38 / 115
第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
38 ケーキをむさぼり食う
しおりを挟む
二人が喋っている間に、私の皿は空っぽになってしまった。どういう事だろう。あんなに大きいケーキが消えてしまうなんて嘘でしょ。私のショートケーキは一体どこへ……!
「そんな馬鹿な、って顔されてもな……。自分で食ったんだろ。ほら、追加だぞ」
ハル様が残りのケーキを大皿ごと私の手元に置いてくれたけど、さすがに恥ずかしくて顔を上げられなかった。すんません。とにかくお腹が空いてるんです。
「食べながらでいいから聞いてくれ。誘拐事件に関することだ」
「んぐ……。あのバカ王子、どうなったの?」
「あのクズは『谷底行き』になった。ボートに転移魔法陣を仕掛けた魔法士も一緒にな。運が良ければ生きて帰ってくるかもしれないが、有史以来いまだに誰も戻って来ていないらしい。二度と会うことはないだろうな」
バカとかクズとか容赦なく叩かれてる。しょうがないか、エリック殿下が人間としてクズなのは本当のことだから。
ハル様が言う『谷底行き』は、王都の下にある巨大な谷の事なんじゃないだろうか。あそこに落とされたら、普通の人間が生還するのはまず無理だろう。当たり前だけど、誰かを殺した罪は軽くはないのだ。
「今回とり逃がしたキーファが一番厄介だ。あいつは魔法院の中でも上位レベルの魔法士だが、倫理観が欠けている変人として有名だったそうだ。この先も何か仕掛けてくるかもしれない」
「誘拐事件のせいで、ペペが聖獣ってことも皆に知れ渡ったもんね。他の国も動くかな?」
「動くだろうな……。ほとんど霊山から出て来ないと言われている聖獣が、個人の屋敷で堂々と暮らしているわけだしな。ペペは俺たちに懐いているが、他の人間には独占しているようにしか見えないだろう。特にアシュリー殿下は、今回の事件で相当驚いているはずだ」
「だよね。聖獣を目覚めさせるために勇者を召喚したのに、隣の国にその聖獣を奪われちゃったんだもんね」
ケーキを食べ終えたセル様が私の頭をもふもふと撫でる。しかし私はセル様の言葉に少し呆然としていた。
(勇者ってそういう役目のことだったんだ……。爽真はどうするんだろ。仕事がなくなっちゃった勇者はどうなるの? 私みたいにお城を追い出されたりしちゃう?)
アシュリー姫は仕事に厳しそうな人だったから、爽真のことも何処かへ追放してしまうだろうか。それなりにイケメンの爽真だけど、普通の男子高校生がこの世界で生きていくのは厳しい気がする。
もしそんな事になってたら、また巨大化して爽真を探しに行ってあげよう。ハル様とセル様は優しいから、爽真のことも助けてくれるはずだ。
「勇者召喚の儀に関しては、俺も不思議に思っていることがあるんだ。ペペを拾ったのも勇者が召喚された日だったし、何か関係があるような気がして……」
「あっ、じゃあさ、明日になったら湖に行こうよ。それで何か分かるんじゃない?」
なんで今の話で湖? 何の関係があるんだろう。
しかし疑問に思っているのは私だけなようで、ハル様も納得した様子で深く頷いている。
「ああ、そうか。明日はあの日か」
「そうだよ。ペペの姿を見るの楽しみだよね!」
二人の思わせぶりな会話がとにかく理解不能。あの日とか姿とかどういうこと?
こういう時、会話ができないのが本当に不便だ。勇者のことも気になるし、湖のことも詳しく話してほしいのに……満腹になった私はまた眠くなり、うとうとと舟をこいでしまう。
「ペペ眠そうだね」
「まだちゃんと回復してないんだな。おやすみ」
うがぁ、まだ寝たくないのに……!
胸に悔しさを抱えつつ、イケメン兄弟に見守られながら意識が途絶えた。寝る間際、ハル様がお布団をぽんぽんと叩いているのが見えた。
「そんな馬鹿な、って顔されてもな……。自分で食ったんだろ。ほら、追加だぞ」
ハル様が残りのケーキを大皿ごと私の手元に置いてくれたけど、さすがに恥ずかしくて顔を上げられなかった。すんません。とにかくお腹が空いてるんです。
「食べながらでいいから聞いてくれ。誘拐事件に関することだ」
「んぐ……。あのバカ王子、どうなったの?」
「あのクズは『谷底行き』になった。ボートに転移魔法陣を仕掛けた魔法士も一緒にな。運が良ければ生きて帰ってくるかもしれないが、有史以来いまだに誰も戻って来ていないらしい。二度と会うことはないだろうな」
バカとかクズとか容赦なく叩かれてる。しょうがないか、エリック殿下が人間としてクズなのは本当のことだから。
ハル様が言う『谷底行き』は、王都の下にある巨大な谷の事なんじゃないだろうか。あそこに落とされたら、普通の人間が生還するのはまず無理だろう。当たり前だけど、誰かを殺した罪は軽くはないのだ。
「今回とり逃がしたキーファが一番厄介だ。あいつは魔法院の中でも上位レベルの魔法士だが、倫理観が欠けている変人として有名だったそうだ。この先も何か仕掛けてくるかもしれない」
「誘拐事件のせいで、ペペが聖獣ってことも皆に知れ渡ったもんね。他の国も動くかな?」
「動くだろうな……。ほとんど霊山から出て来ないと言われている聖獣が、個人の屋敷で堂々と暮らしているわけだしな。ペペは俺たちに懐いているが、他の人間には独占しているようにしか見えないだろう。特にアシュリー殿下は、今回の事件で相当驚いているはずだ」
「だよね。聖獣を目覚めさせるために勇者を召喚したのに、隣の国にその聖獣を奪われちゃったんだもんね」
ケーキを食べ終えたセル様が私の頭をもふもふと撫でる。しかし私はセル様の言葉に少し呆然としていた。
(勇者ってそういう役目のことだったんだ……。爽真はどうするんだろ。仕事がなくなっちゃった勇者はどうなるの? 私みたいにお城を追い出されたりしちゃう?)
アシュリー姫は仕事に厳しそうな人だったから、爽真のことも何処かへ追放してしまうだろうか。それなりにイケメンの爽真だけど、普通の男子高校生がこの世界で生きていくのは厳しい気がする。
もしそんな事になってたら、また巨大化して爽真を探しに行ってあげよう。ハル様とセル様は優しいから、爽真のことも助けてくれるはずだ。
「勇者召喚の儀に関しては、俺も不思議に思っていることがあるんだ。ペペを拾ったのも勇者が召喚された日だったし、何か関係があるような気がして……」
「あっ、じゃあさ、明日になったら湖に行こうよ。それで何か分かるんじゃない?」
なんで今の話で湖? 何の関係があるんだろう。
しかし疑問に思っているのは私だけなようで、ハル様も納得した様子で深く頷いている。
「ああ、そうか。明日はあの日か」
「そうだよ。ペペの姿を見るの楽しみだよね!」
二人の思わせぶりな会話がとにかく理解不能。あの日とか姿とかどういうこと?
こういう時、会話ができないのが本当に不便だ。勇者のことも気になるし、湖のことも詳しく話してほしいのに……満腹になった私はまた眠くなり、うとうとと舟をこいでしまう。
「ペペ眠そうだね」
「まだちゃんと回復してないんだな。おやすみ」
うがぁ、まだ寝たくないのに……!
胸に悔しさを抱えつつ、イケメン兄弟に見守られながら意識が途絶えた。寝る間際、ハル様がお布団をぽんぽんと叩いているのが見えた。
14
お気に入りに追加
2,616
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる