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第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
38 ケーキをむさぼり食う
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二人が喋っている間に、私の皿は空っぽになってしまった。どういう事だろう。あんなに大きいケーキが消えてしまうなんて嘘でしょ。私のショートケーキは一体どこへ……!
「そんな馬鹿な、って顔されてもな……。自分で食ったんだろ。ほら、追加だぞ」
ハル様が残りのケーキを大皿ごと私の手元に置いてくれたけど、さすがに恥ずかしくて顔を上げられなかった。すんません。とにかくお腹が空いてるんです。
「食べながらでいいから聞いてくれ。誘拐事件に関することだ」
「んぐ……。あのバカ王子、どうなったの?」
「あのクズは『谷底行き』になった。ボートに転移魔法陣を仕掛けた魔法士も一緒にな。運が良ければ生きて帰ってくるかもしれないが、有史以来いまだに誰も戻って来ていないらしい。二度と会うことはないだろうな」
バカとかクズとか容赦なく叩かれてる。しょうがないか、エリック殿下が人間としてクズなのは本当のことだから。
ハル様が言う『谷底行き』は、王都の下にある巨大な谷の事なんじゃないだろうか。あそこに落とされたら、普通の人間が生還するのはまず無理だろう。当たり前だけど、誰かを殺した罪は軽くはないのだ。
「今回とり逃がしたキーファが一番厄介だ。あいつは魔法院の中でも上位レベルの魔法士だが、倫理観が欠けている変人として有名だったそうだ。この先も何か仕掛けてくるかもしれない」
「誘拐事件のせいで、ペペが聖獣ってことも皆に知れ渡ったもんね。他の国も動くかな?」
「動くだろうな……。ほとんど霊山から出て来ないと言われている聖獣が、個人の屋敷で堂々と暮らしているわけだしな。ペペは俺たちに懐いているが、他の人間には独占しているようにしか見えないだろう。特にアシュリー殿下は、今回の事件で相当驚いているはずだ」
「だよね。聖獣を目覚めさせるために勇者を召喚したのに、隣の国にその聖獣を奪われちゃったんだもんね」
ケーキを食べ終えたセル様が私の頭をもふもふと撫でる。しかし私はセル様の言葉に少し呆然としていた。
(勇者ってそういう役目のことだったんだ……。爽真はどうするんだろ。仕事がなくなっちゃった勇者はどうなるの? 私みたいにお城を追い出されたりしちゃう?)
アシュリー姫は仕事に厳しそうな人だったから、爽真のことも何処かへ追放してしまうだろうか。それなりにイケメンの爽真だけど、普通の男子高校生がこの世界で生きていくのは厳しい気がする。
もしそんな事になってたら、また巨大化して爽真を探しに行ってあげよう。ハル様とセル様は優しいから、爽真のことも助けてくれるはずだ。
「勇者召喚の儀に関しては、俺も不思議に思っていることがあるんだ。ペペを拾ったのも勇者が召喚された日だったし、何か関係があるような気がして……」
「あっ、じゃあさ、明日になったら湖に行こうよ。それで何か分かるんじゃない?」
なんで今の話で湖? 何の関係があるんだろう。
しかし疑問に思っているのは私だけなようで、ハル様も納得した様子で深く頷いている。
「ああ、そうか。明日はあの日か」
「そうだよ。ペペの姿を見るの楽しみだよね!」
二人の思わせぶりな会話がとにかく理解不能。あの日とか姿とかどういうこと?
こういう時、会話ができないのが本当に不便だ。勇者のことも気になるし、湖のことも詳しく話してほしいのに……満腹になった私はまた眠くなり、うとうとと舟をこいでしまう。
「ペペ眠そうだね」
「まだちゃんと回復してないんだな。おやすみ」
うがぁ、まだ寝たくないのに……!
胸に悔しさを抱えつつ、イケメン兄弟に見守られながら意識が途絶えた。寝る間際、ハル様がお布団をぽんぽんと叩いているのが見えた。
「そんな馬鹿な、って顔されてもな……。自分で食ったんだろ。ほら、追加だぞ」
ハル様が残りのケーキを大皿ごと私の手元に置いてくれたけど、さすがに恥ずかしくて顔を上げられなかった。すんません。とにかくお腹が空いてるんです。
「食べながらでいいから聞いてくれ。誘拐事件に関することだ」
「んぐ……。あのバカ王子、どうなったの?」
「あのクズは『谷底行き』になった。ボートに転移魔法陣を仕掛けた魔法士も一緒にな。運が良ければ生きて帰ってくるかもしれないが、有史以来いまだに誰も戻って来ていないらしい。二度と会うことはないだろうな」
バカとかクズとか容赦なく叩かれてる。しょうがないか、エリック殿下が人間としてクズなのは本当のことだから。
ハル様が言う『谷底行き』は、王都の下にある巨大な谷の事なんじゃないだろうか。あそこに落とされたら、普通の人間が生還するのはまず無理だろう。当たり前だけど、誰かを殺した罪は軽くはないのだ。
「今回とり逃がしたキーファが一番厄介だ。あいつは魔法院の中でも上位レベルの魔法士だが、倫理観が欠けている変人として有名だったそうだ。この先も何か仕掛けてくるかもしれない」
「誘拐事件のせいで、ペペが聖獣ってことも皆に知れ渡ったもんね。他の国も動くかな?」
「動くだろうな……。ほとんど霊山から出て来ないと言われている聖獣が、個人の屋敷で堂々と暮らしているわけだしな。ペペは俺たちに懐いているが、他の人間には独占しているようにしか見えないだろう。特にアシュリー殿下は、今回の事件で相当驚いているはずだ」
「だよね。聖獣を目覚めさせるために勇者を召喚したのに、隣の国にその聖獣を奪われちゃったんだもんね」
ケーキを食べ終えたセル様が私の頭をもふもふと撫でる。しかし私はセル様の言葉に少し呆然としていた。
(勇者ってそういう役目のことだったんだ……。爽真はどうするんだろ。仕事がなくなっちゃった勇者はどうなるの? 私みたいにお城を追い出されたりしちゃう?)
アシュリー姫は仕事に厳しそうな人だったから、爽真のことも何処かへ追放してしまうだろうか。それなりにイケメンの爽真だけど、普通の男子高校生がこの世界で生きていくのは厳しい気がする。
もしそんな事になってたら、また巨大化して爽真を探しに行ってあげよう。ハル様とセル様は優しいから、爽真のことも助けてくれるはずだ。
「勇者召喚の儀に関しては、俺も不思議に思っていることがあるんだ。ペペを拾ったのも勇者が召喚された日だったし、何か関係があるような気がして……」
「あっ、じゃあさ、明日になったら湖に行こうよ。それで何か分かるんじゃない?」
なんで今の話で湖? 何の関係があるんだろう。
しかし疑問に思っているのは私だけなようで、ハル様も納得した様子で深く頷いている。
「ああ、そうか。明日はあの日か」
「そうだよ。ペペの姿を見るの楽しみだよね!」
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「ペペ眠そうだね」
「まだちゃんと回復してないんだな。おやすみ」
うがぁ、まだ寝たくないのに……!
胸に悔しさを抱えつつ、イケメン兄弟に見守られながら意識が途絶えた。寝る間際、ハル様がお布団をぽんぽんと叩いているのが見えた。
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