倒を見るからな」
幸せになれと言うのなら、私はずっとここにいたいです。ここにいるのが私の幸せです。
(なんてね……。本当は霊山に帰らないと駄目なんだよね。私は聖獣なんだから)
賢者がここに来たら、すごい力で私を一気に成鳥にしてしまうだろうか。もしそうなったら、一人で霊山に飛んで帰らないといけないのかな……。
14
お気に入りに追加
2,616
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる